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夏と言えば・・・

作者: 東郷 義人

「おはようございます」

「おはようございます」

「おはよう、祐一」

「珍しく早いじゃないか。まだ八時だぞ?」

夏休みのある日、祐一がリビングに下りてくると珍しく名雪が起きていた。

「わたしだってたまには早起きするよ」

「早起きってほどじゃないけどな」

そんなことを言いながら祐一も席に着く。

「しかし、冬は雪国のくせに夏は十分暑いんだな」

「仕方ないよ。それに涼しい夏なんて季節感がないよ~」

「まあな。でもこう暑い日が続くと疲れるんだよな」

「・・・そうですか。ちょうどよかった」

祐一がトーストにバターを塗っていると、キッチンから秋子さんが出てきた。

「今度の日曜日、海に行こうかと思っているんです」

「えっ!」

「そうなの?お母さん」

祐一と名雪は顔を輝かせる。

「ええ。お友達たちも誘ったらどうかしら?」

「うん。それがいいよ~」



「・・・というわけなんだ」

「海・・・ですか」

今日は栞・香里・北川と一緒に出かける予定だったので、祐一と名雪は三人に都合を聞いてみた。

「そうね。最近は暑いし、いいんじゃないかしら?」

「俺も賛成だな。どうせ予定もないし」

香里と北川は予想通り快諾してくれる。

「栞はどうだ?」

祐一は悩んでいる様子の栞に問いかけてみる。

「海には行きたいんですけど・・・」

栞はなにやら言いにくそうにしている。

「・・・ああ、栞、着ていくような水着がないんでしょ」

香里が得心したように言う。

「ああ、なるほどな・・・」

病気がちだった栞は何年も海に行っていなかったんだろう、と祐一も納得する。

「じゃあ、祐一と買いに行けばいいんじゃない?」

名雪が言う。

「そうね。どうせだから相沢君に見繕ってもらったら?」

香里も賛成する。

「・・・じゃあ祐一さん、お願いできますか?」

「ああ。もちろんだ」

祐一と栞は、あさってのデートの時に買いに行くことにした。



「水着って、いろんな種類があるんですね・・・」

「まあな。女用はいろいろあると思うぞ」

翌々日、二人は予定通り栞の水着を買いに来ていた。

「うーん、悩みますね・・・」

栞は二十分ほどうろうろしていたが、やがて一つの水着を手に取った。

「これなんてどうですか?」

栞が選んだのは、花の模様がついたビキニタイプの物だった。

「やめとけ。ビキニが映えるような体型じゃないだろ?」

「祐一さん、ひどいです!そんなこと言う人、嫌いです!」

コンプレックスを突かれて栞は憤慨する。

「はっはっは、冗談だ」

祐一は笑って返す。

「冗談でも傷つきました。罰としてこの水着を買ってください!」

「・・・いや、できればビキニタイプじゃないのがいいんだが・・・」

「どうしてですか?」

「いや、理由は聞かないでくれるとありがたいんだが・・・」

「いやです。私を納得させられるような理由じゃないと聞いてあげません」

栞は歯切れの悪い祐一を追及する。

「えーっとな・・・栞のビキニとか・・・そうゆう感じの格好は、俺以外の誰にも見せたくないんだ・・・」

「・・・そ、そうだったんですか・・・」

顔を赤くしながらの祐一の言葉に、栞も真っ赤になる。

「・・・ダメか?」

「・・・いえ・・・そんな理由でしたら・・・仕方ないです」

栞は水着を棚に戻す。

「・・・悪いな、栞」

祐一が申し訳なさそうに言う。

「いえ・・・祐一さんがそんな風に考えてくれてるなんて・・・嬉しいです」

「そうか・・・」

照れたように微笑む栞に、祐一も笑顔になる。

「じゃあワンピースタイプの水着を見てみますね」

「ああ」

祐一と栞は店の奥に入っていく。と、棚の後ろから二人の人影が出てくる。

「相変わらずのバカップルぶりね・・・。見てるこっちまで恥ずかしくなってくるわ」

「そんな風に言っちゃだめだよ香里。仲がいいのはいいことだと思うよ」

溜め息をつく香里を名雪がたしなめる。

「まあ、妹の交際がうまくいっているのは姉として嬉しいことなんだけど・・・近くに人がいなかったとはいえ、時と場所を選んでほしいのよね」

「そうかな?恥ずかしいとは思うけど、それでもそうしたいのならいいんじゃない?」

「まあ、名雪ならそう考えるわよね・・・」

香里はやれやれ、と首を振る。

「香里は気にしすぎなんだと思うよ。もっと北川君にも向かっていかなきゃ」

「ちょ、なんでそんな話になるのよ!?」

いきなり自分の話を振られて、香里は慌てる。

「別に。ふとそう思っただけだよ」

名雪は軽く流すと、小走りで店を出て行く。

「こら、待ちなさい名雪!」

香里もそれを追って店を飛び出す。



「祐一さん、ありがとうございます」

「まあ、水着くらいならプレゼントするさ」

しばらくして、買い物袋を持った祐一と栞が戻ってくる。

「じゃあ、デートの続きですね」

「ああ。次は百花屋に行こうか」

買い物を終え、祐一と栞も去っていった・・・



「海だよー」

「おぉーっ!」

次の日曜日、祐一たち一行六人は海へと来ていた。

「久しぶりに来ましたけど・・・やっぱり海はいいですね」

栞も嬉しそうにしている。

「よーし、とっとと泳ぐぞーっ!」

突然服を脱ぎだす北川。

「・・・ああ、下に水着を着てたのか」

すぐに北川は水着姿になっていた。

