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僕らの先生を救え!

作者: yosita

    プロローグ


 「おい、卓也。早く行くぞ」

「まだ、まだ。余裕だぜ、あと十分もある」

「入学早々から遅刻するのはやばいんじゃないか」

 三人はそんなことを喋りながら中学校までの道を急いでいる。

「でもさぁ。中学生っていう実感全然ないよな」

「そりゃそうだろ、小学校から五百メートルしか離れていなし。それにほとんどうちの小学校から持ち上がりだしな。クラス替えと変わらないからな」

「もう少し早く走ろうぜ」

一番あせっているのはヒョロッとして色白で少し病的に見える、森下隆史もりしたたかしだ。実際には運動好きで小学校の野球チームに入っていた。

「あせるな、あせるな」

マイペースなのは飯田卓也いいだたくや。小柄の割にはよく喋る。

「おっ、やっと見えてきた。ギリギリだな」

一番落ち着いていているのは佐藤健太さとうけんた、三人のリーダー的存在で背も高く、結構の男前。

「これが中学校かぁ」

校門に入ると小学校の三倍ほどある校庭が目に飛び込んできた。

体育館に通じる道には桜の花びらがゆっくりと散っている。

「おおー」

と三人は思わず声を上げた。

「って、感心している場合じゃないぞ。もう、入学式が始まっているぞ」

        *

 「全く、入学早々遅刻するなんて」

ここ一年A組の担任福田郁子ふくだいくこは呆れ顔。

「もう、いいわ。席について」

「は〜い」

 福田郁子は教卓に立って、

「今日から一年間、みなさんの担任をすることになった福田郁子です。みなさんよろしくしく」

 郁子は今年から教師になったばっかりなのでかなり緊張している。郁子は長いパーマーのかかった髪を後ろで束ねていて、背はあまり高くないが、まだまだ現役の大学生でも通じるほど若々しく見える。なかなかの美人で温和でおっとりとした感じだ。

