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19/21

19:社員食堂にて(植原ひとみがお伝えいたします)

大変お待たせいたしました! 4か月半ぶりの投稿です。

お気に入り登録を外さずにいてくださったたくさんの方々、また、この作品を憶えていてくださった皆様、ありがとうございます。


久々の更新は『ひとみちゃん視点』になります。

…時期は、いまだにGW前です。よろしくお願いします。



 皆様、突然の登場で失礼致します。植原ひとみと申します。


 華蓮さんがただいまお取り込み中のため、本日は私が『お嬢様社員の実体を探れ!』と題して社員食堂からお伝えさせていただきたいと思います。


 え? 私の語尾が伸びてないですか? そこ、気になりますかね?


 普段の言葉遣いから、私の脳内思考までだら〜んと伸びきっていると誤解されている方がいらっしゃるようですが、私の脳内は意外と冴えきっています。

 ただ、声帯を通し、声として発する過程のどこかに不具合が発生するようです。不思議です。



 本日、私と華蓮さんは『お嬢様観察ツアー』を行うべく、この社員食堂へと赴きました。


 ええ。あくまで目立つ予定はなく、ひっそりと『お嬢様観察』をするつもりで参りました。


 なのに……すでに注目を集めつつある状況にあります。


 まず、なぜ『華蓮さんがお取り込み中』かと申しますと…。




「A定のしょうが焼き。B定のサバの味噌煮。…いいとこ突いてくるわね。決められないじゃない…。」

「…華蓮さ〜ん。いつまで迷ってるつもりですか〜。ターゲットが来る前に目立たない席に座りましょ〜。」


 私と華蓮さんは、悲しいことに悪目立ちします。

 そんな私たちが珍しく社食に姿を現したため、先ほどから鬱陶しい視線をビシバシと感じているので、一刻も早くひっそりとした席に座りたいところなのですが、華蓮さんはマイペース。『本日の定食』のサンプルを前に熟考しております。


 私個人としては『本日のパスタセット(サラダ・スープ付き)』が一番惹かれるところですが。


「だって、ひとみちゃん。どっちも私の大好物なのよ。…さすがに両方は食べきれないし…。うちの社食おいしすぎるの! ねえ、おばちゃん、ハーフ&ハーフとかできないかしら?」


 華蓮さん。ピザじやないですよ。


「華蓮ちゃん、せっかく褒めてくれたのに悪いね〜。どっちかに決めてもらえるかい?」


 食堂のおばちゃんも苦笑いしております。


「あ〜!?困っ…「A定とB定、両方くださ〜い!」

「ひとみちゃん?」

「…私もどちらも好きですから〜。半分こしませんか〜?」


 さようなら。パスタセット。次回は必ず頼むからね!

 惜しい気はするけど、これ以上華蓮さんに悩まれるくらいなら、定食を分け合う方がはるかにマシです。


「ごめんね、ひとみちゃん。他に食べたい物があったんじゃない?」


 テーブルに並んだ2つの定食を前に、華蓮さんが肩を落とします。


 華蓮さんは気付いてないようですが、表情豊かな華蓮さんを私は可愛らしいと常々感じています。今も、しょんぼりしながら、視線は定食に釘付け。食べたかったんですね〜。


「私も、本当にどちらも好きですよ〜。さ、食べましょ〜?」


 第一希望はパスタでしたが、どちらの定食も好きなのは本当です。


「ありがとう!じゃ、いただきます!」


 やっと、お昼ご飯にありつけると思ったその時、入り口方向から甘ったる〜い声が聞こえてきました。


「白鳥さ〜ん。何召し上がります〜〜?」


 標的ターゲット発見!!


 それにしても…。語尾延びすぎですよー。私に言われるなんてヤバいですよー。トーンも妙に高くて頭に響きます。彼女、頭のてっぺんに口が付いてませんか?


「…俺はいつもA定食だ。」


 打って変わって低い声。あー、白鳥さん、心底うんざりしてるなぁ…。あんな至近距離であの声で話されたら耳障りだろうなぁ。お気の毒に。


 私と華蓮さんは、奥の方の席に向かい合って座ってます。白鳥さんとお嬢様は、私の左側(華蓮さんの右側)から入って来たので、横目でチラチラ様子を伺います。華蓮さんもちゃんと観察してますか?…って、オイ!


