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BRAVE HEARTS  作者: 刹那翼
第2章 Road to El Dorado
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「ラグナロク出場は手堅いんだ。今のうち作戦を練っておこう」


 いつものように氷牙が取り仕切るが、チームルームは暗鬱な空気に潰されそうだ。まるで重力がいつもの何倍もあるようだ。


「昨日負けた『フォーチュン』や無敗の『ダーク』はきっと穴があるはず。正義はどうすれば勝てると思う」


「……俺、このままじゃ勝てないと思う。今のままじゃ、ラグナロク出場なんて、夢のまた夢だ」


 俺は嘘偽りなく返事をした。すると、俯いていた皆が一斉に顔を上げて俺を見る。皆もわかってるんだろ、現実を。


「正義、お前いい加減にしろよ!負けてからなんなんだよ、その態度!うじうじしやがって!見ててウゼェんだよ!」


「なんだよ、うるせぇな!俺にだって考えてることはあるんだよ!少しは黙ってろ!」


「俺はお前のチームメイトだ。チームとしての連携を乱す、お前の行動を咎める権利を持ち合わせている!」


「チームメイトだからって、一から十まで命令されなきゃならないのは理解ならないね!」


「じゃあ、お前のお好きにどうぞでチームとして成り立つと思ってんのか!」


「だから嫌でもこの部屋に来てるんじゃねえのかよ!」


「ああ、わかったよ!お前のしたいことなんて知ったこっちゃねぇ!好きにしやがれ!」


「ああ、好きにさせてもらいますとも!」


「二人共良い加減にしろよ!少しは頭を冷やせ!」


 最も温和な性格である恭介が怒号を上げた。ああ、俺はキャプテン失格なんだ。誰一人として、メンバーと向き合えていなかったんだ。性格は理解していても、それ以上のことは理解できていなかった。チーム名でもあるハートを俺は理解できていなかったんだ。


「……恭介、爽乃、椿、悪かったな。俺、ちょっと出て行くわ」


「ちょっと、正義君!」


 爽乃、今回ばかりは止めないでくれ。俺はキャプテン失格なんだよ。頭を冷やすどころか、俺の全てを変えなければならない。




 ……はぁ、俺なんで部屋出てきたんだろ。俺の帰る場所なんて、他にないのに。真霧や斎藤は同盟を組んだとは言えども、今は完全な敵同士だし、訪れるわけもいかない。

 俺だって、氷牙の言いたいことはしっかり理解している。俺は俺なりの正しいとすることを言って、あいつはあいつの正しいとすることを言っていた。両方間違ってはいないと思う。だが、価値観のズレがこの喧騒を生んだのだ。今回ばかりは俺も冷静になれなかった。心にゆとりをどうしても持てない。一番気の合うメンバーは氷牙だ。俺だってそれは理解している。多分氷牙だからこそ、俺の気持ちを理解して欲しかった。いや、理解はされている。されているが、あいつもあいつなりに苦しんでいる。苦しんでいるからこそ、キャプテンである俺の姿が見ていられなかったんだろう。

 ……俺はどうしたらいいんだよ。


「どうしたの、こんなところで」


 俺は不意に誰かから話しかけられる。学園の屋上は基本貸切だ。だから俺は迷った時は来るようにしている。なのに、今日は客が来たみたいだ。俺はお暇するか。


「いや、何でも…………って駿河先輩!?」


「やあ、久し振りだね。最近頑張っているみたいだね!

 ……そんな浮かない顔してどうしたの」


 秋の終わりが近づいてきたこの季節。長袖になった制服で手が萌え袖というやつになっていて、より可愛らしく見える。

 だが、褒める気分にもなれない。


「俺、氷牙と、いやチームと喧嘩したんですよね。それで部屋を出てきてしまって……」


「……私が察するに、昨日の闘い、かな?」


 流石、女性の勘。やはり駿河先輩は侮れない。


「その通りです。氷牙は、相性が悪いから負けたんだとポジティブなんですが、どうも俺にはそうは思えなくて」


「そっかそっか。

 私の意見を言うと、両方正しいんだよ。冷姫君の、相性が悪いというのも、実に的を射ているし、君の相性が悪いだけじゃないというのもその通りなんだよ。

 冷姫君の言うように、『フォーチュン』と『君達』がぶつかったら、正直なところ勝者の予想は半々。流れを掴み取った方の勝利。でも、前の試合は違ったよね。それは流れを急ぎ過ぎたの。流れを取ったけど、無理に攻めたせいで、『君達』にボロが出た。

