現実はそんなに簡単にはいかないもんさ
「さて、俺がすべきことは…………
…………行政の手続きと、予定地の住民の方々の説得だな」
『マスター? 何を言っているんですか?』
「さっき上空から見てみたとき、遠くに破壊された村があった。
恐らく、あれがコボルトの集落なんだろう。
それに、幸せにしてやると言ったからな。
新しく村をつくる。
そのために必要なことだ」
新しく村をつくるのにも場所が必要だ。
その場所は既に何処かの国の領地だろう。今回は多種族国家グランデだったか。
だから村をつくる申請をする。
そして、村をつくる場所にいる魔物達と話し合いをする。場合によっては物理的お話もな。
俺は元社畜だからな。きちんと手続きをする。勝手にやって後で痛い目をみるのはこっちだ。
『マスター…………一気に現実に引き戻された気分ですよ……』
そんなこと言われても。
「さて、場合によっては数日かかるかも知れないが…………お前ら、野宿はありか?」
「? 勿論最初から野宿だと思っていましたが……? 集落は壊れてしまいましたしな」
族長のグレインが言う。
「すまんな。新しく村をつくろうと思っているがそれにも時間がかかってしまう。しばらくは野宿で我慢してくれ」
「村をつくってくれるのですか! ありがとうございます!
我々はいくらでも待ちますよ」
「………………ということがあった。
だから、俺は今回の報酬を領主との対談にしたい」
「…………………………すごいね」
場所は変わってギルドの一室。ギルドマスターに結果の報告をしている。
ここに居るのは俺とアリシアだけだ。
アッシュとサクラは付いて来たそうにしていたが、アッシュには家族との時間も必要かと思ったから置いてきた。
俺は大体の事情を隠さず話した。
勿論俺のスキルとかは話していない。
ただ、ドラゴンであることは話して、話したくない質問は全部「ドラゴンだから」で返した。
「で? 領主との対談は出来るのか?」
「…………出来るよ。ギルドは一つの中立国のようなものだからね。国にたいしても少しは意見が出来るのさ」
「そうか。それは良かった。さっそく……」
「ただ! 僕はギルドのマスターをする者として、魔物の村をそう簡単に容認するわけにはいかない」
ギルドマスターが俺の言葉に被せてくる。
俺の言葉が遮られたことでアリシアの殺気が一瞬膨らんだが、抑えておく。
ここで暴走なんてされたら交渉が破綻する。
「確かにそうかもしれないな。
だが、人型で人との共存を望む魔物と亜人の違いはなんだ?
姿か?ほぼ変わらないだろう?
思考か? 貴方は魔物と話したことがあるのか?
その上で判断したのか?
そして、もしそうだとしても、人間の中にも悪人もいれば善人もいるだろう?
魔物は全てが危険か? 本当にそうか?
俺は実際に自分で判断したから、ここにいる。この話をしている」
「…………だが、」
「なにより、俺はドラゴンだぞ?」
ニヤリと笑って先程まで言っていたのと同じ台詞を言う。しかし、今度は全く違う意味を持つ。
ギルドは俺を冒険者と認めている。それはつまり、魔物の中にも良い奴はいる、と言っているようなものだ。
例え、俺がドラゴンだったのだと知らなかったとしても。
俺は既にこの町でちょっとした有名人だ。二つ名もあるし。
その俺を今更冒険者と認めないわけにはいかないだろう。
全てわかっているからこそ、ギルドマスターは何も言えなくなる。
「…………………………ハア。 わかったよ。ギルドは君のつくる村を認める。それに、領主にも取り次いであげよう」
ギルドマスターがその優しげな顔を苦々しげに歪めながら言う。
「…………貸し一つ。
俺が一つだけ可能な限り頼みを聞く。それで良いだろう?」
俺がそう言うと、ギルドマスターは顔に満面の笑みを浮かべた。
…………演技だったのか?
俺は思わず、そう疑ってしまった。
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