「はい、先生」

 生徒の一人が手を上げる。

「なに?」

「先生、年はいくつですか?」

 郁子は苦笑いをして、

「二六よ」

「独身ですか?」

という類の質問がどんどん飛んでくる。

「はい、質問はこれまで、先生はこれから職員室で会議あるので、教室で静かに待っていてください」

 郁子はそれだけ言って教室を出ていった。

「おい、健太。なか、なか綺麗な先生じゃないか」

 卓也は机に腰掛けて健太に話しかけている。

「まあ、なあ」

 健太はあまり興味ないようす。

「相変わらず、騒がしい連中ね」

と健太の横から顔だしたのは、

「あっ、大林さん。同じクラスなんだったんだ」

「あら、あんまり嬉しそうじゃないわね」

大林紀子おおばやしのりこ(おおばやしのりこ)は言った。卓也はジロジロと紀子を見て、

「相変わらず、いい体しているな。中学生とは思えないよな。まるで、高校生」

「なにいやらしい目で人の体見ているのよ」

「うお」

と卓也は机から落下した。

「なにやってんだよ」

 健太はあきれている。

「だって、こいつが」

「お化けよ、お化け」

「くっ」

「大林さんももう少し穏やかな性格だったらモテるのにな。美人なんだから」

 紀子の前にいつの間にか立っていたのは隆史。

「何それ?けなしているの?誉めているの?」

 紀子は鋭い睨みをきかしている。

「うっ、腹が痛い。俺、自分の席で寝ているから」

「俺も」

 卓也と隆史は足早に教室の隅に行ってしまった。

「全く、白々しい」

と紀子。

「それにしてもこのメンバーじゃ小六の時とほとんど変わらないなぁ」

「佐藤君まだ甘いわね。まだ、あと一人いるわよ。世話好きのが」

「え?じゃあ」

「今、クラスがわからない子がいるからって探しにいっているわ」

 紀子がドアを指さすと、

「どこいっちゃたんだろう」

と教室に一人の女子が入ってきた。

「朝島さんもこのクラス?」

 朝島美奈子あさしまみなこは辺りを見回して、

「紀子、うちのクラスの子が一人、教室がわからなくて迷っているらしいんだけど」

「朝島さん、久しぶり」

 健太が声をかけると、

「あっ、佐藤君」

「さすが六年三組の姉貴」

「もう、中学生よ。それに私はそんなに老けていないわよ。全く」

 美奈子はくったいのない笑顔をみせる。美奈子は紀子ほど美人ではないが丸顔で少しぽっちゃりめで女子にも男子にも人気がある。

紀子とは大の親友で幼稚園からずっと一緒である。

「はい、みんな座って」

 福田郁子が帰ってきた。

「では、今日はこれで終わりです、が」

 生徒達はいっせいに椅子から立ち上がり帰り準備万端だ。

「一人だけまだ体育館から帰ってきていないこがいます。もしよかったら一緒にその子を探してくれる人はいませんか?」

「先生、さようなら」

とあっさりクラス生徒のほとんどは帰っていく。

「先生、私も手伝います」

 残っていたのは美奈子と紀子と健太の三人だ。

「あら、あなた達だけなの」

 郁子はあきれ顔だ。

「先生、その子の名前は?」

と美奈子は訊いた。

        *

 「う〜ん、いないなぁ」

 三人は校舎の中を探し始めた。

「もう、三十分も探してでてこないだから、帰ったんじゃないか?」

 健太はもうへこたれている。

「なんて名前だっけ?」

 紀子は美奈子に背を向けながら訊いた。

「確か、シン・・・・ゴ・・・・」

「本当にそれ名前なのか」

と健太。

「そう見たいだけど」

 美奈子も自信がないらしい。

「ねえ」

 紀子が健太の腹を突っついてくる。

「ん?」

「あれじゃない?」

 紀子が指さしたところには小学四,五年ぐらいの男の子が理科室の前でふらふらしている。

「あれはどうみても小学生だぞ」

と健太が言うと、

「でも、うちの学校の制服着ているるわよ」

「一応、行ってみるか」

 三人はその男の子の前まで行き、

「ねえ、君」

 紀子が声をかけると、

「えっ?」

 その男の子は振り返った。髪は今時珍しく、

スポーツ刈りで背はかなり低く足も短く顔はにこにこしている。

「君一年A組の子?」

「うん、まあ」

「じゃ、シンゴ・・・・」

 美奈子が言いかけると、

「シンゴウヨシタ」

 蜃豪義太しんごうよしたはニコニコしながら言った。



   第一章


 「今日森下君の所家庭訪問なんでしょ?」

と、美奈子が訊くと、

「ああ、そうだよ。別に何も言われないけど」

 隆史はぶっきらぼうに答えた。すると美奈子は横目で、

「そうかなぁ」

「なにが?」

「うちの先生、美人だから」

「だから?」

「嬉しいんじゃない?」

「なに言っているんだよ」

 美奈子は微笑んで卓也達のやっているサッカーに混じっていった。入れ違いに健太がでてきた。

「おう、隆史やんないのか?」

「休憩だ」

「それにしても馴染むの早いよな」

「誰が?」

「義太だよ」

「まだ、二週間だもんなぁ」

と隆史あくびをしながら言った。

「じゃ、俺も参加してくるか」

 今度は変わりに紀子が抜けてきて、

「いい運動になるわ」

 汗をかきながら紀子がやってくる。

「ねえ、森下と何を話していたの?」

「え、ああ。義太のことだよ」

「ふ〜ん」

「変わった奴だよ」

「そうよね、あれでサッカーやっているつもりらしいからね」

と紀子は苦笑いした。

「お〜い、義太。いったぞ!」

 卓也の声とともに義太の所にボールが勢いよく飛んでくる。

「よし」

 義太は身構えたが、

「うっ」

と義太の顔面にボールが見事に直撃。

「大丈夫、蜃豪君。あっ!鼻血がでているわよ」

と美奈子が駆け寄る。

「蜃豪君、早く。保健室に行くわよ」

 美奈子は義太を引っ張っていき、校舎に入っていった。 

「なにやっているんだ。義太のやつ」

 健太はゲラゲラ笑っている。

「ねえ。美奈子さぁ、この二週間で明るくなったと思わない?」

「どゆうこと?」

「ほら、今までの美奈子は明るかったには明るかったんだけどなにか楽しそうじゃなかったみたいなのよ」

「ふ〜ん」

「今は楽しんでいるって感じするじゃない。ジョーク言うようになったし」

「へー、結構大林さんって友達想いなんだ」

「そっ、そんなことないわよ」

「美しき、女同士の友情」

「あんまり、ふざけた事言うと・・・・」

 紀子が手をあげる。

「お〜い」

 変な声が校舎の方から聞こえてくる。

「あっ、川田先生」

 体育教師の川田修一が大声を張り上げている。

「あの先生はみるからに体育の先生という感じだな」

と卓也。確かにその通りで川田は背が高くガッチリとした体格をしており、お世辞にも知的とは言いにくい。しかも、一昔前の熱血教師という感じで、いつも声を張り上げている。

