一話χword:【オーロラの扉(セラス・ポルタ)】…七つの異世界を繋いだ超常現象の名称。今でも空に掛かって
今から約五〇〇年前、突如として七つの異界が繋がった。
彼らは全員がこう宣言する。
「我らこそがこの美しき地球の先住民だ」
と。
その七つの世界は層のようになっており、それぞれの世界で異なった文化と民族があった。
上から第一界域、第二界域、第三界域、第四界域、第五界域、第六界域、第七界域とある。
第一界域・天界。光が溢れており夜がない世界。そこに住む人たちは背中に翼を生やし、頭の上に輪っかが浮かんでいる。我々はここに住むものを『天界に暮らす者』天界人と呼ぶ。
第二界域・幻界。あらゆる伝説上の生物が暮らす世界。そこに住む者たちは幻獣から人の形に変わり生活している。我々はここに住むものを『幻界に暮らす者』幻界人と呼ぶ。
第三界域・機界。高度な科学文明で機械によって動く世界。そこに住む人は全てが感情を持ったアンドロイドなのである。我々はここに住むものを『機界に暮らす者』機界人と呼ぶ。
第四界域・地界。自然と科学が共存する世界。そこに住む者たちは様々な国・民族・文化が存在し、多くの動物と共存している。我々は『地界に暮らす者』地界人と名乗る。
第五界域・獣界。機界と真逆で豊かな自然のみの世界。そこに住む者たちは獣と人間が融合したような容姿をしている。我々はここに住むものを『獣界に暮らす者』獣界人と呼ぶ。
第六界域・水界。海と空気しか存在しない世界。そこに住む者たちは人間の姿と半魚人や人魚の姿に変わることが出来る。我々はここに住むものを『水界に暮らす者』水界人と呼ぶ。
第七界域・冥界。闇に包まれており朝がない世界。そこに住む人たちは角や蝙蝠のような翼を生やしている。我々はここに住むものを『冥界に暮らす者』冥界人と呼ぶ。
これらの世界が空に掛かるオーロラを会して繋がったのだ。
世間では、この現象を【オーロラの扉】と呼んでいる。
まったく捻りがないものだ。
とにかく、この七つの種族が相容れるという事はなく、それぞれの世界が戦争を始めようとしたのだ。
だが、そこに『待った』を掛けたのが地界人の代表、当時のアメリカ大統領だ。
我ら地界人はとにかく他の世界よりも劣っていたのだ。
天界人や冥界人のように魔法のような力が強いわけでもない。
幻界人や獣界人のように身体能力が優れているわけでもない。
機界人や水界人のように特別な環境で生きてるわけでもない。
その劣っていることを認めるのは、当時の地界では屈辱的だったに違いない。
しかし、ここで認めなければ地界が侵略され、冷遇されるのは目に見て明らかだった。
そこで地界が出した提案が三つ
〈一つ・争いは月に一度。一つ・死人を出さない争い。一つ・争いだけでなく他世界との交流も行う事〉
この三つを提案し、それは見事七つの世界での会議で可決されたのだ。
こうして、生まれた異世界間の争い(競技)こそがASG《Anotherworld Sorvival Game》。
読んで字のごとく、異世界間のサバイバルゲームだ。
*
界立 地礼学園。京都府に建てられたASG参加選手育成専門の学校。
アメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランスにも専門学校はあり、地界公認の学園は六校存在する。
中高大と一貫しており入学志望者は毎年一万を超えると言う。
その一万を超える中で千人しかとらないのだから、倍率十倍以上。かなり狭い門だ。
「あぁ…………」
そんな狭い門を潜ることの出来た千人の一人がこの男・能瀬奏良なのである。
彼は高校から編入して、今年で二年生になる。
「何で、今日に限ってこんな遅く起きるかなぁ………」
家から学校まで自転車を全力で漕いできたのだ。
しかもこの学園は山の麓辺りに建てられているので坂道も結構急なのである。
五月の中旬であるためか気温も四月の程よい気温よりも少し高めで、額からは汗が流れる。
「あぁ……………まだ膝振るえてるよ。はぁ、今月の食費が掛かってるって言うのに」
「こんなところで何してんの、奏良」
「ん?水兎……」