 ……そうだなぁ。正義君、ちょっと私に付いて来てくれない?きっと今の君に役立つから」


「今の俺に行くところなんかないですよ。ハハハ……はぁ」


「何言っているの、正義君。貴方には、私がいるじゃない。いつでもおいでよ」


 俺の鼓動が高鳴り始めた。そして、締め付ける。たった1つの笑顔が、俺の中の全てを変えた。俺は1人じゃない。付き合ってもないのに、その言葉は駄目ですよ、という言葉を胸に残す。


「そう、ですよね。わかりました。先輩に付いていきます」


「よし、決まり!」


 そう言って、先輩は指をパチンと鳴らす。



 俺が連れて行かれたのは、10席や特待生が闘っている特別棟。

 フィールドは、『ラグナロク』でも使われる異常気象が多い。特待生はこのフィールドをいつも経験している分、有利な展開をする。

 俺はこの場に居ても良いのだろうか。今の俺達じゃ、『ラグナロク』なんてきっと届かない世界だ。一目見ただけで、俺が入れば確実に負けそうな凄まじい剣戟が起こっている。これを見せて何に。


「君はここで闘っても無理だと思うかもしれない。でもそれは想像だけ。確かに実力も大事だよ。でもね、最後に勝負を決めるのは、仲間なんだよ。君だけじゃないのよ、『ブレイヴ・ハーツ』は」


 駿河先輩は簡単なことを言っていた。でも今の俺には、明確な正答だった。仲間と足並み揃えて進んできたつもりでも、ずっと自分だけが成長しようとしていた。


「わかったみたいね、良かった」


 駿河先輩はニコリと笑う。俺は感謝を述べ、視線をモニターに戻す。


「あれ?君は見かけない顔だな。こんなところで部外者が観戦していいと思っているの?

 そして、3席の駿河さんじゃないか。もしかして彼氏かな?これは学園のスキャンダルじゃないか?」


 試合を眺める俺の目の前に立ち、話し掛けてきたのは、第1席の城ヶ峰。学園を日本一に導いた立役者であると共に、学園の孤高の一匹。負けることを知らない人物。それ故か、10席の中で最も性格の悪い人物だという黒い噂が立っている。


「学園のスキャンダルって、私をなんだと思っているの?私は有名人じゃない」


「負け犬の遠吠えってやつだな。で、お前は誰だ?」


「先輩が負け犬……?その言葉を訂正しろ、下衆が!」


 俺は反射的に城ヶ峰の制服の襟を力強く掴む。城ヶ峰はすぐさま俺の手を裏拳で退ける。


「へぇ、俺にそんなことして良いと思っているんだ。俺を誰だか知ってるの?」


「そんなことはどうでもいい。強いから偉いなんて理屈はねえんだよ。

 なんなら、俺がお前を1席から引きずり下ろしてやる!」


 我ながら盛大な宣戦布告をしたと思う。怒りの余り、口走ってしまった。


「無名のお前が?笑わせるな。

 まあ、せいぜい楽しみにしておくよ」


 背中をこちらに見せ、左手を挙げてクールに去る。行動を見ているだけでイライラする野郎だ。


「ありがとね、大空君。格好良かったよ」


「そ、そんなことないですよ。人として当然のしたまでですよ」


「君がしたのは、勇気ある行動だよ。普通なら権力に屈して、怖気付く。今のが例え蟷螂とうろうの斧だとしても、私はその行動に敬意を表する」


「……ありがとうございます」


 そう言われると、嬉しい。俺は、俺を救ってくれた、尊敬する先輩を馬鹿にされたことが許せなかった。だからこそ、反抗した。それが無駄であったとしても、認めてくれる人がいるんだ。


「さ、もう私の出番は終わり。君が話すべきなのは、彼」


 駿河先輩は、俺の後ろを指差す。そこにいたのは、氷牙だった。


「道行く人に聞いたんだ。お前がどこに行ったか。あの後、恭介や爽乃、椿にこっ酷く怒られてさ。お前を追いかけるように言われた。……悪かった。

 それに、お前が性格が捻じ曲がった野郎に果し状をぶちまけてくれてスッキリしたよ。俺達はもう少し前に進まなければな。もう少しか弱いキャプテンのワガママに付き合うよ」


「氷牙……。俺の方こそ、勝手な事してごめん。

 なんつーか、その、勝とうぜ。確かに俺達は完敗だった。だが、次闘った時何が起ころうとも『フォーチュン』にも『ダーク』にも勝てるような実力を付けよう。俺達ならできるさ」


「ああ!」

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