「よう、元気に遊んでいるか?」

 川田はニコニコしながらこっちに走ってきた。

「先生、何のようですか?」

 紀子は相変わらず冷たい。

「いや、そんな怖い顔するなよ、大林。森下に用があるんだ」

「えっ?僕ですか」

「ああ、福田先生が呼んでいるんだよ」

「はい、わかりました」

「今日の家庭訪問のことじゃない?」

と紀子が言うと、

「ああ、多分。先に帰っていていいから」

 そう言って隆史は校舎の中に行ってしまった。

「よし、俺が森下の変わりにサーカーをしてやろう」

「いいですよ、先生」

と紀子はあっさり拒否。

「まあ、いいじゃないか。俺もまだまだ若いんだから」

        *

 「あっ、じゃ私はこっちだから」

 美奈子はそう言い十字路を左に義太と曲がっていった。義太の思わぬ事故と川田が一人で異様に盛り上がり収拾がつかなかっのだ。

そのため、かなり帰るのが遅くなってしまったのだ。

「ねえ」

 義太達がいなくなると紀子は健太に話しかけた。

「どうしたの?」

「やっぱり、紀子。変わったわよ。前まではあんなに男子といるのが楽しそうじゃなかったもの」

「義太のこと男として見ていないだけさ」

 紀子は健太の顔を見つめて、

「そりゃそうね。どう見ても世話がやける弟って感じよね」

「深く考えすぎだよ、大林さんらしくない」

「なによそれ!」

        *

 「ねえ、蜃豪君」

と美奈子はなぜが物珍しそうに家々を見ている義太に声をかけた。

「ん?」

と義太は気のない返事。

「慣れた?学校には」

 美奈子が学校の先生みたいなことを聞くと、

「うん、まあ」

「蜃豪君が前に住んでいた所ってどんな場所だったの?」

「ここと似たような所だよ」

「ふ〜ん」

「ーじゃ、俺の家ここだから」

と義太はひとつのアパートの前で止まった。

「何だ、私の家のすぐ近くじゃない。私の家この4軒先なのよ。じゃっ、蜃豪君また明日ね」

「ああ」

 美奈子は手を振りながら義太と別れて家に帰っていった。

        *

 「蜃豪君、学校行くわよ」

「まだ、早いよ。朝島さん」

となぜか次の日の朝から美奈子が義太を迎えに来た。

「蜃豪君、朝弱いんでしょ。私が迎えに行くから」

「うん、ああ」

 まだ、8時。学校が始まるのが8時半である。

「朝島さん、まだ俺、朝飯少ししか食べていないんだけど・・・・・」

「え?」

「いつもなら大盛り3杯は食べるんだけど」

「はぁ?」

       *

 「やっと、着いた」

 校門の手前まで来て美奈子は息をついた。

 途中で義太が腹がへったとわめいたので、コンビニでパンを食べさせたり、なんだりで余計に時間がかかったのだ。

「少しは腹にたまった」

と義太は呑気なものだ。

「なにあれ」

「どうしたの、朝島さん」

 美奈子は校門の真ん前で立ち止まった。

「パトカーが何台もいるわよ」

 校舎にパトカーが6台ほど横付けされている。

「何か、あったのかしら」

と美奈子は義太を引っ張って、人が群がっている昇降口前に行った。

「あっ、朝島さん」

 その中には健太の姿があった。

「佐藤君、一体どうゆうことなの?」

 健太は引きつった顔をしただけで何も喋ろうとはしない。

「佐藤君・・・・・」

と美奈子は健太の顔を見て、

「あの〜、何があったんですか?」

 近くにいた警官に訊いた。

「何でも、生徒の一人が自殺したらしい」

「えっ、なっ、名前は?」

「さあ、まだ知らされていない」

「教室は?」

 美奈子は続けて訊くと、

「一年B組だ」

「うちの隣のクラスじゃない!」

 美奈子はそう言うと教室に向かって走り出した。

「あっ、朝島さん」

と義太も後を追う。

「一体、何なのよこれは?」

 一年B組の教室には警察関係の人間でごった返していた。

「朝島さんってば」

と義太も教室に入る。美奈子はキョロキョロと辺りを見回して、

「!」

「どうしたの、朝島さん」

 美奈子の異様な反応につられて義太も美奈子の視線がある方向に目を向けた。

「・・・・、隆史!」

 教室の天井に隆史の姿があったのだ。ロープで首を吊っている・・・・。

「森下君!!」

 誰が見ても隆史が事切れていることは明らかだった。



















  第二章

 「森下君が・・・」

 十分後にやっと紀子と卓也がやって来たが

ただただ呆然とするだけだ。一応、美奈子達は体育館にいる。

「え〜、これより臨時の朝会を始めます」

とマイクを握って壇上に立っているのは体育教師の川田だ。さすがに神妙な顔つきになっている。

「みんなも知っての通り、今日一年生の森下隆史が亡くなりました」

「自殺したんですか?」

といっせいに生徒達から声が飛んでくる。

「静かに」

 川田が怒鳴っても、ますます生徒達は騒ぎはじめる。少し間がありマイクの機械音が鳴ると、

「|ー静かにしろ!」

「・・・・」

 一瞬生徒達が口をつぐんだ。

「まったく、それでも中学生なの?」

とマイクを握り川田の隣に立っていたのは、紀子と美奈子だ。

「少しは落ち着いたらどうなの」

 紀子は川田に顔を向けて、

「先生、みんなに訊きたいことがあるんじゃないですか?」

 川田ははっとして、

「ああ、そうだった。森下に近頃変わった様子なかったかどうか、知っている子は先生の所まで来てほしい」

        *

 「先生が警察に!」

 教室に飛び込んできた健太にクラス全員の視線が集まった。

「おい、おい。どうゆうことだ」

と卓也が健太に言い寄る。

「先生が隆史を殺した犯人じゃないかって、警察が疑っているんだよ」

「私、川田先生の所に行って来るわ」

と美奈子は教室を飛び出していった。

「待って、美奈子。私も行くわよ」

 紀子も急いで後を追う。

「なんだ、なんだ」

 ほかの生徒達も騒ぎ始める。

「みんな、聞いてくれ。今日は学校は終わりだから、帰っていいんだぞ」

 健太が大声で言うと、

「じゃ、帰ろうぜ」

とぞろぞろ席を立ち教室を出ていった。

「俺達も川田のところに行こうぜ」

       *

 「川田先生、いるかな」

 美奈子と紀子は職員室のドアから中をのぞいた。

「ねえ、美奈子。あれ、蜃豪君じゃないの?」

と紀子声をあげた。職員室のもう一つのドアからでていくのは確かに義太だ。

「なに、していたんだろう」

「紀子、このさい蜃豪君はどうでもいいわ。どうせ、大した用事じゃないわよ」

「そっ、そうね」

と紀子は苦笑い。

「おい、二人ともなにしているんだ」

「あっ」

 川田がいつの間にか目の前に立っていた。

「先生、福田先生が警察に連れて行かれたって、どうゆうことなんですか?」

「それがなぁ」

