斬る
前回までのあらすじー! あらすじは読まなくてもいいよー!
町を発展させようと尽力していたユーヤ達だったが、そこにやって来たのは自称勇者(笑)やらフィルボードを名乗る謎の組織やら自称魔王の手下やらがやって来る。
しっかりと追い返したユーヤ達だったが、今後のことも踏まえて、町に結界をはるなどの対策を練る。更に忙しくなったユーヤだったが、遂に自分の剣が完成したとの知らせを受けて、恋人の一人であり、自分の秘書でもあるソフィアに仕事を押し付けて剣を受け取りにいく。
お供に忠犬姉弟を引き連れて剣を受け取りにいく。そうすると、剣はなんとKA・TA・NAだった。銘を【竜神刀・無双】という。
出来に満足して、試し切りに出掛けたユーヤ達だったが、そこに何故かフィルボードのメンバーであるマッドサイエンティストが操るロボットが現れて忠犬姉弟に躊躇もなく攻撃をした。軽くキレたユーヤ。さあどうなる!?
今回は、三人称も混ざります!
俺は刀の柄に手を添えて目の前の敵を見据える。
体長は約三メートル。様々な装備をしているようで、かなりゴツイ。あの図体だと機動力はそこまででも…………いや、さっきの、ここまで来るまでの移動を考えると相当スピードは出せると見た方がいいか。
しかし、奴は動く気は無さそうだな。固定砲台と化すきか。
俺の前方そこそこの距離に奴は立っている。
そして俺の後方には護るべき配下たち。
奴はあの体を、上級神でも完全に破壊することはかなわないと言った。そして俺の神としての位は丁度、上級神。まぁ、位として考えたらその枠に入れられるというだけで、俺はイレギュラーな存在らしいのだが。宛にはならないな。
「準備はいいのカ?」
奴……特殊な金属でできた機械の体を操るマッドサイエンティストのヒャレムは俺の様子を見ている。
少しばかり機械特有の特徴のある声で俺に問うてくる。
「なんだ、待っていてくれたのか?」
俺は刀をゆっくりと抜き、顔に笑みを張り付けて言う。
見せつけるように刀を抜いたが、一切の油断はしていない。
「! ……なんダ? その武器ハ?」
ヒャレムの機械の体でも分かる。相当同様しているな。
「僕もゴーレムを初めとする創造のスキルを極めている者ダ。尋常ではない、見ればわかル。その武器、一体なんなんダ…?」
俺の持つ、“竜神刀・無双”がただの武器では無いことに気づいたのか。
にしても、ゴーレムか。あのロボットのようなのは。
全然ゴーレムには見えないんだがな。
ゴーレムは、土くれやら岩やらで、できているのだと思ってたんだがな。
「少なくとも神器であろウ?」
「神器?」
神器? なんのことだ?
「神に強く関連する強力な武具のことダ。武具の階級や称号と思ってくれればいイ。
例えバ、神が造っタ、神の体を素材にしタ、神を封じ込めていル、神を殺しタ、神が力を込めタ……等の武具のことダ。それらはとても強力な力を持ツ。神の持つ武具に多イ。
だだし、神が持っている武具でも、神器とは限らなイ。神の一部の者。ごくまれに、人間等の、他の種族が持っていることもあル。その力を使いこなせるかは別としテ。一国が、国宝や兵器として所持することもあル。
神器は種類が豊富デ、お前の持つそれのように剣の姿をしていることもあれバ、杖や鎚、鎧、盾、アクセサリー特殊な物だト、幾つもの形態があリ、変化するものが……」
よく喋るな!!
