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序章

恋愛要素は薄いです。ファンタジーと恋愛と迷いに迷い、なんとなく王道な少女漫画ちっくな展開かもしれないと思ったので、恋愛ジャンルにいたしました。

 立派な、しかしそれでいてどこか威厳を漂わせる洋館が、そこにはあった。

 日本の北海道のある場所。古く、だがとても大きい洋館である。

 その洋館の周りには民家は等は見当たらず、灯りも人通りもない平地だ。

 だが、民家がない代わりに、青々と生い茂った木々が立ち並んでいた。

 しかし今の時刻は、丁度夜の十時を回った所。青々としている木々もあったものではない。

 洋館の一部屋の窓が、黄色く光っている。

 その灯りが、洋館をそこの一室だけしか使っていないという事を物語っていた。

 そして、灯りが照らす部屋の中には、若い青年の風貌をした男性が二名と、まだ幼さがどこか顔に残っている女性が一名、小さいテーブルにトランプをしながらも、重い空気の中で話し込んでいた。


     ○


 二人の男性は、お互い対照的で、一人が黒い短髪を四方八方に尖らせており、もう一人は金色に光る髪の毛を無造作に伸ばしている。

 黒髪の男は、顔は整った顔立ちをしているが、今はその顔を怒気で歪ませ、そして、その表情に似合わしく、怒りの声をあげた。


「俺は、ぜってーヤだからな!」


 そう怒鳴りながらトランプが散りばめられているテーブルを叩く。

 その言葉に頷き、同意の声を上げたのは、この三名の中で最も綺麗な顔立ちをしている金髪の男性だった。


「私も同意だ」


 今にも怒鳴り散らしそうな衝動を抑えて、金髪の男性は、憤慨している。

 そんな二人の様子に困り果てた顔をするのは、美しい顔をした、これもまた金塊の色をした長髪の大人しそうな女性だ。

 二名の凄まじい程の怒気を一心に受けながらも、さも毛先程も気にしていない様子で淡々と説教の様な説得の言葉を目の前の男性二名に投げかける。


「しかし、オルガ、ジェス、我々に残された選択肢は、もうそれしかありません」


 唯一一人、穏やかに男性達に対応する女性。二人とは、打って変わって冷静な態度をとっている所を見ると、三人の中では一番のまとめ役なのだろう。

 男性二人は、そのまま押し黙ってしまう。


「……どうしても、一族をまとめる気にはなりませんか?」


 ため息をつきながら、女性は二人に問い掛けた。

 オルガと呼ばれた黒髪の青年がそれに返す。


「ならねーよ!なら、テメーが一族仕切ればいいじゃねぇか!めんどくせー」


 肩肘をテーブルにつき、悪態をつく。

 一方、ジェスと呼ばれた金髪の青年の方は、腕を組み、金髪の女性に向かって自分の提案を告げる。


「オルガの言う通りだ、エルジュが一族を仕切ってくれ。私は一族を仕切っていける程の器は持っていない」


 エルジュと呼ばれた金髪の女性は、二度目のため息を思いっきり吐き出すと、ぽつぽつと、説明を呟きの様な形で始めた。


「私では駄目なのです。私の血は、人間との血が混じっていて……、皆との力が違うのです」


 悲しげな影を落として、美しい顔を伏せる。

 その表情を見て、オルガとジェスが罰の悪そうな顔をした。


「たとえエルジュの力が弱くても、エルジュにはその頭脳がある。私がいなくても、十分に一族をまとめあげてくれるだろう……」


 ジェスの身勝手とも取れる言葉に、エルジュは泣きそうな顔でジェスを怒鳴りつけた。


「なんで分かってくれないのです!皆はオルガとジェスに期待を持っているのですよ!?なのに……、何で分かってくれないのですか!二人とも勝手です!!」


 その発言に今度はオルガがエルジュを怒鳴りつける。


「勝手なのはテメーだろうが!本人達が嫌だって言ってんだろ!」


 二人が言い合いをしている間で、ジェスは頭を痛ませながら、どこから取り出したのか、高級そうなラベルの付いたワインを飲んでいた。

 ワインボトルをテーブルの上に置き、これもまたいつの間に注いだのか、きっちりとワイングラスの中で赤黒い液体が規則正しく揺れている。


「おい!ジェスも何、呑気にワインなんか飲んでんだ!お前も何か言え!」


 オルガがもの凄い眼光でジェスを睨みつける。

 しかしジェスはその視線をものともしないで、こう答えた。


「私は、姿を眩ます探さないでくれ」


 ハッキリと、それでいて透き通る声で、とんでもない事を二人に告げた。脱走宣言だ。


「「ええええええぇぇぇええ!?」」


 二人が絶叫をあげたと同時にジェスの姿が煙の様に消え、跡形もなくいなくなてしまった。

 いち早く我に返ったオルガが怒濤の叫び声を出す。


「あああああのぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ……っ…やろおぉぉッ…!!抜け駆けしやがって!俺もっ!!」


「風よ!檻の繋ぎ目となれ!」


 ジェスに続き、脱走を試みようとしていたオルガに気付いたエルジュは、オルガが姿を消そうとするよりも早く、それに対処した。

 エルジュが手先が光り、その光で線を作り魔法陣を描く。そして呪文を唱えると、その魔法陣の中から強い突風が飛び出した。


「おわっ!?」


 風がオルガの周りを囲み、逃げる隙を与えずにそのまま風は細い鉄柱となる。そしてそれは檻という形になった。

 風の檻が、オルガを閉じめたのだ。

 風で出来ている檻は強度が強く、なかなかに抜け出す事は出来ない。


「ちっくしょぉっ…!卑怯だぞ!!」


 不覚にも捕らえられてしまった事に怒りを感じ、風の中からオルガが大きい声を出して抗議する。

 現在進行形で暴れているオルガに冷静な目を向けながら、エルジュは軽い嘆息をし、


「卑怯もなにもありません、貴方にまで逃げられてしまったら、私が皆に怒られてしまいますので」


 ギャアギャアと喚くオルガにそう告げると、部屋の一角にある窓から夜空を見上げた。


 ……日本の都会で見る星より、やっぱり北の方が星が一段を輝いて見えるわ。


 そんな事を頭の隅で思いながらエルジュは、ジェスをどうやって探そうかと思案していた。

 そんな最中。後ろでは相変わらずオルガが騒ぎながら、檻の中で暴れ回っていたのであった。


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