俺がお前の全てになってやる
今俺は人の姿で森のなかを歩いている。
ちなみに服はちゃんと着ている。
少し粗末だが、この世界の村民では一般的な服なのだそうだ。
どこで手に入れたのかというと、
さっき無人の小屋を見つけたのでリュックサックや数着の服、ナイフを初めとしたいくつかの道具を拝借したのだ。
家主は居なかったが、生活の跡は窺えた。
いつか出世払いで返すので許して欲しい。
ウルが言うにはその小屋には魔物に認知されにくくなる結界がはられていたらしい。
だが、ウル先生の前にはそんなものないも同然だった。
地形を理解するスキルを駆使し、看破してのけた。
ウルに小屋の存在を知らされたときは本当に驚いたものだ。
「…………ん? ……なんだあれは?」
目の前には黒いなにかが倒れている。
よく見てみるとコウモリ? っぽい魔物のようだ。
割りとデカめ。
コウモリと言っても豚鼻で不細工……ということもなく、割りと猫なんかに近い顔つきだ。
体もコウモリっぽくはない。
黒猫にコウモリの羽をつけて全体的に少しコウモリっぽくした感じだな。
正直メッチャかわいい。
「うっ…………お……前、は?」
コウモリが話しかけてきた。
ちなみに会話は全言語理解によって翻訳されている。
…………興味がわいた。少し話してみよう。
「俺はユーヤだが、
それより、お前はどうしてこんなところで死にかけてる?」
「………………お前、は、私のこと……を、見てもなんと、も、思わないのか?」
質問に質問で返すとは。
ん? それより、こいつの姿になんかあるのだろうか?
「いや? 特には。
むしろ凄いカワイイと思うぞ」
「――――っ!!
………………はじ、めて言われ、た、な。そんなことは。
まあ、いい。さっさと何処へでも行くといい」
自分が死にかけてるのにさっさと行けと言う。なんだコイツは。
さらに興味がわいたぞ。
俺はこいつの瞳を覗きこんだ。
そこにあったのは
絶望
諦め
恐れ
………………そして一握りの期待、だった。
『マスター、この子、称号持ちです。
さらに、通常その種族は持たない特別なスキルや高いステータスを持つ“ユニーク”と思われます』
……ステータスを鑑定だ。
種族 ラージバット ※衰弱
性別 女
・レベル 15
・HP 10/300
・MP 10/500
・パワー 100
・スピード 300
・ディフェンス 200
・マジック 500
・マインド 500
・ラック 100
スキル
・影魔法2
・気配察知
・気配遮断
【称号】
・忌み子
「忌み子」
それは世界からの試練。
あらゆる生物から忌み嫌われる者。
自分に対して残酷なその世界で何を見つけるのか。
大抵のスキル保持者はすぐに死んでしまう。
あらゆる生物から忌み嫌われるようになる。
スキル保持者が見いだしたものによってこの称号は変化する。
見いだしたことに補正がかかる。
…………誰からも愛されず、憎まれる。そんなこと悲しすぎるだろう。
さっきのこいつの瞳には、
これまでのことへの絶望。
そしてこれからのことへの諦め。
これ以上傷つけられることへの恐怖。
があったんだ。
ああ、なんて残酷なんだ。世界ってのは。
だから、俺はこいつを救う。
俺は教えてあげねばならない。
世界はこんなにも優しいのだということを。
「―――――ウル、
決めた。俺はこいつを救う。
まずは現状の死にかけを治すことからだ。方法はあるか?」
『マスター………………
…………かしこまりました。私も全力で手伝います!
…………彼女を救うには名付けをすることです。
それにより、魂の繋がりを作ります。
そうしてさらに私がサポートをすることで繋がりを通じて自分のHP、MPを分け与えることが可能になります!』
「…………さっき、から、なに、を……?」
コウモリが話しかけてきた。
そうだ、俺はまだこいつに聞かなければならないことがある。
「いいか! 俺はお前を救いたいと思っている。
お前はまだ、生きたいか?」
「……………………わたし、は、生きて、いては、いけない存、在だ…………
生きたいなんて……」
「そんなことは聞いていない!!
お前は! お前自身は! まだ、生きたいのかと聞いている!」
「わ、た、しは……」
「お前が一人では生きていけないと言うのなら、俺が居てやる!
お前が望むなら、俺はお前の全てになってやる。
お前の友に。
お前の家族に。
お前の居場所に。
俺はお前の全てになってやる。
だから、自分の本心を言え」
「わたしは、私、は……
…………まだ、生き、たい……!」
「それが聞けたら十分だ」
こいつの瞳にはまだ“期待”があった。
そしてこいつは俺にさっさと行けと言った。
それは俺に嫌われたくないからなのだろう。
俺に嫌わせたくなかったからなのだろう。
憎悪することの醜さを知っているからこそ、俺にそんな感情を抱かせたくなかったのだ。
そんなこいつだから、俺は救いたいと思えたんだ。
俺はコウモリの体に触れて、ウルの説明を聞きながら、HP、MP譲渡の準備をした。
「いいか、
お前は今日から誠実なものを意味する
“アリシア”を名乗れ。
では、いくぞ?」
名付けをする。
続けて俺は自分のHP、MPをアリシアに流し込んでいく。
触れている手からは光が溢れている。
…………暖かい。
『マスター! 成功です!
もう、命に危険はありません!』
ああ、よかった。成功したようだ
…………ん?
光がおさまらない?
光がむしろ増えていく。
いや、これはアリシア自身が輝いている?
一際光が強まり、俺は思わず目をつぶった。
目をあけると、そこには…………
コウモリの羽の生えた黒髪の美女がいた。
……………………裸で。
……なんでやねん。
俺は取り合えず手持ちの服を着せた。
ウルがうるさいので、目をつぶりウルの指示通りに手を動かした。
目の前に桃源郷があったのに…………
……また、親父ギャグになってるな…………ウルがうるさいとは。
服を着せた後、まじまじと観察してみる。
髪は烏の濡れ羽色と言うのだろうか。
前世では特に美しい黒髪の種類と言われていた青っぽい黒髪だ。
胸の辺りまでのサラサラのストレート。
顔は大人っぽい。可愛いよりも綺麗が先行するタイプだ。
胸部装甲は、とても迫力がある。
ぼんっきゅっぼんっ、だ。
…………もしかしなくてもアリシアだよな?
……鑑定。
アリシア ・種族 吸血鬼
性別 女
・レベル 1
・HP 2000/2000
・MP 3000/3000
・パワー 2500
・スピード 2000
・ディフェンス 1500
・マジック 4000
・マインド 5000
・ラック 1000
スキル
・影魔法5
・気配自在
・吸血
・飛翔
……まじか。
その時、アリシアが目を覚ました。
瞳は紅い。少しつり目でそれがまた綺麗さを引き立てている。
俺は思わず息を飲んだ。それほどにアリシアは美しかった。
そしてアリシアは俺の姿を視界に捉えると、一度目を見開いた後、目を閉じ、深呼吸をし、
俺の前に膝まずいた。
………………えっ?
「主殿、貴方は私に、私の全てになってやると仰いました。
私は私の全てであり、命の恩人でもある、貴方に私の全てを捧げたい。
私の主になってください」
【ユーヤ ヤクモは「眷族化」を獲得しました。
アリシアはユーヤ ヤクモの眷族になりました】
…………ホワッツ?
ヒロイン登場させました!
えっ!?ウルはヒロインじゃないのかって?
あははは、まあ、そのうちわかるのでは?
次回はアリシア視点の話の予定です




