秘書ができた。なんとなく偉くなった気がする。
「と言うわけで俺の秘書になって貰うわけなんだが……」
「そのことなのですが、私の名前の上書きをお願いしたく思いますわ」
決意を込めた眼差しで頼んでくる。
なんだ? 皆そんなに名付けられたいのか?
「いいのか?」
「ええ。秘書になるのですからその方が都合が良いでしょう?
それに私も一生お側に居させてもらいますので」
ホントに俺の周りには人が集まるらしいな。あの日のアリシアよ。
「ふむ。それじゃあ、前と同じ名前で良いんだよな?」
前と同じ名前を上書きすることも出来る。今回はそれだ。
「それじゃあ、お前はこれからも“ソフィア”を名乗れ」
ソフィアとも魂の繋がりができた感覚がある。眷族化も同様に使う。
『ちょっと私が話しますね。称号を含めて』
ああ。よろしく頼む。
「ソフィア、これから俺のスキルがお前に話しかけるから。
ちゃんと人格があるスキルで、俺の相棒みたいなもんだ」
「そんなスキルが……」
驚いているみたいだ。まあ、無理もないよな。
それからソフィアとウルは暫く話し込んでいた。
「成る程。私にはそのような称号があったのですね。
私はこの知恵を、そして精霊の力を貴方の為に使うことを誓います。
私も合間を見つけて修行しますわ」
「ん? 無理はしないでくれよ? その気持ちは有り難く受け取っておくから。
…………そうだ、家族はいるか?」
「いえ、私は子供のときから一人ですね」
………………くっ、触れるべきでないことだったか?
「俺のことを家族だと思ってくれて構わない。
この町の他の住人達も家族みたいなもんだ。今度アリシアとサクラを紹介しよう。俺と一緒にいた女性二人だ。
それでだが、一人だったら仕事をするのに都合が良いな。この屋敷の一部屋を与えるから、今日からそっちに住むといい」
「いいのですか? ありがとうございます」
「それで、給金だが……」
「少な目で良いですよ?」
「そういうわけにはいかないだろう?」
「いえいえ、本当に。それ以上のものを頂いていますからね」
むう。それとこれとは別だろうに。そんなにこやかに言われても。
「それは無理してでも受け取ってもらう。異論は認めない。
それで、早速最初の仕事だが、人間の移民達の情報を出来るだけ知りたいのと、人間と魔物の住人の方とでうまく共存出来るようにそれぞれの状況を逐一俺に報告してくれ。グレインと協力して」
「かしこまりました」
それからは幾つか話をしたあとに別れた。
ふう。なんとか収まるところに収められたな。
俺はすっかり温くなってしまったお茶を啜る。
うん。俺は紅茶よりも日本茶のが好きだな。
コンコン、
「主殿、アリシアです。少し相談したいことが」
うん? なんだ?
「入っていいぞ?」
「失礼します」
アリシアが美しい所作で入室する。
「主殿。ご相談が。
数日ほど村を出てもいいでしょうか?
本当に心苦しいのですが…………」
美しい濡れ羽色の髪を揺らしながら、申し訳なさそうな顔をする。
相変わらずアリシアは綺麗だな。今度着物を着せてやりたい。似合いそう。
にしても、村を出る、か。
「それは全然構わないが。
何をするつもりかは聞いても?」
別に恋人の動向を全て把握したいとかそういうつもりはない。
ただ、心配だからな。
「それは帰ってきたときに。ただ、主殿にとって損にはならないと思います」
「? ああ、わかった。
それで出発は?」
「明日から出ようかと」
「それじゃあ、明日から数日は会えなくなるのか。寂しいな。
……………………なら、今日はその分イチャイチャしようか」
「あ、あるじどのぉ……!」
嬉しそうな、恥ずかしそうな顔だな。
そんなこんなで、とても仲良く一日を過ごした。
そして、出発の朝。
俺はアリシアを見送る。正直とても心配だ。
見送りは俺だけだ。他の人たちも見送りしたさそうにしていたが、一応気を使ってくれた。まあ、出掛けるのは本当に数日だけらしいが。
「それじゃあ、行ってきます」
「ああ、行ってらっしゃい」
俺は笑顔で見送った。




