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BRAVE HEARTS  作者: 刹那翼
第1章 動き出す運命
3/88

下剋上と独壇場 6/20

 冷姫氷牙、大鎌の使い手。彼の大きな鎌から放たれる風魔法によって、竜巻や衝撃波などを生み出し、攻撃したり、相手の動きを阻害する事を得意とする。

 鳳爽乃、狙撃銃の使い手。目に装備している特殊なコンタクトによって、風速や距離などを計算し、射撃成功確率を見抜く魔法に特化している。

 そしてこの俺、大空正義。基本装備は片手剣。音を操る魔法を使う。闘いでの使い道?それは聞かないでくれ。


 どうやら冷姫と誰かが接触したようだ。

 自らワックスで整えたのか、爆発したのか、寝癖なのかわからない髪型。速水流星しかいない。彼は、流れ星のような魔法を使う事を得意とする、学年でも有名な男。整備担当の目から見て、あれは火と光の合成魔法と俺は推測している。

 ふむ。速水対冷姫。なかなかの見ものだ。

 速水の魔法のスピードはかなり速いが、どうやら冷姫の風によって、綺麗に逸らされている。体ど真ん中に入りそうなものは、冷姫の優れた身体能力を活かして、鎌を使った軽業で避けたり、風魔法をまとった鎌で打ち落したりしていた。まもなく軍配は、冷姫に上がろうとしている。

 しかし、冷姫の後ろから新たな刺客。黒いオーラのような影に包まれた、俺が今まで見たものの中でも、とりわけ禍々(まがまが)しい本性は、まさか……。

 俺は冷姫に走り寄って知らせるが、流石最下位なだけあって、ずっこけながらになる。俺、ダッセー。


「冷姫、後ろだ!」


 俺の声が届いたのか、ギリギリで学年トップの、闇を刃物状にした攻撃を体を捻って避ける。

 坂を転がるおにぎりを模倣するかのように転ぶ俺とは正反対だなぁ、と心から思う。

 しかし注目すべき点はそこじゃない。

 真霧聖司、闇魔法の使い手。闇によって、どんな物でも構築・破壊するというチート能力の使い手。流石、学年第1位だと言える。もしかすると、それは特待生をも凌ぐ実力で、学園内の10本の指の中に入る日も遠くはないと謳われている。更には、容姿は端麗で、黒色の髪に白いメッシュがアクセントを加えている。性格も良いらしく、全ての男子が嫉妬心を抱くと言っても良い。


「おい、流星。君は他二人相手って約束していただろ」


「あはは。ごめんごめん。じゃあ、ここはよっろしく〜」


 俺はこの瞬間、戦闘を繰り広げていた場所と比較的近い位置で傍観していた事、冷姫に呼びかける際、通信手段を用いなかった事を悔やんだ。速水に俺の場所がバレたのだ。俺はふらふらしながら、ゆっくりと立ち上がる。

 本当に現実とは微妙に違うこの空間には、じわじわと押し寄せてくる気持ち悪さがある。人間の様相に似すぎているロボットと同じような感覚だ。それを感じない人が大半なのだが、俺のように感じる人も少なくないらしい。俺も皆の感覚を受け入れることができたらなぁ……。

 言い訳がましいことを考えている暇はない。どうする。俺には、音を使う魔法しかない。そうだ、倒すのは、鳳に頼めば良いのではないか。俺は速水を引き付けるだけで良い。

 小型マイクをふんしたトランシーバーを使い、鳳と連絡を取り合う。


「鳳さん、君がいる場所から速水は狙撃出来るかい?」


『ギリギリ射程範囲内だけど、彼の動きが速すぎて狙いが定まらない』


 それで良い。奴を倒すには、条件的に充分だ。


「じゃあ、俺は速水相手に、一瞬だけ、時間を作る。それを狙って狙撃してくれ」


 その無謀な賭けに、鳳は少し驚きつつも了承してくれた。


『……信じて、いいのね?』


「きっと、大丈夫さ。任せてよ」


 チャンスは本当に一瞬だけだ。速水は火と光の魔法を錬成し始める、その一瞬を狙うしかない。

 速水の攻撃の仕方は、一つ、のはず。魔法を生成した右腕を前に出すモーション、それたった一つだけだ。そうすれば、流星の如き攻撃が飛んでくる。

 つまり腕を上げた時、つまりモーションに移った瞬間が勝負なのだ。それこそが、走るという動作を停止する時であり、周りに集中を切らしている時なのだ。

 速水が全力疾走で向かってくる。速水は走りながら、右手を前で止めた。俺は速度が緩んだその瞬間を見逃さなかった。密かに仕込んでおいた魔法を解放する。前のめりになった俺はまた転ぶ。俺、超ダッセー。


