解剖される過去 1/10
真霧との練習を終え、少しばかりの休憩のためにチームルームに戻ると、氷牙がコーラを飲みながら、テレビを点けてニュースを見ていた。そのニュースの見出しには『重力波で発電が可能に?』だった。
「へぇ、面白いニュースだな」
「あぁ、正義か。重力波の存在は結構前にわかってたはずだが、まさかそれで発電とは想像できないよな」
「ところで、氷牙。進捗はどうだ?」
「お前ほど成長しねえよ。まあ、まずまずかな。そっちはどうなんだ」
俺は快い返事を返したかったが、下唇を少し噛んだ。
「真霧と合体技を始めた当初よりかはマシだ。でも完璧にはまだまだ程遠い。完成するのかも危うい」
「そうか。だからって、最後まで諦めるなよ」
氷牙から珍しく温かい言葉を掛けられる。今日は雪か?
「気になってたんだけど、なんで俺の技、いや俺の兄さんの技を模倣しようと思ったんだ?」
「いや、特に理由はない。咄嗟の判断かな。
それにしても、大空流はお前の兄さんの技だったのか。大空なんて、お前の妹ぐらいしか聞いたことないけどな」
俺の妹の大空凛は、VR戦闘界隈ではなかなか名が知れた人らしい。だが、俺の兄さんである大空誠は知られることはなかった。
「BCPが完成された時に不慮の事故で亡くなったからな。事実は隠蔽されているけど、BCPが完成したことを政府の上の人物に発表する際に、その研究所で爆発が起こって、それに巻き込まれたんだよ」
「なんかどっかで聞いた話だな。でも、なんでお前の兄さんは必殺技を残すことができたんだ?」
「俺の兄さんはBCPの実験体だった、と言えば良いのかな。正常に動作するかを確かめていたのが、兄さんだったんだ」
「BCPが完成したのは、12年前。俺達が4歳の時か。俺が……まだ孤児だった頃か」
氷牙は悲しい目を浮かべた。その色素の薄い瞳が物語る人生は相当なものだったのだろう。俺は慌てて謝罪する。
「悪い、嫌な記憶を思い出させたな」
「いや、気にするな。お互い様だ」
「……俺が兄を殺したも同然なんだよ。当時幼かった俺が好奇心でBCPに乗り込んだせいで、あの出火が起こったんだ。俺がBCPに興味なんて持たなかったら、なんて思うこともある」
「……BCPが出火ねぇ。そんなことがあるのか?」
「わからない。でも事実がそう物語ってるんだからそうなんじゃないか?」
そういうと氷牙がデバイスを起動し、何かを調べ始めた。氷牙は画面を見るなり凍りつく。そして、全てを悟って苦笑を浮かべる。
「何をしているんだ?」
「……やっぱり。この企画の最高責任者は……」
俺は氷牙にデバイスを見せつけられる。その画面に刻まれていた文字は。
虹村透。
冷姫霙をも死に導いた人物は、やはりNOAHを作り出した虹村学園長だということが明白になった。
「これで全ての白黒ついたんじゃねえか?お前が退学にされかけたことも、お前の兄さんはお前が殺したんじゃないってことも含めて全て」
……俺は兄さんを殺していない。そして、今の学園長の策略だった。
怒りと喜びが入り乱れた最悪の感情が沸き起こる。
「なんでだよ。なんで俺が生きてるんだよ。兄さんを返せよ。俺だけが犠牲になれば良かったんだよ」
「……そんなことないだろ。お前はお前の力で、NOAHを、未来を遮る物を壊そうとしている。
そして、死者は蘇らない。例え、人工知能を駆使しても、その人の心は蘇らない。人工知能でその人が歩んだ人生をインプットしたとしても、その人が持っていた愛する気持ちはきっと蘇らない。その人間に限りなく近いた人形なんだよ。だから、前だけを向け」
氷牙、お前はよくこの気持ちに耐えられたな。愛する人を犠牲にし、何もできない虚無感、そして襲ってくる十字架。俺はどうしようもない気持ちに駆られる。
「そんなの、無理だ。俺はこの気持ちをどこにぶつければ良いのかわからない」
「……俺は1人じゃきっと乗り越えられなかった。きっと姉貴しかいなかった頃の俺だったら、非行に走っていた。
だが、もう今の俺は違う。正しい道に導いてくれる仲間がいた。お前だってそうだ。過去に縋るよりも、未来に縋る方が良いんじゃねえか?」
……もっともだ。アルビノ患者は寿命が短いとされている。氷牙はアルビノだから自身の命は短いことを知った上での言葉だったのだろう。だからそれは俺を説得するには十分過ぎる言葉だった。
「そうだな。そうだよな。俺もお前のことを信じるよ」
俺の心には罪悪感という蟠りが消えていた。そして、絶対に成功させてやるという決意が更に固くなった。




