4.
「あの⋯ここが、その悪魔が住んでいるという場所ですか⋯?」
「そうだけど、ちょっとした岩場だって俺たち言わなかったか?」
「いや、ちょっとっていうのは聞いてないけど、岩場に行くっていうのは聞いたは聞いた⋯。けど⋯、」
ライフは隣にいたハンにそう確認してみたが、ハンは肯定してきたので道を間違えているというわけではないと理解した。眼下に広がる景色の方に目をやり、そして胸いっぱいに息を吸い込んでーーー
「これのどこが岩場だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!!!」
とライフは思いっきり叫んだ。ハンはその大音量に耳をふさぎ、前を歩いていたネルケはだいぶ元気になったんだなとにこやかにライフの方を振り返ってみて、後ろを歩いていたマイはどこからか点数ボードを出して「10点満点!」とふざけて面白がっていた。それを耳にしたライフは速攻で後ろを向き、なんで、ていうかどこからだしたの、それ。とツッコミをした。
目の前に広がるのはちょっとした岩場などではなく、とがった岩山が連なる山脈であった。ライフは正直周りに岩だらけの土地だとばかり思っていたので予想外の場所だったために、ずっと目が点のようになってしまった。
それとは対照的に3人はさも当然の光景だろうといわんばかりの(目的地の場所を知っていたので当たり前だが)視線をライフに向けていた。
確かに詳しくは伝えていなかったかもしれないが、悪魔の生息している場所は危険な場所が多いのが現状だ。中には街中に出てきて害を及ぼすものもいるが、それぞれの町にあるギルドの魔法師や国からの王宮騎士たちが早急に討伐する。それ以外の魔法師組合の出す一般的な討伐依頼は危険度の高く、将来人間に被害を与えるなどと思われる討伐対象になった悪魔(魔法師組合の本部は「魔法師組合総本山」と呼ばれる場所で、そこに居る感知魔法を得意とする魔法師たちが悪魔のオーラを感知し、オーラの大きさによって依頼ランクを決めて各ギルドに討伐依頼を出す制度になっている。)は、あまり人間が立ち入ることのしない、危険な場所であることが前提になっている。
ライフがそのことを知らないということは魔法師でないということが言えるが、それにしても―
「悪魔が生息している岩場っつったらこういう場所だっていうのは、誰だってわかると思うんだけど。大まかな内容は言ってたから分かるはずだが、もしかしてこの世界の奴じゃなかったのかもな。」
「ちょっと、ハン!それは考えない方がいいわよ。そもそも記憶喪失みたいだし、思い至らなくても不思議じゃないでしょ?」
「そうだけど、元から知らなかったのかもしれねーだろ。そしたら大問題だぜ、この世界に違う世界の奴がいるなんてことだったらどうするんだ?世界間の転移は、一般の魔法師が利用するのは基本的に禁止されているはずだ。」
「そうだけど、まだ分からないじゃない。それに、もしそうだったとしても、彼自身の意思で転移したとも限らないでしょ?」
ハンとマイがあーでもないこーでもないと話しているが、ライフにはよく分からず一人考えているネルケに声をかけた。
「あの⋯僕、何かまずいことでも言いましたか?」
「う~ん⋯そうねぇ⋯。本来は世界間の転移を許されるのは各世界の最上位の人たちなの。魔界なら魔王が、天界なら主神が、というようにね。この世界では魔法師組合代表の方がそれに当てはまるんだけど、必要な場合しか使われないはずなのよ。」
「必要な時⋯ですか?」
「この人間界と上層の天界は数百年前に同盟を結んで、転移魔法を使っていろいろとやり取りをしているのよ。その魔法を使わないと他の世界とのやり取りなんて出来ないから。まぁ記憶が無くなってるし、覚えてないとも言えるんだけど⋯。もし他の世界からきたしても、転移魔方陣をくぐれるのは限られた人だけなはずだし、くぐったとしてもあんな所で倒れているなんておかしいし⋯謎だらけなのね、ライフって。」
にこりと笑顔を向けるネルケを見て、いや、そんな風にまとめられてもと困ったが、記憶がないことを責めたりしないんだなと少し安心もした。何も思い出せないのは心苦しいし、ライフ自身も何か言った方いいのかともおもったのだが、この話は終わりと言わんばかりの顔を向けられすぐに2人を止めに行ったネルケを見て仕方ないとばかりに、そうですみたいですね、などとため息交じりの小さな声で言って、心の中で苦笑を浮かべるしかなかった。