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二話χword:【テルマ】…【オーロラの扉(セラス・ポルタ)】の影響で各世界の人間が得た特殊能力の総称。それぞれの世界で特性が異なる

 奏良がたどり着いた場所は森の中だった。

『それでは出場者全員が配置に着きましたので、一分後に開始の合図を伝えます』

 空を見上げると飛行船が旋回していた。

 アナウンスはあそこからしていたらしい。

 飛行船についている巨大モニターは54…53…とカウントを刻んでいた。

 その間に奏良は【ソナー】を取り出す。

 【ソナー】と呼ばれているが、これはレーダーのようなもので、特殊な電磁波を飛ばしている。他にも本来のソナーと同じく音波も飛ばすことができる。

 地上でも水中でも使える特殊機器だ。

 【ソナー】で飛ばすことができるのは特殊電磁波と音波、そしてレーダー波だ。

 奏良は【ソナー】を発動させ、周囲にレーダー波を飛ばす。

 レーダー波はある一定範囲内のプレイヤーを探るために用いるもの。

「角度調節。正面30度範囲に修正」

 レーダー波は通常360度の円状に放たれる。

 だが、その場合だと探れる距離は短い。半径1㎞がこれでの範囲だ。

 ルール上、半径一キロ圏内にはプレイヤーを重ねないことが決まっているため、これでは意味がない。

 しかし、角度を狭めることでより遠くまで探ることができる。30度だと大体12㎞まで探ることができる。

 奏良はゆっくりと一周その場で回った。

「北5㎞に一組。北東6㎞に一組4㎞に一組、東反応なし、南東8㎞に一組、南4㎞に一組、南西反応なし、西9㎞に一組と10㎞に一組、北西2㎞に一組。角度調整、全方位に固定。ふぅ、当分は北西に注意だな」

 奏良は上を向いた。

 モニター画面の数字が10になる。

 …9…8…7…6…5…4…3…2…1!


『ゼロ!大模擬ASG!Let′sプレイ・ザ・サバイバル!』

 

 アナウンスから開始の合図が察せられる。

 刹那、西側から爆音が響いた。

「ま、中では一番近かったからな。さてと―――」

 奏良は【ソナー】を確認する。

 案の定、北西と南の組がこっちに向かって動いてきた。

 予想通り。

「意外に近くに居たな」

 北西から来たグループが奏良の姿を捉えた。

「能瀬奏良だ!ここで仕留めるぞ!」

「おう」

 男子生徒二人が奏良に向けて掌を翳した。

「成程、放出特化型か」

 右の生徒の手から炎の砲弾が放たれた。数として八。だが、速度は遅い。

 左の生徒からは水の弾丸。小さく単発ずつの発砲だがスピードがある。

 奏良は水の弾丸を後ろに飛び退ける。

 その避ける奏良の後を炎の砲弾が追いかける。

「右の奴は放出操作混合型か。厄介。だけど!」

 奏良が大きく飛び退けると、それに砲弾も付いて行く。

 だが、奏良と砲弾の間に一人の少女が入ってきた。

「随分早いお着きだな」

「余計だった?」

「いや、助かった」

 奏良と少女は親しげに言葉を交わした。

 そして、少女は砲弾を掌で薙ぎ消した。

「何ッ!?お前は―――」

 砲弾をかき消された男子生徒はその少女を見て狼狽した。

「地界序列二位、三木原水兎ッ!」

「ご明察。そして、さようなら」

 水兎の両腕が皮膚とは違う別の物資へと変わる。

「合成:(グラディウス)

