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死の味

 ◇


 僕は背後に感じた異物の存在を認め、咄嗟に振り返った。言うまでもなく、背中の違和感の原因を作ったのは、寂しさを含んだ微笑を浮かべる彼女───椎名めぐみだ。彼女の笑みを見た途端、身体の力が抜け、自然と床に倒れこんでいた。仰向けになった胴体は重く、まともに身動きは取れない。

 背中からどくどくと、血液が流れているのを感じた。

 鼻腔をつく鉄の臭いは、どの臭いよりも強烈に死を連想させる。

 辛うじて動かせた左手をその傷に添える。深々と突き刺さった刃から流れ出る生暖かい液体。咄嗟に腕を戻し、掌を開く。赤黒いそれが妙に生々しい。

 刃を抜かずともこの出血だ。これを抜かれてしまったらどうなるかと考えると恐ろしい。

「めぐみ・・・どうしてこんな・・・」

 息も絶え絶えに、己が一番求めている質問を問うた。

「どうして?───そうね、どうしてだと思う?」

 僕がその質問に答えられずにいると、彼女は哀れむような目で僕を見据えて、「分からないわよね」と、言い放った。

「何で私がさっき泣いていたと思う?あなたが滑稽だったからよ。私は生まれつきの異常者なのに、病院、病院って。あなたの父親でも治せなかったのに、これ以上どうしろと?」

 彼女は床に伏せる僕を強く抱き締める。皮肉なことに、雪のように白い肌に、濃い赤がよく映える。

「でも不思議。私はまだ将吾のことが大好きなの。───この世の誰よりも、ね」

「めぐみ・・・」

「だからって、あなたの考えには納得はできなかった。殺しをした私を責めたくせに、あなたは腹に宿る命の存在をなかったことにしようとした。将吾のことは大好きだけど、それ以上に憎い。あなたは、私と同じ、殺人鬼よ」

 腰に巻かれた彼女の腕が解け、背後の、枝まで刺さったナイフに手がかけられたようだ。

 この頃には僕は、もう彼女に対しての恐怖は消え、死を享受するような感情になっていたのだろう。自分に起こっている事も、総て客観的に捉えられるような余裕も生まれていたようだ。

 彼女は刃を抜き、おぞましい程の笑顔でそれにこびり付いた血液を舐める。自分の血液で恍惚とした表情を浮かべられる情景は、どうも薄気味の悪いものだ。

 まだはっきりと残っている自分の意識が憎らしい。目の前で起こっている事を、現実なのだと信じることなど、どうしてできようか。

 時が止まっているように長い夜を、いつになったら見なくて済むのだろう。どうせ死ぬのなら、蝋を吹き消すように、静かに消えて行きたいのだ。

 感覚が無く弱った身体をよそに、瞳を閉じて逃避を望んだ。


 ◇


 日焼けで色褪せてきたカーテンの隙間からは、薄っすらと太陽の光が漏れてきている。僕の時間は未だに止まったままだが、世界はいつの間にか夜明けを迎えていた。

 僕は寝室のベッドに寝かされているようだ。いつも見ている光景の筈なのに、何処となく翳りを感じてしまう。

 目が覚めたのは、猫じゃらしで肌を撫でられたような、(くすぐ)ったい感覚があったからだ。

 実際はそんな生半可なものではなく、彼女の腕よりも太い肉切り包丁で、両脚を切断していたところだったのだ。握力の強くない彼女が、脚を豆腐を切るように簡単に切っていくことができることに驚いた。

 痛みは感じず、麻酔か何かがかけられているのだろうと解釈する。勿論、その麻酔はあの病院からくすねてきたものだろう。

 ───しかし、どうしてまだ僕は生きているのだろうか。虚ろなこの目に映るのは、見慣れたダブルベッドの白いシーツと、見慣れない表情をする椎名めぐみだ。


「将吾が、私にとっての初めてだったんだよ。恋も、何もかも全て」

 恐ろしいほどに深い愛の言葉を絶え間無く呟きながら、めぐみは包丁を僕の身体に入れてゆく。異物の侵入を拒むことができず、ただ刃を目で追った。腹部あたりの肌を薄く削がれ、血液が流れ出る。痛みの感覚さえ麻痺してしまったのだろうか、麻酔をかけているとは言え、この状況で理性を失っていない自分が怖い。

