雷霆と流星 1/17
私達が地面ごと落ちた先には、登ると今にも崩れ落ちそうな階段があった。私達はそれを慎重に登っていく。フィールドが広すぎて何が何だかわかっていない。
正義君と真霧君は無事にこのフィールドの中心部に着いているのだろうか。まあ斎藤君と桐生君がナビゲートしてくれていることだろう。
「2人共、早く来てくれ!」
階段を登った先に見えるのは、勇猛果敢に闘う紫ノ宮君の姿。空間を超える剣を次々に召喚し、ある弓矢使いと対峙していた。
それは檜皮狩矢という学園最強の弓使い。正確無比の一撃をここまで耐えている紫ノ宮君も凄いと言いたいところだが、紫ノ宮君の空間魔法を使う位置を的確に当てているようにも見える檜皮先輩も勝るとも劣らない凄さがあった。
「紫ノ宮、あいつらに危機が迫っていると聞いたろ。お前だけは行け。あいつらを助けられるのはお前だけだ」
「わかった。任せたぞ」
そう言って、紫ノ宮君は3本の剣を同時に檜皮先輩に投げる。それを檜皮先輩は指からすり抜けていく、舞い降りる羽のように避ける。紫ノ宮君が苦戦していた理由が一瞬で理解できた。これほどまでの実力だとは。
紫ノ宮君は3本の超越剣を使って、素早く正義君と真霧君の元へ向かっていく。
「さぁ、鳳さん。2連戦だが、大丈夫かい?」
「私の準備はいつでも」
私と速水君は頷きあうと、檜皮先輩は黙って30度程首を下げて礼をした。
先輩は礼を終えた瞬間に、矢筒から矢を1本取り出し、力強く引く。その次の瞬間、右手で裏拳を繰り出したかと思うと、猛虎のように雷を纏った矢が襲いかかってくる。
私はどうすることもできずに棒立ちになっていた。速水君はそんな私に目配せして、流星でなんとか守ってくれた。
「鳳さんから狙って来たか……」
「悪いが俺達も勝ちに来ているんだ。名ばかりの3席のような醜態を見せられないもんでね。弱い者から狙って、強い者のボロを見せる。それが強者の在り方だ」
……確かに私を狙えば、速水君が私を守ってダメージを受ける。それを続けて行けば、檜皮先輩にとって一石二鳥というものだ。
「でも、俺達も勝ちに来ているんで、鳳さんだけは守りますよ」
「肝が座っているな。速水君、君のことを認めよう。しかし、このまま勝てるかな?」
完全に私達は防戦一方を強いられた。じわじわと追い詰められていくような嫌な感じ。ダブルドッジボールで鳥籠をされて、いつ当てられるのか全くわからない時と同じ胸の靄を感じる。
「鳳さん。このままじゃ埒があかない。最後は一対一でやらせてくれないか?ただ、何かあったら援護してほしい」
「勝算は?」
私がそう聞くと、彼は限りなく笑顔でこう答えた。
「ちょっとした技はある。でも勝算なんてない」
「待って。それなら私は譲れない」
「ここで檜皮先輩とサシでやれなきゃ、俺は絶対に後悔する。確かに勝つのが最重要となってくる闘いなのはわかっている。わがままだけど、このままやらせてくれないか?」
「……わかった」
「ありがとう、鳳さん」
彼はそういうものの、目が完全に勝負を諦めた人の目ではなかった。まだ勝利を掴もうとする主人公のような目。私はこの目を見た事があった。いや、近くでずっと見てきた。私達のキャプテンと同じ目。だからこそ、私は速水君を信じる。私は水魔法で魔力を供給することにだけ頭を使おう。
「星空ノ軌跡!!」
「消える覚悟はできたか。破滅纏う雷撃の矢」
鳴り響く雷鳴。駆け巡る流星。互いの最終奥義がぶつかり合う。破壊の雷と侵食の炎。どちらも私のような凡人とは一線を画す強さ。どちらに軍配が上がっても、何もおかしくはない。
しかし、相手は冷酷非道の一撃を放つ第6席。魔法の質が違った。密度の高い雷が完全に速水君の最終奥義を打ち破る。そして、矢が速水君の胸を突き抜ける。
「俺のこの技を受けてなお、立ち上がった者は誰一人、いない」
「俺は、勝つつもりも負けるつもりもない……。
光魔法・七剣戟起動」
あれは、正義君の十八番でもあるセブンブレイズ!
檜皮先輩の喉や脳、心臓などといったあらゆる急所に完璧にジャストミートしていた。急所はダメージ量が他の部位と比べても比類ないほどの量。あれだけの急所への攻撃で立てるわけがない。
「……肉を切らせて骨を断つ、か。敵ながら天晴れだ」
最初から速水君は引き分けを狙っていたんだ。
「最後の敵は城ヶ峰ただ1人だ。あいつは最強の3人に任せて、鳳さんは援護を頼む」
そう述べる速水君の体は消えかかっていた。
「待って、私の水魔法で!」
「いいや、その魔法は俺に使っても無駄だ。もっと有益な使い方をしてくれ」
「……わかった。ありがとう、速水君。ナイスファイト」
私と速水君は最後に握手を交わした。
「……データ送信完了まで、あと6%……」
エリア2はAV室。もう廊下から人が走る音が聞こえてきている。
「恭介さん!もう敵が来ます!早く!」
「わかってるよ……5、4、3、2、1」
データ送信完了。それと同時に俺は電源を消し、椿が来いと言っている掃除用具入れに入る。
その瞬間、AV室の自動ドアが開く。
「おいっ!そこで何をしている!」
低い男の叫び声が聞こえる。バレたか。
「何を言っているだ、騒がしい。誰もいないじゃないか。試合中ぐらい静かにしてくれないかね。教え子の試合なんだ」
凛々しい女性の声が聞こえる。聞いたことがあるような。こちらの味方なのか?
「……行くぞ」
……ひとまず助かった。心臓がバクバクと音を立てている。それが耳でも聞こえる。ホッと溜め息を吐いた瞬間、俺と椿の距離感に更にドキッとする。もう数センチもない。
「椿、悪い」
「……いえ、大丈夫です。私が呼んだんですから」
ゆっくりと掃除用具入れを開けると、目の前に立っていたのは、音坂先生だった。
「全く、作戦に命を賭けるつもりか?
そして、次2人で掃除用具入れに入ったら不純交際として、私の教師の権利使うからな?」
音坂先生は笑って言った。そうか、先生もこの作戦を成功させたいんだ。
音坂先生を見て緊張がほぐれたのか、椿は思い切り音坂先生に抱き着き、大声で泣いていた。音坂先生は黙って椿の髪を撫でていた。俺もその中に入りたかったが、諦めた。




