2話 呪いし答えが未来を穿つ
僕はあれから、白畑さん達に連れられ彼女から逃げ続けた。
途中、車や刃物が投げ付けられたりしたが、全て一緒にいた女性が念動のような能力で受け止めて
護ってくれた。
極力影の中を移動し、僕らの影と一緒になることだけは防いた。
しかし逃げても逃げても影を経由する彼女の方が速くて切りがなかった。
しびれを切らしたのか女性が近くのマンホールを念動で外すと、
女性「中に入って!」
と言って自らが先に飛び込んだ。
僕「え、ちょっと!僕らはどうするんですか!?」
白畑「我々も行きますよ」
僕「え?」
白畑「しっかりお掴まり下さい」
僕「待ってあなたこの穴入れんですか!?その巨体で!?」
白畑「御安心を」
白畑さんは僕を穴の中に放り込んだ。
しかも逆さまで。
僕「うわああああああ!」
下にコンクリートが見えた。
このままじゃ当たり前の如く死ぬ。
けど落ちる速度が次第に緩やかになり、
背中の壁に吸い寄せられる。
そのまま壁に張り付いて落下が止まった。
白畑「私は重力を操れまして、今私とあなたは壁伝いに移動できます。このまま這って参りましょう」
僕「は、はい」
何か能力者が周りに増えすぎて着いていけない。
混乱しつつも女性と合流出来た為、しばらく様子見となった。
明かりがあまり無いため彼女は入り込めなかったんだろう。
30分程そこに篭ったが現れる事はなかった。
僕「逃げきったんですかね」
女性「安心は出来ないけど、そう考えていいかも」
白畑「ここから如何致しましょうか?」
女性「少年、アイツの容姿はわかる?」
僕「え?あ、はい。わかります」
女性「なら一旦外に出ましょう。少年、アイツがいたら教えて」
僕「あ、はい。わかりました」
僕達は慎重に外に出てみた。
彼女の姿はなく、影が襲って来ることもなかった。
一応警戒はしつつも僕らは再度、移動を開始した。
聞くと渋谷の中に女性達の本拠地があるらしい。
そこなら安全だと言うので向かうことになった。
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神泉のラブホ街。
そのラブホの1つに平然と入って行く女性と白畑さん。
僕「待ってくださいよ!ここラブホですよ!?なに普通に入ってるんですか!?」
女性「あら、少年は私といいことを期待してる?」
僕「してません!」
白畑「ここが我々の本拠地です。外見はラブホテルですが、これは誤魔化しでして」
僕「誤魔化し・・・」
木は森に隠せの精神か・・・。
一人で納得してしまった。
確かにラブホ街に偽装ラブホを隠せば
バレないだろうけど。
周りの目線を気にしながら僕も二人に続いた。
きっと中は事務所みたいな感じなんだろう。
中までラブホじゃねぇかぁ!
ピンクだよ!中がピンク一色だよ!
恥ずかしいわ!
女性「私といいことするなら2階に、白畑といいことするなら3階に、それ以外なら地下に行くわよ」
白畑「私で良ければ全力でお相手致しますぞ」
僕「要らん選択肢作らなくていいです!! ってか白畑さん何で乗り気なんですか!?」
女性「少年、ツッコミ鍛えれば面白そうね」
僕「嫌な予感しかしないので止めてください!」
とりあえず付き合ってたら疲れそうなので僕は本拠地行きを促した。
二人はロビーの受付の女性に挨拶すると地下への階段へ向かっていく。
僕も着いていくと階段の一番下に扉があった。
女性「この先が私達の本拠地よ」
女性により扉が開かれた。
中は事務所のような感じにはなっていたが・・・。
なんというか、なんだこのやる気の消えてくような雰囲気は。
中には数名程人がいたが皆、机に突っ伏したり酒飲んでたり本読んでたり寝てたり。
女性「皆~帰ったよー!」
白畑「只今帰りました」
僕「お邪魔します」
僕の声を聞いた瞬間皆が一斉に僕の方を見た。
眼鏡の男性「おや、客人ですか?」
眼帯の男性「客人が来るわけねーだろ。保護してきたんだろ?」
酒飲んでる女性「マリアが男連れ込むなんて、大胆ね」
寝てた女性「イケメンじゃねーの?帰ってもらえ」
女性陣失礼極まりねぇな!
