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薄命物語  作者: 真田 幸一
3/15

第2話 出会い

前回のあらすじ


2010年12月24日、要するにクリスマス・イブに俺、真田幸一は中学時代からの恋人、甲本栞と再会した。

そして、幸一は栞と一緒に将棋部の人々と遊んだ後、栞の家である『さくら荘』の204号室に言った。

そこで、懐かしい話をしていると、幸一は終電を逃してしまう。

どうしようか考えていると、あっさり栞から「家に泊まっていいよ」と言われた。

幸一と栞は、コタツに入って、中学時代の懐かしい話をしている内に、眠くなり、寝てしまった。


OP




第2話~出会い~2003.3/27~

これは、俺たちが出会った頃の話だ。

時は中学1年、いやどちらかと言うと、小学6年の春休みである。

場所はF県F市H区のとある中学校の校区。


2003年3月27日15:00頃


ピンポ~ンと家のチャイムが鳴った。

ドアを開けると、中年の男性と、同い年の少女が立っていた。

「近所に引っ越してきた、甲本です。こちらは娘の栞です」

おとなしい性格の親子だ。これが第一印象だった。

甲本さんとは同じ中学に入学したが、クラスは別だった。

時々しか会わなかったが、いつも1人で帰っていたみたいだ。

1年の間は、今までと同じ様に、同じ小学校出身者で集まって、遊んでいた。

その頃は、甲本さんの事は気にも留めていなかった。ただ遊ぶだけの餓鬼だった。


「はぁ~、友達できないなぁ~。何でだろう、みんな私と話そうとしない」

そう思っていた甲本栞は、一人で春休みの宿題を終わらせていた。

同じクラスには、近所の人がいなかった。

だから、昼休みはずっと一人だった。

ずっと、寂しい思いをしていた。

「来年度こそは、友達を作るんだ、お~」と一人で呟いていた。


2004年4月(中学2年)始業式


クラス発表の掲示板を見た。

「近所の人はいるかな?」

栞は呟いた。

「2年4組か、あいつとは違うクラスか」

真田幸一は呟いた。

「真田君と一緒か」

う、誰?って言われたら悲しいな。

「ん? ああ、近所の甲本さんか」

よかった。真田君は私のこと覚えてくれていたんだ。

「おう、真田、また同じクラスか」

土田豊だった。

「ああ、一人はいたんだな」

「だな、他の連中は1組と2組と3組か、階が違うな」

他の連中とは、古田貴、東英士、森山真二、古谷晶、田中一善のことである。

「おい、俺を忘れている」

後ろを振り向くと、吉田幸一がいた。

こいつの家は俺の家の隣で、幼馴染である。

「冗談だよ」

吉田は、はぁ~と溜息をついた。

「それにしても、あいつらがいないから、静かになりそうだ」

やはり、吉田もそう思うか。

しかし、土田はそうは思わなかった。

「いや、あいつらがいる」

亜貴田由谷(あきたゆうや)という不良だ。

「確かに、こいつは、授業中に廊下に出ていくからな」

と言いながら、真田と土田は昇降口から教室に向かった。

その後ろに、甲本栞がついていく。


教室に着くと、黒板には「適当に座って下さい」と書かれていた。

というわけで、適当に座る場所を選ぼうと辺りを見渡していると、近くに

丁度2つ

席が空いている所があった。

真田と土田はその席に座った。甲本は教室の窓側の一番後ろの席に座った。

吉田は、廊下側の一番前、教室の隅の席だ。

「担任誰かな?」

土田は他に話すことがないのか、良く聴く台詞をしゃべり始めた。

「さぁ、新任かもな」

二人が平和に話していると、所謂不良の「亜貴田由谷」と「合田吉夫(あいだよしお)」が教室に入ってきた。

何をするつもりかは知らないが、関わらない方が良いだろう。

2人は教室を歩き回っていた。

一生懸命(今頃かよ)宿題を終わらせようとしている人に話かけていた。

が、すぐにまた教室の中を回り始めた。

適当に教室の隅の席に座った。

