第1話 夢の始まり
「寒い・・・。今日はふたご座流星群の日・・・確か、東の空だったよね・・・」
「彼と再会できますように・・・。」
――――輪廻転生のシーンor流星群――――
(甲本栞の語りかけ)
あなたは、前世の絆を信じますか?
私は30歳の誕生日までしか生きられない。
その代償と引き換えに、「前世の記憶』と『彼と何度も巡り会うという運命』を持つ・・・
これは、何度も巡り会う私たちの物語。
薄命物語
――――OP ―――――
第1話 ~夢の始まり~
2010年12月24日17:50頃、S県S市S大学、教養の掲示板にて・・・
少女?side
「今年ももう終わりか・・・」
ぽつりと、一人呟く少女が、掲示板の掲示物を見ている。
身長は150cmくらい、肩まで届くか届かないかの黒髪で、ほっそりとした体形の少女である。実年齢19歳の大学2年である。
名を甲本栞という。
掲示物には、12月25日冬季休講開始、1月6日(木)講義再開と書かれている。
「寒くなってきたから帰ろう」と思い、歩き出した、すると目の前に、ある人が・・・
青年side
少し前、講義が遅れて終わったから、急いで部室に向かって自転車を漕ぎまくっている青年がいる。
身長は170cmくらい、黒髪で、どちらかと言うと、ほっそりとした体形の青年。
実年齢19歳の大学2年である。
名をば真田幸一となむいひけり。
「掲示版を見に行かないとな」と思い、学生センターの向かい側の中庭、教養大講堂の前の掲示版に急いだ。
そこで、思いがけない人がいた。
―――18:00―――
「もしかして、幸一君?」
振り返ると、外見年齢16歳くらいの少女が立っていた。
「・・・栞か?」
その少女は本当に嬉しそうに、微笑んだ。
「うん、・・・久しぶりだね・・・えっと、5年と半年ぶりだね」
「そうだな・・・」
静寂、二人は少しの間見つめ合う・・・なんてことはなく。
「で、何で5年と半年間、音信不通だったのかな?」
と青年が聞くと、少女は、本当に困ったような顔をして、
「あ、えっと、その、住所知らなくて・・・」
「家の電話番号教えなかったか?」
「あれ? えっと・・・」
本当に知らないらしい・・・
「それに、○丁目まで同じだったんだから、届きそうなんだが・・・」
「ご、ごめんなさい」
本当にすまなさそうに頭を下げて謝っている。これ以上この空気を保つのはかわいそうだと思えてきた。
それにしても、いつまで頭を下げるんだろうと気になって、もう少しこのままにしておこうと思った。我ながら、ひどい奴だと思った。
「あの、幸一君?」
「何だ?」
おお、30秒ピッタリだ。ある意味すごい。
「許してもらえますか?」
ああ、なんて言うか、この泣き出しそうな顔。誰もが、許しそうになる・・・。
「許してほしいか?」
「あ、はい・・・」
「条件がある」
「な、何でしょう・・・」
妙な緊張・・・
「この後、付き合ってほしい」
「あ、はい」
何だそんなことですか、とホッとした顔をした。
「無理しなくていいぞ。友達の誘いがあるなら・・・」
「あ、はい・・・大丈夫です」
この反応は、やはりな・・・
「はぁ」
「どうしたんですか? 溜息ついて・・・」
「友達いないだろう?」
「う・・・」
図星・・・
「サークル入ってないのか?」
「あ、はい・・・私に合うサークルがなくて」
「そうか、じゃあ、俺と同じサークル入るか? 一つくらいサークルに入っておいた方が良いよ」
幸一は歩き出す。
栞も後に続いて歩く。
「あ、はい」
静かな、寒い夕方、2人はメインストリートと呼ばれる、並木道を歩き始める。
サークル会館に向かって。
クリスマス・イブに再会した2人には似合わない光景だった。
並木道の片側が、現在工事中だからである。
そんなことを考えながら、幸一はサークル会館1階の突きあたりの部屋のドアを開ける。
ここは、4つのサークルが1部屋を区切って使っている。
「新入部員を連れてきた。」
「え、こんな時期にか?」
少し丸い体系の三木が言った。
「は、ありえんろ?」
身長低め――栞より高いが――の林田、周りからは「トクさん」と呼ばれている。
「そうか、初めての女性部員か。」
真面目な性格の末本貴は言った。
「あれ? そうなの? 幸一君」
「ああ、言ってなかったな」
「ふーん。まぁ、いいか」
「と、言うわけだ。良かったな。今年は華があるクリスマス・イブになりそうだ」
「あ、えっと、ところで、ここは何のサークルですか」
部屋全体が凍りつく、棚の向こうのサークルの方々はいなかったからだ。
「聞くタイミングがずれてるな」
「将棋部だよ」
「へえ~~」
ちなみに、みんなは、こたつに入ってトランプをしていた。
その後、栞と幸一を混ぜて、19:30頃まで5人でトランプ2箱を使って『大富豪』をした。
19:30
「夕飯は何にする?」
という、誰もが思う台詞を、部長の末本が言った。
「候補は、ワクド、マス、キライヤ、ふうの家、百力、坂寿司・・・くらいか」
いつもみんなで行くところを次々出した、
「あ、でも、今なら、ワクドのラージバーガーが半額で得だよ」
さすが、トクさんだ。そういう情報は早いな。というわけで、ワクドに決まった。
「早く行かないと閉まるんじゃないか? ダデンキのは」
三木の発言は時々重要なことがあるから注意しよう。
ダデンキというのは家電製品を取り扱う店の一つで、デスト、ヨドガワ、ビックリと並ぶ大手である。
「あぁ、20:00に閉まるな」
やっと喋れた。
「いつも、行くんですか?」
栞も喋るタイミングを窺っていたみたいだ。
「ああ、時々な」
「いや、半年ぶりかな」
そう、俺はあまり、そういう所には行かないな。
「実は、私、そういう所に1度も言ったことがないんです」
え~!