 めぐみは真剣な表情で僕の肉を、細かく刻んでいる。その瞳の奥に僅かに光るものは、興奮と欲望の混ざった色をしていた。

「将吾の身体、もう私無しじゃ生きていけないね」

 2センチ・メートル程の長さで小綺麗に切られた肉片を指で摘みながら、彼女はそのような言葉を口にした。

「脚を取っちゃったから、もう歩けないよ」

 そんなことは当に分かりきっている、と声に出して訴えたかったが、既に余力はなく、力なく口を開閉させることしかできなかった。

「なあに、嬉しいの?」

 不敵な笑みを向ける彼女は、僕の想像する悪魔と重なることに気づいた。

 彼女を一目見たときから感じた、異常なまでの魅力。彼女は、端正で清楚な容姿からは想像もできぬような、計り得ぬ禍々しいものを放っていた。

 僕は窓から見つけためぐみの存在感に圧倒され、自ら接近を望んだのだ。天使のような笑顔を(いびつ)に捻じ曲げ、形を変えた怪物が、彼女だった。分かっていた筈なのに、本能がそれを求めていた。背徳的なものに惹かれてゆく、狂った人間の性だ。

 僕はあの女と同じように狂っているのだろう。愛や恋などとは根本的に異なる、一種の憧れだったのだ。

 目の前が暗く、彼女の華奢な影しか浮かばぬ空間に、僕はただ静物として存在していた。不意に何かの温かさを感じたが、特に深く考える必要はないだろう。彼女の影が揺れ、己の体積が減ってゆく感触を確かめながら、閑静な死に向かった。



 ◇


「また会ったな、将吾」

 眼前に座っているのは、死後の世界へ辿り着いた僕の、死ぬ前の姿をしている、紛れもない僕だ。

 僕がここにいるということは、あっちの世界で、自分が死んだということになっているのだろう。今となっては、苦しみもがいて死ぬよりは、安楽な死に方をできてよかったと思っている。

 僕が僕と会話をしているなど、俄かに信じ難いことなのだが、以前から何度も繰り返されていた目の前の光景は、到底否定できそうにない。

「出来るならもう会いたくてなかったけど」

 溜息をつきながら、言葉に有りっ丈の皮肉を込める。

「嫌われたものだな」

「出来るなら人を嫌いになんてなりたくはないさ」

「お前、あの女と結婚したんだな。よりによってあの女を選ぶなんて、お前は相当運が悪い」

 唐突に話を変えられた事と、自分が今最も触れて欲しくない言葉を放たれて、気分が悪い。

「そうなるようになっているのだろ?どちらにせよここでしか昔の記憶が無いんだ。今更めぐみに殺されても、もう慣れっこだからね」

 勿論、僕を殺したのは勿論椎名めぐみだ。僕への復讐のために、彼女が仕組んだ、永遠に抜け出す事のできない輪廻。ここへくる度に、深く落胆し、後悔をする。

(あの時にめぐみを殺すことさえしなければ)

「無理だね。気付いているだろう?あの女に惹かれたお前は、あの女と同様に狂った人間なんだからな。類は友を呼ぶって言うじゃないか」

「───勝手に心を読むな!」

「まあ、お前はあの時に椎名めぐみを殺さなくても、いずれ誰かを殺していたさ。独占欲というものは、恐ろしいものだな」

 男はそう言い放ち、椅子から立ち上がり、鈍い色をした瞳をこちらに向ける。丁度僕を見下すような形になっていた。

「俺はお前だったのだから、お前の気持ちは痛い程分かるさ」

 そう言うと僕に背を向け、ここから早く出て行くように促した。迷える発光体が、まだ長い列を作っているのだろう。

 彼の言う通りに、薄暗いこの小屋を出て行こうとした。入口付近にあるワインレッドのカーテンに手を掛けたところで、先程の男が僕の名を読んだ。振り返ると、悪戯好きの子どものような表情を浮かべていた。