 更にその物質で地面に触れるとそこから剣を二本作り出した。

 そして、一気に男子生徒二人に迫った。

「クソッ!」

 二人は手を翳した。

 おいおい、それは愚策だろ。

「ハッ!」

 水兎は無慈悲に二人の腕を切り落とした。

 二人の腕が宙を舞った。

「「グワァァァァァァァッッッ!」」

 二人は腕があった場所を抑える。

「また次回ね」

 最後は二人の腹部を思いっきり殴り、校章を砕き、気絶させた。

「相変わらず派手だな」

「このぐらいなら治療用カプセルに入れたら次の日には回復するわよ」

 水兎は腕をもとに戻した。

「さっきの二人の【テルマ】、どう見る?」

 【オーロラの扉】が繋がった時、七つの世界の住人達に特殊な能力が身に着いた。それが【テルマ】だ。

 それぞれの世界で異なった性質の【テルマ】を身に着ける。

「基本は放出系だな。炎の方は操作系も入ってたからおそらく序列入り。まぁ、言って八十番台だろ。操作がうまく扱えてなかったし」

「そうね。ちなみに序列入りは正解。序列八五位、二年の伊刈竜司。八十番台も正解ね」

「ありがと。それより、そこの木陰に居る奴は出て来ねぇの?」

「さすが。出て来ていいよ」

 水兎が呼ぶと木陰から一人の少女が現れた。

 ミディアムの黒髪。柔らかめのストレートだが丸みがある。手入れが行き届いた綺麗な髪だ。スタイルも良い、水兎よりも背は低く、顔も綺麗だ。

「初めまして、能瀬奏良、先輩。噂はかねがね伺っております。私は学生の部地界序列六位、水無月(みなづき)万里(ばんり)と言います。よろしくお願いします」

「成程、君があの期待の六番ちゃんね。よろしく、知ってたみたいだけど、一応自己紹介ね。地界序列ランク外、能瀬奏良だ、よろしく」

「………あの」

「何だ?」

 目を細めて万里は奏良を睨み付けた。

「『六番』ってなんですか?」

「いや、六位だし、六月だし。ほら、水無月って六月のことだろ。あと、万里の『バン』を取って、『六番』」

「やめてください!」

「別にいいじゃん。『万里』だと男だか世界遺産だか距離だが分からないだろ?だから、『六番』と、分かりやすく」

「私と能瀬先輩しか分からないじゃないですか!」

「水兎もわかるぞ?」

「三木原先輩はそんな嫌がらせはしません!」

「いや、水兎は意外とSだから」

「殺すわよ」

 背後から途轍もない殺気を感じ奏良は口を慎んだ。

「ところで能瀬先輩、見たところひとりのようですが…………パートナーはいないのですか?」

「俺と組んでくれる酔狂な奴が居たら、困らないのに」

「居ないんですね」

「………」

 図星。

「そ、そんな事より」

「逸らした」

「逸らしましたね」

「うるさい。お前らは俺と協定を結びたいんだろ?」

「えぇ、そう。その為に駆けつけたのだから」

「冗談。近くに反応があったプレイヤーだったから刈りに来たんだろ?偶然、俺だったからラッキーだったってことだ」

「そうね。でも、アナタだと分かったから助けた。それも事実よ」

「そうだな。で、協定内容は?」

「奏良はいつも通り【宝珠】を見つける。それまで、私たちが護衛に着くわ。そして、見つけた後、その【宝珠】を渡してほしいの」

「成程、お互い出場権取れてウィンウィンってことだな。六番もそれでいいか?」

「はい、待機中に話しは付いています。あと、『六番』はやめてください」

 お互いの利害が一致したため、協定は成立した。

 奏良はデバイスを取り出して、空中ディスプレイとして空中に浮きでした。

 浮き出したディスプレイの画面には『協定受諾許可証』とある。

「俺は書いておいたから、後はお前らが書くだけで協定成立だ」

「分かったわ」

 そう言って水兎は署名欄に名前を書いた。

「あの、能瀬先輩」

「何だ?」

「いつ協定内容書いたんですか?」

 この『協定受諾許可証』は学園が発行しているもので、本大会でも採用されているものでもある。

 これの内容は、協定内容を書く欄、『上記を了承し、これを破ることをしない』と言う注意書き、そして署名欄。

 だが、奏良が二人の前に出した『協定受諾許可証』にはすでに水兎が言った協定内容が書かれてあったのだ。

「まぁ、大体予想できてたからな。時短だよ、時短」

 飄々としながら奏良は答えるが、こんなことは普通できることではない。

 たとえ、奏良と水兎が幼馴染だからと言って気心知れた仲だとしても、他人の考えを完璧に読み解くことは難しい。

「さすが【探る(ソナー)】と呼ばれるだけはありますね」

「まぁな。さて、行くか」

「行く?もう?」

 歩き出そうとする奏良に水兎は咄嗟に聞き返した。

「あぁ、それこそ待機中に解決した。まぁ、付いて来な。必ず、あるから」


  *


「一つ、聞いていいですか?」

 マップを広げながら迷わず歩く奏良に万里が質問した。

「何だ?」

「能瀬先輩はどうして【探る(ソナー)】と呼ばれているのですか?」

「そうだなぁ……」

 万里の質問に悩むように口を押えた。

「理由は三つあるけど、二つ目までなら教えてやるよ」

「三つ目は教えられないのですか?」

「教えてもいいけど、これは俺の【テルマ】と関わって来るかなぁ。そっちも自分の【テルマ】を話すなら別にいいけど」

「二つまででいいです」

 【テルマ】には幾つかのリスクがある。

 その一つが発動条件。

 【テルマ】によって、その発動条件が弱点にもなる為、余程の信頼がない限り教えてもらうことはない。

「OK。じゃあ、一つ目。俺が【宝珠】探しのプロだから」

 ドヤ顔で語る奏良。

「そうなんですか?」

 この質問は万里の隣りを歩く水兎に向けたものだ。

「えぇ、悔しいことにね。ろ……水無月さんは奏良の過去の月末ASGの戦績を知ってる?」

「『六番』といいかけましたね。……能瀬先輩の戦績は知りませんが?」

「奏良の戦績を言うと、出場数は本大会以外の月末ASGすべてに参加し、そのすべてで《ファーストコンタクト賞》を取ってるわ」

 ASGの大会には優勝以外に二つの賞が存在する。

 一つは、大会内で一番の活躍をした者に贈られる《MVP賞》。

 もう一つは、【宝珠】を最初に探し当てた者に贈られる《ファーストコンタクト賞》だ。

 優勝グループとこの二つの賞に当て嵌まった者には賞金が贈られる。

「ちょっと待ってください!月末大会は年に9回あります。その9回すべてで《ファーストコンタクト賞》を取ってるんですか!?」

「先月も合わせると十連続だな」

 簡単に聞こえるようだが、【宝珠】を見つけることはかなり難しいのだ。

 トレジャールールを採用しているが、このルールをクリアした大会は過去五〇〇年間すべて合わせても数えれるほどしかない。

 最近、詳しく言えば三年前に【ソナー】が開発されてようやく【宝珠】発見率が上がってきたほどだ。

 つまり、それまではほぼ手探りで【宝珠】を探していたのだから、見つからないだろう。

 それに加えて、大会出場者は血の気の多い連中が大半だ。

 奏良はASGの醍醐味はこのトレジャールールだと考えている。

 だが、この考えはあまりにも少数派なのだ。

「どうして、そんな簡単に【宝珠】を発見できるのですか?」

「【宝珠】の隠し場所は分かりやすい。トレジャールールは【宝珠】が発見されて初めて成立する。森の中に適当にポイってしただけなら、運が良くない限り絶対見つけることは出来ない。けど、こんなルールを作っておいてそんなことするわけないだろ?だから、【宝珠】の隠し場所には、必ず、ヒントが存在する」

