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皆で話をする

 ティアの世界にある、木でできた自然に溶け込むような小屋。


 ティアに、この世界に呼ばれた時は毎回そこで話をする。


 今までは、俺とティアの一対一だったが、今回は俺の恋人達が一緒だ。


 メンバーを挙げていくと、一人目は、俺の元スキルで、この間体を手に入れた、自称正妻のウル。俺と同じ白銀の髪をロングにした絶世の美女だ。ノリがよく、親しみやすい。


 二人目は、元忌み子で死にかけていたのを俺に助けられて眷族となり、恋人となった吸血鬼のアリシア。濡れ羽色の髪のロングの美女。俺に忠誠を誓っており、普段はクールで、仕事人といった感じ。クーデレと言うのだろうか?


 三人目は、コボルトから進化して白狼となったサクラ。弟のアッシュが、忌み子で暴走していたところを俺に助けられてコボルトの一族が俺の配下となった。その後、恋人に。クリームや白系統の色の髪の美女。これまた俺に忠誠を誓っており、尽くそうとしてくれるが、どことなくポンコツの予感がする。

 

 四人目は、人族のソフィア。精霊に好かれやすいという体質で、責任感に溢れた女性。ある出来事で借金を負ってしまっていたが、その町の領主との会談により、俺が引き取ることになった。今では俺の秘書をしてくれている、赤髪青目の美女。


 そして、絶対神であり、この世界の主であるアソーティアことティア。俺という存在が特殊であるために、見守っていたら、好意を抱いていたらしい、恋人になった。この世界からは出られないために、俺側がこの世界に召喚されないと会えない。(きら)めく金髪に、あり得ない程整っているが、造り物といった感じはせず、思わず見惚れてしまう顔の造形。だが、態度やなんかは、小悪魔といった感じで可愛らしい。


 …………自分で挙げてみたが、よくもまあ、こんなに魅力的でタイプの違う女性が集まったもんだ。外面だけでなく、内面も素晴らしい。本当に俺には勿体無いと思うんだがな。

 まあ、勿論、今更手放す気は全く無いが。


 

「うん。ともあれ、先輩達と仲良く成れてよかったよ」


 ティアが(ほがら)かな笑顔で言う。

 今は皆、リビングのテーブルに集まっている。ティアお手製のお茶と、ソフィアがその場で作ってくれたお菓子を楽しみながらの会話だ。


「ええ。ティア様がこんなに親しみやすい方だとは思ってもみませんでした」


 とは、アリシアの言葉。


「うんうん。ティアは本当に良い娘だよ~」


 これはウルの言葉。相手が絶対神という存在でも物怖じしないのは、ウルが元スキルだからだろうか? …………いや、正妻だからかな。


「はい。もっと怖い人かと思ってました。というか、絶対神という存在さえ知らなかった位です」


 サクラが、しみじみと言う。


「ええ。ただの人間である私なんて、雲の上どころでは無いくらいの格の違いですよ……」


 ソフィアは苦笑している。

 いや、この場に居る女は、皆ほぼ半分神みたいなもんだと思うんだが。ソフィアを含めて。  

 

「あはは。そんなにかしこまらなくてもいいってば。勇哉君の恋人ということで言ったら、そっちの方が先輩でしょう? ソフィア君は同輩かな?」


 ティアは悪戯っぽく笑う。

 

「そうですよ。皆姉妹です! 私が一番お姉ちゃんです!」


「あはは~。うん。そうだね。それじゃあボクは妹になるわけかな?」


「です!」


「ところで、妹といえば、アリス君はどうなのかな?」


 むっ?


「そう! それだよ! マスター、そこのところどうなんですかっ?」


 ウルが聞いてくる。アリスとは、ショートカットの金髪に、赤目の美少女。元奴隷で、勇者で皆の妹。

 俺のことが好きみたいだが、兄としてなのか、異性としてなのかが本人にも分かっていない様子だった。


「……どうなんだろうな」


 本当に。俺にもどうなるかはよくわからん。


「アリスはとっても良い子ですよ。私は恋人にしちゃえばいいと思います」


「このクッキー美味しいです」


「ええ。あの子は努力家ですし、一途な子です。一度自覚してしまえば、ユーヤ様でも、恋人にせざるをえないでしょうしね。勿論私も賛成です」


「んっ! やっぱりティア様が淹れてくださったお茶も最高です」


「うんうん。アリスちゃんは可愛いしね!」


「あの、宜しければ、お茶のおかわりが欲しいな~、と。いやー、とっても美味しくて……」


 アリシア、サクラ、ソフィア、サクラ、ウル、サクラの順だ。

 サクラよ、お前はそこまでポンコツだったっけ? 

 食欲に負けたのか?