 川田は顔をしかめながら、

「森下を見つけたのが福田先生なんだよ」

「第一発見者ってことですか」

と美奈子が顔を近づける。

「ああ・・・・」

「ちょっと、だからって何で福田先生が犯人なのよ。だいたい、森下君は自殺じゃないの?」

と紀子は川田につかみかかる。

「やっ、やめろ。大林」

 川田は本当に苦しんでいる。

「早く言いなさいよ!」

 美奈子はわざとそっぽを向いている。

「わっ、わかった。あまり大きな声じゃあ言えないだが、福田先生の指紋がついていたらしい」

「えっ?」

「森下を絞め殺したと思われロープにベッタリと付いていたんだよ」

         *

 「そんな・・・、隆史を殺したのが福田先生だなんて」

と健太は戸惑いを隠せない。

「信じろっていうのが無理よね。ねえ、美奈子どうする?」

と紀子。

「そいえば、飯田君は?」

 美奈子は紀子の問いには答えず、辺りを見回した。

「卓也なら、さっき気分が悪いって家に帰ったけど」

「そう・・・・」

と美奈子が言ってから、三人は黙ってしまった。

 三人が今いるのは、学校からほど遠いくない公園にいる。まだ、昼の十二時だが予想通り学校は早々と終わったのだ。

「あれ?」

 健太が声を上げた。

「義太がいないなぁ」

「蜃豪君のことだから、どこかに食べにいったんじゃないの」

「なっ、なに考えているの。蜃豪君は!」

「紀子、落ち着きなさいよ」

と美奈子がなだめるが、

「だいたい何で森下が死ななきゃならなのよ!なにをしたっていうの。ねえ、美奈子!」

 さすがの紀子も今まで堪えたものが一気に爆発したのだ。紀子は怒鳴りながら泣いている。

「紀子・・・・」

「しかも先生が森下を殺したなんて。私たちどうしたらいいの」

 すると美奈子は、紀子の肩をつかんで、

「紀子、私達で先生の無実を晴らすのよ!」

 健太は呆然として、

「朝島さん、本気なの?」

「当たり前よ。私達でやるのよ。佐藤君、手伝ってくれるわよね」

「もちろん」

 健太はすぐに首を縦に振った。

「美奈子、やりましょ」

と紀子も言った。

「でも、朝島さん」

「ん?」

「なにをすればいいの?」

         *

 「まずいんじゃないの」

と紀子は美奈子を突っつく。

「なによ、紀子らしくない」

「そっ、そうね。あっ、佐藤君なに笑っているのよ」

 健太は笑いながら、

「いやね、朝島さんと大林さんって仲がいいだなと、思ってね」

「ちょっと、静かにしなさいよ」

 美奈子が健太をにらむ。

 三人は事件の現場を調べるため、夜の学校に進入しているのだ。もちろん、立入禁止になっている。

 「よし、誰もいないわ」

 三人は一年B組の教室に入っていった。

 「あれ?」

「どうしたの、朝島さん」

「なにも、ないわね」

と美奈子は辺りを見回した。

 美奈子が隆史を見た時とは違ってきれいに教室は掃除されている。

「さすがに三階だから風が結構吹き込んでくるな」

 健太は窓際から外を眺めている。

「佐藤君、なにやっているのかな?」

 後ろから、紀子のドスの効いた声が聞こえてくる。

「さっ、早く。調べなきゃ」

と健太はしらじらしく窓を調べ始めた。

「ちょっと、紀子」

 美奈子が教室の端で手招きしている。

「なにかあった?」

 美奈子は清掃用具が入っているローカーの隙間に手を突っ込んで、

「これ、何かしら?」

と手に取ったのは、

「なにこれ。ヘヤピンみたいね。でも色が変ね錆びているのかしら。髪の毛も少し挟まっているわよ」

「とにかく、持っていきましょ」

と美奈子がヘヤピンをポケットに入れていると、

「なにやっているんだ!ここは立入禁止だぞ」

 制服警官が五人、教室の入り口に立っていたのだ。

















   第三章


 「困るんだよ、こんなことしてもらっちゃ」

「もしかして、逮捕されるとか?」

 なんてことを、健太が言うと、

「別に私達は悪いことなんか、していないわ。

大体、おじさん。誰?」

と、紀子は目の前にいる中年男に言い寄る。

「私は、だな。刑事課、強行犯捜査係の西岡だ」

 西岡は丁寧に警察手帳を見せながら、自己紹介した。

「紀子、当たり前じゃない。ここは警察署よ」

と美奈子はため息をつく。

 健太、紀子、美奈子の三人は警官に一年B組に潜入したことがばれて、警察署に連れてこらてしまったのだ。そして、会議室ような部屋に閉じこめられること、約二〇分。

やっと、来たのが西岡というわけだ。

「でもさ、美奈子。この男はどう見てもだたのオヤジよ。刑事とは思えない」

 確かに、紀子が言うのも無理もない。西岡はくたびれた背広を着て、少々禿げた頭に、トロンとした目、これといって、特徴がない。

ごくごく普通の中年男なのだ。

「それより、俺達を帰らせてくださいよ」

と、健太も口をとがらせる。

「その前に、話を訊かせてもらわないと」

 西岡はなぜか、中学生相手に低姿勢だ。

「私達はただ、自分のクラスに行こうとしただけですよ」

「君たちのクラスは隣だろ。知っているんだよ」

とすかさず、西岡が返す。

「間違えて、入っただけよ」

 紀子も平気でとぼける。

「それより、刑事さん。先生は?福田先生はここにいるんでしょ」

と健太で西岡に訊く。

「刑事さんは、止めてくれないか。西岡でいい。君たちの先生は確かに署内にいる。でも、会わせるわけにはいかないんだ」

「なんでよ!」

と紀子が西岡につかみかかる。

「きっ、君たちも中学生だからわかるだろ。心配しなくていい。彼女はただの重要参考人。まだ、犯人とは決まったわけではない」

「じゃ、もう一つ」

となぜか美奈子が質問している。

「先生が森下君を発見した時の状況は?」

「ああ、それか」

 西岡は警察手帳を広げて、

「福田郁子の二十日つまり、昨日の行動だが」

 西岡は何を聞き違えてのか、丁寧に説明し始める。

「夕方四時の放課後、森下隆史を職員室に呼び出した」

「私達がサッカーをしている時ね。確かに四時頃だったわ」

「その後、五時に家庭訪問で森下隆史の家に行き、六時に再び学校に戻り書類の整理をし帰宅。そして、次の日、今日だな。七時教室に行った際に森下隆史を発見。その後同僚の教師が警察に連絡して私達が来た、こういうことだ」

「先生が隆史の家に行ったときに、隆史は家にいたんですか?」

「母親の証言から、家にはいないことがわかっている」

「じゃ、森下君は福田先生と職員室で話をして、その後姿を見た時にはもう・・・」

「警察としての考えは、こうだ。福田郁子は、職員室を出ていった森下隆史をコッソリとつけていき、教室まで来て首を絞め殺害し、そして天井の梁に吊り上げた。その後、何くわぬ顔で生徒がいない家庭訪問」

