本当の強さ 9/17
『それぞれのクラスや部活動が、個々の最高の出店や発表を用意してきたはず。今年もそれを大いに楽しみましょう!では、今年の魔装祭を開催することをここに宣言します!』
全生徒に大いに歓声を巻き上げたのは、3年で首席でも生徒会長でもある全道優だ。ちなみに特待生は生徒会長になれないという規定がある。その理由は、この学園を完全に牛耳ることを防ぐためだとか。
1年生は展示発表で、特に教室に居残る必要はなかった。しかし、俺は特に誰とも店を巡る予定はない。氷牙はそういう柄じゃないと言って拒否。椿はクラスの人から宣伝隊長に任命されたとかで1年生としては珍しく仕事で忙しい(椿のルックスがあればそうなる運命だろう)。恭介と爽乃は、別の友人と約束しているらしい。二人共、中学の同級生を呼んだらしいから、その中に飛びいるのも気が引けるから遠慮。駿河先輩を誘うのも良いが、あのネットワークの広さからして諦めざるを得ないだろう。一人でぶらぶらするしか他はないみたいだ。
俺は適当に歩き回った挙句、行き着いたのは美術室。壁や机の上に、作品が色々飾られている。ここなら誰にも邪魔されずに、時間を潰せそうだ。人も比較的少ない。しかし人の中には、未だに大きなイーゼルに立て掛けた紙と向かい合っている人もいた。
「君、僕の絵に興味があるのかい?」
その人の、絵を描いている姿を2、3分見ていると、急にその人から話しかけられる。長々と見ているとそりゃあ視線が気になるか。申し訳ない。
「絵というか、描き方が凄く。素早く豪快に描いていると思ったら、とても繊細で美しい絵なので」
よく見たら、この人女性か?髪はショートボブで顔立ちも凛々しい。それに僕と言っているから、全く気付かなかった。
「僕も君に興味あるよ。決闘で活躍しているね」
初めて目の前の人が手を止め、こっちを向いた。目はぱっちりと開いていて、まつ毛が長い。確信を持った。やはり女性だ。
「俺なんかのことを?」
「うん、有名だよ。駿河先輩から色々話は聞いているからね。あの人の自慢の弟子が凄くないわけがない、でしょ?」
駿河先輩と知り合いなのか。流石と言っていいほどの駿河ネットワーク。2年の駿河先輩が、先輩という立場なら、俺と同級生か。
「自慢の弟子だなんて、とんでもない。元最下位の俺が、弟子を名乗っていいのかどうか」
「自分に自信がなさそうな少年が、決闘では闘志に満ちた眼差しを、ねえ。君のこともいつか描けると良いな」
「俺のことを描く?どういうこと?」
「うん。あ、言ってなかったか。私の名前は、紫苑蓬。君と同じ1年生さ。よろしくね」
今、彼女は何て言った。紫苑蓬だって?その名は、1年生で10席の紫苑蓬。こんなところで会えるとは。だから駿河先輩とも親しいのか。戦場で描く戦慄と快楽が共鳴する絵画。彼女が決闘中に絵を描くという異常性は際立っている。
「どんな魔法も絵に表せば、全てを模倣できる恐ろしい能力を持つ。10席のメンバーの情報は嫌でも目に入ってきます。特に期待の星は」
「でも、顔という情報は知らないんだね」
俺は思わず苦笑いを浮かべる。しかし相手は明るく微笑んでいるようだった。起こって無いようで安心した。
「折角の文化祭だし、僕のところだけでなく他のところも行ってみなよ。君と話せて良かったよ」
「こちらこそ」
良い暇つぶしにもなったし、
部活動発表会のところに私はいた。
ピンと張り詰めた空気。まるで、今披露している弓道部の生徒が持つ、弓の弦のように。彼は流水のような滑らかな動きで弓を引く。
緊張を一瞬で解く弓矢の空気を切る音がする。的を貫く音が耳をつんざく。それと同時にワッと歓声が上がる。
「3本連続で中ったぞ……!」
「流石、第6席の檜皮狩矢。VRでも弓の名手なだけあるぞ!」
彼の演技が終わったというのに、周りの人の興奮が冷めない。
あの人が、学園第6席。そして、この学園の中で最強の狙撃手。私だけでは絶対に勝てない。しかし、いつか一度でも手合わせしてみたい。あの急所を超遠距離で狙い撃つ冷酷非道な一撃は、この学園誰一人として真似できない代物。学園第1席の城ヶ峰をサポートするだけはある。羨ましい限りだ。
『えー、私の発表を見る生徒は、危ないので危険を考慮した上で見てくださいねー』
スピーカーから女性の注意喚起が聞こえる。俺が気になったのは、科学部の発表。運動部でもないのに、科学部は運動場で発表を行うようだ。
『ナトリウムとカリウムを混ぜた物質でやりたかったのですが、先生から止められたので、ナトリウムだけでやりたいと思いまーす!
ナトリウムを水に入れるとどうなるでしょーか!お答えください!
