神さま、家出する!?
勉強の神さまのスタディーは、陸のいる佐藤家の他の家では、子供たちがどんな生活を送っているのかを、見学に行くことにしました。
ここは陸たちの住む町の上空。勉強の神さまのスタディーが浮いて、空を飛んでいる。
「はあ~陸には、本当に困ったものです。」
さすがの勉強の神さまのスタディーも、勉強が嫌いな陸の相手をするのは疲れる。
「きっと陸が変わっているだけで、他の子供たちは普通なはず!?」
そう、陸がゲーム大好きで、勉強をサボっているだけであった。
「よし! 他の子供たちの生活を見に行ってみよう!」
勉強の神さまのスタディーは、他の子供たちの様子を見に行くことにした。
ここは陽菜ちゃんの家。
「おお! さすが陽菜ちゃん! 勉強をしているです!」
窓の外から陽菜ちゃんの家の窓から覗くと、陸のクラスメートの鈴木陽菜は勉強していた。
「できた! 宿題が終わった!」
ちょうど学校の宿題が終わったところであった。
「こんばんわ。」
勉強の神さまのスタディーは、窓から陽菜ちゃんの部屋に入る。
「スタディーちゃん!?」
勉強の神さまのスタディーの姿は、現在、陸と陽菜ちゃんにしか見えない。
「陽菜ちゃんは偉いですね。ちゃんと宿題をやって。陸に爪の垢を煎じて飲ましたいです。」
陸は陽菜ちゃんの爪の垢なら喜んで飲みそうだ・・・。
「どうしたの? スタディーちゃん。」
陽菜ちゃんは勉強の神さまのスタディーが何しにやって来たのかを尋ねた。
「実は・・・陸が勉強をやらないので、他の子供たちは勉強をしているのかな~って見学に来ました。」
勉強の神さまのスタディーは、陽菜ちゃんの質問に答える。
「スタディーちゃん。」
「はい。」
「窓から入ってくるのは犯罪よ。今度からは玄関から入って来てね。」
「すいません。」
陽菜ちゃんは勉強だけでなく、礼儀もしっかりしていた。
「それにしても陽菜ちゃんは、やっぱり真面目に勉強をやってるんですね。勉強の神さまとしてはうれしいです。」
「だって勉強して、お金に困らない生活がしたいの。」
陽菜ちゃんが勉強する理由は、現実的な、お金に困らない生活をしたいからだった。これは子供でも女の子に多い考え方らしい。
「陽菜ちゃんは陸と違ってしっかりしていますね。」
「そうかな。陽菜は普通だよ。」
「そうですね。」
「アハハハハー!」
なぜか勉強の神さまのスタディーと陽菜ちゃんは、陸のことで思うことは同じで共感した。
「陽菜ちゃんは、本当のところ、陸のことを、どう思っていますか?」
「陸くん?」
勉強の神さまのスタディーは、陽菜ちゃんが陸のことを、どう思っているのかを聞いてみた。
「復習の相手かな。」
「復習?」
「学校で教わったことを、陸くんに教えて、自分がちゃんと分かっているかどうかを確かめているの。」
自分がちゃんと分かっていれば、陸にも教えることができるはずという考え方である。
「陸が聞いたら、悲しくて泣きますね。」
勉強の神さまのスタディーは、陽菜ちゃんのことが好きな陸のことを思うと同情してしまう。陽菜ちゃんは陸のことを何とも思っていなかった。
「だって陸くん、勉強ができないんだもん。将来、お給料の高い会社や公務員になってくれる気がしないんだもん。」
陽菜ちゃんは、優しくてカワイイが、あくまでも現実的だった。
「そうですね。今の陸では可能性は低いですね。」
勉強の神さまのスタディーも、陽菜ちゃんと会話をしていると、陸と陽菜ちゃんが同い年には思えなかった。
「ねえ、スタディーちゃん。」
「なんですか?」
「どうして、私と陸くんは同い年でクラスメートなのに、こんなにも考え方や行動に違いがあるのかしら?」
子供であっても、いろいろな子供がいることを感じているのだった。
「学校でも陸くんみたいに勉強ができない子もいるし、漣くんみたいに勉強のできる子もいる。明るい子に暗い子もいる。いじめや暴力をふるう、弱い者いじめをする子もいる。」
「不思議ですよね。弱い者いじめをする子はいても、強い者と戦う子はいないです。」
「本当ね。アハハハハ!」