「なぁ、宿題見せてくれよ」

毎回これだ。あいつらは、いつも人の宿題を写そうとする。間に合うわけがないのに、こういうことを言う。

なぜだと思うか?それは・・・

「あ、うん。いいですよ」

今回の標的は甲本さんだった。

亜貴田は宿題を手にすると、いつものように「借りてくぜ~」

と言って、合田と一緒に教室から出て行った。

「はぁ~、かわいそうに」

という声が教室中から聞こえた。

その5分後、元1年4組の担任の「森田」が入ってきて、廊下に並ぶように言った。

あの長い校長の話を聴きに講堂に行くのである。


講堂で始業式が始まった。

校長の長い話をわざわざ聴く気もなくただ黙って、この後のことを考えていた。


教室に戻ると、担任から出席番号順に席に着くように言われた。

偶然なのか、女子の列を挟んで右に土田、左に甲本という席順である。

男子の列、女子の列が交互にきて、出席番号だから仕方がない。

不良の2人以外が席に着いたのを確認すると、

「え~、2年4組の担任の木田善貴(きだよしたかです。よろしくね」

という、何てことない、自己紹介とともに、クラスの学活の時間――要するに、春休みの宿題とかいう物を回収したり、明日の実力考査の説明をしたりする時間――が始まった。

いつものように、宿題をやってきたんですけど忘れましたという人が2,3人。

ちなみに、俺たちはちゃんとやっている。

だが、甲本さんには宿題がない。まだ返してもらっていないようだ。

「あれ?v甲本は宿題どうしたの?」

「あの、えっと……」

どうやら、あの不良の名前が分らないらしい。

「まぁ、人間忘れることは良くあるからな。忘れてきた人は、今週中に出すように。と言っても明日は金曜か」

完全に甲本さんが宿題をやって来ていないと勘違いしたようだ。

「……」

こうして、帰りの会が終わった。

真田は、廊下から、ずっと聞き耳を立てていた人の存在に気づいた。

あいつらは、相変わらず、人が困っているのを見るのが好きなんだな。


その後、真田は不良の溜まり場に行った。

「なぁ、宿題のやったか?」

と、当たり前のように、亜貴田に聞いた。

「ん? ああ、ちゃんとやってるよ。ほら」

亜貴田の宿題を見た。確かに、全て写し終えていた。相変わらず、こういう作業は早いな。

「そうか、やらないと色々と言われるからな」

真田は相手に合わせている。

「何だ? これ、欲しいのか?」

不思議がるように聞いてきた。

「まぁな。そろそろ返さないと、色々と面倒なことになるぞ」

と、事実を言った。

「そうか。なら、あいつに返しておいてくれ」

甲本さんの宿題を手に入れた。


真田は不良たちとの橋の役割をしていた。

度が過ぎると、「後で面倒なことになる」と言って、牽制する役割である。


帰り道、俺は吉田幸一と一緒に帰っていた。

「隣にいるのが可愛い女の子なら良いのに」

「同感だ」

はぁ~、何が悲しくて野郎と一緒に帰っているんだか。

「で、お前好きな人とかいるのか?」

吉田幸一は俺に訊いてきた。

俺は少しの間黙った。

「お前はどうなんだよ?」

吉田も少しの間黙った。

表通りの車屋の角を曲がって裏道に入ると橋が見える。

橋の下にはコンクリートでできた川がある。

草木はほとんど生えていない。

橋の上で立ち止まり、川の水の流れを眺めていた。

「俺は、甲本栞さんが好きだ」

吉田はそう言った。

あいつが答えたんだから、俺の番なんだが、

「俺も、甲本栞さんが好きだ」

川の流れのように、時は流れていく。

時には枝分かれして、時に合流して……

時の流れは、大きな樹のような物で、今俺達にとっては枝分かれの瞬間だったに違いない。

「そうか、俺達はライバルになったんだな。恋のライバルに」

「ああ、そうだな。どっちが甲本さんと付き合えるか勝負だ」

吉田は知らないだろうが、俺には少しだがアドバンテージがあるんだ。

そう、この俺の背中のバッグの中に、そのアドバンテージのための大切な物が入っている。

