第3話 修学旅行準備
①第3話「修学旅行準備」
中学二年の大イベント、修学旅行が明後日から始まる一月三〇日、修学旅行の準備をしている甲本栞と真田幸一は、忙しそうだった。
真田幸一はとりあえず、修学旅行のしおりを見ながら、要るものを用意してバッグに詰め込んでいた。
「やっぱり、トランプは必須だな。」
幸一はふと考えた。
バスの座席は確か、窓側が自分で横に吉田。前に甲本さんと通路側に田中さん。更に前に森山さんと吉本さん。後ろに土田、古田。更に後ろに山田と栗田だったな。
吉田幸一は真田幸一の親友の一人である。
さて、何か持って行くべき物は……
「トランプは一つじゃ足りないか」
100均で買った色違いのトランプ(赤、青、黒)を混ぜ合わせれば十分八人で出来る。宿でも暇を持て余すことはないだろう。
「他には何もいらないだろう。にしても、トランプを作った人は偉大だな」
などと考えてながら、着替えなどを用意した。
「学校集合は七時三〇分。授業がないときに限って一番に来る奴がいるよな」
やはり今回もおまえだろうか、合田。
さて、準備が終わると暇だ。
どうしよう……。遠出する訳にはいかないか。
甲本さんの家に行くか。またクッキーとか用意しているだろう
②
甲本さんの家では、父親の晋一さんと栞さんと、近所の女子がいた。
既に用意が終わっていたようだ。
長い黒髪のツインテールの田中真実さんと黒いポニーテールの吉本華苗さん。短い黒髪の茶菓本真美さん。そして、俺の隣には、親友の吉田幸一がいる。
「あ、真田君と吉田君だ」
最初に反応したのは田中さんだった。
近所に住む仲良し三人組は、昔からいつも一緒にいた。
「あ、幸一君達だ」
時々、俺達二人を幸一君達とまとめて呼ぶことがある。ひどい時には、幸一君で俺か吉田をさすが、大体の確率で、俺のことになる。
「クッキーあるよ。あと家の和菓子を持ってきたよ。あまりだけれど」
茶菓本家は和菓子屋である。名前の通りだ。
昔から、ここの和菓子を食べていた。あまりだが。
今日はくず饅頭、桜餅、羊羹があった。
甲本さんは追加のクッキーを持って現れた。
「どうぞ。遠慮なく食べて」
何かしようよ。
トランプしよう。
大富豪!
七ならべ!
ジジ抜き!
ダウト!
今この部屋には、晋一さんを除く六人いる。
トランプは俺が一つと、吉田が一つ持ってきていた。
100円均一の店で買った、サイズが同じなのだが、柄の色が異なるトランプだ。俺のは赤、吉田のは黒だった。他には、ネイビーと青がある。
今回は、六人でやるから、大富豪だと、二セットのトランプがないと、運で決まる戦いになって面白くない。
よって、俺達のトランプを混ぜることにした。
「とりあえず、大富豪をしようか」
という、吉田の提案で、大富豪が始まった。
大富豪というのは、別名大貧民とも呼ばれる。一応、基本ルールの確認をしておく。もしかしたら、甲本さんは知らない可能性があるからだ。今まで友達が出来なかったからである。
大富豪は、前の人が出したカードより上の数字を同じ数、同じように出すものだ。4のダブルには5~2のダブルジョーカーを一枚使うなり、贅沢にジョーカー二枚使うなりしても良い。それは個人の自由だ。革命が起こると、カードの強さが逆になり、2のトリプルには、1~3のトリプルっを出さなくては流れてしまう。カードがなくなった人が勝利。
こんなところか?