「ヒントですか?」

「そう、それをもとに【宝珠】の場所を探り当てるんだよ。さて、説明している間に到着したみたいだな」

 奏良が足を止める。その横に並ぶように水兎と万里が立つ。

 目の前には崩れた遺跡があった。

「こんなものが」

「マップにも載ってねぇからな」

「でも、能瀬先輩は遺跡がここにあるって知ってたんですか?」

「知る訳ねぇだろ。ただ、ヒントを読み取っただけだ」

 そう言って、奏良はフィールドの縮小マップを見せた。

「北西と南東に木が晴れた広場があるだろ」

「ありますね」

「まず、これらを点とおいて、点と点を結ぶ」

 奏良はデスプレイに鉛筆機能を使って線を書いた。

「このフィールドは円の形をしていて二時と十時のところに巨木がある。だから、この巨木同士を線で結ぶ。すると、線①と線②が重なる部分が出て来る」

「本当だ」

「だから、この線の重なるところに何かあるんじゃないか?と言う考えに行き着くわけだ。分かったか?」

「すごいですね、先輩」

「どこが?今回は簡単だ。初歩の『し』にも達しないほどの低レベルのヒントだ」

 それでも凄い、と万里は心で呟く。

 マップの拡大図には自分の場所と出会ったプレイヤーの位置が記されるものとなっている。

 だが、フィールド全体を写す縮小図ではこの機能はない。

 メリットがない縮小図。

 それを使う者はいない。奏良以外は。

「さて、『どうしてここに来たのか』と『俺が【探る(ソナー)】と呼ばれる一つ目の理由』を説明ところで、『俺が【探る(ソナー)】と呼ばれる二つ目の理由』に入りたいと思う」

「まだあるのですか?」

「おいおい、弱音を吐くのはまだ早いぞ、ゼクス!」

「いや、吐いてませんけど……あと、ドイツ語でも言っても無駄ですから。こう見えて帰国子女ですので」

 ゼクス=6だ。

「二つ目の理由は、俺が【ソナー】を設計したからだ」

「………え?エェッ!?」

 奏良の言葉に万里は吃驚する。

「【ソナー】って能瀬先輩が作ったんですか!」

「俺は設計しただけ。作ったのは機界人だ」

「設計と製作って何か違いがあるんですか?」

「大きく違う。設計は機械製作や土木工事の際に仕上がりや構造を図面に表すことを言う。対して製作はモノを作ることを言うからな」

 奏良の説明に万里は納得した。

「でも、【ソナー】ってかなり高度な設計じゃないですか?ほら、【宝珠】の探索に使うあの磁場とか……」

「ちなみにその特殊磁場を見つけたのも奏良よ」

「………本当、なんですか?」

 水兎が言ったことに冷静に奏良に聞き返すが心中狼狽している。

「なぁ六番、お前は【オーロラの(セラス・ポルタ)】に関する一般論を知ってるか?」

「は、はい。巨大な太陽嵐が発生し、そこから発生した超強力な電磁場が地球上の空間を歪め、異次元の扉を開いた。一般ではそうなってますよね」

「あぁ、その通り。だが、太陽嵐にそれだけのエネルギーがあるとは考えられない。太陽嵐が原因で起きるのは精々停電程度。酷くて、強力な放射線による被曝だろう。これは俺の両親の発言だ」

「奏良の両親は科学者なの」

 補足として水兎が奏良の両親の事を話した。

「親の研究は【オーロラの(セラス・ポルタ)】の原因についてだ。だから、そう言う詳しいところまで知ってたんだ。よく両親の【オーロラの(セラス・ポルタ)】に関する研究書を読んでたから」

「な、成程」

「で、ここからが本題」

 奏良は人差し指を立てた。

「俺は中学までは親に付いて行って多くの研究所や遺跡を回ってたんだ。そして、あるところであることに疑問を抱いたんだ」

「疑問ですか?」

「大和の前方後円墳では【テルマ】が使えないことについてだ」

「え?そんな事ですか?」

 大和にある遺跡では【テルマ】が使えなくなることは世界中の人が知っていることだ。

 他にも、世界遺産をして設定されているような遺跡や建造物では決まって【テルマ】が使えなくなるのだ。

「じゃあ、原因を知ってるか?」

「そ、それは……」

 万里が口ごもる。

 遺跡での【テルマ】の発動不全、これについては最近まで原因が不明だったし、誰も知ろうとは思わなかった。

そもそも、【テルマ】自体も謎に包まれている。

【テルマ】=超能力。

全ての人間がそれで納得してしまったからだ。

「俺はな、遺跡で【テルマ】が使えなくなることと【オーロラの(セラス・ポルタ)】は繋がってると思うんだ」

「でも、何を根拠に?」

「知ってるか?【宝珠】はこの遺跡の欠片で出来てるって」

「え、そうなんですか?でも、【宝珠】を持ってても能力が使えてますよね?」

「あぁ、かなり微弱になってるからな。まぁ、知らなくても仕方ない。これを発見したのも俺だしな」

「それも先輩が見つけたのですか?」

「家に電磁波を測る機械があってな、それを使って遺跡と【宝珠】の電磁波を測ったら同じ波長の電磁波を放ってることが分かったんだ。でも、電磁波であることは分かったんだが、この世で観測されたどの電磁波とも違う波長をしている。そして、もう一つこれらと同じ波長の電磁波を放つものがあるんだ」