「凶器はどこから発見されたんですか?」

 美奈子はまだ質問を続ける。

「職員室の福田郁子の机からだ」

「そんな・・・・」

 健太は声をもらした。

「でも、おかしくありませんか?」

「なにがよ、美奈子」

「もし、先生が本当に犯人だったら、凶器を自分の机の中にいつまでも置いておくでしょうか」

 すると、西岡は息をつき、

「そこなんだ。私もその点は引っかかっている」

 美奈子は続けて、

「森下君の生きている姿を最後に目撃、それに死体の第一発見者、凶器を所持。これじゃ、自分が犯人だって、言っているようなものじゃないですか」

「そっ、そうか」

 と健太は意味を飲み込んだ。

「誰かが、先生を罠にはめようとしているのよ!そいつが本当の犯人なのよ!」

 紀子は声を張り上げた。

「ーでも一体誰が?それがわからないと、なんとも言えないんだよ」

と西岡は言った。

「それを捜すのが、あなた達の仕事でしょ」

と紀子は西岡をにらむ。

「それがなかなか、難航していてな」

「だから、私達が自ら捜査を始めたのに、邪魔してこんなところに閉じこめるとは、一体どうゆうことなの!」

「そっ、それはだな」

「これは警察の横暴よ」

 西岡は困り果てている。すると、

「おい、大林」

 突然、部屋に入ってきたのは体育教師の川田。息を切らしている。

「あっ、先生」

と美奈子。

「おい。おまえら、帰るぞ」

     *

 「えっ、警察に連絡したのは川田先生なんですか?」

「ああ、そうだ」

 西岡はハンドルを握りながら答えた。

 西岡は三人を家に送り届けるために車をとばしている。

「どうゆう、状況だったんですか?」

「ああ、俺が朝、校庭でランニングをしていたら、いきなり福田先生の悲鳴が校舎から聞こえてきたんだ。急いで、行って見ると、福田先生が警察を呼んでくれって言うんだよ、

教室の中をのぞいてみると、森下が倒れていたわけだ」

 美奈子は手を頭にやり、

「やっぱり、出来過ぎよ。そうよ、そうよ。絶対・・・・」

と美奈子はその後も、自分の家に着くまで呟いていた。

       *

 「じゃ、今日は学校休みなんだ」

「そうなのよ」

と、電話の向こうから紀子の声が聞こえる。

「紀子の方から、佐藤君に電話しておいてよ」

「わかったわ。十一時にコンビ二で」

「頼むわよ」

 美奈子はそう言い、受話器を置いた。

「紀子に任せて大丈夫だったかしら。佐藤君、紀子を怖がっているから・・・・。まあ、いいか」

と、美奈子がブツブツ言っていると、電話が鳴り出した。

「はい、はい。どなたですか?」

 電話の相手は男のようだが、声がかぶっていて聞き取りずらい。

「遊び、半分の犯人探しなどやるべきでない」

「えっ?」

「今すぐ手を、引いたほうがいい」

「誰か、知らないけど、私達は遊びでやっているんじゃないのよ」

「止めるべきだ」

「しつこいわね。あっ」

 すでに相手は電話を切ってしまっていた。

「なんなのかしら、まったく。それにしても、あのヘヤピンのイニシャル、N・Mって誰なんだろ」

        *

 「美奈子、こっちよ」

 美奈子が待ち合わせのコンビニに着いた時には、すでに紀子と健太が待っていた。

「あっ、おはよう」

「おはよう、朝島さん」

と、健太。

「佐藤君、なんか元気ないわね」

「そうかなぁ」

「ちゃんと、朝食を食べてきたの?」

「まあ、少しは。こいつよりは、食べていないけど」

と、後ろをみた。

「あっ、蜃豪君」

 健太の後ろで朝から、ハンバーガーを食べているのは義太だ。

「ちょっと、どうして蜃豪君がいるのよ」

 美奈子が健太に小声で訊くと、

「それが・・・・」

「朝島さん、さっき偶然健太と会ったんだよ」

「ふ〜ん。まあ、いいわ。行きましょ」

 四人は歩きだした。

「森下君の家って、この辺りだったわよね」

「そうよ、紀子行ったことなかったの?」

「一回ほどしかね」

 と紀子はうつむく。すると、

「ぐっ、喉が・・・・」

 義太が一人で喉にパンを詰まらせて苦しんでいる。

「大丈夫か、義太」

と、健太がジュースを義太の口に流し込む。

「なにやってんの、蜃豪君」

 美奈子はあきれている。

「まったくね」

 紀子は笑っている。

「それにしても、蜃豪君。変わった趣味をしているわね」

 美奈子は、義太の服装を見ながら言った。

「そうね。ジーパンはいいとして、あの変な上着みたいのは、緑よ。しかも、茶色が混じったどう見ても、年寄り向けよね。顔が童顔だからいいものの、老けていたら小さいおじさんって感じよね」

