冴え渡る大空 12/20
3年生1位のチーム『オールマイト』が俺達の今日の対戦相手。この学園の生徒会長、全道優が率いるチーム。その双璧を担うのは、天野陽慈と如月流。全道は7属性全ての使い手で、天野と如月は水魔法使い。水魔法を使う2人が全道の魔法切れを補いながら闘うというワントップスタイル。3人が揃われるとこちらとしてもかなり辛い。揃う前に足止めして、1人ずつ減らしていきたいというのが本心。しかし、3年生1位のチームだけあって、俺達よりキャリアは遥かに上。本気でやり合って勝てるかどうか。しかし、流れは俺達に来ている。あの『ダーク』に引き分けたのだから。
「ブレイヴ・ハーツを胸に」
俺の決まった掛け声と同時に試合が始まる。
開始直後、周りを見渡すと完全にバグとしか言いようがないような状況が起こる。
決闘のメンバーは両チーム合わせて6人。6人はランダムで配置されるのだが、ある一定の距離以上は離れた位置からスタートする。
しかし、今回は全てが妙だ。俺達のメンバーは全員揃った状態。更には、目の前に見える3人の影は、『オールマイト』の全メンバー。つまり、両チームが完全に揃った状態で試合がスタートしたということだ。
考えている暇なんてない!既に全道は攻撃モーションに入っている!
「防げ!皆!」
「雷魔法・全方位攻撃」
俺はこの技を経験したことがあった。それは『カロル・ポテンティア』の鳴上の技を決闘で直接目にしたからだった。しかし、威力がまるで違った。同じ技とは思えない程の精密さ、そして攻撃範囲。それだけでなく強度も違う。
「波魔法・電流操作」
しかし、俺の魔法は波魔法。電流は幸いにも操作することができる。
「なら、これはどうだ。
地魔法・創造×火魔法・七剣戟×風魔法・暴圧」
最早格が違う!ただでさえ種類の異なる魔法の掛け技は難易度が高い。3つの異なる魔法を使うことは、もう両手で字を書いているようなものだ。次元が違う!
大地は割れ、炎の剣が襲い、風で身動きを封じられる。なんとか風魔法を使う氷牙と火魔法を使う椿がいたから、この攻撃をギリギリで乗り切る。しかし、ダメージはなかなかに食らってしまった。
かなりまずい状況だ。
俺は全道の方を見る。全道の方向に広がっていたのは、地面が隆起し一面が焼き払われて、無情な熱風が吹き荒れる荒野。
俺は、全てを思い出す。俺が父から、そして妹から忌み嫌われている理由を、その真相を。
目の前に広がっていたのは、兄さんを目の前で亡くした研究所のようだった。全道は意図して、この情景を作ったのではないだろう。偶然、俺のトラウマを掘り起こしたのだ。
俺は声にならない声を上げる。叫ぶ。
「正義!どうしたんだ、いきなり叫んだりして!」
「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!怖いんだよ!」
『大空家の者が全てを台無しにしたのだ。責任は取ってもらうぞ』
『全てお前のせいだ。お前が何もかもを壊したんだ。もう勝手に行動しないでくれ』
今まで俺を拘束してきた手錠や足枷のような感覚が、この身に戻ってくる。
ああ、そうだ。俺は全てを台無しにしたんだ。兄さんの将来も、大空家の名誉も、そして家族の絆も。
俺が目立つと、何も良いことはない。
目の前がほぼ真っ白になる。頭が真っ白になる。
全道が攻撃モーションに移っていたのが薄っすらと見えたが、俺は何も考えられなくなっていた。
「椿!仕方がない!あれをやるぞ!」
「はい!」
「「合体技・嵐月宵鎌鼬!」」
椿の炎と氷の温度差を利用し、氷牙の風の威力を倍増させる合体技。だが、俺は思う。相手は全主属性の魔法を使える全道。そして、その魔法の威力を付加させる水魔法使い2人。絶対に勝てない。破壊力最強の雷魔法で、氷牙と椿の技は簡単に蹴散らされる。あまりの雷撃にフィールド一面がえぐられたり、隆起していたりした。
絶望の荒野。荒れ狂う電流。吹き荒れる熱風。沸き立つ黒い煙。
まるであの時の光景。思い出してしまったが最後、前に足を踏み出そうとしても、体が言うことを聞かない。足が竦む。震える。人間は恐怖には勝てないんだよ。あの時の記憶が俺の頭にフィードバックしてくるんだよ。俺が心の何処かで決闘へ参加するのを封殺していた。それが再び蘇ってきた。今度は無意識ではなく、意識的に。
