転生したみたいだ
「…………んんっ? ここは?」
そう言いながら俺は目を覚まし、周りを確認しようとして…………諦めた。
なぜなら周りは真っ暗で何も見えないから。
「ふむ、どうやら暗くて閉鎖的な空間にいるみたいなんだが、それより…………」
それより、気になるのは俺の体だ。
俺は八雲勇哉。普通の日本人で普通の社畜だ。
ん? 社畜である以上普通じゃないって? 今時そんなに珍しくも無いだろう?
わかると思うが社畜とは会社の家畜のことだ。それほどブラックな仕事をしているということだな。
年は秘密にさせてもらおう。というか男の年齢なんてそんな興味ないだろう? まあ、オッサンではないとだけ言っておく。
見た目は中の上から上の下位。
普通の大学を出て、普通のブラック企業に就職した普通の一般人だ。
………………いや、だったはずなんだが、なんだこの体は。
暗くて何も見えないが、触ってみたら皮膚は硬く、鱗に覆われ、鋭めの牙が生えていて、背中には小さめだが翼が生えているのがわかる。
これは普通の一般人と評していいのだろうか?
いわゆる所のドラゴンというヤツではないか?
どうしよう?
「………………いや、なったものは仕方ないかな」
俺はあっさりこの体を受け入れた。
えっ? 順応早すぎ?
そんなこと言われても。生来の性格だし、そういうもんだと思ってくれよ。
確かに前世(?)でいいのかは分からんが、人間だったときの俺は順応力が高いとよく言われてはいたが。
もしかしたら、ドラゴンになった影響もあるのかもな。
性格がドラゴン寄りになってたり?
まあ、悪いこともないだろう。
「まずはここから出ようか」
俺は壁(?)に手を触れて、感触を確かめてみてから強めに殴ってみた。そしたら案外簡単にヒビが入り、割れた。
光に目を細めながら外に出てみると、
そこは森の中だった。見たこともないような大樹林。
「…………ああ、雄大すぎるだろ。自然さんよ」
俺はその“生まれて”から初めて見たその世界の、その光景に、ありきたりな言葉だが、物凄く感動していた。
「俺はこの世界で生きていこう。ドラゴンがいるような世界だ。
地球では…………無いだろうな。
未練は……無いと言ったら嘘になるが、人間いずれ死ぬ。
そのときはいつになるのかはわからないのだから、その時が来たのだと思えば割りきれる。
なにより、俺はこの美しい世界で生きてみたい。
色々なものを見てみたい。色々なものを聞いてみたい。色々なものを食べてみたい。色々なものを感じてみたい」
俺はそうしてこの世界で生きていくことを決めたのだった。
この日、いずれ世界を揺るがしたりしなかったりするのかもしれない一匹のドラゴンが生まれたことを知るものはいない。
………………スマン。今のナレーションは俺だ。言ってみたかったんだよ。