勇気と永遠の訣別 10/31
氷牙の希望で、再びチームルームで話し合いをすることになる。恭介はどこか疲労を隠せない顔立ちをしている。目にクマがあったり、少し頰がこけていたりして、少し心配になる。先生も相当気に掛けている問題だったようで、氷牙からの伝言を伝達すると駆けつけてくれた。
「俺達は、ラグナロク決勝でNOAHの全てを実体化して、それを叩く。
だが、それには氷牙。お前の了承が無くてはできない。俺はキャプテンだ。聖先輩にも教えられたよ。チームが最大のポテンシャルで闘えないような作戦を立てられないなら、キャプテンじゃないと。お前がいなければ、勝てない」
「まだ俺の夢を気にするのか、正義」
「あぁ、そうだ。皆は一人の為に、だ」
氷牙は沈黙に陥る。それも仕方がない。彼自身、人生最大の決断に迫られているのだ。自分の夢を優先するか、誰かの幸せを優先するか。俺が氷牙の立場なら、気が気がじゃない。彼はよく頑張ったよ。俺は、どちらを選んでも何も言わない。
そして、氷牙がゆっくりと口を開く。
「正義、NOAHを破壊しよう。もう俺のことは気にするな。迷惑を掛けたな。今日、爽乃と話をして、そう決意したんだ」
「氷牙……」
お前の顔は、決断した表情をしてないんだよ。なんで、そんな辛そうにしてるんだよ。なんでそんな悲しそうな目をしているんだよ。
「……良いんだな、氷牙。お前はそれを決断をしてしまえば、二度と霙と闘うことができないぞ。私はな、氷牙がそれを決めればいいと思っている。人は最後には、自分の欲望に素直になればいい。世界がどうなろうとも、氷牙の知ったことではないからな。自分の未来は自分で決めるべきだ」
「俺はさ、決断したんだよ、先生。……諦めるのも勇気だったら、諦めることも、勇気じゃないのか?俺は少なくともそう考えるんだ。
俺達のチーム名は『ブレイヴ・ハーツ』だ。この勇気を捨てることは、このチームを侮辱することだ。このチームは、何よりも俺の誇りだ。
夢は、叶えたら壊るんだよ。俺の姉貴が生きた証は、今となってはもうほとんど残ってないんだよ。なら、俺の心に、俺が姉貴に憧れていたという夢を残しても良いんじゃないかと思うんだ。
……なぁ、正義。俺は間違っているか?」
俺は答えられなかった。答えなんてない。氷牙がお姉さんと闘う道を選べば、それは正解だ。また、決断した通りにしても、それも然り。間違いと正解が存在しないこの問いかけに、俺はまた黙り込む他に方法はなかった。
「俺の永遠の訣別だよ。俺は、姉貴に縋るのをやめる。これから存在するのは、未来だ。断じて過去じゃない。現在生きている者が、未来を諦めてどうするんだ。きっと姉貴も同じことを言うに違いない。だから、俺は、俺は!勇気を選んだ。俺達の未来を選んだよ。姉貴が俺達に託した未来を、俺は掴む」
お前はどうなんだと尋ねているような表情を氷牙は浮かべる。澄み渡った青空のような顔で。お前にも、そんな顔ができたんだな。
「うん、わかったよ。氷牙、勇敢なる魂、確と受け取った。NOAHを、破壊しよう」
そう言うと、チーム全員が頷いた。そして、俺は思い出す。
「先生、トリックオアトリート」
「あのなぁ、正義。空気というものがあるだろう……」
「「「「トリックオアトリート」」」」
残りの4人も俺の流れに乗る。
「ここはアメリカじゃないんだぞ……。仕方ないな。ココアシガレットで許せ」
俺達は少し嫌な顔をする。ココアシガレットなんざで我慢できるかという象徴だ(別にココアシガレットのことを嫌いという訳ではないが)。
「よしっ、悪戯決行だ!」
氷牙の言葉を起爆剤に、チームルームで俺達は大騒ぎをする。今まで包み込んでいた暗鬱なベールを振り払うように、俺達は笑った。
霙さん、氷牙達が作った『ブレイヴ・ハーツ』は、とても良いチームになりましたよ。だから、絶対このチームで優勝してみせます!