 ティアが甲斐甲斐(かいがい)しくお茶を淹れている。

 ニコニコしながら。

 絶対神にお茶を淹れさせるとは……大物だな。サクラ。


「うん。確か、ハルネシアという娘もいたね?」


 おい、まだ続くのか? その話題は。


「ティア! いいこと言った! そうだよ。ハルだよ、問題は。あの娘は素直じゃないからねー。良い娘だから、マスターのハーレム入りさせたいんだけど……」


「まだ恋慕ではない?」


「うん。自分からは言わないけど、尊敬は……」


 ……俺、この場に居ていいのか? とても恥ずかしいのだが。俺のことが好きかも知れない娘の候補を挙げていくとか。

 その後も、エルフ受付嬢だとか、俺の関わってきた女性を次々と挙げられていった。

 俺は、自分からはハーレムを増やしてやるぜ! という気は無いんだけど……。いや、好かれることは決して嫌ではないんだ。





 

「さて、少しばかりシリアスな話をしようか。実は、わざわざこの世界に皆を呼んだのも、この話のためでもあるんだ」


 よくわからない恋バナに一区切りがついた頃、ティアが切り出してきた。


「ふむ? シリアスな話?」


「そうだよ。シリアスだよ。真面目な話さ。…………例えば、盤上の感情(フィルボード)のこととか」


「!」


 俺は思わず姿勢を正す。

 女性陣にも緊張が走る。


「彼らは、君と同じ特異点だ」


「俺と同じ……?」


 どういうことだろうか。

 

「君には、“可能性を秘めし者”っていう称号があるよね」


「……ああ」


 俺は重々しく頷く。この称号は色々と特殊だからな。  


「それと同じでね。……ボクにも見通せないんだ。彼らは」


 ティアの、隠れていない片目は憂いを帯びている。

 何か、思うところでもあるのだろうか。


「……そうだね。この話をするためには、先ずは、ボクは全知であって全知でない、という話から入ろうか」


 ティアは矛盾から話を始めた。


「無数にある世界を管理する神。その神の頂点に立つ絶対神。

 勿論、その力は絶大で、他の神々に出来て、ボクに出来ないことは無いくらいなんだ。だけどね、世界の調整とでも言うべきか、ボクには様々な(かせ)があるんだ。

 基本的には、ボクはこの世界から出られないし、何にも手出し出来ない。してしまったらバランスが乱れるからね。

 基本的には、知ろうと思えば何でも知れる。けど、知れないこともある。君の“可能性を秘めし者”とかがその例外にあたるね」

 

 何でも出来るけど、何にも出来ない。

 なんて歯がゆいのだろうか。


「ある意味、無数にある世界を纏める為のシステムの一部みたいなものだね」


 自分のことをシステムと言うのか。


「何かしらの不具合が起きて、無数に、それこそ数えきれない程ある世界が危機に陥るって位のことが起きたら、ボクに溜め込まれたエネルギーを解放して、調整を行う。そういう仕組みさ。

 言わば、ボクは保険、修復システム。…………何かしらの問題が起きたときは、“世界の意思”によって体を消滅させられて、リソースを振り撒くだけの存在。

 全ての世界が元通りになって、リソースに余裕が出来たなら、いずれ、またボクは“世界の意思”によって生み出される。ただ、その時は、ボクは真っ白。この記憶も何も無いんだよ。最早、別人だよね」



「…………」



 言葉が出なかった。

 自分が産まれてきたのは、何かあったときに、死ぬためだなんて。


 俺以外の者も、皆黙り込んでいる。お菓子を貪っていたサクラも、今ばかりは泣きそうな顔をしている。

 


「ねぇ…………死ぬために生まれてきたボクは、何で感情なんかがあるのかな? 感情も何もない、ただの機械だったなら、こんな寂しさなんて、感じずに済んだのかな…?」


 悲痛な表情を浮かべている。

 無理矢理つくったような笑顔が痛々しい。 

 

 ……俺はティアのことを何にも知らなかったのか……



「そんなこと「なんてね!」……え?」


 俺がなんとか、言葉を振り絞ろうとすると、ティアが被せてきた。


「あはは。そんなに悲しそうな顔をしないでよ。ボクは、この、自分の為の世界で自由にのびのびと暮らしてるんだよ。ニートだよ、ニート。

 人が寿命があるように、ボクにも終わりがある……ただそれだけのことじゃないか。生まれてきたことに明確な意味がある分、ボクの方が幾分マシじゃない?」


 そう、笑顔で言い切るティアは、俺には、


 それが、本音とは思えなくて。


 ……その何時も通りの笑顔が、何時もと同じとは思えなくて。


 他称お人好しな俺は、この悲しい神様を救いたいと思ったんだ。



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