なんだコイツ? 凄い説明してくるな。
後ろのサクラやアッシュもポカーンとしているぞ。
「……っト、うム。悪い癖が出てしまったようダ。研究者の職業病だナ。説明が楽しくて仕方がなイ」
…………。
なんなんだコイツ。本当に。
ただの倫理観のイカれたマッドサイエンティストかと思ったのだが……
気が抜けてくるな。
警戒は一秒も緩めてはいないが。
「うム? まだいたのカ? そこの実験動物ハ?」
ヒャレムは俺の後ろの二人に視線……センサー(?) を向けると、一切の感情のこもっていない声で言った。
……そうか。コイツは本当に倫理観が狂っているんだ。
俺に対して普通に接しているように見えるのも、俺が対話の対象であるからだ。コイツにとって、この場において、俺以外の存在は等しく価値がないんだ。せいぜい自分の研究に使えるかどうか。
やはり、コイツとは馴れ合える気がしねぇな。
生身の体を一発殴ってやりたい。
「一回死んで出直してこい。木偶の坊」
「やれやレ。話も出来ずに門前払いカ?」
ヒャレムはため息を吐くようにこぼした。
悪いな。俺にとって最早フィルボードは敵になりつつある。
あの勇者(笑)との関係性や、俺の大切な配下を傷つけようとしたことでな。
フィルボードという組織についてまだあまり知らないかから断定は出来ないがな。
一部を見て全体を決めつけるのは愚策だ。時と場合によるが。
俺は、しっかりと“無双”を握り直し、その手を顔の横に引き寄せ、切っ先をヒュレムに向ける構えをとる。
そして、犬歯を見せるように口角を吊り上げる。
「さあ……死合おうか」
「やれるのならナ」
一言づつ言い合うと、戦闘が始まる。
先に動いたのはヒュレムだった。
あのゴーレムの体の肩や腕の一部が開くと、見覚えのある物体が出てくる。
それは、俺も使われている実物を自分の目では見たことの無いもの。
精々テレビや博物館で見たことのある程度のもの。
しかし、その存在はよく知っていた。
それは―――ミサイル―――だった。
「なんでもありかよ!? ここは剣と魔法の異世界じゃないのか!?」
ポシュ、ポシュ、ポシュ、ポシュ
ゴーレムの体からミサイルが次々と発射される。
幸いにも速度はあまり速くはない。十分に避けられるだろう。
…………あの動きは……追尾機能付きか! しかも、俺だけでなく後ろの二人にも向かってる!
ミサイルこわ変則的に動きながら、俺たちに向かって飛んできているなか、
ヒュレムは、更に追い撃ちをと、そのゴーレムの片腕をこちらに向け、手を開く。
すると、手のひらには穴が空いていて……
!? あの穴は銃口か!?
ダダダダダッ!!
俺が気付くと同時に、ゴーレムの腕が火を吹いた。
ゴーレムの腕から銃弾が次々と打ち出される。
その連射性はマシンガンのようだ。
そるに銃速もとても速い。
避けられないことはないが、骨が折れそうだ。
その銃弾はミサイルを追い越して俺たちに襲いかかってくる。
無数のマシンガンと追尾機能付きのミサイルの二段構え。
絶体絶命の大ピンチ。
後ろで戦闘を見守っていたサクラは思わず目をつぶった。
私のことは気にしないでユーヤ様だけでも避けて、と願いながら。
(…………?)
目をつぶっていたサクラが何時までもこない衝撃に疑問を覚え、うっすらと目を開くと、
「馬鹿ナ!?」
ユーヤが、マシンガンの弾幕の中で刀を猛スピードで振っている。その動きはいっそ、流麗にさえ見えた。
その動きに連動するように、ユーヤたちに向かっていたミサイルがその場で爆発していく。
サクラやアッシュでは、その動きを目で追うことも厳しいが、何をしているかは何となく分かった。
ユーヤは刀の側面や棟を、飛んでくる銃弾に優しく触れさせて滑らせ、その動きを受け流し、ベクトルをミサイルに向けたのだ。
ユーヤは、打ち出された弾丸の全てを刀で受け流すという離れ業をしているのだ。
世界が止まっているかのように思えるほどの動体視力、そして銃弾よりも速く動ける身体能力、刀を自分の手足のように動かせる技術、飛んでくる無数の銃弾とその奥にあるミサイルの全てを把握する空間把握能力、様々な能力を駆使して行われるその動きは、最早極致に思えた。自分と背後の仲間を護るためのその舞はいっそのこと尊さを感じられた。
幾多もの残像を纏うように刀を振る。
「何故ダ!? 何故当たらなイ!?」
遂にはマシンガンの弾を撃ちきってしまったヒュレム。
それにコンマ数秒遅れて全ての銃弾、ミサイルを防ぎきったユーヤ。
その舞いに終止符を打つように、体を回転させて刀を大きく振り切ったユーヤ。凛と立ち、刀を持った片腕を横に伸ばした姿で静止する。残像がそのユーヤに重なり消えていく。
そして、受け流されたマシンガンの弾が空中にあった全てのミサイルを撃ち抜き、一斉に爆発する。
背中に爆発を背負うユーヤ。最早狙ったのではないだろうか?