「それって、一体何ですか?」

「【テルマ】だ」

「「ッ!?」」

 この答えには水兎も万里も目を見開いた。

「どの世界の人間も【テルマ】を発動するときに未知の電磁波を放ってる。これは推測だが、遺跡で【テルマ】が使えないのは、お互いの電磁波が共鳴したか、相殺したかで【テルマ】が打ち消されたからだと考えてる。よって、俺はこの電磁波を『テルマ線』と付けた。更に、これは一つの仮説を示している」

「仮説……」

「【テルマ】こそが【オーロラの(セラス・ポルタ)】の原因。という、仮説だ」

「「……………」」

 奏良の話を聞いていた二人は静かに息を呑んだ。

「まぁ、これを証明するには、俺の知識が足んないから無理だけど。でも、その『テルマ線』を応用して【ソナー】を設計したんだ。【ソナー】は元々人が流している『テルマ線』を【ソナー】を会して広範囲に伝える。これによって、【宝珠】の放つ微弱な『テルマ線』と共鳴させて人工的に『テルマ不干渉力場』を作り出すんだ」

「また新しい単語が……先輩、『テルマ不干渉力場』とは」

「あぁ、テルマが使えなくなる場の事だ。ま、せいぜい半径数m程度だ」

 話を終えたようで、奏良は例の【ソナー】を取り出した。

「なんだか、先輩だけ次元が違うみたいです」

「まぁ、【探る(ソナー)】と呼ばれる三つの理由が、全員が俺を避ける理由にもなってるんだがな」

「確かに、避けたくなるのもわかる気がします」

「六番ちゃんは友達でいてくれよな」

「次、『六番』と言ったら避けます、全力で」

「えぇ~。じゃあ、万里でいいか?」

「『六番』以外なら何でも構いません」

「分かった。じゃあ、万里、今から『テルマ不干渉力場』を作ってやるよ」

 奏良は【ソナー】のボタンを押す。

 すると、広範囲に電磁波『テルマ線』を放つ。

「あそこか」

「【ソナー】は何も反応してませんけど」

「【ソナー】では『テルマ線』を放つことしかできない。『テルマ不干渉力場』を感知するところはまだ開発中らしい。だけどな、【ソナー】で放つ『テルマ線』は俺の【テルマ】から発せられてる。自分で放った『テルマ線』を自分で感知できない訳がない。どこかで『テルマ線』が途切れれば、そこに【宝珠】があることが解かる」

 奏良は遺跡の壁を触り、出っ張っている煉瓦を一つ抜き取った。

「ビンゴだ」

 奏良はその穴の中から、【宝珠】を取り出した。

「本当にあった……」

 ややあって、奏良のデバイスにメールが届く。

 内容は『【宝珠】発見により 能瀬奏良 に月末ASGの大会出場権を授与する』と言うものだ。

「よし!じゃあ、後はお前らだな」

「任せなさい」

 水兎は奏良から【宝珠】を受け取り、腰に提げているホルダーバッグに【宝珠】をしまう。

「三木原先輩、私も……」

「大丈夫よ。水無月さんは奏良と一緒に居て。多分、水無月さんのためになるから」

「おいおい、俺は無償でレクチャーしてやるほど金に余裕はねぇぞ」

「三木原先輩、私はこれでも序列六位です。能瀬先輩に教わるようなことは……」

「まだたくさんあるわ。それじゃあ、行ってくる」

 そう言うと水兎は【テルマ】を発動し、地面に触れた。

「合成:(アルマトゥーラ)

 水兎の魔力が地面に流れ込み、周囲の地面にが震え土煙を上げる。

 刹那、【ソナー】がピコーンと鳴る。

「来たみたいだな。あと八百mぐらいだぜ」

 【テルマ】、もとい『テルマ線』の影響は身体能力にも及ぶ。ASGに参加するような人間は一キロも十数秒で走り切ることができる。

 つまり――――――

「見つけたぞ、能瀬奏良!」

 【ソナー】の反応から数秒、敵プレイヤー二人が姿を現した。

「俺は【宝珠】持ってねぇぜ」

「うるさい!貴様から直接出場権を奪う!」

「えっ!?そんなことができるんですか!」

「あぁ、お前って先月は参加してねぇんだよな?出来るぜ。だから、水兎が俺に付いてろって言ったんだろ?」

「そうだったんですか?」

「けど、アイツらは終わりだ。水兎の準備が出来たからな」

「え?」

 万里は水兎が居るであろう土煙を見つめた。

「合成:(ピストーラ)弾丸(グロブス・アーエール)

 土煙の中から空気の弾丸が敵二人の校章を貫いた。

 放った瞬間の風により煙が晴れる。

「勘違いしているわ。奏良、アナタは大会内で倒したいだけよ。だから、ここで脱落してもらうと困るのよ」

 奏良を睨み付ける水兎は全身に鎧を纏っていた。

「これでも戦い慣れしてるぜ」

「そうね。アナタはそう簡単に負けないわね。水無月さん、奏良を頼むわ」

「はい」

 万里は短く返事をする。

 それを聞くと水兎は前を向いた。

「じゃあ、少し台座に置いて来るわ。合成:(カルゼウアズ)

