二話
二話
あの声を聞いてから二日が過ぎた。恭介はこの日も長の家を訪ねようとしていた。だがそこ で信じられない事を聞く。
「・・秀二が・・死んだ?」
恭介は耳を疑った。この集落は大自然の中にある。四方を山で囲まれているのだ。その山の 中で秀二が死体で発見されたらしい。その山は本来二十歳になれば立ち入ることすら禁じら れる場所だ。秀二は何をしに山の中に行ったのだろうか。恭介は長の家へと駆け込んだ。
「・・あんたに聞いても無意味だとは思うが・・聞くぞ。秀二は殺されたのか?」
「何を物騒なことを・・。こんな場所で殺人事件など起こるはずもない」
「なら、自殺か?」
長は答えない。恭介は長の家の柱を思い切り殴り走って出て行く。一体何が起こったのだろ うか。あれだけ親のためにも掟を守ろうとした秀二が何故山の中にいたのだろうか。恭介は 秀二の家へと向かう。そこには秀二の遺体と秀二の両親がいた。
「山崎君か・・」
「秀二は・・どうして山の中に・・」
秀二の父親は分からないと言った。何故掟を破るような事をしたのか。そんなことは両親に さえ分からないのだ。だが父親はこの二日間秀二の様子がおかしかったと言う。誰もいない のに一人でぶつぶつと呟いていたらしい。
「おじさんは・・掟について何か知っていますか?」
「分からないよ。・・ただ破ってはいけないことだとしかね」
それはこの集落の人間であれば誰もが知っていることだ。恭介は秀二の家を出てから急に怖 くなってきた。秀二が自殺したとは考えにくい。ならば誰かに殺されたということになって くる。その理由は恐らく掟が関わってくるだろう。ならば次に恭介が殺されてもおかしくは ない。そんなことを考えていると、またあの声が聞えていた。
『大丈夫よ・・あなたは殺されないわ・・』
「・・何なんだよ・・お前は」
『私はあなたの味方・・ううん、この集落を守る者・・』
恭介は頭を振った。変なことを考えているから聞えもしない声が聞えてくるのだ。何も考え なければいい。秀二の事も事件だとすればそれでいいじゃないか。それが一番自然だ。だが そこでふと気になる。秀二はどの方角の山の中にいたのだろうか。この集落の四方は完全に 山で囲まれているが、その中で南側の山だけは誰であろうと入ることを禁じられている。ま さか秀二が倒れていたのは南側の山ではないのか。
『やっと気づいたみたいね・・教えてあげるわ・・彼が倒れていたのは南側の山よ』
「・・南側・・」
恭介は声を信用することが出来ず、秀二の両親に尋ねた。秀二はどこで発見されたのかを。
「・・南側の山の入り口付近だそうだ・・。それがどうかしたのかね?」
「いえ・・なんでもないです」
恭介は身震いをした。秀二はいつも口では掟を破るつもりはない、それが両親のためにもな ると言いながらも何かを掴んでいたのではないだろうか。そして禁じられ区域に入ろうとし た。そしてそこで殺されたのだ。この集落の秘密を守ろうとする何者かに。恐ろしい話だが ありえないことではない。
「秀二・・お前は何を知ったんだ?」
その答えは返ってくることは無かった。だが確かに秀二は何かを掴んでいたに違いない。そ れも他者に伝えてはいけないような情報を。
「・・教えてくれ・・誰かを犠牲にしてまで守るべき事なのか?」
だがその質問にあの声が答えることはなかった・・




