逆境は好機 8/17
結局、今日も何の収穫も無し。他の人はそんな様子すら全くない。冷姫は教えている立場だが、2対1の戦い方に手応えを感じている。鳳は速水と射撃の腕を磨いている。雪ノ下も斎藤とパワータイプ相手の剣術を磨いているようだ。なのに、俺は……。懐かしい劣等感。
「真霧、本当に俺はこのままで良いのか?」
「大空君、焦るな。結果に急ぐ気持ちもわかる。でも今は先急ぐ時ではない。
君にとってのパワーアップへの最短の道のりは、自分を知ること。君が闘うべきなのは、自分だ。自分の殻を脱いでいないんだ。
君は、今高い壁に相対している、限界という名のね。限界というのはね、君の現在の実力を満足できなくなったんだ。逆に言えば、羽化の時なんだ。君は進化できる時が来たんだ。逆境は好機だ。その壁を乗り越えるのは、君自身だ。他人が手を差し伸べたところで、何の手助けにもならない。これを乗り越えられれば、君は強くなる。俺が保証する」
全くその通りだ。まるで俺が犯罪者で、その犯罪の手掛かりを全て紡ぎ合わせて論破された気分だ。何も言えなくなる。真霧の晴れ渡った笑顔を見ると尚更だ。
「何もしないのも、時間の無駄だね。とりあえず、今日は攻撃回避だけ特訓しようか」
俺は真霧の考えに従った。しかし、それと同時に、脳裏に闇の魔法を受ける恐怖を思い出した。死ぬ気で頑張るしか他はない。
練習後誰とも話すことなく、俺は自分の寮室に戻る。何故こうしたかは自分にもわからない。ただ体が勝手に動いた。きっと仲間に顔向けできない不甲斐なさを無意識的に感じたのだ。
……あれ、俺って電気消し忘れてたっけ。部屋の電気が付いている。そういや、鍵も開いていたような。
「あー、大空。おかえり」
明かりが灯った部屋の中には、寝癖が未だに立っている男が寝転んでいた。
「紫ノ宮!?なんでお前がいるんだ?」
「……お前さ、俺のことを幽霊みたいに扱うなよ。お前と同じ部屋だろ。居て何が悪い。
俺だって、夏休みは暇じゃねえんだ。リーダーから召集掛かったしな。普段は何しても良いと言われてるんだが、やれやれ今回は団体行動を乱すなだとさ」
「え、お前みたいな協調性ない奴がチームに入っていたのか……。ほえー、世の中恐ろしいな」
「口悪いぞ。お前はどうなんだよ。上手くいっていない。仲間に置いて行かれてるって顔してるぞ」
紫ノ宮秦哉。怠け者で何を考えているのかさっぱり。そして、妙に鋭いところも怖い。こう見えても、なかなかVRでは好成績を残している。しかしチームに入ったら、活躍すること間違いなしなのに、どうして噂が立たないのだろうか。こいつに質問しても良い返答は返ってこないのが目に見える。そっと疑問は胸にしまう。
「まあな。俺の魔法の正体が未だわからない。音魔法と思っていたんだが、どうも音を使った瞬間に俺の周囲が歪むらしい。機嫌が悪いのかな?」
「ふむ、俺と似たような気分屋だな」
紫ノ宮の不意なジョークに笑ってしまう。あまり会話をしたことがない(会話をしようとしてもこいつが部屋にいない)ため、ジョークを言う人物だとは思っていなかった。意外に面白い奴なんだな。
「そうだな、お前みたいにじゃじゃ馬だ。俺の魔法は機嫌が良い時と悪い時の差が激しいようだな。波があるといった方が正しいか?
……待てよ?」
「どうした?」
どうでもいい、といった様子で寝転びながら話していた紫ノ宮だったが、姿勢を正しくする。
「紫ノ宮、ありがとう。今何か欲しいものあるか?何か買ってきてやるよ」
紫ノ宮が怪訝な表情を浮かべる。
「どうした、お前の魔法のお茶目な性格がお前にも移ったか?」
「どうやら、そうらしい」
「なら、気を付けて。欲しいものは時間だ。売ってなければ何もいらない」
また、気怠げに紫ノ宮が寝転ぶ。パンダみたいに。太ってはないが。
ーーさぁ、反撃開始だ。逆境は、好機だ。




