本当の勉強する理由
勉強の嫌いな陸は、少しずつだけど勉強の大切さに気がついてきた。
ここは陸の部屋。
「陸、勉強をやるんじゃなかったんですか?」
勉強の神さまのスタディーは、陸を疑いの眼差しで見ている。
「だって、勉強をやるとは言ったけど、勉強の仕方が分からないんだもん。」
陸は学習机の前で身動きできなかった。今まで勉強をしてこなかったので、どこから勉強をすればいいのか分からないのであった。
「ズコー!?」
勉強の神さまのスタディーはコケる。
「はあ・・・そこからですか。」
「すいません。」
陸はゲームのレベルは30くらいあるが、勉強のレベルは1であった。
「神さま、お父さんとお母さんのためにも勉強をするっていうことはわかったんだけど、自分にとって、なんで、こんなおもしろくない勉強をしないといけないのかが分からないんだ。」
陸が今まで勉強をしてこなかった理由である。勉強みたいに楽しくともおもしろくもないものを、なぜするのかが分からなかった。それが自分のためになるのかも分からなかった。
「お母さんも勉強しろ、勉強をしろと言うけれど、何のために勉強をしないといけないのかは、教えてくれたことはないんだ。」
お父さんとお母さんも勉強をする理由は教えてくれない。
「それに不思議なのは、学校の先生は、性格の悪い漣を勉強ができるからってほめるんだ。そんなに勉強ができるって偉いのかな?」
学校の先生も勉強ができる子しかほめない。
「勉強って、よく分からないんだ。」
陸の素朴な疑問であった。子供の陸にとっては、勉強は不思議な存在だった。
「いい質問ですね。陸って、勉強はしないくせに、よく勉強のことは考えているんですね。感心しました。」
「それほどでも。」
「だから、それは私のセリフです。」
「アハハハ。」
勉強の神さまのスタディーは、陸が子供ながらに勉強に対する疑問を持っていることに感心した。
「そうですね。陸が分かりやすいようにゲームで例えましょう。」
「ほうほう。」
勉強の神さまのスタディーは、陸に合わせて勉強をゲームに置き換えて教えてくれる。
「お姫さまを誘拐した魔王を倒すのにレベルが30必要です。今の勇者リクのレベルは1です。どうしますか?」
「勇者リクのレベルをあげる。」
「その通りです。」
ゲームで魔王を倒すために勇者を強くするのである。
「現実の陸も勉強ができないレベル1から、勉強をがんばって、勉強ができるレベル30を目指します。」
「現実の俺も勉強すれば、レベルが上がっていくんだね。」
「その通りです。」
現実の陸も勉強ができるようになるために、勉強していくのである。
「でも、それってゲームは魔王を倒して、お姫さまを助けるためっていうのはわかるんだけど、別に現実の俺は勉強しなくても、何も困らないよ?」
陸が、いつもゲームばかりして、勉強をしてこなかった理由である。陸は別に勉強をしなくても、何も困っていなかった。
「陸が生活に困っていないのは、お父さんとお母さんがお仕事をして、お金を稼いで陸にごはんを食べさせてくれているからですよ。」
陸が生活に困らない理由である。
「陸は、もっとお父さんとお母さんに感謝をした方がいいですよ。」
「んん~そうかも。」
子供の陸には、お金が無くて生活に困るという実感がなかった。
「もしも、お父さんとお母さんが病気で仕事に行けなくなって、お金を稼いでこられなくなったら、ごはんを買うことができないんですよ?」
「なに!? それは困る!?」
陸は、ごはんが食べれなくなるかもと聞くと、初めて生活に困ることに気づいた。
「お父さん、いつも仕事してくれて、ありがとう。お母さん、いつもごはんを作ってくれて、ありがとう。」
陸は、いつも当たり前だと思っていたことを、改めてお父さんとお母さんに感謝する。
「で、それが勉強と何の関係があるっていうんだ?」
子供の陸には、お父さんとお母さんが仕事をしているのは、ごはんを買うためぐらいにしか思っていませんでした。
「陸、お寿司とピザを食べたいと思いませんか?」
「食べたい。」
「毎日、お寿司とピザを食べたいと思いませんか?」
「食べたいけど、お父さんの安い給料だと無理だ。」
陸はお寿司とピザが大好きです。しかし、お父さんの給料は少なかった。
「陸、お寿司とピザを毎日食べる方法がありますよ。」