マジかよ。
うそだろ?
やはりな・・・
四者四様の反応。ちなみに、トクさん・末本・三木・俺の順である。
夕食後、再び部室に戻って、『大富豪』を22:00までした。
22:25
幸一は栞と一緒に、スーパー『ナガナガ』に行った。
「ねぇ、幸一君。この後何か予定ある?」
と、みんなと別れた後に聞かれた。
もちろん、特に予定はないし、久しぶりに、栞と話すのもいいかな、なんて思っていたら・・・
「まさか、荷物持ちとはな・・・」
「ごめんね、お米が切れていて・・・」
「気にするな。ところで、栞は、こっちに住んでいるのか?」
「ん? あれ、言ってなかったかな?」
「聞いていないぞ」
スーパーナガナガの近くの裏道を進んでいくと、小さなアパートが見えてきた。
「着いたよ。ここが、私の家『さくら荘』だよ」
そこには、『さくら荘』と書かれた大きな看板が立っていた。
別に、大きな桜があるわけでもない。ただの2階建てのアパートである。
自転車を1階の適当な場所に停めて、2階に上がる。
「ここだよ」
204号室、ちなみに、一番奥の部屋だ。
おじゃましま~す。
「あれ? 誰もいないのか?」
「うん、1人暮らしだよ」
ということは、今は『一つ屋根の下で、若い男女が何とやら』ということか。
なんてことも気にせず、栞は
「コーヒーと紅茶、どっちが良い?」
と、聞いてきた。何というか、信用されているのか、純粋なのか・・・と考えながら、まかせる、と答えた。
俺は、コタツに入った。何もすることがなく、栞――横で薬缶に水を入れて、コンロの火を点けている――を見ていた。
なんだか嬉しそうな顔をしている。
「ん? な、何、幸一君? 顔に何かついてる?」
自然と目が合うんだよな、こういうとき。大体こういう時は、どう返すかな?
①ああ、さっき食べたバーガーのケチャップが右に、ああそこ。
②あ、いや、何でもない。
③いや、なんだか何だか嬉しそうな顔をしていたからな。
というのが普通だろうが、敢えて
「ああ、いつ見ても、栞は可愛いからな。」
と答えた。
「え、あ、う・・・そ、そんなことないですよ。」
顔が赤くなった。本当控えめなやつだ。
「うむ、一度鏡を見たほうがいい。」
「・・・やっぱり、顔に何かついてる?」
栞は口の周りを確認し始めた。
「いや、自分が可愛いことを自覚していないようだから。ああ、ちなみに、何も付いてないぞ。」
そうですか、と一安心したような顔をしているが、また顔を赤くしながら、顔を背けた。
いかん、栞をいじるのが癖になりそうだ。そろそろ本題に入ろう。
ピ~ゴロゴロ、ちなみにピ~は薬缶のお湯が沸いた合図、コタツでゴロゴロしているのは俺。
栞が、紅茶を淹れてくれた。
はいどうぞ、と言った栞はニコニコしている。
まさか、
①毒か!
②砂糖が大量に入っている?
③間違えて塩?
なんてことを考えたが、少し飲んでみると、何も入っていなかった。普通の紅茶だ。
否、普通の紅茶ではなかった、なんかこう、高級感がにじみ出てくるような、
そう喫茶店ではなく、レストランの500円くらいするようなやつだ。
「なぁ、この紅茶どこで買った?」
「ん? S駅に売っていたよ。これ」
そこには、『オンナ・ヨロコブ・サト・アラカジメ・紅茶』と書かれていた。
オンナがヨロコブ、サトでアラカジメ買っていた紅茶?
