好敵手との決戦前夜 12/12
機械のトラブルで『エルドラード』決勝と3位決定戦がやや延期になり、金曜日に3位決定戦が行われ、明日に決勝が行われる予定だ。この遅延にNOAHが関連しなければ良いが、その可能性も無くはないだろう。
そして、最悪の事態に陥った。つい数時間前、『ラグナロク』の対戦表が公開された。『ラグナロク』は1年生、2年生、3年生、特待生がそれぞれ3チーム選出される。そこから3グループに分かれて総当たり戦をして、最も成績が良かったチームが決勝に選出されるという仕組みなのだが……何よりも悪いことに俺達が対決する特待生チームは『フェニックス』。つまりNOAH破壊計画を共に実行する駿河先輩や聖先輩のチーム。仲間同士で潰し合いをしなければならないという艱難。俺の心は曇っていた。更に俺の心を砕くのは、『ラグナロク』の試合が急ピッチで行われるということ。一番早い試合では今週末から行われると聞いた。俺達は来週月曜からだが、心の準備をしておかなければならないだろう。
気晴らしに校内を歩いて、寮の自室に戻ると、超が付くほど珍しく同室に住まう紫ノ宮がいた。普段はどこにいるのか知らないが。
「久々だな、お前が部屋にいるのを見るのは」
「……幽霊でも見るかのような目をするな。俺は人間だ。俺だって、寒い日くらい部屋で寝たいさ」
確かに今日は鳥肌立った毛穴の中が凍るぐらい寒いけど、それよりもいつもこいつはどこで寝ているんだよ……。野宿でもしているかのような言い方だな。
「ま、紫ノ宮が部屋に居て寝転んでる姿以外、ほぼ見たことないけどな」
「心外だな。俺はナマケモノではなく人間だ。さっきから幽霊だったりナマケモノだったり、人外扱いは良い加減にしてくれ。
それにしても、お前達のチームはなかなか調子良いみたいだな。賄賂でもしてるのか?」
紫ノ宮はジョークを飛ばしているのだろうが、真顔で言っているため、冗談なのか本気なのかわからない。
「してないよ。まあそれは褒め言葉として受け取っておくよ」
「頑張ろうな」
「お、おう?」
頑張ろうなってどういうことだ?
まあいいや。今から電話掛けたいんだった。
「部屋で電話しようと思ったが、お前がいるしちょっと外出てくるわ」
「彼女か?」
紫ノ宮は口角を上げて笑う。まるで悪魔のような笑みだ。
「違えよ、家族にだ」
「あー、嫁か。結婚してたんだな」
「してない」
キリがないので、俺はその言葉を放って部屋のドアを閉めた。そしてデバイスの電話モードを起動し、小型マイクを口元に浮遊させる。電話が瞬時に繋がる。浮遊マイクに俺は話し掛ける。
「……もしもし、父さん」
『……ああ、正義か。お前から掛けて来るなんて、珍しいな』
「明日さ、いよいよ『エルドラード』決勝なんだ。知っているかもしれないけど、これは学校でも主要な大会で、その決勝まで来たんだ。ただ、それだけを伝えたくて……」
俺と親父の仲はあまり良くない。親父は俺に対して、冷たい言葉を浴びせるからだ。だが、少しでも親父ニヤリ喜んで欲しいと思って電話した次第だ。俺は父親の言葉を期待していなかった。また恥をかかせるなと言われるものだと覚悟していた。
『そうか。……お前も成長してるんだな。決勝頑張れよ。勝ってこい』
親父はそうとだけ言って、電話を切る。驚いた俺は電話が繋がっていないにも関わらず、返事をする。
「……はい」
いつもずっと冷たく体裁ばかりを気にする父親なりの優しさだったのだろう。少し心臓辺りが温かくなった。