マリア「保護よ、保護。影の能力者に襲われてる所を助けてきたの」
白畑「少々手強いやもしれませんな。アレは」
二人の話を聞いた途端にさっきまでの間抜けな雰囲気が
一気に緊張感に塗り固められた。
眼帯の男性「影の能力?」
マリア「本体が影と同化して影から影へ移動できる。更には影から物体に干渉してくる。そんな所かしら?トラックぶった切ったわ、影から」
眼鏡の男性「珍しいタイプですね。影とのシンクロとは」
眼帯の男性「俺は影相手じゃ探知すら出来ねーわ」
全員が彼女の能力について分析を始める。
答えの知ってる問が目の前で議論されている。
僕は彼女の能力の弱点を知っていた。
しかし、教えていいもんか迷って、今は行く末をただ見守っていた。
何故ならば、このまま答えを提示するだけだと
僕の役割が終わってしまう気がしたからだ。
僕は彼女を自分が止める方法を試行錯誤していた。
これは僕の問題でもある。
相手は僕の彼女なのだ。
相手がどうであれ、僕は彼女を正直まだ好きでいる。
だから、止めたいのだ。
前の関係に戻れなくとも、
彼女を止めて
これ以上彼女の手を汚させない様にする。
無理なら・・・。
それは考えるのをやめよう。
とにかく止める。
何がなんでも僕が止める。
眼帯の男性「あー少年、聞こえてるか?」
僕「ん?」
眼帯の男性「君だ少年。返事を寄越してくれ」
僕「あ、すいません」
考え事をしていたら気付けなかったみたいだ。
眼帯の男性「君、名前は?」
僕「名前、ですか。西垣・・・真也です」
眼帯の男性「では、西垣君。君はあの影の能力について何か知らないか?」
予想はしてたけどやっぱ聞いてきたか。
さて、答えるべきか。
眼帯の男性「その沈黙は、知らないと捉えていいかな?」
眼鏡の男性「いや、むしろ逆ですね。知ってますね?」
眼鏡の人が何かを察したように聞いてきた。
なんだ?思考を読めるのかこの人。
マリア「まさか、知ってたら私達が行く前に対処出来てるでしょ」
眼鏡の男性「彼は能力者ではないんです。知っていても対処出来るはずがない。ですね?」
否!思考を読めたら能力者なのもわかるはず!
違うな。
単に洞察力に優れるだけだ。
パソコンにプロフィールないかな?
