6.
ライフの翼はあの後すぐに消えてしまっているが、それをしっかりと見ている3人はライフが声をかけるまで体が硬直してしまっていた。いろいろと聞きたいことがあったが、ここに留まり続けるのは危険かもしれないというネルケの言葉で一旦安全な場所まで戻ることにした。
「それで?さっきのはどういうこと?もしかして記憶が戻ったの?それに翼が出てたけど、あれって天界に住む天使たちと同じ翼じゃないの?それにあの魔力だって…」
「え…あの…えっと…。」
「落ち着けよ、マイ。詰め寄るな。質問ばっかしても、そんな一気に答えられないだろ。ライフだって困ってんじゃねぇか。悪いな、ライフ。大丈夫か?」
ライフに詰め寄りながら質問していたマイは、ハンに首根っこ掴まれて引き離された。困っていたようだが声をかけると、まだ困惑していたようだが大丈夫です、と返ってきたのでマイをネルケの方に追いやってライフと話をすることにした。
ネルケの方に行ったマイはハンとライフを見ながらいろいろと考えていたが、ねぇ、とネルケが話しかけてきたので意識をそちらに向けた。
「なに、ネルケ?何かあった?」
「ううん。ライフのことなんだけど、あまり詮索しない方が良いと思うの。あれだけの強さのことは気にはなるけど、記憶喪失だったし傷だらけで倒れてたし、そういうことも考えるときっと私たちだけじゃ手に負えないような問題な気がしてならないの。」
「確かに…そうかもしれないね…。」
さっきの光景ですっかり忘れていたが、ライフは満身創痍・記憶喪失の状態で3人が保護したのだ。その前に何か大きな問題に巻き込まれていた、あるいはその渦中にいたと考えた方が納得するほどの怪我だったのだ。ライフ自身が何も覚えていなくとも、普通の人とは何かが違うとマイは魔法師としての本能で感じていた。おそらくネルケとハンも同じように感じていたんだろう。だが、2人は別のことも懸念していた。
「それに記憶を無くしているのは、精神的な問題かもしれないでしょ?」
それを聞いてマイはハッとし、酷く後悔した。なぜそこまで気が回らなかったのか、なぜきちんと考えずに無責任に質問ばかりしたのか、もしかしたら今ので自分はライフを追い詰めて傷つけてしまったのではと考えがよぎった。
記憶喪失になる原因は外部からの攻撃により脳にダメージを負ったために記憶が消えてしまう外傷性と、精神が追い込まれて無意識に自信を守るために記憶を封じ込めてしまう心因性と2種類ある。
ライフの記憶喪失がどちらの原因によるものなのかは3人はもちろん、ライフにだって今のところ分からないのだ。もし、心因性の記憶喪失ならばあまり追い詰めたりしない方が良いとも言われている。しかもその原因を3人は全く知らないのだ。先程の質問でも、知らず知らずのうちにライフを傷つけているかもしれない。
マイは頭で物事を考えるよりも体が先に動くような行動派の性格で、相手への気遣いが出来ないわけではないがどちらかと言えば苦手な方だ。それでも仲間へ向ける信頼などは強くて大切にしている。なので今回、ライフが危険な存在だったら、ネルケもハンも危ないのではないかと心配になったのが、あの質問につながってしまったのだろうとネルケは思い、少し落ち込んでるマイに独り言のように呟いた。
「大丈夫だよ。きちんと謝ればライフも許してくれるんじゃないかな、きっと。」
その言葉にマイは顔をあげて、うんと言った。マイのその表情を見て、こっちももう大丈夫そうだなと思い、まだ向こうで話しているハンとライフの方に目を向けて、マイと一緒に2人の話が終わるのを待った。