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ゴトウ君の手!?  作者: 京 高
第四章 黒幕+首謀者=ラスボス
15/22

合併症は怖いです

 目覚めは最悪だった。

 ひどい頭痛に吐き気、脳に処理しきれない程の膨大な情報をぶち込まれたような感じだ。混濁した意識のまま、僕は堅い床の上を転げ回っていた。

 どのくらいそうしていただろうか、ようやく頭痛が治まり目を開くと、そこはどこか見覚えのある場所だった。

 もう少し情報を得ようと上体を起こそうとしたが、それが失敗だった。治まっていた吐き気がぶり返して僕は再び悶絶することになった。幸か不幸か胃の中は空っぽだったようで、逆流してきたのは少量の胃液だけだった。


「余り無茶をすると心よりも先に体の方がダメになるよ」


 ゼイゼイと荒い息をついていると額に冷たいものが押し当てられる。それが誰かの手だと理解したと同時に僕は再び意識を失っていた。


「起きろ!」


 二度目の目覚めもひどいものだった。突然脇腹に激痛が走ったかと思うと、世界がグルグルと回っていた。

 おかげで頭痛が再び、吐き気に至っては三度目のお出ましとなった。さっきと今、どちらの目覚めがより最悪なのだろうかと半ば現実逃避ぎみの考えに頭を巡らせていると、辛うじて職務を全うしている五感から僕以外の誰かが良い争いをしていることを伝えられる。


「あなたがどう考えているのかは知らないが、彼はごく普通の人間だ。手荒な真似は止めてくれ」

「人間などただの駒に過ぎないな。壊れたら別の者に取り換えれば済むことだ」


 わお!これはこれは素晴らしい危険思考の持ち主だ。


「そう言う割にはずいぶんと彼に御執心ではないですか」

「我々の計画を破綻させた元凶だったから少々気になっていただけだ」


 わお!さらにツンデレ属性完備ときている。


「ぷっ……くくく」

「何がおかしい?」


 きっと僕と同じ感想を持ったのだろう、言われた方が堪えられず吹き出した。そしてよく分かっていないもう一人がいぶかしげに問う。


「いやなに、人間たちが言うツンデレにそっくりだと思っただけですよ」


 ほらやっぱり。そして言われた側は「そんなこと知らない」とか言って憮然とする所までが様式美なのだけど、この人の場合はどうかな?


「馬鹿にしているのか?」


 あらら、普通にムッとしただけだったみたい。まあツンデレも知らなかった人にそこまで求めるのは酷というものか。

 そして今の会話で毒気を抜かれたのか、舌打ちすると「気がそがれた」と言ってどこかへ行ってしまった。


「これで少しは時間稼ぎができたか。それで後藤君はいつまで寝たふりを続けているのかな」

「確かに目は覚めていますけど、さっきの人が容赦なくやってくれたおかげで痛くて動けないんですよ」


 僕は声を掛けてきた残った方の人、九条院に向かってそう言った。実際口を動かしているだけでも痛みが走る。これ、あばらとか折れてないよね?


「はいはい、骨に異常はないからさっさと起きる。さすがに今回は危険がやばいから後藤君も覚悟を決めてもらうよ」


 ふざけた物言いは相変わらずだったけれど、九条院の声音は真剣そのものだった。


「まぢですか?」

「マジです」


 思わずの問い掛けに返って来る答えもたった一言。これは本格的に危険なのかもしれない、そう考えた瞬間、気を失う直前の光景が一気に蘇って来た。


「羽歌!羽歌はどうなったんですか!?」

「いきなり変なスイッチが入ったね。とにかく落ち着いて」

「落ち着いてなんていられませんよ!……まさか死んでなんていませんよね。平気ですよね?」


 喋っているうちにどんどん嫌な考えが浮かんできて、終わりの方は声が震えて言葉にならなかった。


「何度も言うけど落ち着いて。ああ、もう、男の子なんだから泣かない」


 小さな子をあやすような九条院の口調に恥ずかしくなりながらも、目の前で親しい人が死にかけるというショックから立ち直るまでには結局数十分の時間が必要だった。


「落ち着いたかい?」

「すみません、取り乱してしまって……」

「あんなことがあった訳だから仕方ないさ。むしろ取り乱さない方が問題だね」

「フォローされても恥ずかしいだけなんで、話進めて下さい」

「そうかい?それじゃあまず羽歌の安否についてだけれど、おそらく命に別状はないだろう。天使も私たち悪魔と同様に丈夫だからね」


 九条院の話によると、勇敢にも――「ここ重要。テストに出るくらい重要な所だよ」――僕を捕らえていた相手に九条院が立ち向かっている間に彼の部下たちが羽歌を連れて行ったのだそうだ。