三木原水兎。奏良の幼馴染の少女。それ以外は特に記すことなし。
外見的特徴を話すなら、ブロンドの髪が全体的に肩に掛かる程度だが後ろ髪の一束のみが異常に長く、膝下具体まである。そしてワンポイントに白いカチューシャをしている。
奏良は声を掛けられたので気だるげな表情で振り向いた。
「何よ、その顔……」
「お向かいなんだから、起こしに来てくれよ。幼馴染だろ?」
「いやよ。てか、いつもは奏良の方が先に学校来てるじゃない。どうしたの今日は?」
「いや……夢を最後まで見ていたら起きるのが遅くなった」
「阿保でしょ?」
「阿保だな」
自分で肯定したら世話ない。
「そんなんで今日の《出場資格争奪戦》に出る気?てか、一人で出る気?」
「まぁ、出場権はもっといて損はないだろ?」
出場権とは、月末に行われるASGの出場資格のことである。
大会の開催場所は地界。
すべての世界の地形特徴が存在するため、かつての代表は地界を決戦の舞台に決めたらしい。
その為、地界は各六校から二組ずつ、計十二組を大会に出場させることが決まっている。
他の世界にも同じように専門学園が六校存在し、それぞれ世界が最大十二組まで出場させることが出来る。
つまり、ASGには最大でも八十四組の出場者が居るということになる。
それから補足として、出場者を『組』と数えるのは毎回ASGでは一組の人数が変わるからなのである。
一人でも参加できることもあれば、参加に十人必要の時もあるのだ。
「今回は二人一組だったよな?」
「えぇ………。だから、一人で参加するの、って聞いたのよ」
「まぁ、パートナーは出場権取ってから、探すことにするわ。……………水兎、今、フリーか?」
「NO!もう、一年の娘と組んでるわ」
「クッソー!」
「そもそも、この学園で奏良のことを知ってる人は誰も組まないと思うわよ」
「グ…………」
奏良は水兎の発言に苦い顔付きになる。
「い、いや……。まだ、モノ好きが居るかも!」
「希望は薄いけどね」
「やっぱりか………………」
奏良は地礼学園である意味有名人なのである。
察していると思うが、悪い方が強い。
「ねぇ、協定結ばない?」
「協定?」
「そう。内容は………」
「あぁ、待った。それは、試合が始まった時にしよう。水兎のパートナーも連れて来て、二人で話し合って決めてくれ」
「分かった、そうするわ」
「まぁ、言わずもがな。マップを見たら、俺の場所は分かると思うから」
「分かってるわ。じゃ、また試合で」
そう言って水兎は走って校舎の中に入って行った。
それを見送り、見えなくなってから奏良はため息を一つ吐いた。
「はぁ、見つかるかなぁ、パートナー」
*
【オーロラの扉】の影響は七つの世界が繋がったことだけではない。
『これより、月末ASG大会出場者を決める《出場資格争奪戦》大模擬ASGを開催いたします』
司会の挨拶により開催された大模擬ASG。
これは高校生を対象とした模擬で、一年から三年まで多くの参加者が居る。
月末に開催されるASG以外で超大規模ASG《ASG本大会》でも一般の部と学生の部がある。
月末に行われるASGも同じで一般の部と学生の部がある。
ただ《ASG本大会》と《月末ASG大会》の違いは年齢制限である。本大会での一般の部は十六歳以上上限なしだが、月末大会では二十歳以上の違い。
そして、学生の部では、本大会は十三歳~十八歳までだが、月末大会は十六歳~十八歳までとなっているのだ。
あとは出場グループの上限と開催日数も違うがそこはまた後に説明する。
ここで言いたいのは月末大会の学生の部の出場者は全てが高校生という事だ。つまり、月末大会学生の部の主役という事でもあるのだ。
『それではルールの説明をいたします。この大模擬ASGは月末ASG大会と同様のルールとさせてもらいます。基本スタイルはバトルロワイアル制。敵を倒していき最後の二組になった者を勝者とする形となります。そして、もう一つがトレジャールールです』
トレジャールール。宝探しを利用したルールである。
『ヒントをもとにしてマップ上にある【宝珠】を見つけ出してもらうルールです。【宝珠】を見つけ出した組、また【宝珠】を指定の台座に置いた組の二組を勝者とするルールです』