 水兎の足に渦巻く風が巻き付く。

 そして、跳び上がると空気を蹴り台座のある場所を目指した。

「三木原先輩の【テルマ】って何ですか?」

「何で俺に聞くんだ?まぁ、良いけど。後でアイツ本人からも聞けよ」

 奏良は手頃な岩に腰かけた。

「まぁ、一応のためだ。万里、お前は各世界の【テルマ】の特徴を知ってるか?」

「バカにしてるんですか?」

「念の為だよ。一応、説明してくれ」

 万里は「はぁ……」とため息をついて、奏良の眼を見て答えた。

「天界人の【テルマ】は憑依系。霊体を憑依させその霊の持つ力を使うというものです。

 幻界人の【テルマ】は変化系。体の細胞を別の性質に変えるものです。

 機界人の【テルマ】は具現化系。様々な物を具現化するものです。ただし、形あるもの限定です。

 獣界人の【テルマ】は強化系。身体能力やモノの性質を強化するものです。

 水界人の【テルマ】は探査・操作系。特定の媒体を使って探査・操作するものです。

 冥界人の【テルマ】は放出系。様々な物を生み出し放出するものです。ただし、形ないもの限定です。

 そして、地界人の【テルマ】は万能系。どの系統の【テルマ】でも使うことができる。

 こんなところですか?」

「まぁ、そんなところだな。加えて説明するなら、地界人の万能系は各系統の【テルマ】を組み合わせることができる。ただし、どの系統の【テルマ】も使える分、の【テルマ】はの精度が落ちる。レベルで言うなら、各世界の人間はその特性の【テルマ】をレベル10まで上げれるとしたら、地界人の万能系はそれぞれの系統をレベル5までしか上げれない」

「最初に能瀬先輩を襲っていた生徒を例に上げたら、放出系をベースとして操作系のレベルも上げていましたね」

「アレは中途半端だ。ベースとしてる放出系でもレベル3程度、操作系はレベル2、他はレベル1か0ってところだろ」

「そこまで分かるものなんですか?」

「俺の【テルマ】的に普通の人より分析能力が必要なだけだ。さて、ここから水兎の【テルマ】の話に入る」

 万里は頷いて奏良の顔を見つめる。

「水兎の【テルマ】は変化系をベースとして具現化系、、放出系をも上げている。言うなれば、変化+具現化放出型ってところかな。万里、水兎の四肢が何に変化していたか分かるか?」

「え、えっと……すいません、分かりません」

「まぁ、分からなくても仕方ない。本来、存在しない物質だからな」

「存在しない物質?」

「万里は魔法の存在を信じているか?」

「え?えっと、【テルマ】のような超常能力があるのなら魔法も存在するのでは……」

「成程、俺と同じような考えだな。ちなみに俺は魔法の存在を信じていない」

「そうなんですか。で、それが一体なんだと言うんですか?」

「俺とお前の考えには共通点があり、その共通点は【テルマ】と魔法を別として考えていることだ」

 万里は頭に疑問符を浮かべながら話を聞く。

「水兎は【テルマ】こそ魔法だと考えている。ここまで、言ったら分かるよな?」

「まさか、三木原先輩は細胞を魔力に変えているのですか?」

「そう言う事だ。ちなみにアイツの具現化系は媒体を必要とする錬金術型の具現化系。水兎が武器を作るとき地面に触れてただろ。アレは地面にある《鉄》に魔力を通して使って武器を作っているからだ。放出系も似たようなもんだ。空気中に含まれている気体に魔力を通して使っている」

「かなり応用力のある【テルマ】ですね」

 万里は腕を組む。

 無意識だろうが程よく育ったアレが強調される。

 奏良は考えるフリをし、まじまじとそれを見つめている。

「あの能瀬先輩」

「Dだな」

「何がですか?」

「うん、なんでもねぇよ。で、何だ?」

「先輩の【テルマ】はどういうものなんですか?」

「教えるわけねぇだろ?今は味方でも、いずれ敵になるんだしな」

「そんなこと言ってるとここで見捨てますよ?」

「はぁ……。あぁ、わかったよ。じゃあ、お互いに【テルマ】を言い合おうぜ。もちろん言い出したお前から説明してくれんだろ?」

「そうですね………分かりました。私の【テルマ】は具現化系をベースとして操作系と強化系を上げています。先輩風に言うと具現化+操作強化型と言ったところでしょうか。はい、先輩の番ですよ」

「俺の【テルマ】は、そうだな………超万能型って言った方がいいかな」

「しっかり説明してください」

 ジト目で奏良を睨み付ける。

「えっとだなぁ……憑依系レベル5」

「憑依系ベースですか?珍しいですね」

「残りの変化、具現化、強化、探査・操作、放出がレベル4だ」

「はぁっ!?そんなのあり得るんですか!」

 【テルマ】は万能ではない。

 強い能力は、それだけ強いリスクも覆う。

「あり得るぜ。ただし、発動条件がかなり難しいけどな」

「へぇー。どんな条件なんですか?」

「全部聞く気だろ!さすがにそこまでは教えねぇよ!」

「私の条件を教えますから」

「お前の条件は何個あんの?」

「一個ですけど、結構重た目に設定してます」

「あっそ、俺は四つだ。達成の難易度でレベルを付けるならレベル1~4まである。だから、お前が条件を一つ話すなら俺が条件の一つを話してやるよ。ちなみに条件レベル4はかなり達成困難だ。場合によっては不可能に近い。そこまでは言っておいてやる。万里に対して【テルマ】を発動しようとしたときレベル4はまだ達成していない」

「そうですか。……………私の【テルマ】の発動条件は自分の血を使う事です。流す量によって作るものの精度や大きさが上がってきます。では、先輩も一つ教えてください」

「レベルは?」

「そうですね。では、レベル1を教えてください」

「ほう、理由は?」

「レベル4はまだ達成されていない、と言っていました。レベルを設定するぐらいなのですから、順序が決まっていると想定できます。となれば、レベル1の条件をクリアさせなければレベル2・3・4も芋ずる式にクリアされないことになります。だから、対策としてレベル1を教えてください」