「本当!? そんな方法があるの!?」
陸はお寿司とピザを毎日食べる方法があるというので、勉強の神さまのスタディーの言ったことに興味をもった。
「勉強することです!」
勉強の神さまのスタディーは、毎日お寿司とピザを食べる方法は、勉強をすることだという。
「ええー!? どうして勉強なの!? 学校で何年も勉強してきたけど、お寿司とピザも学校の給食に出てきたことないよ!?」
陸は勉強をしても、学校ではお寿司とピザも食べたことはなかった。
「いやいや、学校でお寿司とピザが出てきたら、それはそれで問題ですよ。」
勉強の神さまのスタディーは、陸の考え方に呆れる。
「毎日お寿司とピザを食べる方法は、勉強して、お給料の高い会社に入ることです。」
改めて勉強の神さまのスタディーは、毎日お寿司とピザを食べる方法を言った。
「お金、たくさん欲しい!」
日本人は特にお金の話を子供にするのを嫌がる大人が多いが、日本人のお金持ちの間では、基本的には子供に話をするのは普通である。勉強することは、なぜ大切なのか、なんのために勉強するのかを教えている。それを知っているか、知らないかで、子供の学習意欲が違うからだ。
「でも、高い給料の会社に入るのと、勉強とどういう関係があるの?」
子供の陸は、大人と違い、人間の人生が、どう進んで行くのかを知らない。また佐藤家のお父さんとお母さんは、特に子供の陸には何も教えていなかった。
「先に聞きますが、陸は、コネはありますか?」
「コネって何?」
「コネとは、生まれながらにして、高い給料の会社や安定的な公務員になることができるできることです。」
「俺にはコネはない・・・。」
コネがあると就職活動もしていないのに、給料の高い会社や公務員になることができる。そういう恵まれた人間もいるが、陸の佐藤家にコネはない。
「ということは、陸が給料の高い会社や安定的な公務員になる方法は、勉強しかありません。」
「神さま、だから、なんで勉強なんだよ。」
陸は、まだ子供なので、まだ自分の進路や就職などが、どうなっていくのかを知らなかった。
「給料の高い会社や公務員には、勉強ができる人から、採用されるからです。」
「なんですと!?」
陸は初めて聞いた真実にビックリした。
「ちょっと待ってよ!? それじゃあ、勉強が嫌いな俺は、将来、安定的な公務員になって税金で気楽に生活するんだと夢を持っていても、勉強の嫌いな俺の夢は叶わないの!?」
「はい。そういうことになります。」
「ガーン!?」
勉強が嫌いな陸の夢は粉々に消え去った。
「普通は、給料の高い大会社や公務員に入るためには、勉強をして、一流大学に入らないと就職することはできません。」
「一流大学!?」
「例えば、東京大学とか、早稲田大学、慶応義塾大学のことです。」
「んん~よく分からない。」
まだ子供の陸には、大学の名前を出しても分からなかった。
「そうですね。ゲームでいうと、洞窟や砦ではダメってことです。ちゃんと魔王のお城にいかないといけないということです。」
「それなら少しは分かるかも。」
「もっと分かりやすくいうと、陸のお父さんは三流大学なので、休みも少ない安い給料です。」
「嫌だ! 三流大学! お父さんみたいに安い給料は嫌だ!」
子供の陸には、お父さんが1番身近な大人である。お父さんで例える方がゲームで例えるよりも、子供の陸には分かりやすかった。
「ということで、給料の高い会社や公務員になるためには、一流大学に入らないといけません。」
「入るぞ! 一流大学!」
「そのためには勉強してください。」
「ガーン!」
恐るべし、一流大学の壁だった。
「その前に、一流大学に入ろうと思うと、一流高校に入らなければいけません。」
「よし! 待ってろ! 一流高校!」
「そのためには勉強してくださいね。」
「ガーン・・・。」
恐るべし、一流高校の壁だった。
「その前に、一流高校に入ろうと思うと、一流中学校に入らなければいけません。」
「俺でも一流中学校くらいなら入れるだろう!?」
「もっと勉強してくださいね。」
「チーン・・・。」
恐るべし、一流中学校の壁だった。
「えええええ~い!? 神さま、どうして一流な所ばかりに行かないといけないんだよ!?」
