1.
-かつて、「世界」という空間はひとつだけであった。そこでは天使・悪魔・人間の3種族がそれぞれの造った国で暮らして、互いに争っていた。しかし、時が経つにつれて、種族間の争いは激しさを増していった。そして、神によって世界を3層構造に分けられ、それぞれの種族を階層ごとに振り分けた。その結果、争いは一次の山場を越え、種族間で同盟を結ぶということがあった。それでなくとも、大きな争いが起きることがなく、小さな小競り合いが起きる程度にまで収まった。-
X549年、現代。ここは人間という種族が暮らす中層、別名「人間界」の中にあるローゼミリューグという国の端の方にある小さな村⋯の近くにある森である。
「ん~、もうっ!!やっぱり道に迷ったじゃない!だから遠回りでもちゃんと地図に書いてある道から行こうっていったのよ!このバカ、アホ、おたんこなす!」
「うるっせーぞ。今お前に構ってる暇はねーんだ。こうやって地図見て道を確かめてんだから隣でぎゃんぎゃん喚くな。」
「それは道という道に出れてから言えっていってんのー!しかも地図逆さまだし!ほんと救いようのないバカみたいね、ハンは。」
「俺はバカじゃねーし、見てるって言ってんだから勝手に取るなよ!」
それでよく見てるなんて言えるわよね、と少女-マイ-は地図を(まだ逆さまで)見ているハンと呼んだ少年から地図を取り上げ、現在地を探し始めた。バカにされながら地図を取り上げられたハンは猛烈にかみついたが、マイにかわされ取り返すことが出来なかった。
「二人とも少し落ち着いて。こういう時は冷静にならないとだめよ。このあたりの地形を確認したいから、私にも地図を貸してもらえないかな?」
「⋯まあ、ネルケがそういうなら。はい、どうぞ。」
先ほどまで二人の様子を見守っていたネルケが二人に声をかけ、ハンは大人しくなりマイは持っていた地図をネルケに渡そうとしたが、突如、3人の間を突風が吹き抜けた。
「あ~、地図が。しかも今回はあの一枚しか持ってきてないのに~⋯。」
「仕方ないわ。何とか森を抜ける道を探しましょう。
「おい、見ろよ!なんか空に大きい穴が開いてんぞ!」
ハンの言葉に二人は彼の指さす方向を見上げた。そこには大きな光の輪ができており、そこだけ切り抜いたような空間が広がっているようにみえた。それはまるで世界事変を起こすともいわれている-
「≪世界転移魔法≫⋯?でも、あの魔法は消費魔力が大きすぎるから使える魔法師はいないって聞いているけれど⋯。」
「見て!穴から何か出てくるっていうか落ちてくるわよ!行ってみましょうよ。」
「いいな!何だか面白そうだし、あの下にいいもんが落ちてきてるかもしれないしな。」
「そうかしら。危ないからやめた方がいいと思うんだけど⋯って聞いてないわね。いつもこういうので仕事が遅くなるんだけど⋯分かっているのかしら。」
意気揚々と目を輝かせながら興味を隠せない表情でマイは言った。それに賛成したのはハンで、ネルケはあまり気乗りがしないようだったが、二人は止める間もなく走りだしてしまったので、取り合えずため息を一つついて二人の後を追いかけ始めた。
-目指すは光の輪の下へ。そこで出会った人物の、危険な運命に巻き込まれることも知らず⋯。今までの当たり前の日常から、三つの世界・三つの種族をまたにかける壮大な物語がもうすぐ始まる⋯
「きゃっ。蜘蛛の巣が付いちゃった~⋯。ハン、ちょっと取ってもらえないかな?」
「ぅえ!?お、俺か?しょっ、しょうがねえなぁ。とってやるから、動くなよ。」
「ありがとう、ハン。助かったわ。」
「別に大したことじゃねーし、気にすんなよ。」
「気にしてんのはあんただけどね~⋯。」ボソッ
「うるせー!マイは黙ってろ!ってか気にしてねー!」
「そんな赤い顔で言われても説得力無いけどね。」
あっはっはっはと笑いながら逃げながら目的地に向かうマイと、耳まで赤くなった顔で赤くなってねーと言いながらマイを追いかけるハンを後ろから見ながら走るネルケは「相変わらず仲がいいのね~。」などと見当違いなことを呟いていたが、残念ながら(むしろ幸運なことか)二人の耳には届いていなかった。
壮大な物語が始まる⋯はずである。-