2.
3人が走り出して少し経つと光の輪は消えてしまったが、それでもその輪から出てきた(というか落ちてきたような)光の場所を目指していた。森の奥地に入っていったため、どんどんと暗くなってきた。そのまま真っ直ぐ進んでいくと、森が開けて目の前に草原が広がる場所に出た。
3人は顔を見合わせゆっくりと草原を歩き始めた。少しすると草原の一部の場所が光輝いている場所を見つけ、そこにゆっくりと近づくと一人の少年がそこに横たわっていた。
「えっ、誰だよこいつ。なんでこんなとこで寝てんだろうな?まあ、こんないい天気でこんないい場所でなら昼寝したくなる気持ちも分からなくもないけど⋯ってえ!なんだよ、マイ!?」
「今そんなどうでもいいこと聞いてないし、あんたの感想とかも求めてないし。それよりこの人、すごいボロボロじゃない!ねえネルケ、直してあげてよ。」
「う~ん⋯。やってみてるんだけどなかなか効きにくい、というより全然効かないみたいなのよね。魔法による治癒が効かない体質なのかしら。」
ハンとマイがコントのようなことをしている間にネルケは状況を確認して即座に少年に対して対象の怪我を直す治癒魔法をかけたのだが、怪我はたいして癒されることがなかったため、手持ちの薬などを使って治療をすることにした。
治療を一通りやり終わり、ネルケは改めて少年を見てみた。傷だらけの身体だったため、身元を確認するするより先に手当てを優先したが、よく見るときらきらと輝くような金髪に日に全く焼けていない白い肌で、まるで人間とは思えないような美しさを持っている外見だと彼女は思った。
しばらくハンとマイの子供っぽいじゃれあいを(本人たちに対して言うと速攻で否定するだろうが)ネルケは微笑ましい顔で見ていたが、少年が身じろぎしたため彼の顔を覗き込んだ。すると、少年の瞳が開かれて瞼に隠された青い瞳が現れた。
「気が付きましたか?傷だらけで倒れていたので一応手当てをしましたけど、他に痛むところとかありませんか?」
「⋯えっ⋯?あ⋯大丈夫そうです⋯。手当⋯ありがとうございます⋯。」
少年は身体を起こして腕を動かしたり、手を握ったりして確かめた。多少の痛みは感じられたが、動かすのには支障はないようなのでとりあえず礼を言った。ネルケはそうですかと、安心したように微笑んだ。二人が話しているのに気付いたもう二人も、少年に近づき顔を見た。
金色の髪に透き通るような綺麗な青い瞳の顔を見た二人は同時に思ったことは一言一句同じことだったようで、顔を見合わせて頷きあった。
((うん、完璧な金髪碧眼美少年だな(ね)。))
「そういえば自己紹介がまだだったわよね。私はネルケって言います、よろしくお願いしますね。」
「あたしはマイっていうの、よろしく~。仲良くしてね!」
「俺はハンだ、よろしくな。⋯で、お前の名前は?なんでこんな所で倒れてたんだよ?しかも、全身傷だらけだったけど、何か追われてたりしてたのか?」
しかし、ここで大きな問題が起きた。ハンからの質問に対して少年は答えられなかった。否、答えようと口を動かしてはいるのだが答えあぐねているようで、すぐに考え込んでしまった。
「どうしたんだ?もしかしてお前、しゃべれないのか?」
「さっきまで話していたからそんなことないと思うけれど、どうしたのかな?」
「じゃあ、名前を言いたくないとかかな?ほら、知らない人には名前とか言っちゃいけませんよ~、とかよく言われることだしさ。」
「それはマイだけじゃねぇのか?お前ってガキみたいな言動が多いしな。」
何ですって!、と再び喧嘩し始めた二人を見て、ネルケはさすがにため息をついて二人を止めようとしいた。すると、「あの~、」と少年が声をかけてきた。
3人は少年の方に顔を向け、そして少年は3人の方を見て質問をした。
「ここはどこなんですか?どうして僕はここにいたっていうか、その前に僕はいったい誰なのか知りませんか?」
「「「⋯へ?」」」
だが、その質問は3人がその少年にした質問であり、今現在において最も知りたいことであったため誰も答えを知らないのである。