今回のルールは、8切りあり、革命四枚以上、八枚以上で変化なし。階段なし、縛りなし、最後は最強カードと8を使用禁止。スペ3返しあり。裏が赤のダイヤの3を持っている人から時計回りに進む。
俺から時計回りに、田中さん、吉本さん、甲本さん、茶菓本さん、吉田が座っている。
赤のダイヤの3は茶菓本さんが持っている。
試合開始。
「4のダブル」茶菓本
「5のダブル」吉田
「6のダブル」俺
「7のダブル」田中
「8のダブル」吉本
カードを流して、吉本さんは、5を四枚出した。革命である。二セットだから、ジョーカーは4枚、その他は8枚ずつ入っていることをお忘れなく。
「誰も返せないの?」返せることは返せるが、さてどうしよう。
「革命返し、4」甲本
「パス」茶菓本、吉田、俺……
「負けないよ!K」田中
そんなに使っていいのか?
「パス」全員。
再び田中のターン。それにしても、何でこんなに固まっているんだ?いくら各カード8枚とはいえ、こんなに革命戦になるとは、恐るべし。
「2のダブル」田中
なんか勿体ない気がするような、しないような。
そんなこんなで、終盤。現在通常の状態。
田中さんは五枚、吉本さんは2枚、甲本さんは四枚、茶菓本さんは二枚、吉田は六枚、俺が二枚だ。
「Qの革命!」田中さんは、残り一枚。誰かが止めないと、あがられてしまう。
「9の革命」吉田。 そんな隠し玉があったのか? 助かったのか?
「パス」悔しいが、全員パス。そして、吉田は
「ジョーカー」吉田
今回のルールでは、最後に最強カードの使用であがれない。つまり、ジョーカーと何かの組み合わせではあがれないのである。
吉田、よく出してくれた。
「スペ3」俺。
吉田にあがらせてたまるか。悔しそうな顔をするなよ。スペードの3が残っていることくらい分かっていただろう?
「1、あがり」俺。因みに、今回のルールでは、これを流さず、一度回すことになっている。
「パス」田中
「パス」吉本
「2、です」甲本
「パス」全員
俺はじっくりと試合を見ている。
「3のトリプルです」もちろん残り枚数を見て分かるように、全員パスである。
「7、あがりです」甲本さんは嬉しそうだ。
「Q、あがりだ」吉田も後に続く。
「2」、吉本
「パス」田中、残り一枚であがれないのか?
「5、あがりです」吉本
「パス」田中、どうやら革命で勝負をしたようだが、失敗に終わったようだ。
「1」茶菓本、
「パス」田中
「4」茶菓本
「パス」田中
田中、相手の枚数を見てから言った方がいいよ。
「あがりです」茶菓本さん
茶菓本さん、一テンポ遅いから、田中が悲しい目にあっているよ。
田中はパスと言ったが、誰にパスをしたのだろうかと自分で、悩んでいる。いや悔しそうだ。
田中さんはムードメーカー、元気が良い子で、茶菓本さんは落ちついていて、物静かな子だ。甲本さんは、その中間で、吉本さんは、どちらかとい言うと、二人のどちらかに合わせているような感じだ。
「幸一君達は、良く似ているね」
とはいえ、大体は俺が勝ってしまうのだが。吉田はどちらかというと、欲がないように思える。
そう言えば、こいつ最近元気がないような。二学期の後半頃から。あまり遊ばなくなってきたし、家で勉強させられているのかな?