暴発した機械。隆起する部品。火花を撒き散らしながら辺り一面が燃え盛る。幼かった俺はオアシスなき荒野を彷徨するように、ふらふらと逃げようとする。俺の心を蝕む不可能の文字。それは俺の胸を押しつぶし、足を止めた。そこに現れたのが、兄さんだった。もう顔もしっかりと覚えてない。ただ、今の俺の声と似ていた気がする。
逃げる力を失っていた俺は、兄さんに背負われた。そして兄さんは徐に出口を目指す。遠い遠い出口を。
出口に辿り着く頃、兄さんはもう立てなくなっていた。兄さんの顔を見ると、目は虚ろで、口は何かの力で閉まらないようにされているのかポカンと開いていた。そして、ブツブツと俺に向かって言っていた。
その表情が、俺のトラウマだった。死ぬ間際の兄さんの顔。それが今では脳に焼き付いている。今まで俺は忘れていた。兄さんの顔が浮かんで離れない。
もう、許してくれ。もう、嫌だ。
「正義!お前は俺を変えておいて、自分が変わらねえとはふざけんじゃねえぞ!」
氷牙は俺の服の襟をがっしりと掴む。俺はハッとする。氷牙が俺に対して怒っている。そのことが俺を暗闇から目覚めさせた。目の前にいるのは、兄さんではなく、いかつい銀髪の美男子。冷姫氷牙だ。
「正義!お前には、折れない心があんだろ!まだお前は真霧に勝ててねえんだよ!ここで翼が折られてどうする!お前はまだ変われるんだよ!お前が震えているのは武者震いからだ!」
真霧……ただの主観だけかもしれないが、俺の最高の仲間で最強の敵。あいつと闘うには、この決闘を、この総当たり戦を勝ち上がるしか他はない。
「キャプテン!駿河先輩と闘うんですよね!ここで負けたら、ダメなんです!私達には、キャプテンが必要なんです!」
駿河先輩……俺をここまで導いてくれた人物。彼女がいたからこそ、俺は空に手を伸ばせた。閉鎖された密室のドアを開き、この世界の輝きをくれた人物。彼女と互角に闘うには、ここで負けてなんかいられない。
俺が、折られてどうする。俺が立ち上がらなくてどうする。俺は仲間を信じている。仲間は俺を信じている。そして、ここまで同じ時を歩んできた仲間に優勝を捧げたい。
愚かだと思われてもいい。情けないと思われてもいい。ただ、俺は自分の信念を貫きたい。そのためにここまで這い上がってきたのだから。
「……ああ、俺についてこい。一寸たりとも、遅れるなよ。
獅子王ノ心臓」
俺は勇気を振り絞り、恐怖を手懐ける。俺の最大の恐怖は、恐怖を薙ぎ払う勇敢な心を持たなくなることだ。俺はもう立ち止まりたくない!仲間と共に歩んでいくって決めだんだ!
俺の心は、台風が去った後の7月の大空のように澄み渡る。
「そうこなくちゃなぁっ!」
「勿論です!」
自由自在、全身全霊、以心伝心。この三拍子がメンバー全員に揃わなければ完全に成し得ない、完全一致技。どの決闘動画を見ても、完成されたものは、ほとんど存在していない。だが、俺達ならできる。
目の前から全能が放つ魔法が飛んでくる。それを椿が氷で威力を弱め、俺のアイギスでガードする。そして、氷牙の追い風で俺達は加速する。川の流れのように滑らかな三位一体の動き。
ダイナミックな氷牙の動き。華麗で鮮やかな椿の動き。それを調和させるように俺は動く。今度は3人の見事な入れ替わり攻撃を炸裂に成功する。まるで3人の体が1つになり、竜巻のような攻撃を繰り広げている。そんな感覚だ。風になっている気分だ。
「まだだ!地魔法・森羅万象!」
「させねえよ。音魔法・猫騙し」
一瞬の間隙が生まれると俺は思ったが、全道は自身の舌を噛み、それを阻止する。
「それだけじゃない。光魔法・閃光×光魔法・新世界」
俺はこの電脳世界の景色を閃光状態で止める。敵は誰も目の前が見えない。目の前が真っ白になるという言葉を完全に表現しきった世界。
「氷牙!椿!」
もう俺は動けない。
「神羅八連撃・天地創造!」
「ルナ・エクリプス!」
2人の斬撃で砂埃が舞い、前が完全に見えなくなる。
全道、立つな。もう俺には気力は残っていない。
全道は、立っていた。
そんな……。俺達にもう闘う気力などない。氷牙と椿の表情もそう言っていた。
「……僕の負けだ、大空正義君。君達に僕達の思いを託した」
そう言って、全道をかたどっていたポリゴンが消える。
俺達が、勝ったんだ。
俺は、気が付くと、何かの中にいた。
あれ、俺は、何をしてたんだっけ。
目の前にいるのは、恭介、だよな。
俺に向かって笑顔で話しかけているが、何を言っているのかわからない。
救急車の音のように、どんどん静かになっていって、目の前が真っ暗になった。