学校には、いろいろな子供がいる。その中から、給料が高い会社や公務員になれる人間を選ばなければいけない。その方法が、勉強である。給料の高い会社や公務員には勉強ができる人間がなることができる。逆に給料の低い会社には、勉強ができない人間や、いじめや暴力をふるう人間が多いらしい。
「私はがんばって、いい学校に入って、いい会社に入って、いい生活を送りたいな。」
陽菜ちゃんは、子供ながらに世の中の流れを知っているので、いい生活を送れるのは日本全体の4%位の人間しかいないが、それでも勉強をがんばって、それに挑もうとする。
「だって、夢や希望に挑戦できるのは、子供の特権だからね。」
勉強をして、自分がなりたいものになる。そのために子供は勉強するのかもしれない。
「そうですね。陽菜ちゃんならなれますよ。」
「ありがとう。スタディーちゃん。」
勉強の神さまのスタディーは、勉強をがんばっている陽菜ちゃんを応援する。
「ちなみに陽菜ちゃんは、将来は何になりたいんですか?」
「わ、私の夢は学校の先生になることなの。」
「いい夢ですね。」
陽菜ちゃんの夢は、学校の先生になることだった。子供ながらに、しっかりと自分が将来、どんな仕事をしたいかが決まっていれば、どれだけ自分が勉強しないといけないのかが分かる。
「学校の先生になろうと思うと、大学に行って、先生になるための授業を受けて、教育実習に行かないといけないの。」
「自分の夢が決まっていると、自分が勉強しないといけないのが分かっていますもんね。」
「うん。だから、私は勉強をがんばるの!」
陽菜ちゃんは、自分の夢を叶えようと思うと大学に行かなければ、学校の先生になることはできない。だから陽菜ちゃんは勉強をがんばる。
「はあ・・・。陸に将来の夢を聞いても、何も考えてないでしょうね。」
「でも、意外に、お医者さんとか弁護士になりたいとかいうかも?」
「・・・今の勉強をしていない陸では無理です。」
「そうね。就職もできなくて、アルバイトが精一杯じゃないかな?」
「・・・陸には勉強をがんばって欲しいです。」
勉強。陸のように勉強をしなくても、みんな、平等に時間は過ぎていき、大人にはなる。しかし、勉強をしていないと、自分のなりたいものにはなれない。自分が選べる選択肢が限られてしまう。
「スタディーちゃん、私たちで陸くんが勉強をがんばる子にしていきましょう。」
「さすが、陽菜ちゃん。未来の学校の先生です。」
「陸くんに勉強を教えるのは、自分が先生になった時に、勉強ができない子に、どうやったら、勉強を分かってもらえるかの実験なんだけどね。」
「ハハハハハ! それでも陸は幸せ者です。陸のお父さんもお母さんも、学校の先生も、漣やクラスメートも、陸は勉強ができないと諦めていますが、陽菜ちゃんだけは、陸のことを見捨ててないです。」
陸には陽菜ちゃんという、友達がいた。陸には勉強が分からなくても、教えてくれる友達がいたことが救いだった。
「だって、隣の席だから。」
陽菜ちゃんは、ニッコリ笑って言う。たまたまなのか、奇跡なのかは分からないが陸は隣の席に陽菜ちゃんがいることが幸せだった。ちなみに陽菜ちゃんは陸のことはなんとも思っていない。
「そろそろ、お風呂に入るから、スタディーちゃん、帰ってね。」
「分かりました。今日は楽しかったです。陽菜ちゃんありがとう。」
「スタディーちゃん、バイバイ。」
勉強の神さまのスタディーは、また窓から帰って行きました。陽菜ちゃんは笑顔で手を振って見送ります。
ここは上空。勉強の神さまのスタディーは、宙を浮いて飛んでいます。
「いや~、陽菜ちゃんは、良い子でした。」
勉強の神さまのスタディーは、陽菜ちゃんとお話をして、上機嫌でした。
「せっかくなので、もう1人くらい、様子を見に行ってみましょう。」
勉強の神さまのスタディーは、もう少し他の子供たちの様子を見に行くことにしました。
「陸とは正反対な漣の様子でも見に行ってみましょう。」
勉強のできない陸の反対の、勉強ができる漣の様子を見に行くことにしました。勉強の神さまのスタディーは、漣の家の方に飛んで行きます。
ここは陸のクラスメート、漣の家。
「漣はどんな勉強をしていますかね?」
勉強の神さまのスタディーは、漣の部屋の窓から漣の様子を覗き込んだ。
「なんだ!?」
果たして勉強の神さまのスタディーが、窓の外から見た漣の姿とは!?