「───ああ、将吾。お前の役目はもう、今の死で終わったよ」

「───え?」

「もうお前は自由だ。復讐されるために生き返らなくて済むんだよ」

 男は僕の顔を見て、見えるか見てないかの笑顔を浮かべた。

「どういうことだ?」

「それはまだ言えない。だが、いずれ分かるさ。この小屋から出て行けば、新しい人生が待っているよ。お前がまともな人格を持ち合わせた人間に生まれ変われるのなら、きっとここには暫く来なくていいだろう」

「いきなりそんなことを言われても、どうしろと」

 僕の戸惑いの表情を見て笑顔になる男は、「うーん」と小さな唸りをあげる。

「そうだな、そんなすぐに生まれ変わることもないだろう。どうだ、彼女───椎名めぐみのこれからの生涯を、ここで見物していかないか?」

 男はそう言い、半ば強引に彼の椅子の向かい側に座らせ、何処からか出してきた水晶玉を、僕に覗くように指示した。



 ◇


 私は幾度となく愛を育んできた寝室のベッドで横たわる将吾の姿を見て、己の高揚を隠せずにいた。

 衝動的に脚を切断してしまったのは、彼の自由を奪うことでの一時的な征服欲だった。すぐ彼は息絶えたが、忘れることができないくらいに魅惑的な表情をしている。

 今までの殺人の中で一番心を痛めたが、息のない彼も私にとっては最も愛するべく対象だ。人間は死んでも、腐って消えてしまわぬ限り、ここに存在しているのだ。そのことを考えると、罪悪感も消えていた。

 眠るように死んでいる彼の顔は、生前と変わらずに美しい。日焼けをしたような肌も、徐々に冷えてきてはいるが、何も変わってはいない。

 ───それよりも、これからどうすればいいのだろうか。このまま放置すれば、彼が醜く腐っていくことは目に見えている。腐乱した臭いを嗅いでも、変わらずに愛している自信はあるが、あまり気持ちの良いものではない。

 かといって、処分してしまうのは、私の良心が赦さない。

 動かない彼を見つめ、今までの思い出を振り返る。出会いから別れまで、一度もぶれることはなく、愛していた。───いや、今でも愛している。

 床に散らばる肉片の一つひとつを拾い集め、切断した両脚と腕をステンレス製の大きな鍋に放り込んだ。私には食人の趣味はないが、彼が自分の中に入ってくるなど、とても素敵なことのように思えたのだ。

 死後の行き場のない肉体を救い、また私と一緒になり生きることができるのだから、きっと彼も喜ぶだろう。

 頭部はビニール袋にいれ、テーブルに置いておくことにする。流石に頭部まで食べることなど、申し訳なくてできないのだ。


 煮えたぎる赤い鍋の中で、ゆらゆらと揺れる身体。切断した腕や脚が、かき混ぜる度に浮かんでは沈む。適度に柔らかくなった頃を見計らい、血染めの湯を流しに捨てる。人間特有の臭いをとるために、新しく水とワインを注ぐ。

 水が再び朱になり、葡萄の匂いが部屋一面に漂う。まるで果実の(その)にいるようで、沸騰し溢れ出しそうな液体を余所目に、死と混ざり合う生の香りを楽しんでいた。

 いよいよ鍋が泡で満たされたときに我に帰り、慌てて火を止めた。菜箸で肉を突くと、程良い具合になっていた。

(美味しそう)

