3.
「本っっっ当に何も覚えてないの?自分の名前とかどこから来たとか、何も思い出せないの?あんた、空から落ちてきたんだから何かあったと思うけど。」
マイは少年に詰め寄るが、それでも思い出せる様子ではなさそうであったし、あまり負担をかけるのもよくないと思いハンはマイを少年から引き離した。少年も必死に思い出そうと頭をひねっているようだがあまり期待しない方がよさそうだ。ネルケもいろいろと考えていたようだがあまり良い解決策が見つからないようだった。
しかし、3人にはこの事態を早急に解決しなければならない理由があった。
「困ったわね⋯。これから悪魔の討伐依頼のあった場所に行くのに、このままほおっておくわけにもいかないだろうし⋯。連れていこうにも、戦えないようなら危ないからそういうわけにもいかないものね⋯。」
「討伐依頼⋯ですか⋯。もしかして、いつもそういう危険な仕事をしているんですか?」
「討伐だけというわけではないわよ。私たちは正規の魔法師組合に所属している魔法師なのよ。」
-魔法師組合-。この人間界の人口の約1~2割の人間が魔法師と呼ばれる者たちが存在する。魔法を使うことが出来る者たちが話し合い自らルールを作り、定めた魔法師の世界における最高意思決定機関が魔法師組合というものである。
そして魔法師たちが自らそれぞれの拠点を造り、組合から割り振られる仕事を仲介する集会場をギルドといい、組合に登録することで仕事を正規の依頼を受けられるようになる。多くの魔法師はどこかのギルドに所属し、組合から割り振られる討伐や捜索など様々な依頼をこなして報酬を受け取り生活している。
西大陸の南東部にある、別名「花の町」と呼ばれるローゼミリューグという街の中心に佇む城のような建物が3人の所属するギルド、天馬の翼である。世界5大ギルドといわれている大手ギルドの一角を担う所だ。
そのようなギルドに幼少の頃から所属している3人はトップクラスの魔法師ではあるが、今回の依頼は危険度がそれなりに高いものであったため無関係な少年を連れて行くのは難しいという判断をした。したのだが、今いる草原も安全とは言えない場所であった。隣にある森には悪魔が多数生息しているし、その悪魔がここまで出てきて襲ってこないとも限らないのだ。
「せめて魔法が使えるかどうか分かれば、自分の身くらいは守れるって保障になりそうなんだけどなぁ。何にも覚えてないんじゃ難しいぜ。」
「ハンは相変わらず無礼よね。そんなの、本人が一番分かってるだろうし、一番気にしてるはずよ。ずけずけと言わない方がいいこともあるんだからね。」
いや、お前の方が言ってるじゃねぇか。というツッコミは少々面倒になったので、それはハンの心の仲だけに留めることにした。しかし、顔には思いっきり出ていたようで、マイはハンを睨みつけ、文句を言ってやろうとした時、
「⋯ライフ⋯。そう、ライフです。僕の名前は確か⋯そうだったと思います。」
「ライフね。他には何か思い出したことはある?例えば、知り合いの名前とか知っている町とか、何でもいいのだけれど。」
「他は⋯すみません、うまく思い出せません⋯。全部思い出せればよかったんですが。」
「いいのよ、気にしなくてもいいわ。名前を思い出せただけ良かったわね。」
ライフは申し訳なさそうな顔をして謝罪したが、ネルケは首を横に振って何でもないように言った。それ以外はまだ思い出せていないようだが、名前が分かっただけでも少し進歩したといってもいいものだ。
「まぁ、とりあえずここにほおって行くこともできないし、連れていこうぜ。森にいる悪魔どもがこっちに興味が出てきたみてーだし、早く出発した方がいいな。」
「ハンの言う通りね。討伐の時はネルケと少し離れたところにいてもらえばいいと思う。前衛であたしとハンで何とかするから、目的地は岩場になってるみたいだし、ネルケはライフと一緒に後ろの方に居てね。」
「了解よ。とりあえず依頼場所に向かいましょうか。」
3人はライフを連れて依頼の場所に向かうことにした。ライフは少々困惑顔であったが、とりあえずは3人について行くことにした。ライフの脳裏に引っかかることがあったが、何も思い出せないので頭の中からその考えを追い出した。
17/10/30 修正