三話
三話
親友の死から一日が過ぎた。たった今葬式が終わった所である。恭介は空を見上げていた。 結局秀二の死は事故死ということで片付けられた。だがその事故の原因や詳細は告げられて
いない。恭介の叔父が言うには恭介の両親の時もこんな感じだったらしい。秀二の両親は原 因究明を求めてなどいないし、皆納得していた。一部の人間を除いて。その大きな原因は秀 二が倒れていた場所だ。誰もが立ち入りを禁じられている場所、南側の山。そこに秀二は倒 れていた。立ち入り禁止の理由はよく知らないがあそこには悪霊等がよく出ると言われてい る。だから皆、事故死などとは思っていなかった。秀二がいつ山に入ったかは分からない。 だが、この数日の間雨は降っていない。土砂崩れが起きる可能性はまずない。考えれるのは 木の上から転落して亡くなったということだが、秀二は木登りは苦手だった。わざわざ進ん で木を登ったとは思えない。もし、木に登る必要があったのなら話は別だが。葬儀場にいる ほとんどの者が悪霊に憑かれたのだと囁いていた。
「・・秀二が・・あんな場所に行ったとはな・・」
「信じられないな・・俺は」
恭介の隣にいつのまにか青年が立っていた。恭介と秀二の共通の友達である、小谷正平。か なりの変わり者として知られている。その理由は集落の長の一族でありながら掟に批判的な 人間だからだ。そのためか、長からはかなり嫌われているらしい。血の繋がった家族であり ながら毎日口論ばかり。正平の口癖は俺の家族は掟に縛られている古い腐った人間だよであ る。
「・・残された時間は少ない・・ってことか・・」
「え?」
思わず聞き返してしまう。とても意味深な発言であった。だが正平はとぼけた顔をしている
「お前も気をつけろよ、恭介」
そう言って葬儀場を後にする。今の言葉は何を示していたのだろうか。
『・・一つ忠告するわ。・・次に犠牲になるのは彼よ』
「冗談は止めろ。・・秀二みたいなことがまた・・起こるなんて・・」
『・・言ってたでしょ、彼。残された時間は少ないって』
恭介はばかばかしいと思った。秀二の偶然だ。また同じようなことがもう一度起こるなんて 信じたくはない。正平も消されるというのか。一体誰が何のために。そんなことは起こるは ずはないと思いながらも不安になってきた。正平だって狙われる理由はある。それに正平自 身さきほどの発言は危機を感じているからなのではないだろうか。
「どうすればいい?・・どうすれば・・助けれるんだ?」
『彼が南側の山に入るのを止めることね。それが一番良い方法よ』
南側の山。声はそこでまた何かが起こるという。それを止めるためにはあの山に入る前に正 平を止めるしかない。この日の夜恭介は南側と集落との境目にいた。正平を止めるためにで ある。今日かどうかは分からないが、今日では無いとも言いきれない。時刻は午後十一頃ほ とんどの者が寝静まった頃一つの人影が動いていた。ゆっくりと南側の山へ向け歩いていく
「待て、正平」
動きが止まった。恭介は懐中電灯で人影の方を照らす。そこには正平がいた。正平はまるで いたずらが見つかったかのような子供の顔をしている。だがこれはいたずらなんていう生易 しいものではない。
「教えてくれ、この山の中に何がある?」
「恭介・・お前は知らなくていい。・・いや、知らない方が幸せだ」
「お前も秀二も何を知っている?ここに何がある?」
問い詰めたが、正平は答えない。ただ黙っているだけだ。知らない方が幸せ。よほどひどい ものなのだろうか。正平は山に向かおうとする。それを恭介は全力で止めた。いかせるわけ にはいかない。
「止めるな、恭介。・・俺は・・秀二や今までの犠牲者の魂を救う」
「お前・・何を・・」
正平は全力で恭介を振り払った。恭介が立ち上がるより早く正平は山の中へと消えていく。 追わなければいけない。そうしなければまた消えてしまう。だが、恭介は立ち上がることは 出来なかった。まるで何かの意思が恭介を拒むかのようにして。
「犠牲者の魂を・・救う?」
秀二や今までの犠牲者。それらに共通するのは何か。一つしか思い浮かばなかった。集落の 掟だ。正平は切羽詰っているかのようだった。昼間の発言と言い、今の様子と言いどうもお かしい。一体何が起こっているのだろうか。何が彼をあそこまで追い込んでいるのだろうか
『・・追いなさい。そうすれば・・あなたは全てを知ることになる』
「追う?そんなことをしても殺されるだけだ・・」
『もう誰も犠牲にはならなわ。彼が最後の犠牲者になる・・』
声は今夜一つの事に関しては決着かつくと言う。小谷正平という人物を犠牲に。だがそれで 全てが終わるのではない。正平では全てに終止符を打つことは出来ないと声は語った。
『全てを終わらせるのは・・あなたしかいないのよ、恭介』
「・・俺が全てを終わらせる?・・何を終わらせるんだ?」
恭介は山を見上げた。声は言った追えば全てを知る事になると。恭介は少し躊躇ったが、や がて躊躇を振り払い、山の中へと入っていく。この集落の秘密、両親の死の真相。親友が死 んだ理由。様々な謎の真実を知るために恭介は声を信用し先に山の中へと消えていった正平 を追うことにした・・




