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ゴトウ君の手!?  作者: 京 高
第四章 黒幕+首謀者=ラスボス
19/22

おまじない

「避けられた?いや、ずらされたのか?」

「無駄さ。この倉庫の中はもう後藤君の支配下にある」


 不意打ちでの攻撃が失敗に終わり、茫然とつぶやくルシフェルに九条院が告げる。その顔には小馬鹿にしたような笑みが貼りついていた。うわぁ、自分に向けられたわけでもないのに、傍から見ているだけでムカついてきたよ。


「まさか空間把握能力か!?」


 あ、そんな能力があるんだ。


「その通り。しかも後藤君は空間掌握にまで昇華させている」


 あ、パワーアップするらしいです。

 嫌な笑みを浮かべたまま付け加える九条院をルシフェルが悔しそうに睨んでいる。さすがのラスボスでもあの顔はムカつくみたいだ。


「ほら、後藤君も何か言ってやれよ」


 再び他人事のように傍観していると、お前も働けと言わんばかりに九条院から無茶振りがとんできた。


「あ、えっと、もうお前に勝ち目はないぞ」

「くっ、未来視、いや予言の力か!」


 そんな能力もあるそうな。

 都合の悪い方にばかり解釈する癖でもあるのか、ルシフェルは適当に口にした僕の言葉を真に受けていた。楽でいいけれど、気が抜けてしまうな。

 そんなことを思いながら視線を動かしていると九条院と目があった。彼は無言で僕の背後にある壊れた木箱を指していた。

 そうだ、相手は僕のことを簡単に殺すことができる力の持ち主だった。しかもなんの前振りもなく攻撃することができる。もしも再び同じことをされたら今度こそ当たってしまうだろう。

 それに対してこちらは所詮はったりだ。ばれてしまえば一巻の終わり。しっかりと気を引き締めないといけない。

 僕は北郷と対峙した時のことを思い出していた。上手くいきすぎていた感もあるけれど、どうせイメージするなら成功した時のことの方が良いはずだ。


「フフフ、クックック、アーッハッハッハ!」


 と突然ルシフェルが笑いだした。

 しかもこれは『三段笑い』――笑い声が小、中、大の三つに分かれた笑い方で、主に追い詰められた悪党が使用する。類似項目に『海岸沿いの切り立った崖の上』がある――じゃないか!?

 嫌な予感がして僕と九条院は再び視線を交わらせ情報交換を始める。


(ちょっと、これ「今から本気出す!」とかいろいろと吹っ切れちゃったやつじゃないですか?)

(確かにまずいね。間違っても「何がおかしいんだ!?」なんて聞いちゃいけないパターンだ)


 この間、わずか一秒。ルシフェルの笑いが続くなか、アイコンタクトで意見が一致した僕たちは行動に移った。

 九条院はルシフェルに一息で肉薄すると有無を言わさず攻撃を開始、相手が反応を始めるとすぐさま離脱する。そして僕の方に意識が向くと再び攻撃、離脱というヒットアンドアウェイを続ける。

 一方、主人公の僕は倉庫のあちこちに置かれている木箱やコンテナの陰に隠れるように移動を続けていた。時々わざとルシフェルから見える場所を通り、意識を拡散させて九条院の攻撃を手助けする、のだけれど


「悪魔パーンチ!!」

「天使ガード!!」


 戦う二人の声が聞こえるたびに膝が砕けそうになる。本人たちが至って真面目なのは声や交錯する音から理解できる分、その名前は何とかならなかったのかと思ってしまう。

 とにかく僕たちの奇襲作戦は上手くいき、ルシフェルが超本気モード――覚醒や第二形態でも可――になるのは防ぐことができた。

 だけどその代わり地力がもろに影響する真っ向勝負となってしまった。狙ったわけではないだろうが、九条院自身勝ち目がないと言っていた正面切っての戦いに持ち込まれてしまったのだ。


 最初は『デモンブロー(普通のボディブロー)』、『悪魔わし蹴り(普通の回し蹴り)』、『魔ッパー(普通のアッパー)』と連続で決まっていた攻撃が、徐々に『エンゼルブロック』で受けられ、『天使パリィ』でいなされ、『ホーリースウェイ』でかわされていく。

 僕もルシフェルの視界に入ったり、落ちている小石をぶつけたりしていたが、あまり効果がない。

 はったりで何とかしようにも、あれは本来相手の予想や考え、常識などをぶち壊す形で提示して初めて意味のある、いわゆるカウンター技だ。こちらから言っても効果は薄いし、場合によってははったりだとばれてしまう。