「ただ残念ながらこの通り私も奴に捕まってしまったから、羽歌の怪我がどの程度のものなのかは分からない」


 それでも生きていると分かっただけ吉報だ。


「ところで、さっきのあいつは一体誰なんですか?声を聞いた限りでは羽歌に大怪我させて僕の首を絞めていたマッチョだと思うんですけど」


 そういえば脇腹を蹴られていたんだった。思い出したらだんだん腹がたってきたぞ。


「正解。さっきのツンデレが君や私をここに連れてきた張本人だ。あ、ここは以前私が君と羽歌を捕まえていた倉庫だよ」


 そう言われて辺りを見回してみると確かに見覚えがある。あのドラマ仕立ての倉庫だ。ここは悪魔たちがアジトとして使っている場所の一つなのだそうだ。小ネタ終わり。

 そして特に否定されなかったので、例の男はやっぱりマッチョだったようだ。


「さっきのツンデレが何者かということに戻るけれど、名前はルシフェル。もちろん自称でこちらの世界の神話に出てくるのとは別人だよ。だけど実力は本物で、最強の天使の一人だと言われている。

 そして物質変換能力を始めとした数々の危険な能力の封印を解いて持ち出した今回の事件の黒幕中の黒幕、つまりは首謀者なんだよ」


 さすがにその答えは予想していなかったのことですよ。


「ルシフェルて……ツンデレだけじゃなくてさらに中二病も併発しているなんて……なんて恐ろしい奴なんだ……」

「相変わらず君は食いつくポイントがズレているね……」


 北郷の時でさえメチャクチャなチート設定だと思ったけど、今度は最強の天使ですよ!?まともに考えたら怖くてどうにかなってしまいそうだ。


「まあ現実逃避したくなる気持ちは分からなくもないけれど。言ってみればラスダンの一番奥で勇者が到着するのを待っているはずのラスボスがいきなり攻撃してきた様なものだからね」


 気持ちは分かるとか言いながら、分かりやすい例えでさらりと人を追い詰めてきていないか、この悪魔?しかも略し方が妙に堂に入っている感じがする。もしかしてゲーマー?


「相手がラスボスだってことは分かりました。それで一体何を覚悟しろというんですか?まさか一緒に戦えなんて言わないでしょう?」

「分かっているなら話が早い。その通り。ルシフェルと戦うから力を貸して、というかお前も戦え」


 九条院がそう言ってからきっかり十秒後、その意味を理解した僕の口からはマシンガンのように否定の言葉が飛び出していた。


「いやいやいやいやいやいや無理無理無理無理無理無理!ツンデレの中二病なだけならまだしもラスボスクラスの天使相手に一般ぴーぷるの僕が戦うなんて、無理無茶無謀の三拍子がそろってますよ!?何とか逃げて向こうの世界に助けを求められないんですか?」

「残念ながら逃げても無駄だよ。彼の目的は人類の、いや世界の破滅だからね」


 はい、今度こそ本当に開いた口がふさがらなくなりました。世界征服ならともかく――これでも十分ぶっとんでいるけれど――世界の破滅が目的って何だそれ?


「実はこの間捕まえた悪魔がようやく目的について話し始めたんだよ。ちなみにしゃべった後、泣きながらカツ丼を食べていたそうだよ」


 一昔前の刑事ドラマか!?この倉庫もドラマ仕立てだし、悪魔は往年の刑事ドラマ好きが多いのだろうか?

 脱線を繰り返す九条院の話を要約すると、今回の計画に加担した連中は終わりの見えない天使と悪魔の抗争に嫌気がさしていて、そのためにルシフェルに誘われた、というより付け込まれたらしい。

 そして彼が提示したのがこちらの世界を滅ぼして、そこに天使または悪魔を移住させるというものだった。


「つまり離れていれば争いも起こらないだろう、ということだな」

「いろんなものをすっ飛ばし過ぎている理論ですね……」


 さらに言えばこの世界に住んでいる僕らにとっては、はた迷惑以外の何物でもない理論だ。


「その計画の第一弾として運悪く目を付けられた北郷に物質変換能力が渡り、あの事件が起きたという訳さ。ルシフェルの言っていたように後藤君がいなければ彼らの計画は成功していたかもしれないね」


 そうだろうか?北郷だけでなくこれまで捕まえてきた天使や悪魔たちもどこか抜けていたので、致命的なミスを起こして勝手に自滅していたような気がする。

 だからこそ僕のような特別な能力を持たない人間でも相手にすることができたともいえるのだけど。


「持ち出した能力を人間に与えれば十二分の対抗勢力を作り上げることができるし、戦いが大きくなればなるほどこの世界が受けるダメージもまた大きくなる。だからルシフェルにとっては悪魔・天使連合との全面対決はむしろ望む所なのさ」

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