「制服を着ていた方がまだ、いいわね」

と、美奈子もひどいことを言う。

「あっ、ここだ。隆史の家は」

 四人は一軒家の前で立ち止まった。

「すいません、朝島ですけど」

 美奈子がインターホンに話かけると、

「あら、美奈子ちゃん」

「おばさん、久しぶり」

と、紀子。

「さっ、どうぞ。みなさん」

「隆史のおばさん、あんなに痩せていたっけ?」

 健太が紀子に訊くと、

「あんなことがあれば、誰だって痩せこけるわよ。それより、おばさんの下の名前なんだっけ?」

「確か、信子だけど」

 隆史の母親、森下信子は四人を通したのは、隆史の部屋だった。

「美奈子ちゃん達が来てくれて、隆史も喜んでいるわ」

と、信子は飲み物とお菓子をだした。

「おっ、うまそう」

 真っ先に手を出したのは、もちろん義太。

「おばさん、電話で話した通り、おとといのことを話してくれますか?」

「ええ、五時に福田先生が家にきて、しばらく隆史のことを話していかれたわ。五時半には先生は帰って行ったけど・・」

「ずっと、先生と話していたんですか?」

「ええ、先生の姉と私は同級生だったのよ。それで話が盛り上がって・・・」

「先生は、よくここに来ていたんですか?」

「そうね」

 信子は少し考えてから、

「隆史に担任の先生が、あの貴代の妹だと聞いて二,三度来たかしら」

「そうですか」

 美奈子は、手帳に書きながら、

「それで先生はおととい、ここのに来たとき途中でどこかに行ったりしなかったんですか?」

と、紀子。

「そうね、私が電話が鳴ったので取りに行ったぐらいかしら」

「誰からだったんですか?」

「それが、間違い電話みたいで」

「そうですか」

「うぐっ」

 義太は、まだ食べている。

「おばさん、この前までヘヤピンしていませんでしたか?」

と、健太が口をだす。

「ああ、あれ」

と、信子は自分の髪を触りながら、

「大事にしていたんだけど、最近なくしちゃって」

「ところで、おばさん。教室に行きましたか?」

「えっ、教室って隆史がいた・・・・」

「ええ」

と、美奈子は妙なことを訊く。

「行ったことないけど」

「そうですか」

「ちょっと、美奈子。なに訊いているのよ」

 紀子が美奈子を突っつく、

「参考にね」

 すると、義太が、

「おばさん、すいませんけど。飲み物おかわりできますか?」

「ええ、いいわよ」

と、信子は部屋を出ていった。

「チャンスだわ」

 美奈子は立ち上がって、

「なにか、ないかしら」

と、隆史の机をあさり始めた。

「結構、汚いわね」

 隆史の机には教科書、プリント、鉛筆などいろいろと散乱していた。

「俺も手伝う」

 健太の一緒に探し始めた。

「アルバムの写真に、テレホンカード。おっ、雑誌に、ビデオ」

「なにやってんのよ」

 紀子が健太の頭をどつく、

「ただ、俺はなにか重要な証拠がないかと」

「本とかビデオは関係ないでしょ」

「いや、このビデオさ、壊れていてさ」

「バカ。まったく」

 義太といえば、目を閉じて寝ているようだ。

「紀子、これ」

 美奈子が机の裏側から取り出したのは、

「ワイヤーじゃない」

 美奈子は長さ三メートルはあるワイヤーを手に取り、

「あっ、ここに髪の毛が」

「本当だ、誰のかしら」

「とにかく、持っていきましょ」

「おばさんが戻って来るぞ」

と、健太が言うと、すぐに信子が部屋に戻ってきた。

「美奈子ちゃん、西岡刑事さんから電話よ」

と、信子が美奈子にコードレス電話を渡す。

「はい、朝島ですけど」

「やあ、西岡だ。実は福田郁子を釈放したんだ」

「本当ですか?」

 紀子も電話に耳を傾ける。

「そうだ。実は凶器は福田郁子が持っていたロープじゃなかったんだ。もっと、細いもので」

「西岡さん、明日みんなを一年B組の教室に集めてください」

「どうゆうことだ?」

と、西岡が聞き返すと美奈子は落ち着いた口調で、

「犯人がわかったんです」

と言った。

       *

 「どうするのよ、犯人がわかったなんて言って」

 紀子は、美奈子の顔をのぞき込む。

「もう、目星はついているのよ」

「本当? 誰なの一体」

 紀子が目を丸くして訊くと、

「まだ、言えないわ」

「あっ、先生が出てきた」

と、健太が警察署の入り口を指さした。

「先生!」

 健太達が駆け寄ると、

「みんな、迷惑かけたわね」

と、郁子は涙声で言った。

「福田先生、学校に帰りますよ」

 川田が自分の車から顔を出す。

「川田先生。わかりました、学校に帰りましょう」

       *

 「久しぶりの教室だわ」

 郁子は教卓の前に立って、伸びをした。美奈子達は、中学校に着くと郁子を1年A組の教室に連れて行ったのだ。

「先生、大丈夫ですか。あの変なオヤジに何かされませんでしたか?」

と、紀子は西岡の事をよく思っていないらしい。

「西岡さんのこと? なか、なか話のわかる刑事さんだったわよ」

「そっ、そうですか」

「紀子、そんなことはあと、あと。先生、少しだけお話を伺えますか?」

「ええ。もちろんよ。あなた達のことは川田先生から聞いているわよ」

「朝島さん、先生に訊くことなんかあるの?」

と、健太が口を出す。

「先生の二十日の日の行動を教えてください」

「ええ、いいわよ。あの日は夕方の四時頃、川田先生に頼んで森下君を呼びだしたわ。そうですよね?川田先生」

 郁子が川田を見ると、

「ああ。その通りだ、俺はその後サッカーに混じっただろ」

「その後、森下君と職員室で数分話して、書類の整理をしてから森下君の家に家庭訪問しに行ったのよ」

「その後、森下君に会いましたか?」

「見かけなかったわね」

「森下君の家に着いたのが5時頃ですよね」

 美奈子は手帳を見ながら質問を続ける。

「そうよ。あの日の家庭訪問は森下君の家だけだったから、つい長居してしまって。五時半には家を出て、六時には学校に戻ったわ」

 すると紀子が、

「先生、森下君のおばさんと友達って本当なんですか?」

「ええ、そうよ」

「あれ? 蜃豪君は?」

と、美奈子は思い出したように辺りを見回す。

「義太なら、そこで寝ているけど」

 健太が指さした、席で確かによだれを流しながら寝ているようだ。

「まったく、緊張感がないんだから」

「腹減った〜」

と、義太は寝言を言っているようだ。

「それより、先生。何で、凶器と思われるようなロープが職員室の机の中にあったんですか?」

「全然、心当たりがないのよ」

 すると、紀子が美奈子に小声で、

「美奈子、あの西岡って刑事から死亡推定時刻を聞いたんでしょ? それでなんとかならないの」

「紀子、それは無理よ。森下君の死亡推定時刻は二十日の午後四時から次の日の朝5時の間」

「そんなに間があるの?」

「そうなのよ。テレビみたいに上手くいかないのよ。それと、先生は恨みを買われるような覚えはありますか?」

「ないと思うけど・・・・、人間どこで恨みを買うかわからないから」

と、郁子は以外と冷静だ。

「あと、一つなんですけど。このヘヤピンに見覚えは?」

と、美奈子が取り出したのは一年B組で拾った、あのヘヤピンだ。

「私のじゃないけど」

「そうですか」

と、美奈子が言うと、携帯電話がなりだした。

「あっ、川田ですけど」

 川田の携帯電話らしい。

「朝島ですか? ええ、ここにいます。朝島、西岡さんからだ」

「はい、朝島ですけど」

 美奈子が電話を取ると、

「あっ、朝島君か? 私だ。福田郁子はそこにいるか?」

「ええ、いますよ」

「一応、まだ容疑が完全に晴れた訳じゃないからな」

「先生はやっていませんよ。それより、ちょうど良かった。凶器のことを訊きたいんですけど」

「ああ、いいが」

「凶器はロープより、もっと細い物だと言っていましたよね。他に何か特徴とかは?」

「なんでも、森下隆史の首には凶器の破片と思われる黒いかけらが付着していたんだ。今、鑑識に調べてもらっているが、まだ何なのかわからない。それと、森下隆史はどうやら絞殺される前に後ろから鈍器で殴られていたみたいだ」