「ここは、こうして、こうするんだ!」
「はい! 先生!」
漣は家庭教師の先生と一緒に勉強していた。
「そうだ! それでいい! おまえなら絶対に一流学校、一流会社に入ることができるぞ!」
「はい! 先生! 俺は必ず合格してみせます!」
漣の勉強をしている姿は、必死でした。漣は良い生活を手に入れるために、小学生なのに、必死で難しい勉強をしていました。
「そうだ! 勉強をするのに早すぎるということはないぞ!」
「はい! 先生!」
特に野球、サッカー、ゴルフや卓球などは3才位からやっている人が、プロになっていることが多い。そう考えれば、小学生の頃から中学校や高校、大学入試の勉強をすることも悪いことではない。
「よし、それでは今日の家庭教師の授業はここまでだ。」
「先生、ありがとうございました。」
「私は、君みたいな勉強をがんばる子の家庭教師ができてうれしいよ。」
「いえ、先生の教え方が上手だから、俺も勉強がしたくなるんです。」
「そうか! ワッハハハ!」
家庭教師の先生は上機嫌で帰って行った。
「ああ~疲れた。」
家庭教師の先生が帰り、漣は自分の部屋の椅子にもたれて、ぐったりと疲れている。
「俺も小学生みたいに、遊びたいぜ。だって小学生なんだから。」
勉強ができる漣にも悩み事はあった。もっと小学生らしく、ゲームや友達と遊びたいのだった。
「しかし、陸みたいに、バカの落ちこぼれにはなりたくないしな。」
漣の勉強をがんばる理由の1つが、陸みたいになりたくないということだった。
「今の間に、子供の頃に勉強をやっておけば、大人になってから、お金がたくさんもらえる仕事について、優雅に暮らすんだ!」
漣が勉強をがんばる理由の2つ目が、良い学校に入り、給料の高い会社や公務員になって、人生を豊かに暮らすことだった。
「俺は給料の高い会社に就職、どうせ陸はアルバイトだろう。きっと陽菜ちゃんは陸よりも俺を選ぶはず! 俺が陽菜ちゃんと結婚するんだ!」
漣が勉強をがんばる理由の3つ目が、大好きな陽菜ちゃんと結婚するためだった。漣も陸と同じく子供なのだった。
「おまえもか・・・。」
陸が勉強をがんばろうかなと思っている理由と、漣の勉強をがんばる理由の3つ目は同じだった。勉強の神さまのスタディーは呆れる。
「あれ? 声が聞こえた様な気がしたが!?」
漣は周りを見渡すが誰にも聞こえない。勉強の神さまのスタディーの姿は、現在は陸と陽菜にしか見えていない。
「漣は勉強ができても、性格が悪いので、話をするのはやめておこう。」
勉強の神さまのスタディーは、漣の家から去って行った。
ここは上空。勉強の神さまのスタディーは、宙に浮いて空を飛んで移動している。
「陽菜ちゃんも、漣も、みんな、子供なのに大変ですね。」
勉強の神さまのスタディーは、子供なのに遊ばずに、勉強をしている子供たちが、大変な毎日を過ごしていると感じた。
「これも自分の夢や希望を叶えるためです。そのためには、勉強するしかないんですから。」
なぜ勉強をするのかという、勉強をする理由のはずが、いつの間にか、勉強はしないといけないものになっていた。そうしなければ、自分の夢や希望を叶えることができなかったり、大学に入れなかったり、就職できなかったり、アルバイトしか残っていなかったり、結婚できなかったりするのだから。
「このことを陸にも分かってほしいですね。いつまでも勉強が嫌いでは、引きこもりのダメ人間になるしか、道が残ってないです。」
勉強の神さまのスタディーは、陽菜ちゃんと漣がしっかりしていたので、陸のことを想うと心が痛かった。
「これが子供だけど、親からしっかりと、子供が大人になるまでの話を聞いた子供と聞いたことのない子供の違いですかね。」
もちろん陸は、お父さんとお母さんから、自分がこれから歩んでいく道を聞いたことはない。その結果、危機感がないので、いつもゲームばかりして、勉強をやらないで生きてきてしまった。
「帰ったら、陸に話してあげないと、陽菜ちゃんと離れ離れになったり、また漣に学校でバカにされてしまいます。このままではいけない! 陸を、私が何とかして、勉強のできる子にしてみせます! 待っててくださいね!」
勉強の神さまのスタディーは、なんとか陸を勉強が好きな子にしようと思いました。
つづく。