僕はパソコンから情報を探してみた。
結構あっさり全員のプロフィールを見付けた。
僕は全員の能力を確認すると、ある作戦が思い浮かんだ。
交換条件を突きつけてみよう。
僕「知ってます。かなり詳しく」
眼鏡の男性「やはり」
眼鏡の人、名前が美澄 大悟か。
僕「ただし、ただで教えたくありません。条件があります」
美澄「・・・聞きましょう」
僕「僕にも手伝わせてください」
僕以外の全員「な!?」
全員の顔が驚き一色だった。
マリア「ダメに決まってるでしょ!」
酒飲んでる女性「バカな考えはやめなさい?」
美澄「流石にそれは・・・」
予想通りの反応だった。
しかし、僕は引かない。
僕「美澄 大悟。年齢は21歳。能力は自身の血管と血液を武器とする能力」
美澄「は!?」
彼のプロフィールをざっくりながら読み上げてやった。
美澄さんは声を裏返して驚いていた。
更に僕は続けた。
僕「桜山 智和。年齢24歳。能力は周囲状況の探知と能力解析が可能なレーダー的能力」
桜山「お前・・・」
該当者である眼帯の男性、桜山さんも驚いていた。
僕「杉山 花子。年齢20歳。能力は電気を自身を経由させてさらに対称に誘導する能力。スリーサイズは・・・」
杉山「こらてめぇ!アタシだけそれ以上読む気か!」
寝ててダルそうにしてた女性、杉山さんは顔を赤くする。
これくらいでいいか。
僕「手伝わせてくれる気になりましたか?」
桜山「お前・・・コンピューターに干渉出来るのか」
桜山さんが動揺しつつも真面目に聞いてくる。
僕「そうです。電脳干渉と僕は呼んでます」
美澄「これはまた・・・凄まじい能力者ですね。世界的レベルに危険な能力ですよ」
美澄さんはさらに驚愕した表情になる。
確かに言われてみれば世界的レベルのデンジャラス能力だ。
アメリカの例の5角形の施設すら掌握しかねない能力な訳だし。
皆が驚く中一人だけ、別の驚きをもたらす発言をした。
白畑「皆さま方、私は気が変わりました。彼を手伝わせて良いのではないかと思います。いや・・・むしろ」
まさか彼が賛成を促してくるとは思いもしなかったが、
更に続いた言葉は僕すら驚かされる物だった。
白畑「彼を我々の仲間に率いれては如何でしょうか?」
僕はポカーンとしか出来なかかった。
仲間?ここの?
桜山「は?」
美澄「冗談を・・・」
杉山「堪忍してくれ・・・」
酒飲んでる女性「白畑って冗談言えたっけ?」
マリア「白畑、熱ある?」
案の定、皆もポカーン状態の様だ。
しかし白畑さんは
白畑「私は冗談を言っておりません。彼の能力を見て、ここに居れば心強いと素直に思いました。サイバー関連も扱えれば我々の操作の幅は大きく広がりますぞ。小警察と呼んでもいいレベルの組織になれましょう」
桜山「一理あるが・・・」
白畑さんの話を聞いて桜山さんが悩む。
僕的には今回の件が手伝えればいいんだけど・・・。
桜山「考えておこう。とりあえず今回の影の能力関連は彼の協力を得よう。いいな?」
美澄「智和さんがそういうなら」
杉山「仕方ねぇ」
酒飲んでる女性「OK」
マリア「私も同意せざるを得ないか」
白畑「わかりました」
とりあえず全員の同意が得られて僕は安心した。
彼女を止められる。
何かその先に行きそうだけど主目的は達成出来そうだ。
桜山「よし、なら西垣君から話を聞く前に・・・既に知られた人もいるが自己紹介と行こうじゃないか。連携を取るのにお互いの情報は必要だ。じゃ、まずは西垣君からかな?」
僕「あ、はい」
僕は一通りの自己紹介と自分の能力の今知る限りの情報、
リンクがあれば自由に経由出来ること、同時経由も頑張れば出来ること、電源が付いて起動しているものに限ること、
等を話した。
それを聞いた美澄さんが「ますます危険な能力ですね」
と独り言を漏らしたりしていた。
実際そうなんだけど。
桜山「じゃあ、次は俺か。俺は桜山智和。ここ、『対異能力犯罪者自立組織caza《カーザー》』のリーダーをやっている。能力は探知解析。俺は事情があって周りを目で見て確認していない。探知能力で周囲状況を形で把握してる。人の判別は出来るが字なんかは見えない。一応そこの理解を頼むわ。あと解析は相手の能力を解析出来るんだが、相手を能力者と確信しないと出来ないんでソコもよろしく」
