超短編ホラー「投稿者、不明」
「はーい、皆さんこんばんわ! カズシの心霊スポットへ遊びに行こう! 第19回の配信です」
いつもの様に右手をピースにして顔の横に。
「最近、モリモリと閲覧数やコメントが上がってきていてちょー嬉しい、カズシです!」
カメラに向かって礼をする俺。
「当然今回もいつもの相方が一緒ですよ、どうぞシミタ―くん!」
カメラに写らない様に待機していた、シミターこと下田裕孝が画面内に入ってくる。
「ういっす! みんな大好きシミターだ。みんな、心霊スポット巡りしてっか?」
「駄目だよ、そんな事言っちゃ。俺等があちこち行く意味無くなるじゃん」
「そっか、なら訂正。 よっす、俺等の行った事のある心霊スポット行ってるか?」
「それいいな」
ゲラゲラと笑い声が、深夜の人通りが少ない山道に響く。
「それで、カズシよ。今回の心霊スポットってどんな所なのよ?」
「今回は千葉県某所にあるMトンネルです!」
「ほうほう、そこってどんな所なのよ?」
「なんでもトンネルの真ん中辺りに意味の無い英単語の羅列があるらしくてね、その英単語に携帯電話のカメラを向けると女の霊が画面に映るんだとかなんとか」
「へぇ、近代的な幽霊だな。それのソースってなに?」
「うちのチャンネルのコメント欄にあったんだよ、見てる? ありがとうね」
「おう」
シミターが右手を上げる。
「でもこの話、ググってんだけど出て来なかったんだよね」
「なら、でまなんじゃねぇの?」
「おい、せっかく書き込んでくれたのにデマは無いだろ? まぁ、そんな所を調べるのが俺等の役目だろ」
「えー、めんどくさい」
「おい!」
ゲラゲラと笑う。
「それじゃ、その現場行きますか」
「じゃあ、いつもの様に画面右から出ますか」
「はいよ」
「ずん、ずん、ずん、ずん」
そう言いながら俺達はカメラの前から消えた。そのままカメラの後ろに回り、録画ボタンを止めた。
「うっし、オープニングはこんなんでいいんじゃないか?」
「だな、それにしても暑いわ」
「本当にな」
俺はカメラを片付け、シミターが飲み物などが入ったバックを持つ。
「それにしても本当に検索出て来なかったの? さすがに有りえなくない?」
「いやマジなんだって、いくら検索かけても出ないし、オカ板に書き込んでも誰も知らないって」
「はぁ、マジかよ……。やっぱりガセじゃね、それ?」
「いや、書き込んでくれたの常連なんだよね。ほら霊が写った学校の時の、あの辺りからずっと書き込んでくれてるんだよ」
「写ったじゃなくて、作っただろ? あれ、ウケたわ。ただマネキンを暗闇に立てただけなのに信じてんだもん、バッカじゃねぇの」
そういいシミターは爆笑する。
「身内の時以外でその話すんなよ、オカ板でも人気出始めてんだし」
「それも自演だけどな」
「あの動画凄いぞって書き込んだら、急にアクセス増えたんだもんな。ほんと楽勝過ぎるわ」
「ま、今回も何にも映らなかったらなんか加工しとけばいいんじゃね?」
「たしかに」
俺達の笑い声がこだましていた。
※
「よっと!」
シミターが荷物を下ろす。
「ここがそのトンネルか」
「だって」
スマホ用の三脚を調整しつつ、返事を返す。
「今回、スマホで撮るんだよな? 登場どうするの?」
「一人で出て来て。そのあと俺を探すフリして、そしたらスマホ持って動くから」
「りょーかい」
シミターは、カメラに写らない様に左側に位置取る。
「じゃあ、いくぞ。5、4、3」
指で2、1と合図をする。
「ずん、ずん、ずん、ずん」
画面の右からシミターが、一歩ずつ歩いてくる。
「ずん、あれ? おい、カズシ何処行った?」
わざとらしく辺りを見渡している。
「おい、カズシ? トイレか、大なのか?」
俺はスマホの三脚を持ち上げ、
「ここだよ!」
そういいながら、シミターに近づいた・
「だあぁぁぁ、なんだよ驚かすなよ」
わざと臭く、驚く。
「おい、演技下手過ぎだわ。もう少し何とかなんないのかよ」
「おいおい、お前だって下手じゃねぇか。ここだよ、じゃねえよ」
「もういいよ、じゃあ行こうぜ」
俺はスマホを持ったまま、シミターの後ろをついて行く。
「それで、どの辺にあるの?」
「それはよく分かんないわ、ただこんな英語が書いてあるんだって」
俺は、『KmdWiBellByDoMiu』と書かれた紙をカメラに見せる。
「どれ?」
シミターが差し出した手に、その紙を渡した。
「なんて読むのこれ?」
「いや、意味の無い単なる羅列らしい。質問サイトで聞いたけど、意味ないって言われたわ」
「意味わかんないな」
「だから、心霊スポットになってるんじゃない?」
湾曲しているトンネルを歩いて入り口が見えなくなったくらいの時だった。