(華蓮さん、夢中で食べ過ぎですってば〜!)


 華蓮さんは、わき目もふらず、サバを咀嚼中。白鳥さんが入ってきたことも気付いてないようなので、小声で注意します。


「あ、ごめん。私、食べ過ぎ? サバが絶品でさー。ひとみちゃん、しょうが焼きたくさん食べていいよ。ごめんね。」

(違います〜! 白鳥さん来ましたよ〜!!)

「ん? 白鳥…? ああ!?」


 …当初の目的をきれいサッパリ忘れてましたね? しかも、そんな大きい声出して!


「伊集院!」


 ほら、気付かれた。


(ど、どうしよう、ひとみちゃん。気付かれちゃったみたいよ。)


 今さら小声は遅すぎです。華蓮さんの意外とヌケてるところも可愛いですけど。


 『目立たない』予定が、白鳥さんの登場により、いまやハッキリ目立ってしまっている私たち。勘弁してください。


「珍しいな。伊集院が社食に来るなんて。」


 ニコニコしながら、ちゃっかり私たちの隣に腰を下ろす白鳥さん。ますます注目度アップ! 来んな、白鳥(イラっときたので、以下敬称略)。


 ちなみに、思いがけない華蓮さんとの遭遇に満面の笑みの白鳥に対し、隣でアワアワしてる華蓮さん。私の隣に青スジ立てたお嬢様。


 ウワサのお嬢様を拝見するのは初めてです。あの、いかつい副社長の娘さんとは思えない愛らしい顔立ち。副社長の奥様は、よほど美人でいらっしゃるようで。


 大きな瞳を縁取るクリクリなまつ毛。小さな顔の周りには、栗色でフワフワの巻き毛。仕事に支障が出ない程度の控えめなネイル。女性の採点には厳しい私の目から見ても、満点に近い出来です。見た目だけは。


「白鳥さ〜ん。こちらの方は〜〜?」


 ん?  私??


 お嬢様が『こちらの』と言った時、明らかに目線が私に向いていた気がします。


「ああ。俺の同期の伊集院。営業部なんだ。」


 華蓮さんしか眼中にない白鳥は、華蓮さんだけを紹介します。もしも〜し。私の存在を忘れてませんか〜?


「営業事務の伊集院です。よろしくお願いします。」


 箸を置いて、両手を膝に乗せて、華蓮さんがお辞儀をしました。さすが華蓮さん。座ったままのお辞儀の姿勢も美しいです。


「いいえ。あなたではなく、こちらの方にお聞きしてるんです。」


 やっぱり私ですか。


 どうやら、お嬢様は私を好敵手ライバルと認識した模様。


 その大きな目は節穴ですね。どう見たって白鳥がニマニマと話しかけてるのは華蓮さんの方だというのに。


 そりゃね。華蓮さんは容姿的には美人に分類される人ではないかもしれません。でも、仕事は確実だし、気が利くし、頼りになるし、でもどこか抜けてて守ってあげたくなるし、そして何よりの美点は裏表がないこと! 素敵な人なんですよ。

 第一、失礼だと思うんです。先輩である華蓮さんが挨拶をしているのにスルーするなんて。


「私も営業事務をしております〜。植原です〜。」


 ご指名を受けたので、一応自己紹介しますが、普通、新入社員なら、自分が先に名乗るべきではないでしょうか。


「あら。事務の方ですか。道理で見かけないお顔だと思いましたわ。」


 あ。見下しましたね。たまにいらっしゃるんですよね、営業や設計・技術開発の部署は事務職より一段上と勘違いする方。私たち営業事務や総務・人事などのデスクワークを請け負う者がいなければ会社は成り立たないのに。