どうりで眼帯して右目まで瞑ってるわけだ。
しかし理由に関しては教えてもらえなかった。
まぁ深くは興味ないんだけど。
美澄「では次は僕ですかね。僕は美澄大悟。ここでは一応戦闘員をやっています。能力は自分の血管を伸縮自在に伸ばしたり操ったり出来る能力。物を投げたりも出来ますね。あと、血液の特性を変えて血管から放出もできます。温度を1000℃から-196℃までの間で上げ下げしたり、毒性を持たせたり、基本的には思い付く限りなら変幻自在です。当然使いすぎると失血死する上、他者の血を無条件に一切受け付けないので輸血も出来ません。あと、私の左腕ですがこれも血で外層を作って関節だけ削って動かしてます。能力発現時に吹き飛びました」
なんて返したらいいか分かんないんですが・・・。
僕「笑顔で言うことなんですか?」
美澄「吹っ切れてるので気にしないでください」
桜山「ソイツ、メンタルはマジでつえーからマジモン気にすんな」
僕「は、はぁ・・・」
スゲー人だな。
杉山「アタシも喋っていいか?」
なかなか自分に来ない事に痺れを切らしたのか杉山さんが自ら声を上げた。
僕「あ、すいません。お願いします」
杉山「えー、杉山花子。大悟と同じく戦闘員。能力は・・・アタシは電気誘導って呼んでる。電気を使用してる場所から電気を自分に引き寄せられるんだ。引き寄せた後は他の狙った奴に対して放てる。あくまで誘導だから威力は誘導元の電力に左右されるし、電気だから近くに電気を引き寄せやすいものがあると上手く狙えない。あと大体20m以内からじゃないと引き寄せられないから、かなり場所は限定されるけど、人間相手なら一般家庭の電力でも効果的だろ?困ったことはあんまないな。まぁ、よろしく」
照れ臭そうだけどそういう人なんだろう。
桜山「ちなみにソイツ、言葉は乱暴だけど中身はシャイな乙女だから存分にからかってやれ」
杉山「おい!テメェ!ふざけんな!」
やっぱそういう人だった。
酒飲んでる女性「じゃ、次は私かしら。私はアリサ。アリサ・レミニエル・フォードマンよ。ここじゃ諜報員をやってるわ。能力は念写。映像器機や印刷器機等を介して頭に浮かべた画像や映像を映し出す能力よ。パソコンなしでも編集したような動画を見せる事も出来るわ。ただし、あくまで映し出す媒体が必要で、尚且つリアルタイムでしか写せないからデータには残せない。ビデオテープや紙に写すしかないのよ。不便ね」
機械に干渉する意味では僕の能力に似てるけど、
産み出すことができない僕とは違うんだなぁ。
マリア「はい!じゃあ私の番ね!マリア・ガブリエル・フォードマンよ。アリサの一つ下の妹よ。一応戦闘員かな?能力は、あなたも見たわね。念動よ。視認出来る限りの物体を触れずに動かしたり変形させる事が出来るわ。重さにも制限は無いけど、使用時間や重さに比例して体力を使うのよ。お陰様でグッタリ祭りよ」
妹さんにしては何か精神年齢が違いすぎる気がする。
白畑「では最後に私が。白畑典明と申します。ここでは執事と戦闘員をしています。能力は・・・あの時説明致しましたが重力を扱います。自分を中心とした任意の範囲内の重力を自在に操れまして、向きは勿論、強さも含めそれはもう自在に。しかし、基本的に自分を中心としてますので如何なる場合でも私が重力の餌食になることは防げません。自爆型とも言えますな」
この人も凄まじい能力だよな。
改めて聞いて思った。
桜山「ちなみに白畑はここじゃ一番の平和主義者だが、能力無しでの戦闘力もここじゃ一番だぞ」
僕「まぁ見た目からしても納得ですね」
こんなムキムキじいちゃん初めて見た気がする。
白畑「お恥ずかしながら、昔、様々な格闘技をやっておりまして」
それでその筋肉量か。さらに納得。
桜山「さて、西垣君。そろそろ本題に入ろうか。影の能力者の情報を話してくれるかな?」
おっと、そうだった。
気を引き締めねば。
僕は立ち上がって全員を見てから
僕「わかりました。それでは・・・」
僕は彼女の能力の情報を話始めた。