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7:どこ行くの?

今回より『R15』タグを追加させていただきました。

そういった描写はかなり後半まで出てこないとは思うのですが…。

白鳥が「つけておけ」とうるさいもので。

ご不快に感じる方がいらっしゃいましたら申し訳ございません。



 目がしょぼしょぼする…。


 白鳥が誰かに私とのことを漏らしてはいないかと不安で眠れぬ夜を過ごした私は、思いっきり寝不足だった。自分がイケてると感じたことはないが、ここまでひどい顔も珍しい。我ながら気の毒だ。


 時間は朝7時半。まず朝ごはんの用意をする。独り暮らしを始めて5年弱。毎日朝ごはんは和食党。力が湧くのよね。今日の白鳥との戦い(デートです)に備えてしっかり食べておかなくちゃ。おかわり!


《10時に迎えに行く。用意しとけ。》


 あいつからの偉そうなメールが入ったのは昨夜の10時。ちょうどお風呂に入っていたから、気が付いたのはベッドへ行こうとした11時過ぎだった。


《了解》


 絵文字どころか、句読点さえ含まない簡潔な返事を返しておいた。すると、わずか数秒で返信がきた。あまりの早さに、アドレスが間違っていて、センターから『宛先なし』のお知らせが来たかと思ったほどだ。


《返事が遅い! あと短すぎ!》


 わざわざメールでお小言寄こさないで欲しい。白鳥ってけっこうおこりんぼだよね。アドレス交換の時も何かイラついてたし。




 一昨日、居酒屋さんからの帰り道。白鳥は「けっこうです」と遠慮ではなく、心から拒否する私を無視して家まで送ってくれた。聞けば、白鳥の家は私より少し会社から遠い。しかも逆方向。


「ここまででいいから。」


 地下鉄に乗るとき、降りるとき、降りてから家までの帰り道の途中。ポイントポイントでお別れを告げようと試みたけれど、あえなく失敗に終わった。


「…土曜日、迎えに来るから、おとなしく家を教えろ。」


 終いに黒いオーラを漂わせながら白鳥に言われ、ビクビクしながら家まで歩いた。…ひとみちゃんの“氷の女王”と言い、白鳥の“黒オーラ”と言い、顔立ちが良い人の怒りモードって怖いよね。ずるいよ。そんな武器使ってさ。


「ここが私の家。送ってくれてありがとう。」


 私が住むマンションは、4階建ての1LDKばかりが20戸入っている独身向けマンション。オートロック付き。学生時代に貯めたバイト代をすべてつぎ込んで入居した。家賃は少し高め。でも、幸い大手企業のうちの会社はお給料も悪くないし、残業代もちゃんとつく。お昼をお弁当にしたりして節約すれば住めないことはない。


「いいとこ住んでんなぁ。お茶でも飲ませてくれよ。」


 は!?


「ななな、何言っちゃってんの!?」


 いきなり上がってく気? 図々しいにもほどがある。私の部屋に上げたことがあるのは両親と、ひとみちゃんと、学生時代の女友達だけだ。(女27歳。自慢になるかは分からない。)


「冗談だよ。」


「…びっくりさせないでよ…。」


 ほっと息をつく暇も与えず、白鳥はニヤッと笑って次の爆弾を落としていった。


「次は上がるから。片づけとけよ。」


「上げません!」


 脊髄反射でお断り。が、そんなことで怯む奴ではなかった。


「俺の家に来てもいいけどさ。ここの方が会社も近いし、泊まるのに便利だろ。」


「泊まらせないわよっ!!!」


 怒りで血管が切れそうになりながらも、顔が真っ赤になるのが分かった。デートさえしたことのない私にとって、この程度の会話でも刺激が強すぎる。


「ま、その辺は追々おいおいと…。それより華蓮。携帯出せ。」


「何で?」


 目の前にいる人と携帯で話す必要性が分からない。


「…番号を交換するんだよっ!」


「そんな怒ったみたく言わなくてもじゃない。」


 誰のせいだとかなんとかブツブツ呟く白鳥と番号とアドレスを交換した。






 そして、白鳥は私がマンションに入るのを見届けると帰って行った。…誰かに送ってもらったのなんて初めてだった。お酒に強いこともあるけれど、このがっちりした体のせいもあり、いつも「伊集院さんは大丈夫だよね。」と、断定形で言われ、1人で家路に就いていた。実際、危険な目にあったことは皆無。


 …一応、白鳥から女として見られてるんだよね? 泊りがどうのとか言ってたし…


 一昨日の会話を思い出してまた顔が熱くなる。経験はなくとも“泊り”が何を意味するかの知識ぐらいは持ち合わせてる。

 一人であたふたしていたら、時計がすでに8時半を過ぎているのに気がついた。いけない! 着ていく服すら決めてないよ! 


 手持ちの洋服の中から、何を着ていくか吟味する。…付き合うって、けっこう面倒だな…。世の中の女性の皆さんは、こういう経験が何度もあるんだよね。尊敬です。

 …そのうち慣れるのかな? いや、慣れる前にこの関係が終わるでしょ。


 自分の服を一通り見て後悔した。どうして、昨日のうちに気が付かなかったのよ~! 昨日は白鳥が余計なことを誰かに吹聴してないかばかりに気をとられてた。まさか、こんなに使えない服ばかりとは…。


 私はおしゃれじゃない。服選びのポイントはズバリ機能性。通勤着はパンツ系が多いし、色もモノトーン主流。私服に至っては、メンズ物が紛れてる。

 …肩がね。苦しいのよ。パーカーとか、羽織物は気を付けないと腕が縮こまって前に出ちゃう。ウホって感じ。


 丈の短いスカートやキュロットはめっっっっったに履かない。制服は仕方がないけれど。ふくらはぎに…シシャモを飼ってるものですから…。


 引っ張り出した洋服を前に正座して考える。 考える。 考え…ええぃ! めんどくさ-い!!

