一話
一話
この集落には昔から一つの掟があった。二十歳になると同時にこの集落からは一歩も出ては いけないという掟が。その掟を除けばとてもいい場所ではあった。だがこの掟だけが人々を 苦しめていた。他の地域より毎月定期的に食料は届けられる。普通に生きていく分にはここ から出なくても困らない。だが、掟はいかなる場合でも出る事を許さない。大人になればこ の集落に生まれた者は外の世界とは隔離された空間でしか生きていけないのだ。そして今年 二十歳になる一人の青年は集落の長の家へと駆け込んでいた。
「なぜ、こんな掟があるのか聞かせて欲しい」
「・・私もそれは知らん。この掟は・・百年以上前から続いておるからな・・」
「本当は知ってるんだろう?・・この集落には何か秘密でもあるのか?」
青年は長に向かい怒鳴っていた。考えてみればこんな掟おかしいのだ。何故二十歳になれば 集落の外に一歩も出る事を許されないのだろうか。青年はこの掟があることに関して何らか の秘密がこの集落にあると考えていた。だがそれを誰に聞いても答えてくれない。皆、知ら ないとかそんなものはないと言うだけだ。
「教えてくれ、この集落には何がある?・・俺達に関係していることなのか?」
「秘密などない。・・掟はこの集落を存続させるためのものだ。それ以外の理由などない」
長は怒鳴りながら言った。この集落の存続のために作られただけだと。都会に人々が移住す ることのないようにしているだけだと。だが青年は見逃さなかった。青年が理由を聞いた時 に長が困っていたのを。ちゃんとした理由があるのなら困る必要など無い。やはりこの集落 には何かがあるのだ。青年は立ち上がり、長の家を後にする。青年の名前は山崎恭介。父親 と母親はすでに他界している。親戚からは事故だと聞かされているが噂では両親は掟を破ろ うとしたため殺されたとも言われている。
「恭介」
「・・秀二か。どうかしたのか?」
長の家の前で声をかけてきたのは恭介の幼馴染でもある上田秀二。秀二も恭介と同じような 考えを持っているが、長に文句を言ったりしたら親に何を言われるか分からないので言いた くても言えない状況が続いている。
「ここのところ毎日だね、恭介が長の家に行くのは」
「俺は真実を知りたいんだ。おの掟がなぜ作られたのかを」
それが間違っていることなのだろうか。そう、恭介が思った時、どこからともなく声が聞え た。
『あなたは間違ってないよ』
明らかに男の声ではなかった。小さい女の子のような声だ。秀二は少し声が高いが、そこま で高くはないはずだ。恭介は周りを見渡した。しかし、恭介の周囲には秀二しかいなかっ た。きょろきょろとしていると秀二が声をかけてくる。
「どうかしたの?」
「さっき声が聞えなかったか?・・小さい女の子の」
「僕は聞えなかったけど・・気のせいじゃないの?」
秀二はそう言うが恭介は確かに聞いたのだ。ぼんやりと聞えたなんて言うレベルではない。 はっきりと聞えた。まるで頭の中に直接響くような声だった。その後恭介は秀二と分かれ自 分の家に戻る。そして、家の中で一人あの声が言っていたことを思い出してた。
「間違っていないか・・」
あの声はまるで恭介の考えに答えるかのように聞えてきた。偶然にしては不自然だ。だがあ の時は誰も傍にいなかった。もし、あの声の主が元々見えない存在だとしたらどうだろう
か。恭介はまだ知る由も無かった。この集落に隠された重大な秘密と掟の真意を、そしてそ の掟によりたくさんの犠牲が過去に払われたことを・・