 そう思った。

 彼の肌に付着した血液は洗い流され、鶏肉のように美しい橙色をてからせている。人間の肉とは思えないようなそれは、己の食欲をそそるには十分すぎる程のものだった。


 食事にあまり興味のない私でも、この時だけは異常に肉を欲した。それが彼だからなのかは分からないが、制御のきかなくなるなど、初めてのことではないだろうか。

 腕と脚はワインで煮、その後に塩や胡椒をかけて、貪りつくように完食していた。

 それだけの量を食べても、食欲は収まることを知らず、残った彼の胴体部分を切り分け、細切れにした臓物を取り出し、醤油をかけて刺身感覚で味わう。

 生臭いにおいはそこまで気にならず、舌に広がる何とも言えぬ食感が病み付きになりそうだ。

 残った(から)の肉体を薄く削ぎ、皿に盛り付けた。硬い皮膚を削ぐこの作業は、なかなか骨が折れるものであったが、その後に待っている快楽を思えば、苦ではなかった。

 およそ10分足らずで総ての肉を薄切りにし、下準備は完成した。小さめの鍋に水を張り熱している間に、(わん)に卵を溶き、別の小皿にも調味料を注いだ。作業が終わるころには丁度よく湯も沸き、めでたく三度目の食事を迎えることができるようだ。

 湯で肉を泳がし、溶いた卵につけて口に入れると、ある程度の硬さはあるが美味だった。湯にくぐらす時間を変え、味を変え、全て平らげるまでにそれほど時間は有さなかった。

 食欲も満たされた上に、彼の総てが自分の身体に取り込まれてゆく過程を楽しむことができて満足だった。これ以上を望むなら、彼の頭部も食べてしまいたいのだが、やはりそれだけはできそうにはない。彼の愛しい顔を崩してまで、自分の欲を優先させることなどできるはずがないのだ。


 テーブルの上に置いたビニールを掴み、庭に出て火を起こす。これが最後だと、彼の凍ったように冷たい頬を撫で、その唇に接吻をした。別れを惜しみながらも、腕を伸ばし掴んでいた彼を盛る炎に()べた。

 うねる龍のような炎に焼き尽くされた彼は、跡形もなく灰になり、風に飛ばされていった。

 人間の身体は、どうしてこうも脆いのか。一本の刃で崩れる人生とは、どうしてこうも儚いのか。彼が私と同じように異常者であったように、私もまた彼と同じように、一人の人間なのか。

 己を人間だと肯定してしまうのに違和感があるのは、今までしてきた事に対しての罪悪が無いからなのだろう。

 勢いの衰えない火を見つめると、炎に包まれた我が家を思い出す。目を閉じると緋色の光景が広がる。私は惨劇に触れる度に、自然と口角が上がっていることに気が付いてはいなかった。



 ◇


「お前が愛した女は、人を食うんだな。今の感想を教えてくれ!」

 包帯を巻いた男は、笑いながら僕の肩を叩いた。

「───めぐみは、まだ僕を愛してくれていたのか」

「なんだ?お前は、愛する妻に殺されて、おまけに食べられたんだぞ?憎くないのか?」

「それは、憎くないかと聞かれたら、憎いさ。自分だけでなく、父の生命さえ奪われたんだからな」

「でもその顔は、憎しみを持つ者の顔をしていないぞ?」

「───黙れ」

 図星だった。自分や父を殺されて憎くないはずはないのだが、それ以上に愛しさを感じている自分自身が恐ろしい。それを隠そうとしていたのに、まんまとあの男に言い当てられてしまった。

「椎名めぐみからは、死の臭いしか感じないね。人間らしさを全くと言っていいほど持っていないんだ。まるで生き人形だよ」

「お前にめぐみのことを言われると、何故か腹が立つんだ」

 腹などは立ててはいないが、彼の言葉を途切れさせるためにそう答えたのだが、逆効果だった。

「立腹か。そんなに思いつめるなよ。どうせもう彼女とは会えないし、関わりを持つこともできないからな。あ、お前が彼女に復讐したいってことなら別だがな。言いたいことは俺が聞いてやるさ。お前の分身のようなものなんだからな」