不良達から取り返した、甲本さんの宿題が。


その後、真田は甲本さんに宿題を返しに行った。

「よく考えたら、家に行くのは、初めてだな」

さらに、まともに話をするのも初めてである。

ピ~ンポ~ン。

という音がした。

その後、ガチャっという音がして、甲本栞が現れた。

「あ、真田君。何か用ですか?」

「用がないと来たらいけないのか?」

と、敢えて聞いてみた。

「あ、えっと、そんなことないです」

本気で答えている。ただの軽いジョークなのに。

「これ、あいつらから取り返してきた」

真田は貴重品を扱うように、栞に宿題を手渡した。

「あれ? あ、うん。ありがとう」

さてと、用も終わったし、帰るとするか。と思ったら。

「あ、折角だから、上がっていってよ」

と誘われたから、上がることにした。


「コーヒーと紅茶どっちがいい?」

と聞かれて、

別にどっちでもいいから

「まかせる」

と返した。

「うん。ちょっと待ってね」

栞のちょっとは10分だった。

人それぞれというわけだ。

単刀直入に言うと、栞が入れた紅茶はとてもうまかった。

その後、色々と話をして、分ったことは次の通りである。

1 栞は父と二人で住んでいる。

2 父は天神のある料理店で働いている。

3 母は5歳の時に亡くなった。30歳だった。

4 料理は一応人並みにできる。

5 引っ越してくる前は北海道にいた。

6 引越しはこれで3回目。

7 ちなみに、網走ではない。



「一年間、クラスのみんなが、声をかけてくれなかったんだ。何でかな?」

「ああ、それは、2つの小学校出身者が、それぞれの出身者同士で、既に友達ができているからだな」

「あ、そうなんだ」

今頃気づくな。

「で、近所の人で友達できたか? 東とか、喜田とか、山田とか」

「あ、いえ。一人もいません」

ズズズ・・・

という音をさせずに紅茶を飲む栞。

「友達いなくて寂しくないか?」

少し心配になった。

「はい。寂しいです。真田君は、私と友達になってくれますか?」

こういう時の回答はもちろん

「ああ、いいよ」

実際、甲本さんは、あまり目立たないが、結構かわいいし、性格も良い。

何で、今まで誰も声をかけなかったのかが謎だ。特に男子。

「ありがとう」

本当に嬉しそうに笑った。

これが、笑顔の見本です。といってもいいような、眩しい笑顔だった。

「真田君が初めての友達だよ」

俺は、軽いジョークのつもりで

「人生で?」

と言った。少し、怒った顔も見てみたいと思ったが、

笑顔で「うん。そうだよ」

と、爆弾発言していた。


18:00頃

家に帰ると。実力考査の勉強を始めた。

夕食を食べ、風呂に入り、試験勉強。そして、寝た。


因みに、当時俺は携帯電話なるものを持っていなかったし、持とうともしなかったし、興味すら持っていなかった。連絡する相手なんて、家の電話で十分なやつらだし、直接家に行った方が早いし、つまり必要なかったのだ。


時々変な夢を見る。去年の春からだ。

昭和の戦中の夢、ある青年と少女?の恋愛話。

江戸時代?の農民と屋敷に住む地主?との戦いの話。

そんなよく分からないものを夢で見るようになった。

これ、小説に書いたら良いんじゃないか?

そう思うが、夢だから、覚めて少ししたら忘れてしまうだろう。


吉田幸一side

今日は勉強したせいか、教科書や問題集の問題を解いている夢を見る。

すごい速さで、次々画像が動いて行くから、目が覚めたら気持ち悪いだろう。

テストで良い点を取れば、甲本さんに良く見られる。

勉強を教えている内に仲良くなれる。

そう思う。だから、画像処理に頭が追い付けなくなって気持ち悪くなる夢を見ることになっても、勉強はしなくてはならないと思った。

それにしても、なんだこの夢は……




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