 万里は得意げに笑みを浮かべた。

 一方、奏良は眉を眉間に集めた。

「はぁ、後悔するなよ」

「図星ですね。さぁ、教えてください」

「はぁ……条件レベル1は『対象となる人物と会話すること』だ」

「………え?それがレベル1ですか?」

「あぁ……。ちなみにレベル2もクリアしている。レベル3は△ってところだな」

「え、それ、本当なんですか?」

「言っただろ、後悔するなよ、って」

 万里は膝から崩れて四つん這いになった。

「まぁ、良い線は行ってたぜ。確かに条件で順序が必要だし、一つでもクリアしていなかったら発動できないしな」

「なんだか、割に合いません」

「何言ってんだ。約束は約束。俺に得になる情報をくれるなら別だが」

 万里は口ごもる。

「せ、せめて、クリアしているレベル2も教えてください」

「そうだなぁ………まぁ、仕方ない。貸しにしといてやる。言いふらすなよ。レベル2は人に知れたらアウトなやつなんだから」

「分かりました。このことは他言しません」

「約束だぜ。レベル2を話すのはお前が初めてなんだから」

「そうなんですか?」

「まぁな、水兎にも教えてない。アイツは喋りそうだし」

 奏良は少し思いつめたような表情をつくるが、すぐに元に戻した。

「レベル3は達成こそ割と難しいけど、知れたところで対処が難しいしな。あっ、レベル3は教えねぇからな」

「はい、分かってます」

「お前は約束を守る奴だとは思ってるけど、もし、レベル2が人に知れたらお前の所為だからな」

「は、はい……」

 威嚇するように鋭い眼で万里を睨み、彼女はかなり縮こまる。

「じゃあ、まずこれに名前を書け」

 奏良はデバイスから一枚の書類を浮かび出した。

「これは?」

「誓約書だ。ほれ」

 奏良は万里にタッチペンを渡す。そして、万里は名前を書いた。

「よし、耳を寄せろ。小声で言う。質問は受け付けないし、レベル2を口に出すなよ」

 万里は奏良に顔を近づけ耳を寄せた。

「条件レベル2は『俺が質問し、対象人物がその質問に答えること』だ」

 万里は顔を離すと、口に手を当てる。

「あの時ですね」

「あぁ、あの時だ」

 あの時、とは奏良が万里に【テルマ】の種類を質問した時の事だ。

「虎視眈々ですね。油断も隙もありません」

「嫌われる理由、その三だ」

「【探る(ソナー)】と呼ばれる理由、その3でもあるんですか?」

「う~ん、惜しいかな」

 奏良は立ち上がった。

「さて、あと何分待てばいいのか?」

「さぁ、知りません。でも、もうすぐでしょう。それまで、物騒なお客さんを接待しながら待つとしましょう」

 【ソナー】からアラームが鳴り響く。

 一キロ圏内に敵プレイヤーが入ってきたのだ。

「皮肉がうまいな。さすが六番ちゃんだ」

「それは言わない約束ですよね?これで約束破られても文句言えないですよ」

 お互い味方同士で皮肉を言い合う。

 そして――――――

「能瀬奏良!」

 人数は8人。4組で協定を結んだのだろう。

「多分それは無駄な協定だぜ」

「先輩、余計なことを言わないでください。見てください憤っているではありませんか。たとえ本当の事だとしてもそこはそっとしておくのがマナーです」

「お前も大概だぜ」

 八人は奏良と万里を取り囲んだ。

「四・四で分けるか?」

「大丈夫なんですか?【テルマ】、使えないんじゃ?」

「コイツら程度なら使わなくても大丈夫だ。地界人は【テルマ】の使い方下手だからな」

「それって、私も先輩自身もディスってませんか?」

「強いから六位なんだろ?それに俺の【テルマ】は元々戦闘向けじゃないんだよ」

「そうですか。なら、私が八で先輩が零でもいいですよ」

「先輩としての威厳を保たせてくれ」

「分かりました!」

 万里は腰からナイフを取り出し、右手親指の腹を切る。

 親指を中に入れ、強く拳を握ると赤い紅い血液が地面に垂れ落ちる。

「さあ、私が主です。優雅に踊りましょう。〔大地の騎士(ミネラル=ゴーレム)〕!」

 地面に浸透した血が線を引くように地面を這う。

「この【テルマ】は!」

 そして、地面を這う血の動きが止まると、その終点で地面が盛り上がる。

「《ストーン=ゴーレム》」

 隆起した土が人の形を成していく。

 数は十。サイズは人間と同程度だ。

「四人なら多いでしょうが」

「その【テルマ】、もしかして一般の部の地界序列三位 イギリスのアナスタシア・ルビー・スミスをモデルとしたものだろ」

「さすがですね、先輩。私は去年までイギリスに居てアナスタシア先生の元で修行していました」

 一般の部地界序列三位 【鮮血の魔女(ブラッティ・メアリー)】アナスタシア・ルビー・スミス。

 その【テルマ】は自分の血を地面に流し、その血が流れた場所から武器を無数に作り出すと言うもの。

「成程、それで【テルマ】が似てるわけか。【テルマ】の特色は師から弟子に受け継がれるものだからな」

 何も【テルマ】は生まれついて持っている先天的なものではない。

 【テルマ】の能力はその個人の生活によって変わるし、ひいては自分の意思で創られていくものでもある。

「はい。ですが、まだ操作系が未熟で……。先輩風に言うと、具現化系レベル5・強化系レベル3・操作系レベル3と言ったところです」

「確かに、レベル3の操作系では操作するためのコントローラーが必要だな」