ーーザザッーー


「おい、速水!待て!止まるんだ!」


「何だ、秦哉!?……いや、あり得ない!あいつは速水なんて呼ばない!」


 本当に一瞬だけだった。速水は完全に、静止、混乱した。

 そう、先程出した音は、俺が、相手の主将の真霧の声を『真似た』魔法だ。速水は正しい行動を起こした。それ故の失態。

 誰もリーダーの指示には逆らえない。避けられない命令を利用した一試合一度限りの戦略ストラテジー


『ナイス!大空君!』


 鳳が放った、ライフルからの眉間への会心の一撃で、悔しそうな顔をした速水は一発退場となる。刹那の静止は、生死を分ける一発を撃ち込むには、十分過ぎる時間だった。


「君は一体何をしたんだ……?」


 真霧の視線がこちらを向く。冷姫は闇で構築された掌で押さえ付けられて、動けそうにない。鳳も銃で応戦しているが、薄いカーテンのような闇のガードによって、その弾丸も無にす。これで俺も退場か。俺にしては十分に仕事はしただろ。俺はまたゆっくりと立つ。


「ちょっとした弱者の足掻き(げこくじょう)さ。それ以外何でもないよ」


 そう言い放って、俺も真霧からの闇の一撃で退場させられた。その魔法を見て、圧倒的な力の差を思い知る。ブラックホールに吸い込まれていくように、ゆっくりと時間が経っていくような気がした。



 気が付くと、既に戦いは終わっていた。


「完敗だね、冷姫君。俺がこんなので、本当に申し訳ないよ」


 結果は、真霧の独壇場。呆気ない幕切れだったようだ。速水以外は倒せず、それで終い。あの冷姫でさえ、全く歯が立たなかったようだ。『ダーククルセイダーズ』の最後の一人は、いつものことながら動きすらしてないらしい。何がしたいんだか。まあ、影が薄すぎて誰か知らないんだが。

 俺の言葉に冷姫と鳳が、きょとんとした顔を見せる。


「……完敗じゃない。お前、いや俺達は一人倒した。しかも、あの速水を」


 冷姫がボソッと呟く。


「お前……名前は大空って言ったか」


「そうだけど、何?」


「俺達のチーム『ブレイヴ・ハーツ』に入らねえか?バトルメンバーとして。整備士兼任でもいい」


「……へ?」


 俺は冷姫の言葉が信じられなかった。


「勿論、無理にとは言わねえ。考えてくれ」


 そう言って、冷姫達は立ち去った。


「君、面白いね。君に興味が湧いてきたよ。僕達のチーム『ダーククルセイダーズ』の一員にするのも良いけど、是非もう一度、成長した君と戦いたいよ。

 良ければ、君の名前を教えてくれないか?」


 真霧がそう言って、歩み寄ってくる。


「……俺は、大空。大空正義」


「へぇ、正義君か。覚えておくよ」


 そう言って、真霧達も立ち去っていった。速水には睨まれたが。あと一人の顔は見えなかった。本当に正体が知りたいものだ。

 その後に、各チーム主将と握手を終えた駿河が歩み寄ってくる。


「学年最下位が自分の得手を活かして、主席のチームの一人を倒す、か。

 私も君の事、気に入った。大空正義君。

 ……私、決めた」


「決めたって、何をですか」


「私が、君をこの学校の祭典、『エルドラード』に連れて行く」


 特待生を除いた各学年の1位のチームを決める、三大バトルイベントの一つ、それがエルドラード。参加チーム数は、学年で8チーム。そこから1対1のトーナメント形式で、各学年の優勝から3位決定戦勝者までが、学園最高峰のバトルイベント、『ラグナロク』に参加する権利を得ることが出来る。そこには、今まで影を潜めてきた特待生も3チームが参戦し、学園1位のチームを決める。


「いや、絶対無理ですって!」


「大丈夫、私が誰だかわかってる?」


 俺は学園第3席の言葉に対して、ぐうの音も出なかった。



 この勝負こそが、俺のこれからの運命を変えたのだった。

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