「これならすぐに海に入れるからな。相沢は着て来なかったのか?」

「まあ、俺も最初はそうしようかとも思ったんだが・・・北川、お前帰りはどうするか考えたのか?」

「・・・・・・しまったーっ!!」

頭を抱えて崩れ落ちる北川。

「まったく、しょうがないわね」

香里は呆れ顔だ。

「どうするの、北川君?」

「・・・俺は気にしないことにするから、皆もそのことについては今後触れないでくれ・・・」

北川はなんとか立ち上がる。

「じゃあ、私たちは着替えてきましょうか」

「そうですね」

一行は、北川を残して更衣室に向かった。



「おっ、来たか相沢」

「俺が一番か・・・まあ当然だな」

祐一が一番に着替え終わって出てくる。

「しかし名雪の水着なんて八年ぶりぐらいか?」

「お前、引っ越してくるまで水瀬とはずっと会ってなかったって言ってたもんな」

「まあ、どっちにしろ本命じゃないからいいんだけどな」

「こいつー。栞ちゃんとラブラブしやがって」

「なんだよ。お前だって香里の水着姿が見られるんだからラッキーだろ?」

「そ、そんなことないぞ?」

「好きな女のそういう姿を見たいと思うのは、当然だと思うぞ~?」

「からかうなって!ていうかお前、そのこと美坂には言ってないだろうな?」

「当たり前だ。お前が告白したりなんだりするまでは一切黙ってるよ」

「・・・約束だぞ?」

「・・・あら、何の話ですか?」

いつのまにか秋子さんが出てきていた。どうやら水着の上にTシャツを羽織っているらしい。

「いえ、こいつの恋愛の話ですよ」

祐一が北川を指差して言う。

「お前、秋子さんにまで言うなって!」

「あら、北川さんには好きな人がいるのかしら?」

秋子さんが聞いてくる。

「ま、まあ・・・ノーコメントで」

「そう。言いたくないならしようがありませんね」

秋子さんも強く詮索するつもりはなかったのか、あっさりと引いた。

「他の三人はどうですか?」

「そろそろ出てくると思いますよ・・・あ、ほら」

祐一が振り返ると、名雪と香里が出てくる所だった。

「祐一、待たせてごめんね~」

「いや、そんなに待ってないけどな」

二人も合流する。二人とも露出が少なめのビキニだった。

「それにしても、こうやって見ると香里ってスタイルいいよね~」

「そんな事ないわよ。名雪だっていいと思うわ。ね、相沢君」

「ああ・・・。まあ、悪くないと思うぞ」

「中途半端な答えね。まあ栞の姉として、絶賛されても困るんだけど」

香里が悪戯っぽく笑う。

「・・・なあ北川、香里の水着姿どう思う?」

「・・・え!?ああ・・・えーと・・・いいんじゃないか?」

「・・・!」

照れて言う北川に頬を赤らめる香里。

「最後は栞か・・・」

「あっ、出てきたみたいだよ」

見ると、更衣室から栞がちょうど出てくる所だった。そのまま真っ直ぐやってくる。

「遅くなりましたーっ」

「かまわないよ」

「・・・・・・」

「・・・ゆ、祐一さん?」

祐一は無言で栞のことを見つめている。

「・・・やっぱり、可愛いな」

「・・・はい。ありがとうございます」

祐一の言葉に、栞は頬を赤らめる。

「じゃあ、みんな揃ったところで泳ぐかー!」

「うん。泳ぐよー」

北川は海に飛び込んでいく。名雪も続く。

「あ、栞。約束の物よ」

香里が栞に浮き輪を渡す。

「・・・まさか栞、泳げないのか?」

「し、仕方ないじゃないですか!泳ぐ機会があまりなかったんですから!」

祐一の言葉に、顔を赤くする栞。

「しょうがないな。俺が手取り足取り教えてやろう」

「・・・ちゃんと教えてくれるんですよね?」

「・・・なんだその疑わしそうな目は」

「相沢君なら栞が苦労してるのを笑って眺めてそうだ、と思ったんじゃないの?」

不満そうな祐一に香里が言う。

「まったく・・・俺は栞が久しぶりに海に来れたんだから、少しでも楽しませてやりたいと思っただけだ」

「冗談ですよ。・・・じゃあ今日一日エスコートをお願いしますね」

「もちろんだ。じゃあ行くぞ栞!」

「はい!」

祐一と栞は手を繋いで海に飛び込んでいった。

「本当に仲が良いですよね。祐一さんと栞ちゃんは」

「はい。あの子は相沢君のおかげで毎日がとても幸せそうです」

秋子さんと香里はそんな二人を暖かい眼差しで見つめる。

「・・・そういえば秋子さんが相沢君の引っ越しを受け入れなかったら、栞は彼と出会えなかったんですよね・・・ありがとうございます」

「お礼なんていいわよ。私は栞ちゃんのためになると思って祐一さんを呼んだわけじゃありません。きっと、小さい頃から苦労してきた栞ちゃんへの神様のプレゼントみたいなものだったんじゃないかしら」

「そうですね・・・私、ずっと「運命」とか「神様」とかって嫌いだったんですけど、今は好きになれそうです」

「・・・お姉ちゃーん、一緒に泳ごうよー!」

声に振り返ると、栞が手を振っている。

「お呼びがかかったみたいです。では、失礼しますね」

「ええ。楽しんできてください」

香里は海の方を向く。・・・満面の笑みを浮かべて。

「・・・今行くわよ、栞!」

本来秋子さんが引率する必要性は全くないところですが、オチが弱かったので香里と語り合わせるために登場させることにしました。にしてもタイトル考えるのって難しい・・・

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