「そうですか」

「わかりました」

と、美奈子はあっさり電話を切ってしまった。

「私、そろそろ帰りたんだけど」

 郁子はそう言いながら、椅子から立ち上がり、

「おとといから、お風呂にも入っていなし」

 すると、健太が、

「先生、やっくり休んでくださよ。川田先生、送って行ってくれるんでしょ?」

「あっ、ああ」

と、川田。

「じゃ、みんな。頼むわね」

 郁子はそう言いながら、川田と共に教室を出て行った。

「美奈子、もう証拠とかつかめたの?」

「まあ、ね」






   第四章


 「これで、全員揃ったわね」

と、美奈子は教室全体を見回した。

 今この一年B組にいるのは、美奈子、紀子、健太、卓也、川田、福田郁子、隆史の母親の信子、そして西岡の八人。

「あれ? 蜃豪君がいないわね」

 紀子が辺りを見回すと、健太が、

「義太のやつ、昨日から連絡取れないんだよ。家にもいないし」

「朝島君、言われた通りみんなを集めたが本当に犯人がわかったのか? 始めに言って置くが本気だろうね」

「もちろんです」

 美奈子は即座に答え、

「早速、始めましょう」

「朝島さん、義太はいいの?」

「いいのよ、べつに」

「朝島、変なこと言ったら校庭十周だぞ」

と、川田。

「みんな少し黙って。まず、森下君を殺したのは、福田先生ではないわ」

「じゃ、誰なんだ」

 西岡が腕を組みながら、言った。

「信子さん、あなたですよね。森下君を殺したのは!」

       *

 「なっ、何を言っているの美奈子」

と、紀子は目を丸くした。

「朝島君、どうゆう事か説明してくれないか?」

「もちろんです、西岡さん」

 信子は、顔を蒼くしながら黙っている。

「まず、これです。これが凶器です」

と、美奈子が取り出したのは、

「ワイヤー、それがどうしたのさ」

 卓也が、口を出す。

「これを・・・・」

 何を思ったのか、美奈子はワイヤーをペンチでちぎり始めたが、

「あれ? 上手くいかないわ」

「朝島ー!」

 川田が声を上げる。

「いや、これは置いておいて」

「ふ〜う」

 西岡はため息をつく。

「まず、信子さんが犯人である証拠は!」

 今度は美奈子はあのヘヤピンを出した。

「あっ、それ私のだわ」

 信子がヘヤピンを指さす。

「これがあったのは、この教室です!」

 美奈子は自信ありげに言ったが、

「それが・・・・・、どうしたの?」

と、郁子。

「信子さん、あなたはこの教室に入ったことがないんですよね? なのにどうしてここにこのヘヤピンが落ちていたんでしょうか?」

「それは・・・」

と信子は口を濁らす。

 西岡はため息をついて、

「朝島君。どうしてそれが信子さんの物だと、わかったのかね」

「それは、これです」

「どれ、どれ」

 西岡はヘヤピンを手に取りまじまじと見る。

「確かに・・・・、N・Mと彫りが入っているが」

「これが証拠です」

 美奈子はそう言い決めたはずだが、

「これだけ?」

「へ?」

「朝島君、これだけじゃ犯人と決めつけるのは」

「ふ〜う」

 紀子と健太もあきれている。構わず美奈子は続けて、

「それに森下君の最も身近な人物だし」

「朝島さん、やっぱりあなたにはまかせられないわ」

と、郁子。

「やっぱり、テレビのように上手くいかないわね」

 美奈子は一人でブツブツ言っている。

「私、帰らせてもらうわ。こんな茶番に付き合ってられないわ」

と、信子は教室を出て行こうとする。

「美奈子、どうするのよ」

 紀子が美奈子に言うが、

「そんな事、言っても」

 美奈子も困っている。

「ーまあ、みなさん。待ってくださいよ」

と、教室に入って来たのは、

「義太!」

 健太が義太に駆け寄るが、

「ん・・・。義太、だよな?」

「どうしたの? 佐藤君」

 美奈子は義太の方を見た。

「しっ、蜃豪君?」

 そこにいたのは、義太であって義太ではなかった。いつもの義太とは明らかに顔つきが違う。義太の顔からはいつもの笑みが消えていた、眼は鋭さを増していて、怖さすら感じとれる。しかも構えている態度がどっしりとしている。