「おい、これじゃないか!?」
シミターが右壁を指差す、そこには緑の文字で例の文章が書かれていた。俺はスマホを向けない様に気をつけながら、
「それだな。今あえて見せないようにしてますんでちょっと待ってね」
「これにカメラを向けるんだよな」
「おう、三つ数えたら向けるか」
「そうだな、じゃあ、3」
「2」
「1」
俺はスマホを文字に向ける。
「どうだ!」
しかし、画面にはただ『KmdWiBellByDoMiu』と文字が写っているだけだった。
「カズシ、どうよ?」
シミターは楽しそうに聞くがそんな彼に、
「駄目みたい、特に何にも写ってない」
「マジで? ちょっと見せて」
シミターが画面から消え、俺の横に立つ。
「あー、マジかよ……。こんなとこまで来て、無駄骨かよ」
がっくりとうな垂れるシミター。
「まぁ、今回は運が無かっただけだから。しょうがない」
「ったく、マジありえねーわ」
シミターがここまで言っているのはわざとだろう、書き込んだ奴を叩かせる魂胆だ。
「ほんと、止めてほしーわ」
「まあまあ、悪気が無かったんだろうしさ」
うずくまるるシミターからカメラを外し、もう一度だけ文字を映す。
「だからってさ」
画面の中の文字が変化していた。
「マジでよ」
「お、おい」
「むかつくわー」
「おいってば」
「ん? なんだよ」
「これ見ろよ」
俺はシミターを呼ぶ。
「どうしたってんだよ」
無言でスマホの画面を見せる。
「Kill you……?」
ゴクリと唾を飲む音が響く。
「どうなってんの?」
シミターは俺に尋ねてきたが、俺が知る訳ない。
「おい、俺にドッキリでも仕掛けたのか?」
俺は首を振る。
「壁の文字は変わってねぇじゃん、なんだよこれ!?」
「だから、知らねぇって」
「そうだ、スマホに細工してんだろ」
そう言いながらシミターは、ポラロイドカメラとビデオカメラを取り出す。カシャンと写真を撮り、壁の文字を録画しだした。
「なんだよ、なんでだよ!?」
録画されている画面を恐る恐る覗く。
「Kill you……」
写真に色がつき始める、そこにも『Kill you』とハッキリ書かれていた。
「おいおいおい!?」
シミターが落ち着きなく動く。
「落ち着けって!」
「落ち着いてられる訳ないだろ、早く逃げるぞ!?」
「お、おう。そうだな」
俺達はトンネルに向かい、走り出そうとトンネルの入口の方を向く。
ゴトン。
「なんだ?」
音はあの壁の辺りからだった、シミターがゆっくりと振り向く。
「お、おい!」
ゆっくりと首を動かす。
「Kill you……」
何故かそこの部分の壁が剥げ落ち、画面で見た物と同じ様になっていた。
ここはヤバいと俺の直感が告げている。
「ほら行くぞ!?」
シミターの声が響く。
しかし、俺の足は何故かウゴカナイ。
「もういい、先に行くからな」
待って、そう言いたかったが声が出ない。
そんな俺を置いて、シミターは一人で走って行ってしまった。
シミターの姿が見えなくなる。
しかし、それも一瞬で直ぐに戻って来た。
「来るなよ、お前なんだよ!?」
シミターが誰か怒鳴っている。
ゆっくりと戻って来たシミターの前には、白い服の女性が居た。
「来るなって言ってるだろ!?」
シミターが転ぶ。
「やめろ! 来るんじゃねぇ!?」
女性はシミターに腕を広げ、シミターに覆いかぶさる。
「ゴブッ!」
シミターが奇妙な声を上げる。
「ガボ、ゴバ、ゴボ!!」
彼が助けを求める様に手を伸ばすが、俺はいまだに動けなかった。
「がはっ!」
そう言うと動かなくなった。
「おい」
瞬間、体が動く様になった。
「おい、大丈夫か?」
ゆっくりと近づく。
「裕孝?」
彼の肩に触った。
瞬間、彼は体を起こし俺にのしかかる。
その手を俺の首に。
「な、なにを、するんだ!?」
何とか声を出す。
「Kill you」
彼の声ではない女の声が響く。
その声に覚えがあった。
「Kill you」
あの学校で置いてあったマネキンを移動した時に聞こえた声だ。
「Kill you」
意識が遠のきそうなのを何とか耐える。
「Kill you」
裕孝の目は白く濁り、死体の様だった。
「Kill you!!」
裕孝の後ろに、あの時のマネキンと同じ顔をした女性が立っていた。
どうでしたか?
最近よくある悪ふざけの過ぎる動画を作った者の末路とでも言いますか、そんな感じで書いてみました。
急きょ書いたのでもう少し練ってからでもいいかとも思いましたが、夏のホラー2016の期間に間に合わせるためになんとか書き上げました。
感想、評価、ブクマ、怖いボタン等々色々お待ちしております。
よろしくお願いします。
読んで頂きありがとうございました!