雷炎を纏う劔 10/7
「今日の決闘は、『カロル・ポテンティア』だ。来週の『エルドラード』選出前決闘から最後の2試合となる重要な試合だ。今は『エルドラード』圏内だが、勝って兜の緒を締めよ、だ。気を引き締めて行こう」
今日は一段とメンバーがピリピリとしている。特に試合前にいつも一言述べる氷牙はギスギスしている。集中している良い雰囲気とも取れるが、緊張し過ぎているような気もする。
対して『カロル・ポテンティア』はいつものように温和な雰囲気を醸し出している。彼らのリーダーである熱海領の素質なのだろう。一人一人は決して強いとは言えないチーム。だが、団結力は1年随一。俺達の順位が5位に上がったからといって、現在6位に位置している彼らを侮ることはできない。
「良い試合をしような、大空君」
「あ、ああ。よろしく」
熱海に握手を迫られて、俺は少し圧倒される。気持ちに余裕がない証拠だろう。そんな俺に対して、氷牙が俺に落ち着けと言っているかのような冷たい目線を配る。わかってるよ、そんなこと。
全員の準備が整い、電脳空間へ入る。
今回の地形は、ステーション、駅だ。どこの駅がモデルになっているのかは定かではないが、乗り場が10近くあるので、都会の駅と推定される。駅には、地下にも通路が張り巡らされている。3階構造で、乗り場は2階で地下にはデパートのようなものがある。ちなみに、駅の構内からは出られないようになっている。構内から逃げ出したら、そもそも試合にならないからだろうが。
『カロル・ポテンティア』を訳すと、熱エネルギーを表す。このチームのメンバーは、熱エネルギーを象徴している。熱海は火属性魔法使い。そして、鳴上来夢は雷属性。乾謙也は地属性。地下に居座れば、鳴上が照明を破壊して暗闇を作るという最悪の状況になる。俺の光魔法は光が注がれていないところでは、効力を全く発揮しないからだ。
だが、俺の初期位置は生憎の地下。こちらのスターティングメンバーは氷牙と椿。地下を照らすことができる火属性持ちの椿と合流したいところだ。そして一刻も早く地下を抜け出したい。が、相手には地面を操る乾がいる。地上に上がったとしても、穴を作られて下の階層に落とされる可能性も考えられる。それなら、これ以上落とされる心配がない地下(最下層に高さ1メートル以上の穴は作れない)で泥沼の闘いを繰り広げるべきなのだろうか。
「皆、今何階にいる?こっちは地下だ」
『私は2階です』
『俺は1階だ』
嗚呼、天は我を見放せり。……あ、元からか。毎度毎度、最悪の状況下に置かれたものだ。最下位、退学……ナニソレ?
「じゃあ、二人共地下に来てくれないか。氷牙は椿を護衛しながらで」
『『ラジャー』』
地下への経路は2つ。どちらから敵が来て、どちらから味方が来るかは全くわからない。
上で爆音が鳴り響く。接触しているのか。風魔法の氷牙は、格上相手ではない限り時間稼ぎ中に戦闘不能になることはない。氷牙の格上は、1年生では特待生か真霧のみ。だからこそ、俺はあいつに絶対的に信頼している。
「待たせたな、正義。任務完了だ。熱海と乾との戦闘はあったが、なんとか守り通したぞ」
「いつものことながら、グッジョブだ」
「氷牙さん、ありがとうございました。かっこよかったですよ!」
「そりゃどーも」
椿の言う通り、氷牙には感謝以外ない。彼が居なければ、より緊張感の増した闘いになる。氷牙がいるからこそ比較的楽な決闘ができるというものだ。
「ま、俺を褒めてる場合じゃねえ。来るぞ」
周りの全ての照明が明滅し始める。地下だけあって明かりが消えると、暗黒に包まれる。これは電気を操る雷属性の魔法。得意とする能力は、破壊。雷属性は暴れ馬のように扱いにくいが、優れた騎手が手綱を持つと一騎当千の力を持つと言っても過言ではない。敵の雷属性使いは、鳴上ただ一人。今、俺達が相対している鳴上も侮ることができない者だ。
