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(逃がさない)無自覚ガチ恋S級冒険者が、バレたらおわりな天使の正体にじわじわ迫ってくる(たすけて)  作者:
第2章

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20/25

幕間1

 秋の風が甘い果実の香りを運んでくる。

 街の中心では、豊穣を祝う祭りの準備が始まり、あちこちに紅と金の飾りが揺れていた。


 ギルドの窓口では——いつも以上の混雑に、受付のミアは今日もてんてこまいだった


「なぁ、本当に天使さんは無事なんだよな!?」

「顔を見せてくれとは言わねぇ!いや……あの手紙だけでもいいんだ、頼む!」


 天使が活動を終えたという噂は瞬く間に広まり、受付へ押し寄せる冒険者たちは後を絶たなかった。


 ミアは必死に笑顔を保ちながら頭を下げる。


「す、すみません! 事情はお伝えできない決まりなんですけど……でも、深層支援士さんが無事なのは本当に本当ですぅ……!」


 目が回りそうになりながらも、心の中ではミア自身も同じように心配していた。


(天使さん……今どうしてるんだろう。本当に無事で、いてくれるよね)


 ――


 一方、街はすでに祭りムード一色だった。

 この秋祭りの主神・豊穣の女神は、愛の女神としても信仰されている。


 期間中に「好きな人の瞳と同じ色のアイテムを身につけると、想いが叶う」……そんなジンクスがあった。


 ミアはそれを聞くたび、胸をときめかせてしまう。


(いいなぁ……素敵すぎますっ……!)


 仕事の合間、少し休憩をもらったミアは、勇気を出して憧れのレオンを誘おうとした。


 ——が。


 今日もレオンのまわりには冒険者や街のひとたちが群がり、男も女も分け隔てなく人気で、声をかける隙もなかった。


(うぅ……またダメでしたぁ……)


 トボトボと商店街へ出ようとしたその時。

 混雑する人波の中に、見知った横顔を見つけた。


「あれ、マリアさん?」


 買い出し途中のようで、布袋を抱えたマリアが立ち止まり、露店に並んだ小さなブローチをじっと見つめていた。


 毎年この季節になると、男性たちから次々と祭りに誘われるのに、マリアは決まって仕事を入れ、丁寧にすべて断ってきたのを知っている。

 だから意中の相手もいないのだと思っていた。


 けれど。


 マリアはしばらく迷ったあと、

 そっとブローチを手に取って店主に渡した。

 陽の光の下で輝いたそれは——琥珀色の、美しいブローチ。


(……わぁ、すごく綺麗……!)

 胸が跳ねたミアは、思わず駆け寄っていた。


「マリアさんっ!!」


 マリアが小さく肩を揺らし、ゆっくり振り向く。


「ミア?」


 こちらに気付き、ふわりと微笑むその顔があまりに綺麗で、ミアは一瞬言葉を失った。


(か、可憐……っ! 女神さま!?)


 反射的に声が飛び出す。


「マリアさん、その、もしかしてっ……意中の人、できたんですか!?」


「え……?」

 マリアの指が、そっとブローチを胸元で抱きしめた。


「意中の……ひと……」


 長いまつ毛がふるりと震え、頬に薄く桜色が差す。

 その様子にミアは瞬間的にノックアウトされた。


(マリアさんかわいすぎるっ! )


「それでっ!どんな人なんですか!?その幸運すぎる男性は誰なんですかっ!?」


「ミ、ミア、落ち着いて」と慌てるマリアをよそに、ミアは完全に全力で応援する構えだ。



 祭りの喧騒、色とりどりの灯りの中、二人の笑い声が軽やかに溶けていく。


 秋の賑わう街に、楽しげな足音が、そっと彩りを添えていた。


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