回想・繋がりのない姉弟 ?/??
ある日突然、霙は私に相談のようなものをしてきた。
「先生、実は氷牙は私と血の繋がりは無いんです。まあ、見た目でわかっていたでしょうけど」
白い肌に染めてもいないのに白い髪、瞳孔のみが黒い目。姉と比べても大違いだ。
「それとなくは勘付いてはいたよ。でもどうして今そんな話を?」
「氷牙は、内戦が起こっている地域で見つかった孤児なんです。彼はアルビノという病気を患って生まれました。それもアルビノを持った人に対して、差別を行う国で。彼の両親は、彼を守るために殺されてしまった。内戦中だったこともあって、彼は暴行を受けて生死を彷徨っている中、偶然その場に居合わせた私の父に助け出されたんです。
色々紆余曲折があって、氷牙をうちで引き取って育てたんです」
「……大変な過去だな」
アルビノ……先天的色素欠乏症。そういう症状があるのは知っていて、氷牙ももしかするとと考えてはいたが、まさかそういう壮大な過去があったとは思いもしなかった。
「そうなんです。彼は誰にも心を許さなくて、ご飯もろくに食べなくて、ますます危険な状態に陥っていたんです。
私も何をすれば良いのかわからなくて、ある夜からずっと側にいたんです。最初はずっと睨まれてたんですけど、いつからか私の肩にもたれて寝るようになってたんです。あの子らしいですけど」
霙は柔和な笑顔を浮かべる。この笑顔の奥には底知れぬ苦悩があったのだろう。この血の繋がりのない姉弟は切っても切れない絆というものが存在するんだな。
「だから彼に何かあったら、助けてあげて欲しいんです」
この言葉がずっと脳内から消えない。特に霙がいなくなってしまった今は。
私は一体どうすれば良いんだ。霙の願いを成就するか、氷牙を守るか。
姉貴は俺を助けた。血の繋がりもない、何の脈絡もない俺を。心も体も汚れきったこの俺を助けたんだ。
ある夜から、執拗に俺の側にいた。俺は人の事が嫌いだった。信じられる人なんて到底いるわけもない。俺を見る度に暴行を振るう人間が大嫌いだった。なのに、彼女はずっと黙って側にいた。最初は拒絶反応が起こって睨みつけていた。いつからか、彼女なら信じても良いのではないかと思った。この人は決して人を裏切らない人だって、そう確信した。
彼女との生活に慣れ始めたある日、彼女は今まで塞いでいた口を開いた。話しても言語が違うというのに。
「私は君を守るよ」
そして、そっと痩せ細った俺を包み込んだ。俺はその当時、日本語は全く知らなかった。だが、何故か涙が止まらなかった。こんな腐りきった俺の目から、こんなに流れ出してくると思っていなかった。言葉の意味がわからなかったのに、心の奥底では理解していた。
それからというもの、俺は日本語を勉強し血の繋がりのない姉貴の背中を追いかけた。徐々に姉貴と会話できるようになってきたことが何よりも嬉しかった。
そして、姉貴といつかVRで闘ってみたいと言うと、これ以上ないほど喜んでくれた。
これが何も持たない俺が唯一手にした夢。失いかけていた夢を取り戻したのに。
俺は一体どうすれば良いんだ。未来を取るか夢を取るか。
いや、それ以上に俺が決行すると言ってしまい、それで姉貴のように殺される奴が出てしまったらと思うと吐き気を催してしまう。俺が真の家族を失い、更に何かを失うとなると、恐怖を感じる。俺はどうすればいいんだ、姉貴。