「雷魔法・全範囲雷撃!」
四方八方に存在する電球が、火花と共に爆散する。雷魔法の不気味な青い閃光が辺りを照らす。
「みんな!俺の後ろに来い!乖離せよ、『双龍円月』!」
俺は片手剣であった『双龍円月』を二刀流にして、避雷針にする。この剣には魔法吸収性能がある。余程の大技ではない限り最強の攻撃力を誇る雷魔法であっても、破れない。
「俺の攻撃を耐えたな?乾、エレベーターだ!」
しまった、罠に嵌められた。今の攻撃は俺を誘き寄せるためだったのだと瞬時に気付くが、今更だ。地面が隆起して、俺は上に押し上げられる。天井と地面でプレスするのかと思ったが、どうやらそうでもない。天井に穴が空いて、隆起した地面が檻のように俺を閉じ込めて、本当にエレベーターのようになっている。完全に俺を潰しに来たな。
今思えば、俺の戦略は全て俺の場所を相手に暴露していたようなもの。司令塔を潰しにかかる作戦にとっては、甘い蜜だったのだ。
「氷牙、椿、そっちは頼んだ。俺は熱海をぶちのめしてくる」
『ああ、勿論だ。お前がぶちのめさなかったら、承知しねえぞ』
『はい、わかりました。こちらのことは気にせず、思う存分闘ってください!』
仲間は俺を信じてくれている。俺は仲間の信頼という責任から逃げない。
「随分大人しいんだね。この状況を作ったのは、君と一対一で闘ってみたかったからなんだ。君が本物なのかを」
檻の向こう側には、プロミネンスのような逆巻く焔を準備している熱海が立っていた。かなりの距離があるというのに、熱い。灼熱の地獄だ。
「熱海クラスの強さを誇る人からオファーがかかるなんてとても嬉しいよ。でも、早速始めよう」
「ハンデがある状態で申し訳ないが、こちらから行かせてもらう!
火魔法・業火一閃!」
陽炎が槍のように鋭い刃と化し、こちらに向かってくる。
檻に閉じ込めて、俺を焼き尽くそうなんて、まだ早い。恭介に頼んで『双龍円月』の粗を直してもらい、この剣は新たな能力を持って転生したんだ。ーー2つの魔法を吸収できるという能力を。
手にビリビリと振動が伝わる。両方の剣でガードしているのに、この威力。強い。だが、俺も負けるわけにはいかない。剣を中心に炎と雷が唸る。
雷炎を纏う剣。侵食と破壊の超攻撃特化を有する。俺は左の剣でガードのモーションをする。
「その構えは、桜花か!炎のシールドで守ればいい!」
「さぁ、今度はこっちのターンだ。
大空流参ノ型・桜花連斬!」
いつもはガードしてからカウンターの流れだった『桜花』。それを応用した攻撃特化型の技。『桜花』だと見積もってガードに入った敵へぶつける、謂わば後出しの必殺技。逆に攻撃モーションに移れば、『桜花』のカウンターの餌食になる。俺の攻撃パターンを十分満足いくものに変えた技でもある。
右足で踏み込み、左手をスナップさせて一撃。その直後、もう片方の剣で横薙ぎ。最後に無理矢理体を回転させて2連続のスラッシュを入れる4連撃。
その連斬は、炎の盾を粉々に破壊し尽くし、熱海の胴を切り裂いた。
「トドメだ。光魔法・七剣戟」
「俺も負けない!火魔法・七剣戟!」
剣がぶつかり合い、爆風が巻き起こる。これだ!
「音魔法・増音!」
爆風による爆音の音量を更に増大させる。俺は同時に爆風の中に走り込む。その中に立つのがやっとの熱海を発見する。俺は彼の懐に潜り込み、二刀流で突きを放つ。
「……見事だ。君は本物だよ」
「ありがとう、熱海」
ちょっとした会話を終えた瞬間、熱海を形作っていたポリゴンが飛散する。その数十秒後、時間制限による決闘終了の合図が起こる。
俺達のチームは一人たりとも欠けることなく、勝利を手にした。