「朝島さん」

 義太は美奈子に近づき、

「言ったはずだよね? 止めろと」

 義太の言葉使いは丁寧だが、一つ一つの言葉に重みがある。

「じゃあ、あの電話は・・・・」

 義太はそれ以上何も言わず、体を西岡に向けて、

「刑事さん、俺に少しだけ時間をください」

「どうゆうことだ?」

「俺にはわかっています、隆史を殺した犯人が」

       *

 「えっ?」

 みんな、同じ言葉を発した。

 義太は、どしどしと教室を歩き始め、

「この事件の犯人は、トリックなどというものは使っていない」

「どういうことだ」

 川田が口をだす。

「犯人は俺達の思い込みだけで、容疑を逃れたんだ」

「思い込み? 何よ、それ」

と紀子は言った。

「そう、わざと死体の第一発見者となり、隆史と最後に接触し、凶器を所持」

「まさか・・・・」

「そう、隆史を殺したのは福田郁子先生! あなたですよね?」

「!」

 みんなの視線が郁子にいく。

「なっ、何言っているのよ。どうして私が犯人なのよ」

「そうよ、蜃豪君」

 紀子は義太を見る。

「じゃ、訊きますがどうして凶器に指紋がついていたんですか? どうして第一発見者だったんですか? どうして隆史は先生と会ったあと消えたんでしょか?」

 義太は容赦なく、質問をぶつける。

「そっ、それは私は誰かにはめられているのよ!」

「そんなやつはいませんよ。先生あなたはわざと自分に容疑がかかるように犯行を行った。

そして、誰かがこの不自然さに気づき自分を無実にしたてくれる。それがあなたの筋書きだ」

「でも、蜃豪君。凶器は?」

と、西岡は言い、

「凶器は、福田郁子の机から発見されたロープではなかった」

「それは保険です。いくらわざと、自分に容疑がかかるようにしたからと言って、本当に捕まってしまったら苦労が水の泡。だから、実際に使った凶器ではなく、偽物の凶器を自分の机に入れた」

 義太が一息つくと、

「じゃあ、本物の凶器は?」

「これさ」

 義太が取り出したのは、

「このビデオテープで隆史の首を絞めた」

 義太が取り出したのはただのビデオテープだ。

「それでどうやって人を絞め殺せるのよ」

 郁子は笑っている。

「この中身の黒いテープの部分を使ったんだ」

と、義太は中身を引き出した。

「結構、このテープって丈夫なんですよね。

しかも、細いし、丈夫だし」

 義太は言い終わると、郁子を見る。郁子以外はみんな義太の推理に聞き入っている。

「私がそのビデオテープで森下君を絞め殺したという証拠は?」

「刑事さん、確か隆史の首周りから黒い粉が発見されましたよね」

 西岡ははっとして、

「確かに・・・。これだが」

と、西岡は透明のビニールに入った黒い粉を取り出した。

「福田先生」

 義太は郁子の目の前に行き、

「先生、爪この頃切りましたか? ビデオテープを使った時はさすがに手袋をしていませんでしたよね」

「あっ!」

 郁子は顔を真っ青にした。

「くっ」

 義太は素早く郁子の腕をつかんだ。

「先生、爪の間に挟まっていますよ。テープの粉が!」

「!」

 郁子の体から力が抜けた。

「先生、以上です」

と、義太は教室の端に戻って行った。

       *

「福田先生・・・・」

 美奈子は驚きを隠せない。

「どっ、どうして先生が」

 卓也が涙声で言った。

 郁子は黙っている。

「ごっ、ごめなさい」

 床に座り込んだのは、以外にも信子だった。

「私が全部悪いのよ。私が貴代を自殺に追い込んだから! だから・・・・」

 信子はワッと泣き出した。

「貴代って、先生のお姉さんの?」

と、美奈子が言うと、

「姉さんは優しい人だったわ」

 郁子はやっと喋り始めた。

「それが高校生の時、自ら首を吊って死んだのよ! その女のせいで!」

 郁子は普段見せないような恐ろしい形相で、声を張り上げた。

「姉さんには彼氏がいたわ。この女は、姉さんを騙して姉さんの彼氏を奪い去った。卑怯な手で、姉さんは親友が自分の彼氏を好きだということに気付けなかったと責任を感じた」

「そんな・・・」

と、健太。

「だから、この女の息子を殺してやったのよ。そして、この女に容疑がかかるようにヘヤピンを盗んでこの教室に置いたのよ。私のように愛する人を失った気持ちを味あわせるために! 」

「先生、あんたは間違っている」

と、言い出したのは義太。

「隆史には何も罪はないじゃないか。また、誰かに悲しい想いをさせるつもりだったのか? 愛する人を亡くしたら、どんなに悲しいことか、あんたが一番知っているんじゃないのかよ!」

 郁子は、涙を流しながら、

「わっ、私にもどうすることもできなかったのよ。自分が間違っていることはわかっていたけど・・・・」

「先生・・・・」

と、美奈子も涙を浮かべた。



















   

   エピローグ


 「じゃ、凶器のビデオテープは隆史の机にあったんだ」

と、健太は言った。

「ああ。それも森下信子に容疑をかけるためにだそれと、森下信子は家を売りにだして引っ越してしまったらしいな」

と、西岡。

 健太達がいるのはいつもの公園。郁子が逮捕されてから二日目。

「そう、そう。福田郁子からの伝言だ。『ありがとう。本当の意味で救われた』だとさ。」

 西岡が美奈子を見ながら言うと、

「西岡さん、言う人間違っているわよ。蜃豪君にでしょ?」

「ああ、そうだな」

 西岡はベンチから重い腰を上げた。

「そういえば、あれから蜃豪君どこ行ったのかしら」

 紀子がため息をつきながら、言った。

「俺はそろそろ署に帰るから。もう、会うこともないだろう。じゃ」

 西岡はそう言い車に乗り込んで行ってしまった。

「学校に行くわよ、紀子」

と、美奈子達も公園を後にした。

      *

 「新しい先生誰かな?」

 健太と卓也は胸を躍らせていた。

「女の先生じゃないわよ」

と、紀子が健太をにらむ。

「おい、先生来たぞ!」

 教室のドアから入って来たのは、

「川田先生!」

 川田はどすどすと教卓の前に来て、

「よっ、今日から俺がこのクラスの担任だ」

「え〜」

 早くもブーイングが飛んでくる。

 すると、ガンと音が鳴って教室に転がりこんできたのは、

「義太!」

 義太は片手にパンをつかみながら、

「いや、朝食していたら遅刻しちゃって」

 そこにいたのは、紛れもなくいつもの義太だった。推理をしていた時の面影はない。

「蜃豪君、私の席の隣でしょ」

と、美奈子は義太を手の掛かる子供のように席に連れて行った。



       了

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― 新着の感想 ―
[一言] 台詞が多すぎで読みにくかったです。 小説というからには、もう少し背景描写や心理描写を書いたほうが良いと思います。
[一言] 誤字脱字が多すぎますし、キャラクター達の魅力をうまく表現できていないように感じました。
感想一覧
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