優等生と落第生 6/20
ーー俺はこの学園内で、最弱だったーー
現代、未だに淀みなく加速し続けるバーチャル・リアリティ技術。この世界から25年前、バーチャル空間に人間の体が入り込む事も可能になり、それから13年後、その技術の進歩によりバーチャル空間の新時代の幕が上がり、特別な効果を付与する事まで出来るようになった。
ーーそれは魔法。バーチャル空間内で擬似的に魔法を使えるようになったのだ。
その電脳世界での戦いは、人を肉体的に傷付けずに済む。それにより、全国でプロやアマチュアのゲーマーだけでなく、多くのスポーツプレイヤーまでも巻き込んで行った。それだけでなく、賭博や動画再生などによるネットマネーを大きく循環させる結果に繋がった。
これは、魔装学園というトップクラスのVR技術を誇る学園生活での、数々の魔法の闘いの物語。
『生徒No.00013216
大空 正義
VRスポーツ実技テスト総合結果
456位/456人中
総合判定F 体力E- 速さE- 魔法力F』
「……はぁ、また最下位かぁ」
携帯端末の画面に映るのは、虚しい結果。この学校は、全国トップクラスのVRスポーツクラブを持つ学校、私立魔装学園高等学校。
魔装学園では、VR実技は必須科目となっている。この俺、大空正義は魔装高校出身というステータスの為に受験し、ギリギリ回し合格の権利を得て、今に至る。
それは良いものの、毎月ある実技結果はこれだ。見ていて嫌になる。
魔装学園では、VRスポーツだけでなく、VR技術、つまりは電脳世界の整備やデータ構築を専門としている。俺はこちらを専攻しているのだが、 こちらと定期テストなどの筆記試験の成績はまずまずなので、なんとか生きて来られた。
生きて来られた、というのも、全ての成績を加味して、各学年で毎月最下位の者から三名ずつ退学になる。つまり、卒業までに約90名(春休み、夏休み、冬休みの間は例外で退学なし)が退学となる。先生からは、このままじゃお前、卒業出来ないぞと告げられたほどだ。
だが、俺の将来にはVRスポーツ実技など必要ないのだ。魔装学園に入った、という事だけでも誇れる事で、何かに就職出来る手立てとしてもその名は使える。そう思って割り切っていた。
「大空、今日、真霧と冷姫の決闘があるってよ!行こうぜ」
真霧聖司、特待生を除く1年生首位。冷姫氷牙、同じく1年生第2位。学年の中でもトップクラスの彼らは、俺の手の届かない存在。
「おう、そうだな。行こう」
携帯端末の電源を切り、友人の元へ走る。自分の技術を磨くためにも、学年トップの試合を見るべきだと思い、決闘を見る事が出来る巨大スクリーンのあるVRリクリエーションルームに向かう。ここに、バーチャル空間に潜る事が出来る機械、ブレイン・コントロール・ポッドが兼ね揃えられている。この縦2メートル、横60センチ、高さ1メートル20センチぐらいの箱状の物体の中に入り、頭に円形のデバイスを装着する事で、夢の電脳世界に入る事が出来るのだ。
「ったく、なんで居ねえんだよ……」
「今日体調不良なんだって。寮で寝込んでるんだってさ」
「なんでこんな日に限って……」
試合会場のVRレクリエーションルームは騒ついていた。
どうやら、冷姫のチームメイトが休みらしい。それで試合が始まらないだとか。
「決闘と言っても、成績は関係無い模擬戦なんだし、誰でも良いよね?」
この場を取り仕切っている、少し赤色がかった髪のお淑やかそうな女性は、何処かしらで見たことがある。しかし、妙に嫌な予感がする。
「君!試合に出て!」
呼ばれたのは、嫌な予感通り、俺。嘘だろ、嘘だと言ってくれ。嘘だと言ってくれよ、マイゴッドアンドゴッデス……。
…………神頼みは意味が無いと悟ったので、なんとか恥をかくのを避けるため、なんとかして相手を説得する。
「いや、俺、実技最下位っすよ!貴女が出たらどうですか?」
「私?私は絶対なる皇帝第3席、駿河雀。学園序列は第3位ってとこね。
特待生はまだしも、学園四天王のうちの一人が模擬戦に入って良いなら、そうするけど」
この学園には、大きく分けて二つの分類が存在する。まず俺が属する聖王騎士団。これは一般生のみのクラスとなる。そしてアブソリュート・エンペラー。これはそれぞれ、1学年60人から成る特待生の集団。特待生は退学させられる危険性は全くないが、彼らの間での競争が激しい。一般生には、遠く及ばない存在。学園のスター的な存在と言っても過言では無い。
「え、あの、その、握手して下さい!」
「良いよー」
学園第3席の女性は、とても綺麗な優しそうな人だった。特待生の全学年合わせて、180人は、決闘の受託、管理などをしているが、四天王が出てくるなんて滅多にない。きっと1年生トップ2人の争いだからだ。
「さ、握手したし、出てね?」
し、しまった。握手をした事で、断れなくなった。軽い気持ちで握手しなければ良かったと、今更後悔する。
「……あんたが俺のチームに臨時で入るのか」
不良っぽい銀髪男子に睨まれる。こわっ。蛇に睨まれるネズミの気分だ。
「えーと、まずは自己紹介か。1年セイクリッド・ナイツ整備部門所属、大空正義。臨時でチームの一員となる事になったんだけど……まぁ、よろしく」
「整備部門なのに、ごめんね。私の名前は鳳爽乃。よろしく」
髪の毛をお下げ括りにしている柔和な女子、鳳は学年10位以内に入る射撃の腕前を持つ。ライフルを持つと敵無しという噂が立っている程だ。
「俺は、冷姫氷牙だ。足手纏いになるなよ、大空」
左の前髪をピンで留めている、やや長髪で銀髪の美少年は、やはり冷姫。なんて冷たい奴なんだ。冷奴とでも陰で呼んでやろうか。
「じゃあ皆、持ち場に着いて」
VR空間に入る為の『BCP』の中に入る。そして、そこに示される8桁の生徒番号をキーボードに打ち込めば、VR世界に入ることを許可される。俺の場合、No.00013216。その生徒番号には、普段使用している魔法データなどが保存してあり、打ち込む事で、いつもVRでの決闘で使用する、プレイヤーアカウントが利用出来る。俺のは、基本いじってないからしょぼいけど。
VR空間に入ると、既に戦いまでの60秒カウントダウン(チームでお互いの1人目が入ってから、カウントダウンが始まる)が始まって、残り43秒を示していた。どうやら、俺が最後にVR空間にログインしたようだ。ランダムで選ばれる地形。今回のフィールドは比較的狭い森林フィールド。木と木の間が狭く、鳳が苦手そうな地形となっている。
「揃ったな。じゃあ、今回の作戦だ。俺が前衛、鳳が俺の援護。……大空は何が得意なんだ」
「いや、俺全く得意な事ないよ」
「なら、ひとまず動くな。良いな?」
それの方が気楽だ。俺は頷く。
「さぁ、配置につけ」