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第九階 不遇ソーサラー、復讐計画を練る


 新しい体で街を練り歩く。復讐計画はもう始まっている。まず狙うのはソフィアだ。憎いのはほかにもいるがこいつだけは一分一秒でも早く苦しめて殺したい。


 遠くから『九尾の狐』ギルドのアジト周辺の様子を確認する。あいつらが出てくるまで待つとしよう。早く殺したいのは山々だが、その前に俺はやつらの姿を見たいんだ。見れば見るほど復讐したいって気持ちが湧いてくるから。今でも充分だがもっと欲しい。溢れてきて酔い潰れそうになるほどの憎悪が。そうすればどこまでも残虐になれるような気がするから。


「――今日も天候に恵まれましたね」

「だねぇー」

「うむ」


 30分くらいうろうろしていると、アジトのドアが開いて三馬鹿――ジュナ、ローザ、エルミス――が順に姿を見せるのがわかった。


「さあ、僕のお姫様のソフィア。お先にどうぞ」

「まあっ。ありがたいです、ルーサ様? うふふっ……」


 その次にルーサとソフィアが出てきた。まるで恋人同士であるかのように笑い合ったかと思うと腕を組んで仲睦まじく歩き出した。いいなあ、とても幸せそうだ。見てるこっちまで幸福な気持ちになってくる。天国から地獄に突き落としてやったとき、どんな反応をしてくれるのか今から期待を持てるので。


 ただ、復讐する前に対策はしっかりしておかないといけない。俺がこの姿に転生したとバレたら、死なないように発狂するまで延々と苦しめられる恐れがある。あのとき自殺という選択肢が浮かばなかったらそうなっていたはずだ。次もそれで死ねるとは限らないし、色々と警戒されて面倒なことになる前に潰しておきたい。


 狙うなら孤立したところだ。あいつらはソロで行動しているイメージはないが、実際にジュナは当たり屋が目的とはいえ1人で行動していたことがあるし、ルーサはボス狩りに同行していてあいつらと一緒じゃないときもある。


「――カ、カイル?」


 奇襲して一瞬で殺すのは簡単だが、それじゃ俺の気持ちが収まらない。


「ねえ、カイルでしょ?」


 死を自ら懇願するほど苦しめないとダメだ。あのときの俺のように。


「カイルなんでしょ!?」

「……」


 ツインテールの、いかにも気が強そうな少女が前に立ち塞がってきた。なんだ? カイルって……あ、そうか、俺の今の名前か。普通に自分のことだとは思わなかった。見た感じ知り合いっぽいな。面倒くさいからスルーしようか。


「ちょっと! どうして無視するの!?」


 俺はこの少女を撒くべく猛然とダッシュする。


「――はあ、はあ……」

「ぜえ、ぜえ……」


 結局追いつかれた。なんてしつこさだ。


「な……なんで追いかけてくるんだよ……」

「ふぅ……や、やっぱりその声、カイルじゃない! ダンジョンで通り魔に殺されたはずなのに、どうして……」


 この子、泣いてる。カイルの恋人だったのかな。あー、面倒だな。こっちは復讐で頭がいっぱいだっていうのに。


「どうして生きてるのか言って! 言わないとここで泣き叫んでやるんだから!」


 まずいな。復讐を果たす前に目立ってしまうのは。


「誰にも言わないって約束するなら」

「約束する!」


 ま、信じてないけどな。迂闊に信じ込むことでどうなるのかはソフィアの件でよくわかったし。逆に利用してやるだけの話だ。


「――てっ、【転生】!?」

「そうだ」


 あっさり秘密をばらしたのは、こいつを信用しているからじゃない。俺の能力を示すことで舐められないようにするためだ。何か裏があるとしても、固有スキルを二つ持っている時点で俺に一目置くだろうしな。お互いに利用しあえばいい。


「それに、固有スキルが二つも。凄い……」


 マジックフォンを持つ彼女の手が震えているのがわかる。もし最初からこんなんだったら、ソフィアもあんな反応を示していたんだろうな。さて、秘密をばらしてしまった以上、いつ噂が広がってもいいように急がないといけない。といっても、俺がクアゼルだってことは言ってないから大丈夫だとは思うが。


「さ、もういいだろ。俺はやることがあるからここでお別れだ」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

「なんだ?」


 なんか変な子だな。


「やることって何よ。気になるじゃないの!」

「関係ないだろ」

「あるわよ! カイルはね、私の友達だったの!」

「だが、今の俺は別人だ」

「そうだけど。でも、あなたって私に似てるもん」

「あんたに似てる?」

「うん。寂しそうな目してる! もしかしたら気が合うかもしれないじゃない」


 この子は人恋しい年頃なのかもしれないが、残念ながら俺の見た目は子供でも中身はそうじゃない。復讐しか頭にない。


「気のせいだろう。俺は人恋しいなんてまったく思ってない」

「復讐するべき人に会いたいって思ってるでしょ!」

「え……」


 まずい。俺の反応が既に図星になっている。


「やっぱりね。私の言う寂しいっていうのは、復讐する相手に会いたくて会いたくて、目が寂しがってるってこと!」

「なるほど」


 妙に説得力があって納得してしまった。ちょっと悔しい。


「だから私と同じようなもんだし協力してあげるわよ! 感謝しなさい!」

「じゃあ、遠慮なく」

「その代わり、こっちも復讐に協力してもらうから」

「わかった」


 商談成立ってわけだ。これなら裏切られる心配もあまりないかな。


「私の名はエリナよ、あなたは?」

「俺? カイルだよ、そんなのわかってるだろ?」

「本当の名前!」

「それは……もうちょっと仲良くなったらな」

「えー!」


 なんかこのままだとボロが出ちゃいそうだ。なんか鋭そうなんだよこの子。協力してもらってもそこでお別れにするかな。もし悪いやつじゃなかったなら気の毒だが、出来る限り面倒なことは避けたい。この体でなければ、もう俺だとわかることもないだろうし。

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