勇者(笑)VS妹勇者
本編ですよ!
俺達は町から離れた所にある、開けた空間にいる。
「ルールは武器あり、スキルあり、魔法ありのなんでもありだ。しかし、相手を殺すような真似は許さん。即刻取り止めて押さえにかかる。いいな?」
俺は今決闘の審判をしている。
何故かは、まあ、アリスの気迫に押し負けたからだ。
アリスはどうしても自分のアイデンティティーを守りたいみたいだ。どっちにしろあのエセ勇者に取って変わられる心配は皆無だと思うんだがな。
「なお、周囲に被害が出ないようにウルが魔法でカバーし、ハルネシアが緊急時の回復を、そして俺が万が一の時の取り押さえ役、判断役になる」
ウルは元からいたからそのまま連れてきた。
ハルネシアは、後から来たが事情を説明して協力してもらった。
最初は、アリスにそんな危険な真似はさせるのかと、怒っていたが、アリスの強い意思に負けていた。
何だかんだでこの町で一番強いのはある意味アリスかもな。
俺も負けてるし。可愛いは正義だ。
ちなみに他にも何名かいる。
ソフィアとかアッシュとか。
「ア、アリス、危なかったら直ぐに棄権しなよ? お姉ちゃんが守ってあげるからね?」
ハルネシアがずっとアリスの心配をしている。
「むぅ。だい、じょーぶ!」
アリスがハルネシアを含めた俺たちにブイサインをする。
大丈夫……だといいんだが。
まぁ、アリスは勇者(笑)と違って本物だ。才能や成長率が大きく違う。
だが、それは大きな問題ではない。
現時点ではステータス値はそう変わらないだろう。アリスもレベルはまだそんなに上げていないしな。
ここで重要なのは、その性格だ。
あの勇者(笑)は、レベルや身のこなし、称号、発言から見るに、弱い魔物相手に無双して、つけあがっているだけの男だろう。
たとえ、本物の勇者だったとしても、こいつがそうだったのならば、俺は一切の脅威を感じることは無いだろう。
それにたいして、アリスは日頃から真面目に修行をしている。手にした力に増長することもなく、ひたむきに。俺の、ひいては町の人達のために。
たとえ、勇者(笑)のような才能、成長率しかなかったとしても、俺は余程アリスの方が敵にしたくはないね。
それに加えてアリスの周りには良き見本が揃っている。
それは、戦闘におけるものだけでなく、
ライナーなんかは真面目だし、ラオウは強さに貪欲で、バルザックやハルネシアは何気に優しくて、アリシアやサクラ、アッシュ達は人のためにどこまでも頑張れる。
他にも、この町の住人は皆互いを尊重し、尊敬できる人達だ。
そんななかで育ち、本物の勇者。
これだけ揃ってアリスがこんな奴に負けるとでも?
答えは否だ。
「両者、準備はいいな?
では、始め!!」
俺は両者が準備が出来たことを確認すると、決闘の開始を宣言した。
「ふっ、お嬢さん、僕に君が勝てるわけがないのだから、降参をすす……」
勇者(笑)が髪をかきあげ、爽やかな顔をつくり、アリスに向け言おうとするが、
馬鹿なのか? 態々隙をつくるのか?
というか、アリスは今そこに居ない。
アリスは、気配を消し、勇者(笑)の背後に回り込んていた。
「……アリシアお姉ちゃんの技」
勇者(笑)はぎりぎりまぐれで気付けたらしく、転がり、避けた。
「なっ、なにをするんだい!? そんなことしたら危な……」
勇者(笑)はアリスの手にしている二本の剣に目を向け、言おうとする。
「うるさい」
アリスが気にせずに二本の剣で乱舞する。
勇者(笑)は盾と手に持っていた剣を使い、辛うじて受けている。
だが、勇者(笑)の不恰好さは否めない。
本当の戦いは不慣れみたいだな。
アリスは更に勢いを増していく。
「アッシュ、に教わった、二刀流に、ライナー、に教わった、盾の崩し方」
アリスは流麗に、いっそ優雅にすら見える剣舞を見舞い続ける。
「うっ、ううっ、や、やめろおおお!!」
勇者(笑)が癇癪を起こしたらような、泣きそうな声で叫ぶ。
「? なんで? まだ、終わってない」
アリスは気にしない。
更に斬る。斬る。斬る。
遂には、勇者(笑)も受けられなくなっていく。攻撃を喰らうのも時間の問題だな。
「う、うおおおお!!」
おや? 勇者(笑)が今度は違った叫びを披露し、体が淡い光に包まれる。
「ふはははは! やってしまったね! 君は僕に本気を出させてしまった! これは、勇者だけが使える、自分の力を高める……」
だーかーらー、なんで、隙をつくる? 何故、劣勢なのに余裕綽々で自分の手札の説明を始める?
「んっ!」
アリスが勇者(笑)に斬りかかる。
しかも、勇者(笑)なんかより余程、神々しい光を纏って。
「なっ!?」
勇者(笑)もビックリだ。
勇者だけが使える、ねぇ?
なら、アリスに使えない道理は無かろう? というか逆に、勇者(笑)のユニークスキルでそれが出来たことに驚きなんだが。
「勇者(笑)と本物の勇者。その格の違いが浮き彫りになったな…」
勇者スキルでの力の上がり幅も全然違う。
アリスが素早く動き回り、翻弄する。
最早、勇者(笑)には目視も厳しいだろう。
「これで、終わり!」
アリスが、勇者(笑)の体に斬りかかる。ただし、殺さないように場所は選んでいるが。
これで決まるかな。
「失礼します」
…………はっ?
今、アリスと勇者(笑)の間には執事服を着た女性が立っている。
…………アリスの攻撃を、その白い手袋を填めただけの手で受け止めた状態で。
「いきなりの参入をお許し下さい」
執事服の女性は美しい所作で礼をする。
アリスは既に距離をとっている。
勇者(笑)はアリスに斬られる恐怖で既に気絶している。
俺は女性を素早く観察する。
黒い執事服を身に纏い、女性にしては長身。髪は金髪に黒がメッシュで混ざっている。
顔にはピエロが着けるような仮面をしている。
ニッコリと笑っている仮面だ。
しかし、空いている穴から見える青色の眼は仮面の真逆で、一切の感情を感じさせない。冷たい眼差しだ。
女性とわかったのは声の高さと、胸の膨らみ等々からだ。
俺が観察を終える頃、
仮面を着けた女は俺達の警戒している様子など眼下にないといったように、話始める。
「私はプレジャーと申します。
本日はちょっとした用があったもので参上させて頂きました。
…………今この駒を無くすのは少々我々としても看過できませんもので」
仮面の女は、勇者(笑)を、まるで物を見るような、少なくとも人に向けるものではない目で見ながら言った。