 やがて僕からの攻撃が撹乱目的だと気づいたルシフェルは九条院の方に意識を集中――たまに小石がいい所に当たって痛そうにしていた――していく。

 そうなると力の差は歴然で、あれよあれよという間に形勢を逆転されてしまった。

 そして、


「ぐはっ!」

「九条院さん!」


 ついにルシフェルからの反撃を受けて九条院が後ずさる。それまでの疲労と相まって既に立つのがやっという状態だ。


「どうした、もう終わりか?もうすぐ昇格だと聞いていたが、実力ではなくただ運が良かっただけのようだな」

「はっはっは。幸運な悪魔とはなかなか皮肉が効いていますねえ」


 悪態で返してはいるが戦うことはもうできないだろう。ルシフェルもそれが分かっているのか、止めをさすこともしないで僕の方に向き直った。


「残念だったな、貴様の予言は外れたようだぞ。せめて戦闘系の能力も一つでも使いこなせていれば話は違って来たのだろうが、な」

「さて、それはどうでしょう。むしろここからが本番なのかもしれませんよ」


 平静を装ってはいたけれど、この状況を再び引っくり返すような策がある訳でもなければ、ピンチになった所で主人公特権が発動して何かの能力が使えるようになったわけでもない。

 開運袋越しに宝玉のコロコロとした感触が背中に伝わっていた。


「減らず口を……駒として使ってやっても良いかと思っていたが止めだ。お前を跡形残らず消し去ってから、能力を回収してやる」


 そう言うとルシフェルは腰を落として、まるで太極拳のような動きを始めた。

 時折、遠い宇宙の仮面を被った悪役のように「コホオオオォォォ」と大きく息を吐いている。


「いかん!『超絶天使ビーム』を使うつもりだ!」


 その動きに見覚えがあったのか、満身創痍の九条院が大声をあげる。


「何そのカッコ悪い名前!?」


「私たち悪魔の『壊滅アクマ砲』に匹敵する天使の必殺技だ」

「何そのカッコ悪い名前!?」


 どうもあちらの世界の人たちのネーミングセンスにはついていけない所があるなあ。


「そんなこと言っている場合じゃない!あんなもの食らったら人間なんて本当に跡形も残らずに消し飛ぶぞ!」

「それを早く言って下さいよ!?」

「もう遅い!私の考えた名前を馬鹿にしたことをあの世で後悔しろ」


 命名者あんたかよ!


「逃げ――」

「超・絶!天使ビーーーーーム!!!!!!」


 九条院の叫び声がルシフェルにかき消された次の瞬間、倉庫中がまぶしい光で一杯になった。

 臨死体験というやつだったのか、ここからしばらくの間はとてもゆっくりに感じられた。ルシフェルから放たれた超絶天使ビーム――言うのも恥ずかしい……――が周りに広がった光を吸いこみながら迫りくる中、僕はとっさに両手を前に突き出していた。

 手の平に熱さを感じたのはほんの一瞬のことで、ほとんど衝撃もなかったと思う。次の瞬間にはビームは今来た進路を逆にたどり、ルシフェルへと向かっていた。


「なんだとお!?」


 結構距離はあったはずなのだけど、驚愕したルシフェルの表情ははっきり見えた。あれは僕の知っている変な顔ベストスリーに入る逸品だった。みんなに見せてあげることができなくて残念だ。

 ちなみに一位は……僕の赤ん坊の時の顔で、今でも両親からネタにされる。こちらは写真が残っているけれどできれば見せたくない。特に天使と悪魔に見つかった時には何をされるか分からない……

 おっと、閑話休題。話が脇道にそれ過ぎてしまった。

 でも、これだけいろいろなことを考えていてもほとんど時間は進んでいなくて、今やっとルシフェルにビームが命中した所だったりする。臨死体験ってホント便利だわ。


 どっごおおおおおんん!!!


「ぐわああああぁぁぁぁ!!」


 轟音とともにルシフェルの断末魔が響き渡る。衝撃を抑えきれずに吹っ飛んだルシフェルは倉庫の端にあるコンテナに上半身がめり込んでやっと止まった。

 あ、突き出た足が時々ピクピクと痙攣している。ちっ、まだ生きていたのか……おっと、思わず黒い部分が出てしまった。編集さん、ここカットでお願いします。


「そうだ、九条院さんは?」


 ちょっとルシフェルとかに意識が集中していただけで、忘れていた訳じゃないよ。ビームを受ける前に彼がいた方を見てみると、九条院はそこに立っていたのだけれど、何が起きたのか分からないといった感じで呆然としていた。

 まあ当事者の僕だって今起きたことをきちんと説明する自信がないのだからそれは仕方のないことだろう。


「九条院さん!?」


 近づきながら声をかけると意識がはっきりしてきたようで、手を上げて無事であることを知らせてきた。


「今のは、反射能力かい?」


 あ、そんな能力もあるんだ。だけど


「さっきのは能力じゃありませんよ」


 そう、能力なんかじゃない。現に十三個の能力は全て背中の開運袋の中に入っている。あれは、


「ただのおまじないです」

「ただのおまじないだ」

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