眠れた獅子 12/13
俺は黄金郷の中央祭壇に到着する。そして、俺が見たのは、ボロボロに成り果てた氷牙の姿だった。
「遅えぞ、キャプテン……勝てよ」
その言葉を言い放ち、真霧と相対していた氷牙はログアウトする。3試合フル出場だったよな。よく頑張ったよ、俺達のエースとして。
「ああ、待たせたな。氷牙に……真霧。
今日はお前を超えに来た。氷牙のためにも、お前に勝つ」
「君とは、きっとこの舞台で闘うだろうと思っていたよ。秦哉を乗り越えてやってくると。未だかつてないほど、心が躍っているよ。早速始めようか」
尋常ではない、身に纏われたオーラ。漆黒の威圧は、俺から戦意を削いでいるように感じられる。氷牙はこの化け物相手によく堂々と闘えていたな、と心の底から思う。だが、俺は気圧される心を振り払い、勇気を見せつける。いつだって俺は立ち向かってきたじゃないか。俺がどんなに弱者であろうと、強者に牙を向けてきた。今回の矛先は、学年トップであることに変わっただけ。全く何も違わない。俺には培った雑草魂がある。勇敢な心がある。
「真霧、準備は良いか?
獅子王ノ心臓!」
俺の眠れた技は、俺1人では成し得なかった。だからこそ、チーム名にちなんで名付けた俺の新技。俺の新技は、速水も紫ノ宮も真霧も超えられない別次元へ到達する!
「光魔法・新世界」
俺の魔法は、波魔法。あらゆる波を操ることができる魔法だ。
ーーそうなら、脳波もまた、波だ。脳波を操り、脳の働きを向上させる。シナプスの伝達速度が何倍にもなり、身体の速度も何倍かに加速する。
そして、その状態で初めて使用できるようになる、波魔法最大出力の大技『新世界』。これは、相手の虹彩に入る全ての光の流れを止めて、相手には世界が止まったように見せる。これは速水や紫ノ宮にも見せていない大技。
真霧は俺が立っている場所と全く違う場所に闇魔法を放つ。見えている世界が違うんだ。今なら勝てる!
光魔法を真霧の胴体に撃ち込む。
ーーしかし、ダメージはゼロとは言えないが、真霧はまだ立っている!
「今ので倒したはずじゃ!」
「敵がいきなり完全に静止したら、何か企んでいるとでも思うだろう。だから俺はバレないように闇でガードをしたまで。
今のは明らかに、光魔法を最大限に利用した技。光を止めた、というべきか。なら、俺もリミッターを解除して、その技の対策をしよう。
暗黒なる尊厳王」
ただでさえ常軌を逸した凄みを放っていた真霧が、更に圧力を増す。まるで巨大台風の風をまともに浴びているような程、気圧される。なんなんだ。こいつは人間か?悪魔、神の領域に達しているのではないかと錯覚させられる。
そして、真霧は闇の球体に身を隠す。そこそこ大きなスフィアで、そこそこ魔法力を消耗する魔法だろう。
「何のつもりだ」
「君のその技の攻略法さ。君も早く撃たなきゃ、その技のタイムリミットが来るぞ」
……この技の弱点が完全にバレている。確かに魔法力の上限が跳ね上がっているが、大技を連発できるわけがない。更には、闇に真霧が包まれたことで、虹彩に直接届く光を止められない。撃たなきゃ負ける。
「光魔法・七剣戟!!」
「深淵の終焉」
俺は真霧の背後を狙い、七剣戟を撃ち込む。
俺はこの技を撃ち込んでやっと理解した。この闇は防壁ではなく、光魔法攻撃探知機だということを。光魔法が飛んできた方向を、超強化された闇魔法を一点集中で放つことで相殺する。これが、俺の『新世界』を攻略する方法か……。真霧は一点集中することによって、闇魔法が苦手な光魔法を攻略することができる上に、省エネで済むという一石二鳥の戦略。
このまま七剣戟を撃ち込み続けても、意味がない。
最後の賭けだ。
「乖離せよ、『双龍円月』」
「君がそのつもりなら、俺も次で決めよう」
大空流最後の技は、千本桜。それは俺の兄さんが生み出した最後の技だった。俺も、氷牙のように兄弟の背中をどこかで見ていたのかもしれない。だが、俺の千本桜ら千本桜を超える。
何故なら、俺の剣は2つに乖離するからだ。俺の千本桜は2倍の威力を誇る。
「大空流奥義・双龍千本桜!!」
桜花、八重桜、桜花連斬、千本桜。この全ての大空流を合成した技。それが『双龍千本桜』。
光を纏った双龍円月は、光魔法探知機の闇の幕を一瞬で木っ端微塵に斬り刻む。
「業魔の奈落」
超至近距離でぶつかり合う大技。
ーー闇を、斬り裂け!俺の剣!!!
俺は気付くと、BCPの中にいた。……試合だ。試合はどうなったんだ。勝ったのか、負けたのか。記憶がない。
「氷牙、皆!試合はどうなった!」
チームメンバーは全員、俺の入っていたBCPの前で立っていた。俺はBCPから出ると、足がぐらつき、まともに立たなかった。すると、氷牙が俺を支えてくれた。
「正義、お前はよく頑張ったよ」
氷牙の顔は清々しい表情だった。
「……負けた、のか?」
「引き分けだよ」
……引き分け。
「全く同時にHPがゼロになって、試合終了だった。あの1位の真霧を倒したんだよ」
「そうさ。今回は俺の負けを認めるよ」
俺の前に真霧が立っていた。俺が、真霧を倒した……?嘘だろ。嬉しい。何よりも嬉しい。
「……でも、俺はお前に勝っちゃいない。
真霧、俺と再戦してくれ。『ラグナロク』決勝で」
「……本当に君は君らしいな。勿論だ。君のような人と闘えることを誇りに思うよ」
そう言って、俺と真霧は握手を交わした。
1年生第1位『ダーククルセイダーズ』VS同第6位『ブレイヴ・ハーツ』
勝者も敗者も無く、異例の引き分け。キャプテン同士がこの試合の決着を『ラグナロク』に託し、『エルドラード』は幕を閉じた。