  

 そうよ。なんでこんなに悩まなくちゃいけないの? 初デートって言っても『彼氏(仮)』。仮なのよ! 別に飾り立てる必要なんかない。いつもの自分で行けばいいの。デニムにしちゃお。


 そうと決めると早かった。裾がロールアップされたデニムパンツ、数少ないオレンジ系の花柄のチュニックブラウス。その上に濃いネイビーのジャケットを羽織る。首には二連のネックレス。お? 私にしては女らしくできたんじゃない? よし! 上等!


 すでにやり遂げた感いっぱい。今日は頑張った~……ん? 今何時? 正座して熟考しちゃったけど。恐る恐る時計を振り返ると…ぎゃっ! 9時をとっくに回ってる! 


 ハイスピードでメイクする。5分もかからないメイクってどうかと思うけど、頑張っても元がね。

 髪はどうしよう? 母親譲りのくせ毛と父親譲りの毛の太さ。しかも寝癖付き。毛先が肩幅くらいに広がっちゃってるよ。…濡らしてとりあえずアップにしとけ! 時間がない。


 慌てて玄関で靴を履いてマンションの外へ出る。10時5分前。ぎりぎりセ----


「アウト。」


「セーフでしょ!?」


 ほっとしかけたところで冷たい審判が下された。ムキになってキッと振り返ると、そこには白鳥が腕組みして立っていた。


 へぇ~…。私服って新鮮かも。


 思わず上から下までじっくり見てしまう。いつもよりラフな感じのさらっとした髪。ベージュのチノパンに白のパーカー。その上から黒のジップアップのジャケットを羽織っている。意外とカジュアル。よかった、かしこまった場所へは行かないってことだよね。


 それにしてもいい男だなぁ。いつものスーツより若くてさらにカッコいいかも…。大丈夫?私。 こんな人と並んで歩くの?

 

「靴を履き替えてきたらアウトだ。」


「履き替え?なぜに?」


 慌ててはいてきた靴はローファーパンプス。ヒールなし。無難だよね?


「スニーカーでいい。」


 はい?


「遊びに行くぞ。」






 スニーカーに履き替えて再び下りていくと、「乗れよ」と白鳥が助手席のドアを開けてくれた。車は黒のステーションワゴンっていうのかな? 割と広い車。


 じょ、助手席ですか…。後ろに乗りたい…。躊躇していたら「早く乗れ」と怒られた。「おじゃまします…」と、挨拶をして車に乗り込む。


 それにしても。車って何気に密室だよね。助手席だと距離も近いし。何話そう? 大体、どこまで行くんだろう?


「どこに向かってるの?」


「公園。」


 公園? これまた意外なチョイス。てっきり、無難に映画とかショッピングだとかに行くかと思ってた。


「ここから車で1時間ちょっと行ったところに海が見えるいい公園があるんだよ。お前、好きって言ってたろ。」


 …よく覚えてるね。確かに、ずいぶん前の飲み会で話した記憶がある。「海と山、どっちが好きか」って話題になった時に。


 そう言えば。ここのところ、飲み会ではいつも白鳥が近くに座っていた気がする。…女の子を引き連れて。でも、白鳥が話すのは私やひとみちゃん、幹事の佐々木だった。取り巻きは完全無視。

 てっきり白鳥に絶対気がないと分かりきっている私たちだから話しやすいだけだかと思ってたけど…


「ねえ。もしかして、飲み会の時、近くに座ってたのって…」


「やっと気づいたか。必然に決まってるだろうが。」


 …偶然であって欲しかった。


「お前はいつも植原の隣にいるから、あの席を確保するのは大変だったんだぞ。植原狙いの奴らが座りたがるからな。」


「どうやって確保してたの?」


 白鳥は私たちより遅く来ることもあったはず。なのに、私の隣はいつも空いていた。てっきり“ジャーマネ”の隣は敬遠されてるだけだと思ってたんだけど。


「佐々木に“伊集院の隣に座れないなら飲み会は行かない”って言ったから。」


 ほ~。なるほどね~。白鳥が来ないと、女の子の出席率がグンと下がるもんね。ひとみちゃん以外の女の子を狙ってる奴らも多いから。幹事の佐々木は白鳥の意向に逆らえなかったんだろう。


 ひとみちゃんを呼んだり、白鳥を呼んだり、席を確保したり。皆さんのリクエストに応えるのも大変だね~、佐々木。


 ………待てよ? 佐々木に「伊集院の隣」を指定したんだよね。ってことは…


「佐々木にもバレちゃうじゃん!!」


 そうだよ! 何考えてんのコイツ! そんなこと言ったら白鳥が私のことを…って佐々木が気が付く…? いや、気が付かないな。

 そうそう。普通に考えれば、白鳥が私に気があるなんて誰も想像だにしないはず。きっと、ひとみちゃん狙いだと思ってくれてるよね。自分が白鳥と不釣り合いでよかった。


「もちろんバレてるぞ。」


 私の望みは奴の一言で音を立てて崩れ去った…。






 

あら? 車が走り出したところで終わってしまった…。申し訳ありません。デートの内容は次回必ず!!


いつもお読みくださっている皆様、本当にありがとうございます。

お気に入り登録も5…5…500件を超えました---!!

ご期待に添えるお話になっておりますでしょうか? お気づきの点があれば感想欄にご一報いただけると幸いです。

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