うん、皆が遠すぎて全く聞こえないや!なので、実際に試してみましょー!』
彼女はナトリウムと思われる握り拳一つ分の塊を水の中に、投げ入れる。すると、特撮作品並みの爆発が起き、場が騒然とする。ざわざわしているにも関わらず、すぐに彼女は発表を再開する。
『盛大に爆発しましたね〜。
水素よりもナトリウムはイオン化傾向が強いので、ナトリウムが陽イオンになって、ナトリウムと酸素が結合して、余った水素が発生する。そして、水素が酸素と結合してドッカーン!っていう感じ!わかったかな?
結構高校のテストでも出るし、覚えておくのがオススメ!以上科学部の発表でした!』
発表を終えると、あっさりと彼女は退場する。豪快で迅速な発表をしたが、VRではその真逆。地味でじわじわと甚振る戦闘スタイルを持つ、第9席の朽葉忍。
「君も見てたのか、真霧聖司君。科学部の1人として、そして整備士の1人として、いつか君の魔法の正体を見破りたいものだよ」
「出来るものなら」
俺の魔法は世間へ公表しておらず、闇魔法を使えるのは、現時点で俺だけ。整備士でもあるこの人は、気になって当然というものだろう。
しかし、相手は2年生で、特待生であるのに、いつか死闘を交えそうな予感がする。嫌な人に目を付けられたものだ。
「氷牙、なんでそんなカリカリしてるんだ?」
屋上へ足へ運ぶと、氷牙がイライラしていた。俺を見るなり、睨みつけられた。
「ここで寝てたのに、急に爆発音が聞こえて目が覚めた。安眠すら出来ねー」
「いや、文化祭だし、寝ないのが前提じゃないのか?」
「それはマジョリティだろ。近所の人だっているんだ。マイノリティの気持ちも少しは考えてほしいこった」
まあ確かに、と少し納得してしまうが、氷牙は明らかにおかしいと心の底から思った。
「腹は減ってないから、料理部が作ってるロコモコ丼の半券やるよ」
「え、良いのか?」
「俺の気が変わらないうちに貰っとけ」
「なら、ありがたくもらっておくよ」
この学園の生徒は、人数が多いため、集めた材料を破棄するのを防ぐために、前売りの半券で買う人の人数を把握してから当日の材料を確保するということを、半券販売の後日知った俺は、コンビニ弁当で昼食を済ませようと思っていた。持つべきものは友達だと実感したような気がした。氷牙はかなり素っ気ないが。
「半券くださ、あ、大空君!」
学園中を彷徨い歩いた末に、料理部の運営するテントにようやく辿り着いた。
氷牙から貰った半券を、料理部の人に手渡そうとした途端、その人に俺の名を呼ばれる。
「え、駿河先輩?料理部だったんですか?」
「そうなの。半券貰うねー。ロコモコ丼ね。ちょっと待ってね」
当番は駿河先輩だけで、先輩がロコモコ丼を作りにテントの奥へ歩いて行った。
「お腹空いたでしょ?もう3時だよ?」
左手に付けている時計を見ると、確かに時計の針は3時を指し示していた。お昼時を過ぎた屋台に人が少ないのは、当たり前か。
「クラスの店と近いのかなって思って、本館辺りの看板を見ても、料理部の看板が無くて……。まさか別棟4階の家庭科室だなんて。学園の広さを改めて思い知りました」
駿河先輩はにこにこと笑う。制服の上にエプロンを着ているので、何故か新鮮な気分。
「文化祭で迷うだなんて、大空君らしいね。文化祭前の集会の時に貰ったプリントを見れば良かったのに」
駿河先輩に言われて、その存在を忘れていたことに気付く。俺は苦笑いしか出来なくなった。すると、先輩がテントの奥から戻ってきた。
「はい、ロコモコ丼どうぞ。
そう言えば、先週の試合見に行ったよ。これでラグナロク圏内の7位に入ったね。まだ安心していられないけど、頑張ってね!」
駿河先輩の手からロコモコ丼を受け取る。そして、その後の言葉に俺は固まる。
「先輩は、どうやって強くなったんですか?」
「私がどうやって強くなったか、か。
私のチームのリーダーを見て、いつもそう思うんだけど、本当に強い人なんていないんだと思う。どれだけ仲間を信頼して、どれだけ息を合わせるか。個人戦では、個人の強さが大事だけど、チーム戦の強さとは別。チーム戦の強さはそういうことだと思うよ。
椿ちゃんはね、自分の意見を出したがらない子なの。君と一緒でね。でも、そんな君がいるから、私は『ブレイヴ・ハーツ』に入るように推薦したの。君が仲間のために勝ちたいって思えるような人だから。君は他人を信頼できる人だと思ったから。
だからきっと、私は強くなると思った。あの試合を見て。
ごめんね、求めたことと違う答えだと思う」
仲間を信頼することが、強さ。
「先輩は、俺がもっと強くなれると?」
「勿論。君には、仲間がいるからね」
俺は強くなることができる。俺の師匠でもある先輩にそう言われると、泣きそうな程嬉しくなる。
「ありがとう、ございます」
俺は引き分けて、新聞部に『ブレイヴ・ハーツ』が勝ってきたのはまぐれだと言われ、凹んでいた。
だが、今日出会った10席の2人に勇気付けられた最高の1日となった。