郷であらかじめ買っていた紅茶を飲んで、女性が悦んだ。とでも言いたいのか、まぁ少々捻ってあるな。
因みに、この紅茶は有名な紅茶だ。S県にある、温泉で有名な土地の紅茶だ。自分で答えを見つけるように、これ宿題。
「紅茶の淹れ方が上手だな」
「そう?」
「ああ、俺も家でこの紅茶を飲んでいるが、栞が淹れた方がうまいな。一応言っておくが、お世辞じゃない、事実だからな」
「うん、ありがと」
ずずずずず・・・、紅茶を啜る音ではなく、栞の携帯電話にメールが来た。
「ん? ああ、お父さんからだよ。28日に迎えに来るみたい」
そういえば、今何時だろう?携帯電話を見ると、23:00だった。
「終電逃したな」
家には『今日は泊まる』とメールしておこう。
「あ、泊まっていいよ」
いいのか?俺はバイトがあるときみたいに部室に泊まろうしていたのだが。
「あ、そういえば、『赤外線』してなかったね」
要するに、アドレス交換だ。全く『一つ屋根の下で、以下省略』なんてことを考えてないみたいだ。
「ああ、そうだな」
恋人同士なのに、アドレスを交換していなかったことに気づいた。今度こそ音信不通はごめんだ。
「さっき、お湯を沸かしている時に、何だか嬉しそうな顔をしていたな」
「ん? ああ、『コーヒーと紅茶、どっちがいい?』って聞いたら、幸一君が『まかせる』って言ったからだよ。あの時みたいに・・・」
あの時?俺は考えた。栞に飲み物を貰ったのは、確か・・・
「あの時か。懐かしいな」
そう、忘れもしない、中学2年の2月14日、所謂『バレンタインデー』だ。
「あの時からだよね、恋人になったの」
「ああ、そうだな」
栞が何か恥ずかしそうに
「ねぇ、あの約束のこと、覚えてる?」
ああ、もちろんだ。
栞は幸一の横に座った。
そして、二人は見つめあい、栞は目を閉じた。OKのサインだ。
幸一は、栞の唇に自分の唇をくっつけた。
これが、中学2年の栞が引っ越す時に交わした、約束だった。
『いつか再開して、その時でも、お互いの気持ちが変わらないなら、ファーストキスをしよう』
幸一は、栞の背中に手を回して、抱いた。栞は少し硬くなったが、そのまま、口を付けたままじっとしていた。
栞の唇は柔らかかった。キスはレモンの味とか言うが、バーガーのケチャップの味がした。
栞が、いつの間にか、俺の背中に手を回していた。つまり、胸が当たるはずなのだが、特に何も感じなかった。
本人も気にしているようだから、あまり言わないでおこう、というのが、常識だ・・・・・・が、敢えて、
「なあ、少しは大きくなったか?」
「ん? 大きくなったけど、幸一君も大きくなったから、あまり変化がないように感じているだけだよ。」
「・・・何が大きくなったって?」
「一応これでも、10cm伸びたんだよ。」
「そうか」
話がかみ合っていないが、敢えてスルーするのもいいかなと思ったが、
「あれ? 身長じゃないの?」
と聞いてきたから、
「胸」
とキッパリ答えた。
次の栞の反応は?
①頭にかみつく
②ビンタ
③おうふくビンタ
④頬をつねる
のどれかだと思ったが、
ただ、む~~、と言って、抱きしめてきた。
「悪い悪い、つい本当のことを言ってしまった」
というと、
「いいよ、自覚していますし、高校時代では、背も胸も一番小さかったですから」
顔を覗き込んでみると、泣いていなかった。
「まぁ、恋人がいるんだからいいじゃないか」
「うん。」
・・・私、知っているよ。幸一君は本当は優しくて頼りになるってこと。
「えへへ、幸一君大好き。・・・こんな、私を愛してくれて、嬉しいよ」
「まぁ、俺もかわいい彼女がいるって、自慢できるしな」
自慢なんて、あまりしないくせに・・・さっきしたけど。
「久しぶりに、あの頃の話でもしようか」
「ああ、どこからがいい?」
「私たちが出会った時から」
栞は紅茶のおかわりを用意した。
少し冷めても栞の紅茶はうまかった。
二人は横になり、懐かしい中学時代の思い出を語りあった。
ED
次回予告 第2話~出会い~
真田幸一「中学1年の春休み、というより、小学6年の春休み、3月中に甲本栞は、引っ越してきた」
甲本栞 「でも、中学の1年間はクラスに友達ができなかった。なんで?」
真田幸一「次回、薄命物語、第2話~出会い~」
甲本栞 「幸一君と仲良くなったのはいつだっけ?」
次回予告があったり、なかったり、という中途半端な状態です。