 地界人の操作系はモノを操作するためにコントローラーを必要とするのが殆どだ。

 水界人の操作系【テルマ】になって来ると、目で見たモノを操作することも可能だし、探査系と連携して目で見ていないものでも操作することもできる。

「だから、まだ私はこのゴーレムたちと一緒に戦うことはできません。ですので、今は指揮者として戦います。援護お願いします」

「お前が守る側になってほしいだけどな」

 万里は左手で指揮棒を構え、ゴーレムに指示を出す。

「さぁ、前方の四人が標的です。掛かりなさい!」

 ゴーレムが動く。

「何だ!早い!」

 ゴーレムの一体が敵一人を殴り飛ばした。

「グワッ!かなり重い。気を付けろ!かなりパワーもあるぞ」

 強化系でゴーレムの強度を上げているのだろう。

 万里は次々と指揮し、十体のゴーレムをうまく動かす。

だが、どちらもまだレベル3だ。

「一斉砲撃だ!数で押す!」

 四人は全員放出系がベースらしい。

 様々な物質の砲弾が生み出され、十体のゴーレムに襲う。

 衝撃でゴーレムにヒビが入る。

「仕方ありません。ゴーレム!リベレーション:ユニオン!」

 砲弾に襲われる十体のゴーレムが一つに合わさる。

 それにより先の十倍の大きさのゴーレムが形成される。

「やっぱり一体の方が動かしやすいですね」

「じゃあ、何で最初から一体にしないんだよ」

「仕方ないですよ。これはかなり力を使いますし、一気にこの大きさにするのは無理があるんですよ。血をいっぱい使うし、これだったら少しで大きなものが出来るんです」

「不便だな」

「先輩には言われたくありません」

 ごもっともだ。

 万里は指揮棒を上げた。

「行きます!《破壊の鎚(ジャイアント=クラッシャー)》ッ!」

 ゴーレムが拳を上げると一振りで四人の生徒を殴り飛ばしてしまった。

 【ソナー】から反応が四つ消えた。

 おそらくあの一撃で校章が壊れたのだろう。

 ASGに於いて、プレイヤーを倒す方法には三つある。

 一つ目は単純に敵プレイヤーを気絶させること、二つ目はフリーズコール、三つ目は校章を壊すことだ。

 界立学園に居るものにはその学園の校章が配られる。

 この校章はデバイスと連動しており、校章が壊されると脱落したと見なされ、強制転移が施行させる。。

 気絶させることも手で、相手を倒して一分以内で立ち上がることができなければ脱落となる。

 フリーズコールは至近距離で自身の優勢が保たれている場合、相手への【テルマ】での怪我を避けるための行為。コールされた相手は校章の色を失い脱落扱いとされる。

だが、これらには強制転移が行われないため【ゾンビ】発生のリスクがある。

 【ゾンビ】とは、脱落したにも関わらずASGに参加し続ける者の事だ。表向き脱落しているため【ソナー】には反応しない。ASGの背信行為であり、一度でも行った者は学園によって対処される。学園で対処の違いがあるが、大抵は退学処分になる。

 話が逸れた。

 万里の作り出したゴーレムが土に戻る。

「私は四人倒しました。先輩のお手並み拝見です」

「あぁ、期待してろ!」

 奏良は後ろで腕を組む万里に向けて親指を立てた。

「心配するな!能瀬は【テルマ】が使えない!」

「そんなもん関係ないな。【テルマ】の『テ』の字も使いこなせてない奴には負ける気しない。アンタらなんざコレとコレだけで十分だ」

 奏良が手に持っているモノ、右手に【ソナー】、左手にはデバイスから取り出した刀だ。

 奏良は刀を右の腰に差し、抜刀する。

「アンタら、俺とやり合うの初めてだな?なら、一つだけ予言でもしてやろう。『アンタらは【テルマ】を使えず、戸惑っている間に倒される』」

「ふざけるなッ!この落ちこぼれがッ!」

 四人のうちの一人が掌を向ける。

 それに呼応し、他の三人も奏良に掌を向けた。

「【テルマ】を使えない奴なんか、雑魚同然なんだよッ!」

「確かにそうだ。なら、使えない奴同士ならどうだろうな」

 四人のプレイヤーが【テルマ】を発動しようと力を込める。

 刹那――――――

「ッ!?何故だッ!?」

 四人ともが豆鉄砲でも喰らったように狼狽えた。

「能瀬ッ!貴様、何をしたッ!」

「何って?【ソナー】使っただけだぜ?」

 四人のプレイヤーは【テルマ】が発動できなかった。

 確かに発動条件は満たしてる。なのにどうして?

 そんなことを考えていると、丸わかりである。

「ほら、予言通り」

 奏良は四人のうちの一人に一瞬で詰め寄った。

「ナッ!」

「そんな反応してる暇があったら――――――」

 奏良は相手の顎を思いっきり蹴り上げる。

 そのまま、浮き上がるプレイヤーの腹部に回し蹴りを食らわした。

「避ける準備しておけ」

 吹き飛ぶプレイヤーは強制転移が執行され、その場から消えた。

「はい!呆然と突っ立てるんじゃねぇよ!」

 蹴り上げた右足地面に付け、連続的に右足を軸に反時計回りで一回転。

 消えたプレイヤーをただ見ていた二人のプレイヤーの校章を一閃で斬り捨てた。そして、消えた。

「クッ、クソォォォッ!」

 奏良から距離を取って、もう一度【テルマ】を発動しようと手を翳す。

 それを見越して、奏良は【ソナー】のボタンを押した。

 またしても発動できなかった。

「一体、何が起きてるんだッ!」

「アンタには一生分かんねぇよ。その視野の狭い眼じゃあな」

 七連斬!

