大空が追いかけてきた太陽 12/27
俺達は聖先輩との死闘を終え、すぐに駿河先輩と椿の元へ向かう。すると、その決着はまさに今着いた。
「遅いですよ……キャプテン、氷牙さん。後はお任せしますね」
椿はそう言うと同時に、この戦いから強制離脱させられた。
「おう、任せられた」
「よく耐えたな、椿。ここからは、俺達に任せろ」
こうは言ったものの、正直な話、聖先輩と刀と斧を交えた俺も限界が来ている。全員を相手にしてきた氷牙に至っては一撃受けれるかどうか。更に、相手は俺の師匠でもある駿河先輩。これは、いわゆる無理ゲー。だが、俺は無理でも戦う。今ここに今まで戦ってきた意義があるのだ。
俺がずっと追いかけてきた存在。俺の学園生活の全てを変えてくれた彼女。俺の憧憬でもあり、何度も絶望の淵から救ってくれた救世主でもある。いつ如何なる時も、彼女はこんな俺を助けてくれた。
俺は、彼女に成長した姿を見せるためにここまで頑張ってきた。努力に努力を積み重ね、幾星霜の死闘を勝ち抜いてきた。そして、負けを重ねてきた。
その彼女が今目の前にいる。俺の壁として立ちはだかる。椿と戦った後の乱れた佇まい姿は、椿に苦しめられたと見えても、凛としていて美しかった。まるでアスファルトに根を生やし、力強く生き抜く花のように。まるで百年戦争を終結に導いたジャンヌダルクのような勇ましさがそこにはあった。
「貴方と剣を交えるのは、最初の修行以来か。まさか、あの子が『エルドラード』までも勝ち進むなんて、強くなったね」
「俺には、才能がなかった。それは努力で埋めてきた。ここまで、とても辛い道のりでした」
「いえ、君には才能はあった。闘う才能ではなく、人を導く才能が。理由は知らないけど、闘いから逃げていただけよ。
少なくともあの模擬戦であなたの実力を見出した人は大勢いた。私だけでなく、君の隣にいる冷姫君も」
氷牙もコクリと頷く。こいつが俺に救いの手を差し伸べていなければどうなっていたのだろう。そんなこと考えても意味はないか。
「そんな言葉もらえるなんて光栄です。俺は先輩に心の底から感謝してます。
でも俺は、勝たなければならない。この学園の深淵を知ったからには。たとえ、退学の淵から救ってくれた恩人が相手だろうと、自分が傷付こうとも。俺は進まなきゃならないんです」
「知っているよ。どこまで行っても、君は絶対に止まらないもの。
かと言って、今回ばかりは、私にも君を止める権利がある。その義務がある。君は自分を知るべきなの、今の自分がどれだけ死に近づいているかを。君には、来年だけでなく再来年もある。君のスキルを改良してやり直せばいい!君が命を懸ける意味なんてないの!」
俺も自身の体がボロボロなのは知っている。だが、俺は闘う。俺は今にも泣きだしそうな太陽の瞳から、目を逸らさずに言い放つ。
「たとえ、俺の脳が死んだとしても、俺は後悔はしません。だって、このチームは、このチームで闘えるのは、今しかないんだ。俺はこのチームで勝ちたい。そして、この学園を、この世界を魔の手から救い出したい。ただそれだけなんです」
俺は一歩前に進む。また足を前に進めて、駿河先輩に近づく。そして、剣を握った右手と右脚を大きく前に出し、左手を額の前で止める。左脚に大きく力を入れる。自分でも愚弄な行為だとわかっている。超スピード特化の駿河相手に、フェンシングに近い構えだなんて。だが、俺はこうせざるを得なかった。
「君がそのつもりなら、私も負けないッ!」
ジリッという音を立てながら、彼女はいつもの構えを取る。左脚を前に出し、右手と左手でしっかり剣を握っている。構えや威圧からわかる、隙のなさ。攻める場所が見つからない。
「行くわよ!幻影炎槍!!」
まさか、ノーモーションの炎の突き!?俺は予期せぬ攻撃に為す術なく散る寸前だった。だが、すかさず氷牙が俺をガードする。
「螺旋焔斬!!」
突きからの素早い動きで、氷牙の懐に入る。しかし、氷牙はそれを読んでいたようで、難なく防ぐ。いつの間にか、またこいつレベルを上げているな。
「防御が抜けてるぞ。まあ、この勝負の防御は俺に任せろ」
そうだ、俺は一人じゃない。俺は氷牙とアイコンタクトを取り、一言告げる。
「頼りにしてるぜ、相棒」
氷牙はニヤッと笑う。もう何も言わなくても、お前の考えていることはわかる。そして、信頼できる。
「六芒鳳凰!!!」
これが『神速の駿河』の十八番。自慢の素早い走り込みで、六芒星の形をした炎の中に俺達を閉じ込め、眩い星の中心にいる俺達を、周りから切り刻もうとする。生で見ると、迫力が違う……ッ!目にも留まらぬ速さに、俺は翻弄される。
ーーだが。
「行くぞ!氷牙!」
「おう」
俺には頼れる仲間がいる。学園に入った頃の孤独な俺じゃないんだ。落ちこぼれなんかじゃない。
「「合体技・菊咲一華!!!」」
灼熱の炎を氷牙の風が振り払い、俺がその中に斬り込む。しかし、駿河先輩はそれを読んでいたのか、スピードが増した俺の攻撃をガードする。攻撃を当てるなら、まだ速くする必要があるのか。だったら、もう最後の手段をもう一度使うしかない。
「……獅子王ノ心臓!!」
「あなたがその技を使うなら、私も切り札を使うわ。灼熱地獄……!」
駿河先輩の身体から業火が巻き起こる。そして、その猛火が一瞬にして広がり、フィールド全体を包み込む。あまりの暑さに俺の頭がボーッとする。気をしっかり持たなければと思い、首を横にブンブンと振る。そして、汗が止まらない。体力ゲージがみるみる減っていく。
「悪い、キャプテン。後は任せたぞ」
そう言って、氷牙は元からギリギリの体力ゲージだったため、ここでリタイアとなってしまう。
これは相手に有利な展開。そして、次の一撃で決着が着く、そんな気がした。
駿河先輩の姿が陽炎によって揺らめきだす。実際の位置がわからない。
「これで決める!六芒鳳凰!!」
駿河先輩が猛スピードで斬り込んでくる。目に見えぬ速さ。光魔法も音魔法も今発動したところで意味はない。
だが、俺はそれを待っていたんだ。俺はゆっくりとモーションに移る。
「……今だ!うおおおお!大空流壱ノ型・桜花!」
俺は身体に駿河先輩の一撃を受けながら、駿河先輩に対してカウンターを入れた。
「この技は、先輩との修行から見出した技です。先輩は俺にカウンターを使えと言った。そして、この攻撃を受けてカウンターを行うのは、最近の真霧との決闘で真霧が使った戦法です。
俺は、数々の闘いの中で成長したんです。俺を支えてくれる皆が居たから」
「……本当に、強くなったね。君の、ううん、君達の勝ちだよ。
ありがとう。正義君。努力を積み重ねてこの舞台まで這い上がってきた君の姿は、最高に格好良いよ」
駿河先輩が目の前から消える。風と共に消える。
俺達が、勝ったんだ。決勝に行けるんだ。
静寂の中で沸き起こる高揚感が俺の胸の中にあった。