こいつの兄は、学校でトップの成績を取り続けていたらしいし、県模試では数学と化学がトップの成績だった。
兄がこういう人だから、弟の吉田は大変らしい。
それは、普段の生活で分かる。
学校では授業中に先生から、分からない人に教えてやってくれと頼まれるくらいだ。
それで、俺は十分だと思うが、吉田は時々、悲しそうな顔をする。
「これくらいじゃ、まだ足りないんだ」
テストが帰ってくるたびにこういうことを言っている。
吉田は俺よりも成績が良い。
俺、吉田、甲本さんの五教科の試験結果は次の通りだ。
数学、九〇、一〇〇、八八。
国語、六〇、八〇、七〇。
社会、六〇、七〇、五五。
理科、九〇、九五、八〇
英語、八〇、九〇、七五
案外甲本さんが点数高いと思うだろうが、吉田を除いた俺達近所の人は皆、一緒に勉強している。俺が吉田から直接教わり、それを、近所のみんなに教えているのである。もちろん、吉田はこのことを知っている。俺が甲本さんの役に立っていることを。
「間接的にも、彼女を助けられるなら、それでいいよ。みんなが助かるならな」
本当に欲がないやつだ。
「直接教えたいのは山々だが、俺にはそんな時間がないんだ。家でずっと勉強させられているからな」
この前の試験が良くない点数だったから、特に厳しいらしい。
あの試験結果で怒られるなんて想像できない。
俺は国語と社会をもう少し頑張れと言われる程度で、英語と理科と数学は褒められている。
「あのレベルの数学なら、九五以上は当たり前、一〇〇点を目指さないといけない。ケアレスミスで九五を割ったら怒られるからね」
九五点は一問ミス、もしくは三角二つで丁度か割ってしまう。
一問一〇点の文章問題だと、三角一つで九五点になる。それ以上間違えられない。
苦労しているんだな。
はぁ~、と溜息をつく吉田。
「ってことは、国語と社会は怒られたんだな?」
「もちろん、こっ酷く怒られたよ」
吉田は社会と国語が苦手だ。と言っても、俺はよく分からないが。
「いつも『お兄ちゃんは、全科目九〇点以上取っていたのよ。ゆとり教育で簡単になっているんだから、同じくらい取れて当たり前だよ』って怒られるんだ」
どうにかしてほしいよ、はぁ~~~~
吉田は肺の中の空気がなくなるまで溜息をついた。
「そう言えば、女子って、修学旅行の夜は何するんだ?」
何となく疑問だ。
「恋愛話だよ!」
田中、お前楽しそうだな。
「男子は何するの?」
消灯後の話だ。
「トランプとかだな。あとは同じように恋愛話、怪談とか?」
「照明を持って行くんだよ。消灯後も遊べるように」
「ふ~ん。」
いつもとは違う空気だから、みんな張り切って夜更かしに励むだろう。
「私たちはどうしようか?」
「トランプかな?」
「灯りはどうする?」
何か俺達の真似をするようだ。
女子には言えないことだが、エロ本を持って行くやつもいるらしい。
亜貴田とか、そういうやつらだ。
あと眠っているやつの顔にマジックで落書きするやつもいる。
そう言えば、過去にこんなことがあった。
小学六年の修学旅行の時にHTB(HUIS TEN BOSCH)に行って、デートしていた奴が。
本当は班で行動なのだが、そいつらは二人で回ってやがった。
そいつは俺と吉田と同じグループではなかった。
部屋は隣だったはずだ。
旅館の壁を向こうから、声が聞こえていたのだ。
「……お前好きな人いるのか?」
所謂恋話であると思われたが、
「俺、明日、田本さんとデートするんだぜ!」
なんと、自慢と予告だった。
あの後、先生に見つかってデートは中止、班員は叱られた。
「それじゃ、続きをしようよ」
トランプを切ったら、田中さんは配り始めた。
何をしようか?
「神経衰弱!」
当たる確率は倍増しているが、いかんせんこの枚数だ。終わるのに時間がかかるだろう。
予想通り、終わったのは、夕暮れ時であった。現在一八時。
今日は、甲本さんが料理を振る舞ってくれるようだ。
晋一さんは仕事で出かけている。今が一番忙しい時間帯だ。何せ、レストランだからな。
甲本さんは料理が好きなようだ。
晋一さんから料理を教わって、かれこれ八年くらいになるようだ。
甲本さんは一階に下りて料理を作っている。
俺達は部屋に残ってトランプをしている。
一九時になると、甲本さんがあがって来て、夕食を食べることになった。
吉田は、今日だけはゆっくり遊べるようで、午後八時頃まで、甲本さんの家にいた。
俺達は午後九時まで甲本家にいた。
晋一さんが帰ってくるまでである。
そして、家に帰った俺は風呂に入って眠った。
次回予告
ついに修学旅行が始まった。
こういうときだけ早く来るやつ。
そんなやつはいないかな?
次回 薄命物語 第4話 修学旅行前編
楽しい修学旅行の始まりだ。