 奏良は残った一人のプレイヤーも校章ごと斬り伏せた。

 刀に着いた血を払い鞘に納める。

 同時に最後の一人も強制転移で消えた。

「……………………………」

 万里は呆然と奏良の行った殲滅を見つめていた。

「ん?どうした?」

「先輩……地界序列何位ですか?」

「だから、ランク外」

「ウソです!絶対、私より強いじゃないですか!」

「まぁ、おそらく?十中八九?」

「誤魔化さないでください!」

 あまりの事に万里も動揺は隠せなかった。

「確かに強いとは思うぜ、お前より。でも、今の地界は【テルマ】至上主義だから、大会の実績や戦闘センスなんかは二の次で考えられてんだよ」

「な、なるほど。【テルマ】の発動条件が難しい能瀬先輩では序列に加われない、という事ですか?」

「そう言う事だな」

 奏良は腕を組んでそう頷く。

「はぁ~、なんだか納得いきませんが……今は気にしません。それより、さっきの【テルマ】の相殺はどうやったのですか?」

「『テルマ不干渉力場』」

 一言で済ませた。

「意味が分かりません。しっかり分かるように教えてください」

「仕方ないな。【テルマ】の発動には発動条件をクリアする必要がある。分かるな?」

「………その手には引っかかりません」

「無駄だから」

 奏良の第二条件を気にしてか、その質問には万里は答えなかった。

 もうクリアしているから意味はない。

 が、奏良は話を進めた。

「【テルマ】に発動条件が必要なのには二つの理由がある。一つは『戒め』的な要因。強力な力を使うには何事にも代償が必要だ。まぁ、世の理だな、深く考えるな。その理論は他の研究者に任せている。そして、もう一つが『テルマ線』の流動」

「『テルマ線』の流動、ですか?」

「あぁ、発動条件は『テルマ線』を体のある部位に集めるための所作の事をでもある。万里の【テルマ】で例えるなら血に、さっきの奴らで言うなら掌。人によって『テルマ線』を集める部位は異なる」

「なるほど」

 奏良の説明に頷く。

「よし、ここから本題。【ソナー】の基本使用は、体内にある『テルマ線』を蓄積・放出だ。そして、放出させた『テルマ線』を【宝珠】が放つ『テルマ線』と反応させ『テルマ不干渉力場』を作り出す。て、ことはだ。【テルマ】を発動しようと手に集めた『テルマ線』と【ソナー】から放出させた『テルマ線』を反応させるとどうなると思う?」

「あっ!同じく『テルマ不干渉力場』が発生する!」

「ご明察だ」

 奏良は万里に向けグッジョブとする。

「そんな使い方をすれば、ほとんど無敵じゃないですか!」

「ところがぎっちょん!そうでもないんだな、これが」

「どうしてですか?」

「これが出来るのは『テルマ線』の流動が見分けやすい放出系、具現化系、探査・操作系に限られる。あとの強化系、変化系、憑依系は『テルマ線』の流動が見分けずらいからこの方法が使えないんだよ」

「そう、なんですか。あの能瀬先輩、それって私でも出来ますか?」

「出来るけど、難しいぜ。相手がどこに『テルマ線』を集めているかを正確に把握しなきゃいけないし、タイミングもちゃんと合わせないといけないしな」

「タイミング?」

「早すぎるとダメだ。部位にある程度の『テルマ線』が集まってないと反応しないからな。遅すぎてもダメだ。【テルマ】が発動されるといくら『テルマ不干渉力場』を作っても反応しないからな。発動する直前を狙わないといけないんだが、【ソナー】から放たれる『テルマ線』の速さも計算しないといけないからな。これは人によって速さが違うから、自分でコツを掴まないといけないし……」

「簡潔に言ってください。出来れば十文字以内に」

「おまえじゃムリだ」

 八文字。十文字以内だ。

「ハッキリ言いすぎです!歯に衣着せてください!」

「着せてたじゃん。それを万里が十文字でまとめろって言うから、簡潔にいってやったんだろ?」

「じゃあ、何で先輩は出来るんですか?」

「まぁ、俺って天才だから?」

「誇大妄想ですか?」

「事実だが。俺の異業を一から説明してやろうか?」

「厭味ですよ。素直に受け取ってください」

 不貞腐れたようで、万里は頬を膨らませそっぽを向いた。

 万里がそっぽを向いたと同時にポケットのデバイスが震える。

 そして、上空の飛行船からアナウンスが響いた。


『しゅ~りょ~!たった今、放送席のデバイスに【宝珠】が台座に置かれたとメールが来ました。

これによって、五月末に開催される月末ASG学生の部に参加される地礼学園の代表が決まりました!今回、出場権を手にしたのは三木原水兎・水無月万里の学生の部地界序列一桁の強力ペアとこれで通算十一回目となる月末ASGの常連、十一回連続の《ファーストコンタクト賞》を狙う能瀬奏良に決定となりました!

なお、今回は二人一組となりますので、今週の金曜日までにこの二組はエントリーシートに記入をしてください!能瀬君!早くペアを見つけれるように努力してくださいねぇ!あいにく、ワタシは放送委員と新聞部で忙しいので無理ですか。

おっと、電話みたいですね。出たいと思います!はい、もしもし!』


「余計なお世話だぁ!」

「先輩、落ち着いてください。でも、彼女はホントの事を言ってますよ。天才、乙wwwですね」

「うるせぇよ!あ、おい、勝手に切ってんじゃねぇよ!」

 デバイスからツーツーと通話終了の音が鳴っている。


『はい、電話の向こうの人から八つ当たりを受けましたが、気にしません!

では、フィールドに残っている生徒には強制転移を執行します。その場に忘れ物をしないようにお願いします。それでは3…2…1…0、ゴー!』


 校章から光の粒子が放出され、奏良たちの体を包む。

 刹那、フィールドから全生徒が消えた。


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