月末大会にも本大会にも同じルールがある。だが、ヒントが文章でなく地形を頼りに探す形のため今までどんな組も探し当てることが出来なかった。四年前までは。
『勝者の優先度は【宝珠】を見つけた組、台座に置いた組が優先となります。なお、【宝珠】を見つけた組、台座に置いた組が同じの場合、その時点からバトルロワイアル制が優先となります。以上でルール説明を終えます』
司会の放送が止まる。
「よし、じゃあ今から二列に並んでもらう。私と木庄先生とで順に【ソナー】を渡す。模擬ASG参加者にはすでにデバイスにマップが送られているはずだ。順次、確認しておくように」
前で話す先生の指示を聞き、奏良はデバイスに送られたマップを開く。
デバイスとは地界と機界とで共同開発した界立学園専用電子機器だ。
各世界の学園にこのデバイスが配られており、このデバイスが生徒手帳の代わりをしている。
主な機能として電話・メールはもちろん、ネットやゲームも出来る。いわばスマホみたいなものだ。
だが、スマホと違うところはASG用のマップが転送されるという事と、大会出場資格がこのデバイスに送られてくるという事だ。
他にも、小規模の空間転移ができ、モノの出し入れが可能である。
このデバイスを持っていることが、学生の部の大会出場資格の一つでもあるのだから、普通のスマホと同じと考えるのは軽率だ。
奏良がデバイスをポケットにしまう。
「おい、あれ見ろよ」「何で、能瀬が出てるんだよ」「誰かと組んだんじゃねぇの?」「バカ、誰がアイツと組むんだよ。あんな、厭味野郎と」「おい、聞こえるだろ」
聞こえてるよ。
奏良は心の中でそう呟く。
能瀬奏良はこの学園に置いて有名人であ、悪い方での。
この学園の出身者の殆んどが知っている。
能瀬奏良は天才であると。
「お、能瀬。お前が最後か」
声を掛けてきたのは前で指示を出していた教員。名を月城夜槻。女性だ。
「お前、パートナー組めたのか?」
「教師をそれを聞きますか?しかも面と向かって」
「ははは、悪い。その様子だと組めてないみたいだな。どうしてこれに参加するんだ?今回は二人一組だぞ?」
「どうしても食費が要るんですよ。一人暮らしはこれだからキツイんですよ」
「もう、参加できる気でいるのか?生意気な」
「今回も俺が【宝珠】見つけるんで、出場権は貰いますよ。当分の問題はもう一人をどうやって見つけるかだ」
「だが、もう見つけることは出来そうになさそうだな?」
「何で?」
「周りを見たらわかるぞ」
そう言われたので、前に向き直す。
「何だか殺気立ってますね」
「お前が挑発するからだろ?」
「挑発?どこがですか?当たり前のことを言っただけなんでよくわかりませんが?」
「能瀬、お前分かってて灯油撒いてるだろ?」
「なんのことだか?」
奏良は不敵に笑って見せた。
「はぁ、まったく。これだから、お前はボッチなんだよ。まぁ、期待してる。ほれ、愛し【ソナー】だ」
「ありがとうございます」
夜槻はデバイスとは別の端末機器を渡し前に行ってしまった。
「よし、全員に【ソナー】が渡ったところで、前から順に転送装置に入ってもらう。各自開始合図があるまで動くなよ。動いたらその時点で失格だからな」
夜槻はそう言って転送装置の扉を開ける。
転送装置とは、機界が作ったASG専用フィールドに転送する機械だ。
指定された場所に送ることができ、送られる場所はランダムである。
フィールドは毎回違い、同じような場所でも【宝珠】の隠し場所が変わっている。
転送装置が送る場所はまさに運。半径1㎞以内には選手配置が被ることはないが、近くに敵がいる場合もあれば、孤立する場合もある。
奏良としては孤立する方が助かるのだが。
奏良はマップを開く。
少しでも早く終わらせたいからな。
「おい、能瀬」
マップを見始めて、十数分。
夜槻に声を掛けられる。
「さっさと転送装置に入れ。それとも棄権か?」
気づくと前には誰もいなくなっていた。
「冗談はやめてください。じゃあ、行きますわ」
奏良は転送装置に入り込んだ。
「転送を開始する」
その声とともに奏良の視界が白くなった。