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BRAVE HEARTS  作者: 刹那翼
第5章 ブレイヴ・ハーツ
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力の代償 12/23

 ここは、何処だ。

 瑠璃色の海の中で、ただ浮かぼうとも沈もうともせず漂っている。そんな感じがした。

 しかし、ここは普通の世界だ。普通の魔装高校だ。ある生徒はデバイスを片手に校内を歩いている。外からは部活動の声が聴こえてくる。日常だ。

 俺の名前はなんだっけ。ああ、大空正義か。あんまり好きじゃないんだよな。正義っていう名前。自分自身が正義の心を持っていない感じがして、気後れするんだ。

 ここには、俺1人だけなのだろうか。俺の仲間は?

 仲間……。仲間ってなんだっけ。正義の心で仲間の存在を思い出した。何か心に関連したような名前だった気がする。

 そうだ。『ブレイヴ・ハーツ』だ。

 4人は何処だ?氷牙、恭介、爽乃、椿。皆何処なんだ。チームルームにも誰もいない。校舎の屋上にも。皆がいそうな場所を探してもいない。

 そうか。これは夢だ。


「……ここは、ど、こ?」


 天井についたライトが眩しい。


「大空君!?」


「……この声は、先輩?」


「そうよ!良かったぁ……」


 駿河先輩は目に涙を浮かべて、俺を力強く抱き締める。先輩にハグをされたのは、チームに入って最初の決闘以来か。でも、抱きつかれる意味がわからない。俺は軽くパニックになる。


「俺は一体?」


「君は『オールマイト』との決闘の直後、倒れて保健室に倒れたの。それ以来、私と4人が入れ替わりで君の看病をしてたの」


 ……そうなのか。


「すみません。ありがとうございます。迷惑、掛けちゃいましたね……」


「お礼とお詫びなら、4人に言いなさい。君がいなくて辛い思いをしたところだから。

 大空君。これ、食べて」


 駿河先輩に目隠しをされて、口に何かを入れられる。


「なんですか、これ」


 無味無臭。なんだこれ。少し固い。固形物なのはわかる。食べたことのあるような食感だった。


「ただの、チョコレートよ。ミルクチョコレート」


「……味が、しない」


 俺は恐怖を覚えた。味がしないことがまさかこんなに怖いなんて、一縷たりとも考えやしなかった。

 駿河先輩はもう一度俺を抱き締める。今度はか弱く、そして泣きながら。俺は表現しようがない気持ちになり、駿河先輩の髪をそっと触りながら呟いた。


「ごめんなさい」


「なんで謝るのよ。謝らないでよ……」


 いつも力強く見えた駿河先輩がこの時ばかりは小さく見えた。


「チームの皆を呼んでくるね。榊原君が必死に君の容態を調べていたから」


「……はい」



 チームの皆は、俺を見るや否や顔を背けた。口を真っ先に開いたのは、爽乃だった。


「ごめん。実は正義君が倒れてから、決闘が1つ終わっててね。負けちゃったの……」


 負けた。ほぼ一度も負けを許されない『ラグナロク』で。勝ち上がるのは、難しくなってしまった。


「そうか……」


「最善を尽くしたんですけど……」


 椿は爽乃を必死にフォローする。心優しい椿らしい言葉だった。


「いや、俺が悪いよ。倒れたりしたから」


 そう俺がいうと、恭介が言葉を並べ始めた。寡黙な恭介には、珍しいことだった。


「倒れる前兆に気付けた俺達も悪い。正義は『エルドラード』の決闘後も、多少なりとも真っ直ぐ立てていなかった。監視カメラを見せてもらって確認したんだ。

 その原因はわからないけど、脳の情報処理の限界を超えたんだと思う。脳波を実際には操っていないが、脳波を操ることの再現は普段よりも脳に電脳世界での情報を多量に流し込んで起こしているんだと思う。それは正義の脳には支障を起こすものだった。その結果が、味を感じないことで現れている。味覚が一時的、もしかしたら治らないかもしれないが、無くなっているんだ。

 もしこの技を次使えば、もしかすると本当に脳を損傷するかもしれない。最悪の場合……」


 恭介は俺が寝ていた間、必死に原因を調べていたのだろう。それに決闘のことも同時に考えなければならなかった。しかし、俺は恭介の優しさに応えることはできない。俺はなんとしても勝たなければならない。


「でも、恭介。それ以外の可能性も考えられるんじゃないか?」


「だが、正義の身体に影響を与えることは間違いない。俺もこのチームで勝ちたい。だが、それ以上に正義が無事でいることが俺にとっては大切だ。チームを代表して言う。正義、これ以降リチャード・ハーツを使うな。いや、もう戦場に立つな」


 優柔不断な恭介から気迫すら感じる。彼は本気だ。冗談なんかじゃない。


「いや、待ってくれよ、恭介。俺が、この力を使わなければ、絶対に勝てない。勝たなきゃ、ダメなんだよ」


 恭介は俺の胸ぐらをがっしり掴んで怒号を飛ばす。


「これ以上闘うと、死ぬぞ!来年再来年なら、俺が改良してやれる!『ラグナロク』も『フェニックス』の先輩方に任せれば良い。それで十分じゃないか!」


 恭介が怒ったところを見るのは初めてだった。こんな表情、お前にできたんだな、恭介。穏やかな恭介のそんな表情を見たくはなかったよ。悪いな。


「……俺達が『ラグナロク』に出た以上、このチームは解散させられるんだよ。氷牙には間違いなく特待生へのスカウトがある。……このチームで闘えるのは、今年度が最後なんだよ」


「それより、大事なものがあるだろ……。俺は、俺達には、お前が必要なんだよ」


 恭介の声は重く、震えていた。俺の心は強く締め付けられた。勝ちたい気持ちと生きたい気持ちが背反する。


「……氷牙、お前だけと話がしたい」


 今まで沈黙を守っていた氷牙はコクリと頷く。


「わかった。皆、悪いけど下がってくれるか」


 俺が入る前にリーダーを担っていたのは、氷牙だ。これは氷牙じゃなければ、この話はできない。

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