氷牙と爽乃 10/31
「ねぇ、氷牙。いつまでそうしてるの?」
今日も授業で氷牙の姿を見かけなかったから、心配になって休憩中にチームルームに向かう。すると、氷牙がベットで寝そべっていた。私はできるだけ優しく声を掛ける。
「さあなあ。俺、どうすれば良いかわかんねえんだ。ずっと計画に反対することがが正解なのかを考えてきた。でも、わかんねえよ。俺には世界がどうとか、全くわからない」
これだけ迷っている氷牙を初めて見た。言語を知らない国の路傍に迷い込んだ少年のように怯えている。他人を信用しない、昔の氷牙の目と同じだ。こんな時、霙さんならどうしたのだろう。
「コーラでも、飲む?」
「今はいらない」
氷牙がいつも好んで飲んでいるコーラでさえ拒む。
私はこれ以上どうしようもなくなる。氷牙に授業を受けろとは言いたくもない。
私は氷牙が寝転ぶベットに腰掛ける。氷牙は視線を少しこちらに向ける。
「……あの時の姉貴みたいなことするんだな。少しだけ気に食わない」
「ごめん」
「いや、良いんだ」
少し、氷牙が笑ったような気がした。今は顔を背けていて、顔を見ることができない。
「なぁ、爽乃。俺はどうすれば良い?」
彼の人生でも、これが一番の究極の決断だろう。それを私に委ねられても。本心で聞いてはないだろうが、私もどちらが正解なのかはわからない。
「……私にもわからない。私に氷牙の未来を決める権利はないから……。
でもね、氷牙がその決断をして、心の底から深く傷付いたら、その傷を私も受け止める。氷牙を守ることはできなくても、共に歩むことはできるだろうから。
私はね、夏休みの時、氷牙が親とはぐれた子どもを助けたのを見て、正直安心したの。安心したって言い方は変だけど、温かい気持ちになった。寡黙だけど、やっぱり人を思いやれる人なんだって。
根拠は無いけどね、氷牙はきっと正しい決断をすると思える。だって、霙さんがお姉さんなんだもの。氷牙なら、きっとできる。いや、絶対できるよ!」
「……本当に姉貴みたいなことを言うんだな。なんか、今日の爽乃は変だな。
悪い、今まで暴走していた。やっと正常運転の冷姫氷牙に戻れた。
俺は、未来を守らなくちゃあならないんだよな」
氷牙の声は震えていた。
ゆっくりの布団から起き上がった彼の背中は、どことなく脆かった。これ以上私が話せば、精神が崩れそうなくらいボロボロに見えた。そう理解しつつも、私の口は自然と開いた。
「迷えるだけ迷えば良いんだよ」
そう言うと、氷牙は是非を付けがたい顔付きをした。嬉しいようで悲しいような、心配そうで信頼しているような、そんな顔付きだった。
「なんつーか、その。なんて言えば良いんだ?ありがとな、爽乃」
感謝の意を述べるのが苦手な氷牙が照れ臭そうにそう言う。私は頰が緩くなって、自然と笑みが浮かぶ。
「うん。じゃあ授業、行こっか。また正義君に迷惑掛けちゃう」
「……そうだな」