「押して参る!!」
ユーヤは一声叫び、ヒャレムに駆け出す。
「面白イ! 面白いゾ!」
ヒャレムは狂ったように笑いながら新たなギミックを展開する。
ゴーレムの体に幾つもの突起が出てくる。
その突起が光だし、
「さっきのレーザーか! 流石に光の速度というわけではないだろう? なら避けれる!!」
レーザーは、光魔法や火魔法等から作り出された光線であった。かなりの破壊力を秘めているが、光と同じ速度というわけにはいかなかった。それでも相当速いのだが。
突起から幾つものレーザーが放出される。
ユーヤは向かってくるレーザーを、走りながら体を少し捻る等して避けた。
自分が避けたら後ろの二人に当たりそうだという時には、
「喰らえ! グラトニー・シン!」
刀を持つ反対の手をレーザーに向け、レーザーを吸収する。
レーザーの一、二本ならばグラトニー・シンの許容範囲内だ。
さっきは数の暴力で使えなかったが。
「ふははははハ!! 面白い! 貴重なデータがとれル!
だが、この体は硬いゾ! お前に切れるカ!? それに多少ならば直ぐさま再生するゾ!? さあ、ドウスル! ドウスル!?」
かなり興奮しているヒャレム。
ゴーレムの体で騒ぎすぎたのか、声が少しおかしくなる。
「自分で自分の性能を言うなよ……」
静かに呟く。
数多のレーザーを避け、時には喰らいながら駆け抜けるユーヤ。
遂には、ヒャレムの目の前に躍り出た。
ヒャレムももう、レーザーを撃つのを止めている。
「サア! ドウスル!」
「竜装甲…!」
ヒャレムの前に出た瞬間にユーヤが言い放つ。
すると、ユーヤの目がドラゴンのように縦に割れ、金色の瞳は輝き、背中から翼が生えて、体のところどころに竜燐が現れる。
「人の姿の方が刀を操り易かったが、今なら!」
ユーヤは体に力がみなぎるのを感じた。
全てのスペックが何段階も上がった実感がある。
「!!」
ゴーレムには表情はないが、かなり驚いているのが分かった。
「竜神刀・無双、グラトニー・シンを付与。
……次は本物のお前に会えることを願う。
…………八雲斬り」
ユーヤの姿が掻き消える。
ヒャレムの後方には、刀を鞘に納めようとするユーヤの姿がある。
「八雲。幾つもの雲が重なっていることを指す言葉だ。
そして、八雲斬りは……」
ゴーレムの体には幾つもの線が走る。
ユーヤは鞘に完全に刀を納めた。
シャリン
刀から音が鳴ると同時に、
ゴーレムの体が、線に沿って切れ、幾つものブロックになる。
そのブロックはまるで八雲のように重なりあい……
「雲のように消えろ……」
完璧に消滅した。
***************
side ヒャレム
「ふはははは! 面白い! 面白い! 面白い!」
狂ったように笑う人影。
「今回は損な役回りを押し付けられたと思ったが! だが! とてもいいデータがとれた!」
「ふははは、は、は…………?」
ふいに笑い声が止まる。
「な、なんだ……? どうなっている!?」
今度は慌てたように騒ぎ始めた。
「データが、データがない!!」
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side ユーヤたち
「グラトニー・シン。望むものを喰えるゴットスキル。今回は奴の今回の戦闘で得たデータを喰わせてもらった……
これで、俺対策の新作ゴーレムとかも造りづらいだろう」
ユーヤは、ふう、っと息を吐き出すと、サクラ達のものへと歩きだした。
評価とかレビューとか欲しいなあ(チラッ、チラッ)
(*・・)σ