「それは、例えば、一流高校では、高校1年生で、高校3年間の授業を終えて、後の2年は一流大学の受験勉強に時間を費やします。」
「ええ~!? みんな一緒じゃないの!?」
「学校によって違いますよ。」
「なんですと!?」
「一流中学校によっては、授業をしないで、茶道や生け花なんかを取り入れている学校もありますよ。」
「うわあ!? いったいなんなんだ!?」
陸は、勉強の神さまのスタディーからビックリする話を聞く。陸はみんな一緒で同じ授業をしていると思っていた。しかし、自分が知らなかっただけで、真実は違ったのだった。
「神さま、これは勉強ができると、良い学校に入れて、給料の高い会社や公務員になれるってこと?」
「簡単に言えば、そういうことになります。」
「う~ん。」
陸は陸なりに、勉強の神さまのスタディーの話を聞いて、なぜ勉強をしなければいけないのかを考えている。給料の高い会社や公務員に入ること、一流の学校に入ることなど、陸は自分の人生を考えた。
「俺、別にいいや。給料の高い会社や公務員に入れなくったって、一流の学校に入れなくっても、別にいいや。」
「陸!?」
「だって、俺のお父さんは、三流大学で給料の安い会社でも、俺とお母さんを食べさしてくれてるもん。」
陸はお父さんのことを見ているので、そんなにがんばらなくても、家族で仲良く暮らしていければいいと思った。
「それに俺、勉強が嫌いだから、自分が給料の高い会社や公務員、一流学校に入れると思わないから。俺は普通でいいよ。」
陸は自分が勉強が分からなくて、勉強ができなくて、勉強が嫌いなので、上を目指すのはやめておこうと思った。
「そうですか。陸が、そういう考え方なら仕方がないですね。」
「ごめんね。神さま。」
勉強の神さまのスタディーは、陸が勉強をがんばらないと聞いて、少しガッカリしました。
「陸は、陽菜ちゃんが一流中学校に行って、お別れになっても、よかったんですね。」
「え?」
「漣が陽菜ちゃんと一緒の一流中学校に行って、2人が仲良しカップルになってもよかったんですね。」
「なに!?」
陸は勉強や進路の話を聞いて、勉強が嫌いだから、がんばらないで普通でいいやと思った。しかし陽菜ちゃんのことは、頭に入っていなかった。
「じゃあ、私は陸の元を去って、勉強をがんばる子供の所に行きます。」
勉強の神さまのスタディーは、勉強をがんばらない陸の元を去ろうとします。
「神さま!?」
陸は、いきなり神さまが去って行こうとするのでビックリします。
「さようなら、陸。」
勉強の神さまのスタディーは、陸の部屋の窓を開け、最後のあいさつを言う。
「俺、勉強するから!」
陸は、さっきまで勉強せずに普通でいいやと言っていたが、勉強の神さまのスタディーを呼び止め、いきなり勉強をすると言い始めた。
「陸?」
勉強の神さまのスタディーは、陸の方を見る。
「行くな! 神さま! 俺を勉強ができるようにしてくれ!」
「陸。」
「俺みたいな、勉強ができない人間に、勉強を教えることができるのは、神さまだけだよ!」
「陸!」
勉強の神さまのスタディーは泣きながら、陸の胸に飛んで行く。勉強が嫌いな陸が、勉強をすると言ってくれたのだ。勉強の神さまとして、自分が話したことを陸が分かってくれたと思いました。
「陸! 勉強の大切さを分かってくれたんですね!?」
「もちろんだよ! 神さま!」
「陸には難しいかもしれないと思ったのですが、思い切って話して良かったです!」
「ありがとう、神さま! 神さまのおかげで勉強の大切さを分かることができたよ!」
陸は勉強の大切さを理解した。勉強ができると、自分が進める選択肢が広がるということを知ったのである。
「絶対に陽菜ちゃんとは離れない! 漣なんかに陽菜ちゃんを渡すもんか!」
まだまだ子供の陸が、勉強をしようと思った本当の理由は、大好きな陽菜ちゃんと同じ中学校に行くためだった。
「陸・・・。」
勉強の神さまのスタディーは、心の中で思った。
(やっぱり、どこかに消え去ろうかな・・・。)
何はともあれ、陸は勉強をするのは、自分のためではなく、陽菜ちゃんのためだった。子供の陸にはお金よりも、好きな女の子の方が大切だった。
「陽菜ちゃん! 好きだ! 大好きだ!」
理由はいろいろあるけれど、勉強をしていれば、いつか自分のためになるのであった。
つづく。