「白鳥さ〜ん。こちらの方たちのお邪魔しちゃ悪いですよ~。あちらの席へ移りませんか~?」


 名乗ったのに“こちらの方たち”扱いですか。名前覚える気がないなら聞かなきゃいいのに。


「俺はここで食べるから。それより松下。先輩に自己紹介させておいて自分は名乗りもしないのか? 」


 ここまで、華蓮さんの隣でデヘデヘ笑っていた(←あくまでひとみ視点)白鳥が急に真顔で、しかも低い声でツッコんでくれました。珍しくファインプレーです。


 対するお嬢様は…。


「そうですね…。失礼しました。私、設計部に配属になりました、副社長松下の娘で由香里と申します。」


 おおっと! しおれた!! いかにも演技くさいですが“白鳥さんに怒られちゃった~。いっけな~い”の顔を演出しております。


 しおれたニュアンスを漂わせながらもわざわざ“副社長松下の娘”と付け加えるあたりに“あんた達とは格が違うのよ”と言いたげな気配。


 だめだ。私、この人すごく苦手。


「ひとみちゃん。全然食べてないじゃない。時間なくなるよ?」


 思わずため息を吐く私の前に、華蓮さんが差し出してくれた定食は、サバ味噌が3分の1、しょうが焼きが3分の2残っています。この律儀な残し方。こんなところまで生真面目な華蓮さんが大好きです。


「そうでしたね~。では、いただきます~。」


 私が慌てて箸をつけようとしたところで、隣から「くすっ」と小さな笑い声が聞こえた気がします。気のせいでしょうか?


「見た目と違って、ずいぶん召し上がるんですね。私なら2種類も食べられませんけど。」


 …気のせいじゃなかった。ちっ。ずっとしおれていば良いものを。


「この定食、私がどうしても両方食べたくて、ひとみちゃんに分け合ってもらえるようにお願いしたんです。ひとみちゃん、そんなに食べない方だよね。」

「伊集院、しっかり食べるもんな。俺は残さず食べるほうが見てて気持ちいいけどな。」


 いや~、今日の白鳥さん、冴えてます! グッジョブです。(“さん”付けに戻してあげます)


 何気に隣の様子を伺ってみると、慌てて残っているパスタ(松下さんはパスタだった。そこも悔しい)を食べ始めている。分かりやすい人。


 そこから黙々と箸を進める私と松下さん。対して、向かい側では白鳥さんと華蓮さんが「ここの社食はいかにおいしいか」談義で盛り上がっております。色気のない会話ですが、ここは社内なのでいたしかたないでしょう。


 それにしても、白鳥さんはここに現れてから、一度たりとも私に話しかけてきません。もしかしたら、いまだに私の存在すら気がついてないとか? あり得る。白鳥さん、華蓮さんマニアだから…。


 この状況でも、まだ松下さんは私を好敵手ライバルと認識したままらしく、私より先に食べ終わってやるぞ! という気合に満ちています。そんなの張り合ってどうするんでしょ。でも、私としても勝負を挑まれたからには負けたくありません。


「ごちそうさまでした。」


 健闘むなしく、先に食べ終えたのは松下さんでした。悔しい! せめて私もパスタだったら!! ご飯物はハンデありすぎです。


「さ、白鳥さん、戻りましょ。午後一番で打ち合わせが入ってましたよね。」

「ああ…。そうだったな。じゃ、伊集院またな。」


 かなり名残惜しそうに席を立つ白鳥さん。最後まで私には一瞥もくれず。いいんですけど。


「さ、急ぎましょ。」


 松下さんは、白鳥さんの腕を引っ張りながら私たちには一言もなく去って行きました。ほんとに失礼な人。あれでお客様とはきちんと常識あるやりとりができるのかしら? 白鳥さんも大変でしょう。


「おまたせしました、華蓮さん。私も食べ終わりましたよ~。戻って、お茶でも淹れましょうか~。」


「………」


「華蓮さん?」


 華蓮さんは、珍しく上の空でした。その目は、社食の出口…… 今しがた、白鳥さんと松下さんが腕を組むように出て行った方へ向けられたままでした。



 以上、社食から植原ひとみがお送りしました。





 

本当に、お待たせして申し訳ありませんでした(土下座!)


私生活で色々あり、ずいぶん長くお休みしてしまいました。(詳しい言い訳は活動報告にて)


やっと、書く気力も戻ってまいりましたので、またぼちぼち更新していこうと思います。以前と比べるとスローペースになりそうですが、よろしければお付き合いのほど、お願い申し上げます。


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