 その言葉に僕は噴き出してしまった。相手のことを考えず一人で突っ走る彼が本当に自分によく似ていて、おかしかったからだ。

「───あんなに(むご)い仕打ちを受けたのに、彼女を憎み切れないんだ」

 一度口に出してしまうと、封じ込めていた言葉が雪崩のように転がり落ちてくる。

「子どもも、彼女の言う通り、産ませてやればよかった。自分勝手なんだ、俺は」

 このまま全てを曝け出しさえすれば、今の僕の頭を整理することができるだろう。男の存在に初めて感謝しながら、僕は喋り続けた。


「───ふん。そんなこと考えてたんだな」

「女々しいとでも何とでも言ってくれよ」

「ははは。そんなことは思っていやしないさ」

「どうだかね」

「───自分の考え方次第だな。彼女に抱かれて死ねたことが、嬉しかったのだろう?」

「ああ。意識が途絶え掛けた一瞬だけ、彼女の顔が見えたんだ。両腕でしっかりと抱かれていたよ。その時は気にする余裕もなかったけど、今思うと僕は本当に愛されていたんだな、と」

「素直でいいな」

 考えていることを言葉にしてしまうと、自分の思想が如何に幼稚なことかが分かってしまう。それでも黙って聞いてくれている男に、正直驚いた。

「でも、彼女に恋したことを少しだけ後悔しているんだ。彼女に出会うことがなかったら、こんなに複雑な想いはしなかっただろうし」

「それでも、出会って良かったことも、沢山あったんだろう?」

「そうなんだ。寧ろそっちのほうが多いくらいだ。だから僕は葛藤していた。彼女を憎むべきか、愛するべきか」

「お前は彼女の復讐の対象だ。お前がそんなに深く考え込むこともないさ」

 男は包帯に巻かれた頭を掻きながら、それでも目は鋭くこちらを見つめて言った。

「───そうだな。彼女には残りの人生を幸せに生きてもらいたいさ」

「はは」

 暫くの間談笑し、再び水晶を覗くことになった。彼岸と此岸(しがん)の時間の流れには大きな差があるらしく、こちらで男と会話している間に、あちらでは6年の月日が経過しているようだ。


「ああ、お前さ、さっき嘘付いただろ」

 目をこちらに向けず、水晶を覗きながら男はそう言った。

「は?」

 唐突に質問をされ、内容よりも驚きが先に出てしまった。

「だから、俺に一つだけ嘘付いただろ?下手な嘘に気付かないと思ったか?」

 水晶から目を離し、不機嫌そうに僕を睨んだ。

(そういえばこいつに嘘は通じないんだったな)

 予想もしていなかったことを言及され、左手で首に手を当てる。薄っすらと冷や汗をかいていた。

「───で、本当はどう思ってるんだ?」

「さっきは嘘を付いたよ。この感情をぶつけていいものか、迷ったんだ。だけど、お前にはお見通しだな」

「当たり前だ。さっさと言え!」

「そう急かすなよ。───めぐみには、これから幸せな人生を送って欲しくはないんだ」

「想像より斜め上の答えだったよ。で、どうしてだ?」

「俺がこの復讐の根元だということは、勿論分かっているな。その時は、彼女を殺して、俺も死んだ。一緒に死ぬことで、また一緒になれると思ったんだ」

 一息付き、再び口を開く。

「でも彼女は、心中という道を選ばなかった。彼女は僕を最後まで好きでいてくれたことは分かっているが、それだけでは足りないんだよ」

「腹の中の子どもの方が、大事なんだろう。それか、お前を腹の中に入れることで、一心同体になれたと思っているんじゃないか?」

「そうも考えたさ。だけど、俺はそれでは納得できないんだ。───兎に角、俺は彼女の幸せを願わない。俺といた時以上の幸せは、感じて欲しくないんだ」

「随分と自分勝手だな」

「それでもいいさ」

「───だが、それがお前の本音なら、文句を言う訳にはいかないな。あの女は既に4人も殺しているんだ。ろくな人生を送ることなんてできないさ」

「───そうだな」

「あとは椎名めぐみの死を待つだけだな」

「ああ」

「───将吾、お前何でそんな悲しそうな顔してんだ?」


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